はい、『L'Incal(アンカル)』第4巻「Ce qui est en haut(上にあるもの)」(Les Humanoïdes Associées, 1985年刊)です。第3巻と同様に、椿屋コレクションの『L'Incal Édition Intégrale(アンカル完全版)』(Les Humanoïdes Associées, 1995年刊)を利用させていただきました。椿屋さん、ありがとうございます! 第3巻では、ネクロ・ロボに追われながらも、ジョン・ディフールとその仲間たちは「変容の扉」までやってきました。ここで、ソリューンを中心にして円陣を組むと、ソリューンに変容が起こります(ソリューンは、当初、メタ・バロンとアニマの息子という説明だったのですが、実は、密かに採取されたジョン・ディフールの遺伝子をもとにアニマが作った子どもで、アンドロギュヌスという設定になっています。ややこしい…)。光のアンカル、闇のアンカルと結びついたソリューンは、二つのピラミッドを上下逆さまに結びつけたような形の巨大な宇宙船に姿を変えます。この宇宙船に導かれるままに、一行は宇宙空間にさまよい出るのですが、そこで彼らが目にしたのは、太陽を飲みこもうとしている黒い卵でした… ということで、以下第4巻です。
テクノの残党やオルログによって最果ての水の惑星アクア・エンドに流されたライモとその仲間であったが、荒れ狂う海に呑まれるかと思われたその瞬間に、海面に姿を現わした巨大クラゲに乗った人物によって命を救われる。彼に導かれるままにクラゲの体内を下に降りていくと、クーデターで死んだはずの皇帝が! 実は、殺されたのは皇帝のクローンで、廷臣 ChampGris(シャングリ)が密かに皇帝を逃がしたのだった(後にそのことがオルログらに露見し、シャングリの娘は人質に取られる)。ライモらは皇帝との再会を喜ぶ。一方、太陽に襲いかかる黒い卵を目撃したジョン・ディフールらは攻撃を試みるが、びくともしないどころか、逆に襲われてしまう。どうやら黒い卵を攻撃するためには、特殊な物質が必要らしい。一行はアンカルに導かれ、その物質が眠っているというアクア・エンドに向かう。水の惑星を訪れた彼らを一匹のクラゲが迎える。その後を追って水中に潜った彼らが目にしたのは、海底都市H2O Vita Ville(H2Oヴィタ・ヴィル)であった。彼らはそこで、先に訪れていたライモ一行と遭遇し、意気投合、闇の力と戦うために協同戦線を張ることを決める。アンカルによれば、アクア・エンドのある種のクラゲに変容を加えれば、黒い卵を攻撃する有効な武器になるらしい。一同は着々と巨大クラゲの収集を進める。と同時に、彼らはもう一つ別の計画を暖めていた。5年に一度行なわれるベルグ帝国の大繁殖祭が近づいていた。女帝 Protoreine(プロトレーヌ)が婿を選び、子孫を増やす大祭である。ここで、女帝に取り入り、ベルグの軍事力を味方に引き込もうというのだ。アンカルはジョンを代表に選ぶ。知力、体力共に他の参加者に劣るジョンだが、ミクロサイズに縮小したアンカル宇宙船に乗った仲間が、彼の体内に入り込み指示を出すことで補うことになった。一行はベルグ銀河系の惑星 Ourgar-Gan(ウルガル‐ガン)に向かう。大会当日。巨大な闘技場の中央に聳えるピラミッドの頂上にある女帝の寝室めがけて競い合う参加者たち。最初にそこに辿りついたものが、女帝の婿となる権利を持つのだ。争いは苛烈を極めたが、アンカルの力であっさり劣勢をはねのけるジョン(ずるい…)。ポルトレーヌと褥をともにする権利を得たジョンであるが、その不気味な姿にたじろぐ。そこで、彼女はジョンが愛するアニマの姿を取り、ようやく二人は結ばれる。本来、ポルトレーヌの婿となった者は、その名誉と引き換えに分解され命を失ってしまうのだが、そこでジョンは取引を申し出る。元々ベルグ帝国に属し、予言によればベルグ帝国に黄金時代をもたらすというアンカルを譲ろうというのだ。アンカルに手を伸ばすポルトレーヌ。が、彼女は近づくことすらできない。ジョンはもう一つの条件を加える。ベルグの艦隊を率いてテクノの本拠地を一網打尽にするというものだった。かくして、一行はテクノの本拠地へと向かった…
Jean Annestay(ジャン・アネステ)編著『Les Mystères de l'Incal(アンカルの謎)』(Les Humanoïdes Associés, 1989年刊)読みましたー。例によって椿屋コレクション(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=8088379&comm_id=424387)のお世話になっております。椿屋さん、ありがとうございます! 章構成は以下のとおり。
?.Le Rêve de l’Incal(アンカルの夢)
?.Le Monde de l’Incal(アンカルの世界)
?.Le Roman de l’Incal(アンカルの物語)
?.Les Messages de l’Incal(アンカルのメッセージ)
?.Un Chapitre Inédit de l’Incal(『アンカル』未発表エピソード)
各章について簡単に触れておくと、第1章「Le Rêve de l’Incal(アンカルの夢)」では、『アンカル』誕生のきっかけが述べられます。脚本のホドロフスキーと作画のメビウスそれぞれの伝記。ホドロフスキーが見た夢と『アンカル』創作に多大な影響を与えることになる映画『デューン』を巡る騒動。ホドロフスキーとメビウスは1975年にこの実現されなかった映画の制作のために初めて直接的に会ったそうなんですが、実はそれ以前に2人とも南米で過ごしていた時代があり、その時、メビウスがホドロフスキーの詩に基づいて修作を物したこともあるとか。うーん、なんかできすぎですな… ちなみに僕は『デューン』の原作を読んだこともなければ、映画版を見たこともないんですが、ホドロフスキー版『デューン』の本人による説明が載っていたりして、好奇心をかきたてられます。なんでも狂人の皇帝役でダリも出演する予定だったとか…
第2章「Le Monde de l’Incal(アンカルの世界)」は文字どおり『アンカル』の世界の解説で、各巻各章の詳細な要約や登場人物の説明が行なわれます。物語が始まる都市の名が「Ter 21(テル21)」と言うのだと初めて知りました…
第3章「Le Roman de l’Incal(アンカルの物語)」は、「polar(探偵小説)」、「SF」、「roman mystique(神秘小説)」、「BD」といった『アンカル』が自らをその系譜として名を連ねているジャンルとの関わりで、『アンカル』を読み解く試みです。この本の著者は『アンカル』とは自己変容の物語だと言ってるんですが、それを反映するかのように、作品のスタイルが探偵ものからSFへ、SFから神秘主義へと変わっていくというような主張は面白いですね。『アンカル』の霊感源となった作品などについても簡単に触れられています。ホドロフスキーが『アンカル』は80年代でもっともスピード感のあるBDみたいなことを言っていて、他の作品と比較してみるとこの作品が同時代に占めていた位置がよくわかるんじゃないかと思ったりしました。
第4章「Les Messages de l’Incal(アンカルのメッセージ)」、ここがある意味メインなのかもしれませんが、いわゆる『アンカル』の謎が語られます。『アンカル』に込められたタロット・カードの象徴論―太陽と月だとか愚者だとか―が述べられています。僕にとって一番謎だったのは『アンカル』の終わり方で、主人公ジョン・ディフールがループするかのように物語の冒頭に戻ってしまうこと、その際に「思い出さなければならない」というセリフが出てくることなんですが、このことについても簡単に触れられています。なんか釈然としないところはありますが…(笑)
最後に第5章「Un Chapitre Inédit de l’Incal(『アンカル』未発表エピソード)」。『アンカル』本編には採用されなかったメタ・バロンの幼少時代とアニマ/ソリューン/メタ・バロンとの関係が描かれた1章が紹介されています。メタ・バロンの一族は、代々父親から身体の一部を傷つけられメカ化されるんですが、それがかっこいい! ちなみにメタ・バロンは耳をメカ化されます。メタ・バロンの親父は左腕がメカ…
ということで、簡単に紹介してみました。『アンカル』の作品世界もそうですが、この作品の周辺情報についてもいろいろと得るものがあります。ホドロフスキーはやはり非常に興味深い作家ですね。伝記部分は訳してしまってもいいかなと思ったり…