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BDについてもっと知りたい!コミュの『L'Incal(アンカル)』

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 Jodorowsky(ホドロフスキー)原作、Moebius(メビウス)作画『L'Incal(アンカル)』第1巻「L'Incal Noire(黒いアンカル)」(Les Humanoïdes Associés, 1981年刊)、読了しました。先日、BD研究会に来てくださったジュリアンさんからお借りしたものです(残念ながら mixi はなさってません…)。ジュリアンさん、ありがとうございます! さて、『アンカル』ですよ。言わずと知れたメビウスの代表作! ようやく読み始めることができて感無量です。日仏の図書館にあれば、もっと早く読めていたのに… 僕は現物を見たことはありませんが、日本でもかつて講談社から『謎の生命体アンカル』というタイトルで第1巻のみ出版されていました。ちなみにタイトルは発音通りに読むと「ランカル」ですが、実質意味を担っているのは「Incal」という語なので、「アンカル」としました。第1巻の副題は、直訳で「黒いアンカル」としましたが、第2巻の副題が「L’Incal Lumière(光のアンカル)」なので、「闇のアンカル」と訳してもいいのかもしれません。講談社版の副題はどうなってんだろ? 梗概は以下のとおり。

 主人公の名前はジョン・ディフール。R級のライセンスを持つさえない探偵である。彼は、貴婦人ナンベアのお忍び旅行のボディ・ガードを仰せつかるが、彼女と犬頭人キルの情事を邪魔するというヘマをやらかして、命を狙われる破目に陥る。命からがら巨大な建物の通風管に逃れるジョン。だが、一難去ってまた一難、今度は巨大な猿のような怪物が彼に迫ってくる。ジョンは、この怪物と一戦交える覚悟を決めるが、突然、怪物は彼の目の前で倒れてしまう。見ると背中に深々と剣が刺さっている。どうやら何者かに追われているらしい。案の定、怪物を追って、もう少し小柄だが、やはり猿のような3匹の怪物が新たに姿を現わす。ジョンは拳銃で応戦し、なんとか追っ手を倒すことに成功する。一連の出来事を前に呆気にとられるジョン。すると、瀕死の怪物が彼の名を呼びかける。自分の名が知られていることを訝る彼に、怪物はピラミッドの形をした奇妙な小物体を授ける。怪物によると、この物体は「アンカル」であり、これを通じて彼はディフールの名を知ったのだ。そして、それのみか、この惑星、さらには宇宙全体の運命を握るのがこのアンカルなのだと言う。ジョンにアンカルを授けると同時に、怪物は命を落とし、その本性を現わす。それは、数年前から、地球(?)に対する脅威としてその存在を囁かれていたベルグ星人だった。猿のような怪物たちとベルグ星人… 奇妙な争いに関わってしまったことを薄々と感じるジョン。そして、その予感を実証するかのように、彼はこれからアンカルをめぐる複雑な係争の中に巻き込まれていく… 多くの者たちを惹きつけるアンカルとは一体何なのか?

 という感じで、『アンカル』の物語の発端の部分を時系列的に紹介してみました。ごくごく簡単な要約なので、いろんな部分を省いているんですが、この後、ジョンは怪物たちの攻撃にさらされ(第1巻はこの描写から始まります)、科学技術の最先端を行く蘇生術を用いて常に若々しさを保っている大統領に拘禁され、政府に対抗する秘密組織アモクからも命を狙われます。で、副題の「黒いアンカル」って何なんだ?って話ですが、「黒いアンカル」とは政府側に与する技術都市テクノの中核にある物体で、理由ははっきり語られていませんが(たしか…)、アンカルがそれを回収しようとして(アンカルは自らの意思を持つのですね)、ジョンと共にテクノへ忍び込みます。結局、この巻は、ジョンがテクノで捕えられるところで終わっちゃって、その後どうなるかはわからないんですけど… 
 ところで、このテクノを率いている人間が Techno-Pape(テクノ・パープ、「テクノ教皇」の意)で、逆に政府側に抗するアモクに協力する人物として、メタ・バロンというのも出てきます。あれ? これって『Les Technopères(テクノペール)』(ゾラン・ジャニエトフ画)と『La Caste des Méta-Barons(メタ・バロンの一族)』(フアン・ヒメネス画)じゃん! ってことで、『アンカル』って、ひょっとして後のホドロフスキー原作作品の元ネタにもなってるんですかね? 知らんかった… 
 で、『アンカル』の話に戻りますが、何がいいって、冒頭がめちゃくちゃかっこいい! 自殺通りと名づけられた高層建築群を繋ぐ橋の上で、覆面をした3人の人物に襲われるジョン。どうやらジョンから何らかの秘密を探り出そうとしているらしい。黙秘を決めこむジョンを3人が橋から下に投げ落とすと、落下衝動をかきたてられたかのように、彼の後を追って次々と落下していく人々。酸の海に落ちるすれすれで飛行艇に助けられるジョン。そして、その後に続く3人の人物が乗った飛行艇と警察の飛行艇の追跡劇。都合4ページ程度のやりとりなんですが、とにかくかっこいいです。ホドロフスキーお得意のフリークめいた登場人物たちも魅力的だし(大統領が気持ち悪くていいんですよ、また!)、ちょっとこの後の展開が楽しみでなりません。ちなみに巻頭見返しのクレジットによると、彩色を担当しているのは Ives Chaland (イヴ・シャラン)みたいですね。豪華!

* 画像はデジタル着色ヴァージョンで、僕が読んだ版とはかなり異なっています。個人的にはシャランの着色の方が好きなんですが、これは好みでしょうね。

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 続きまして『L'Incal(アンカル)』第2巻「L'Incal Lumière(光のアンカル)」(Les Humanoïdes Associés, 1982年刊)です。彩色は第1巻のイヴ・シャランとは異なり、Isabelle Beaumeney-Joannet(イザベル・ボームネ=ジョアネ)という方ですね。2巻も1巻と同じくジュリアンさんにお借りしました。ジュリアンさん、ありがとうございます! 第1巻の物語は、R級の探偵ジョン・ディフールがアンカルを巡る係争の中に巻き込まれてしまい、「黒いアンカル」を所有するテクノという都市のテクノ教皇に捕えられてしまうところで終わりました。第2巻の物語はこちら。

 ジョンの体内に飲み込まれたアンカルを奪うべく、テクノ教皇はジョンの解剖を企てる。闇と光のアンカルを揃えた者は絶大な力を身につけることができるのだ。危うく殺されかけるジョン。が、間一髪のところで愛鳥 Deepo(デーポ)が敵を撹乱して、ジョンの命を救う。逃げ場を求めた彼らが飛び込んだのは、広間に聳える巨大な球形の装置の中だった。不思議なことに装置の内部は、広大な空間の中に球形の惑星が浮かぶ外部空間になっており、そこで彼らは巨大な蟹のようなロボット(?)兵器に遭遇する。実は、この兵器が黒いアンカルの守護神だったのだ。戦いは困難を極めたが、アンカルの助けを借りて、どうにかジョンはこの怪物を倒すことに成功する。彼が怪物の死骸から黒いアンカルを探し当てると同時に、都市テクノは崩壊してしまった。屋外に出たジョンを待っていたのは、巨大なネズミに跨った不思議な美女 Animah(アニマ)だった。ジョンは初めて彼女に会った気がせず、黒いアンカルを彼女の手に託す。それを受け取ると、彼女はいずこかへ消えて行った。ジョンがデーポと身の安全を喜び合ったのも束の間、彼らの目の前に秘密結社アモクの依頼を受け、ジョンを捕えにやってきたメタ・バロンが立ちはだかる。実は、この追跡はメタ・バロン自身の本意からなるものではなく、彼の息子 Solune(ソリューン)がアモクに捕らわれてしまったがためのものだった。ジョンの運命やいかに!? そして、ちょうど同じ頃、アモクは犬頭人キルを筆頭に大統領府に対する攻撃をも始めていた。追い詰められる大統領。主導権を握るのはアモクか大統領府か?

 ということで、第2巻、紹介してみました。ジョン対巨大蟹(Cardiogrif[カルディオグリフ]という名がついているようです)、アモク軍対大統領府など見どころ満載です。大統領府軍が使う Hyper-Auréole(イペール=オレオール)という兵器が恐ろしい! 変な光線を浴びるとプクーッと風船みたいに膨れちゃいます。こんな一大事の最中にあっても、平静を失わず、取り巻きたちと浮かれ騒ぐ大統領がまたいい! そして何よりメタ・バロンがかっこいいです。早く続きが読みたい!
 はい、引き続き『L'Incal(アンカル)』第3巻「Ce qui est en bas(下にあるもの)」(Les Humanoïdes Associées, 1983年刊)です。『フランス・コミック・アート展』のカタログでは「下界」と訳してあるようですが、とりあえず直訳しておきます。今回は、先日その一端が明らかになった椿屋コレクション(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=8088379&comm_id=424387)の中から『L'Incal Édition Intégrale(アンカル完全版)』(Les Humanoïdes Associées, 1995年刊)を利用させていただきました。椿屋さん、ありがとうございます! この本、全6巻をひとまとめにしてあるんですが、基本的には1981年以降に出されたシリーズのオリジナル版と変わりはないようですね。ただ、6巻分だけあって、お、重い…
 第2巻では、辛くもテクノから逃れたジョン・ディフールとデーポをメタ・バロンが追い詰めたわけですが、メタ・バロンは彼らを殺したふりをして、息子ソリューンをアモクから救出するために協力を仰ぎます。見事ソリューンを救い出し、アモクのアジトを壊滅状態に陥れるジョンとメタ・バロン。一方、地上でのアモクと大統領府との戦いにも終止符が打たれます。大統領府をギリギリのところまで追い詰めたキル率いるアモク軍でしたが、人間の身を捨て殺人機械 Nécrosonde(ネクロソンド)に化体した大統領によって、逆に粉砕させられてしまいます。アジトへと壊走するアモクの残党。追い討ちをかけるネクロソンド。進退窮まったアモクの首領 Tanatah(タナタ)は、キル、ジョン・ディフール、デーポ、メタ・バロン、ソリューンを伴って、酸の海の底にある地下の世界へと向かうのでした… ということで、ここから第3巻です。

 渦の流れに任せて酸の海を潜り抜けた一行は、汚物にまみれた大地に辿りつく。彼らを迎えたのは巨大なネズミの群れだった。彼らが恐れれば恐れるほど、凶暴に襲いかかるネズミたち。が、危ういところで、かつてジョンから黒いアンカルを受け取ったアニマが彼らの救援に駆けつける。ネクロソンドの接近を察知した彼女は、一行を光の塔へと導く。一方、ネクロソンドは酸の海を抜けると、巨大な殺人ロボット、ネクロ・ロボに変形し(笑)、ジョン一行を追跡する… ジョン一行とネクロ・ロボが追跡劇を演じているあいだ、銀河の彼方にある黄金惑星では、銀河連邦の各代表による会議が行なわれていた。主宰を務めるのは銀河系を統べるアンドロギュヌスの皇帝である。ベルグ帝国の侵入、都市テクノの破壊、さらには巨大な黒い卵状の物体による太陽の侵食といった議題が論じられ、各代表が互いの主張を戦わせている。そこへ Kamar Raïmo(カマル・ライモ)という男が率いる調査団が到着する。彼らは皇帝の密命を受けて、黒い卵について調査を進めていたのだ。カマルは調査結果を発表し、テクノの残党と L'Iman Horlog(オルログ導師)、Ékonomat(エコノマット)たちを弾劾する。このような弾劾を受けた3者はクーデターを決行する。皇帝は殺され、カマル・ライモと彼の仲間たちは流刑に処せられた。かくして、銀河系の権力はテクノ、オルログ導師、エコノマットに握られてしまう… 一方で、ジョン一行は太陽の塔を登り、導師たちの指示を受け、「水晶の森」に辿りつく。その森の中心に聳える山を登り、今度は内側へと降りて行くと、「変容の扉」が彼らを待ち構えていた。その扉を開けるには7つの鍵が必要である。7つの鍵とは、すなわちジョンを始めとした7人のことであった。そして、そうこうしている内にもネクロ・ロボは彼らに迫りつつあった。はたして扉が開くことで何が起きるのか? また、ネクロ・ロボとの戦いに決着はつくのか…? そして銀河連邦の運命はどうなってしまうのか?

 ということで、第3巻を紹介してみましたが、いろんな事件が起こり過ぎで、なかなか要約が思い通りにいきません… 第1巻で、ジョンにアンカルを手渡した怪物が、アンカルはこの世界だけでなく、宇宙全体の運命をも握っているとかなんとか言うんですが、まさしくそんな感じで作品の世界が広がりつつあります。銀河連邦(特に名前は与えられてないようなので、とりあえずこう呼んでおきます)の会議なんて、『スター・ウォーズ』のそれを連想させますねー。『アンカル』と『スター・ウォーズ』の影響関係ってどんな感じなんでしょうね? ちょっと気になるところです。うまく要約では伝えられないんですが、ホドロフスキーが原作というだけあって、実はこの作品、オカルティックな発想満載で、四体液説やら、ダヴィデの星やら、数秘術やら、上と下の弁証法やらがいたるところに見受けられます。「変容の扉」のところがまさしくそんな感じです。全体を通して読んでみないと、こういう発想の盛りこみ方が成功しているかどうかってのは分からないんですが… 椿屋さんが紹介してくださった『Les mystères d'Incal(アンカルの謎)』を読んでみるといろいろ勉強になるかもしれませんね。

* 画像は表紙を除いて、デジタル着色版です。
 はい、『L'Incal(アンカル)』第4巻「Ce qui est en haut(上にあるもの)」(Les Humanoïdes Associées, 1985年刊)です。第3巻と同様に、椿屋コレクションの『L'Incal Édition Intégrale(アンカル完全版)』(Les Humanoïdes Associées, 1995年刊)を利用させていただきました。椿屋さん、ありがとうございます! 第3巻では、ネクロ・ロボに追われながらも、ジョン・ディフールとその仲間たちは「変容の扉」までやってきました。ここで、ソリューンを中心にして円陣を組むと、ソリューンに変容が起こります(ソリューンは、当初、メタ・バロンとアニマの息子という説明だったのですが、実は、密かに採取されたジョン・ディフールの遺伝子をもとにアニマが作った子どもで、アンドロギュヌスという設定になっています。ややこしい…)。光のアンカル、闇のアンカルと結びついたソリューンは、二つのピラミッドを上下逆さまに結びつけたような形の巨大な宇宙船に姿を変えます。この宇宙船に導かれるままに、一行は宇宙空間にさまよい出るのですが、そこで彼らが目にしたのは、太陽を飲みこもうとしている黒い卵でした… ということで、以下第4巻です。

 テクノの残党やオルログによって最果ての水の惑星アクア・エンドに流されたライモとその仲間であったが、荒れ狂う海に呑まれるかと思われたその瞬間に、海面に姿を現わした巨大クラゲに乗った人物によって命を救われる。彼に導かれるままにクラゲの体内を下に降りていくと、クーデターで死んだはずの皇帝が! 実は、殺されたのは皇帝のクローンで、廷臣 ChampGris(シャングリ)が密かに皇帝を逃がしたのだった(後にそのことがオルログらに露見し、シャングリの娘は人質に取られる)。ライモらは皇帝との再会を喜ぶ。一方、太陽に襲いかかる黒い卵を目撃したジョン・ディフールらは攻撃を試みるが、びくともしないどころか、逆に襲われてしまう。どうやら黒い卵を攻撃するためには、特殊な物質が必要らしい。一行はアンカルに導かれ、その物質が眠っているというアクア・エンドに向かう。水の惑星を訪れた彼らを一匹のクラゲが迎える。その後を追って水中に潜った彼らが目にしたのは、海底都市H2O Vita Ville(H2Oヴィタ・ヴィル)であった。彼らはそこで、先に訪れていたライモ一行と遭遇し、意気投合、闇の力と戦うために協同戦線を張ることを決める。アンカルによれば、アクア・エンドのある種のクラゲに変容を加えれば、黒い卵を攻撃する有効な武器になるらしい。一同は着々と巨大クラゲの収集を進める。と同時に、彼らはもう一つ別の計画を暖めていた。5年に一度行なわれるベルグ帝国の大繁殖祭が近づいていた。女帝 Protoreine(プロトレーヌ)が婿を選び、子孫を増やす大祭である。ここで、女帝に取り入り、ベルグの軍事力を味方に引き込もうというのだ。アンカルはジョンを代表に選ぶ。知力、体力共に他の参加者に劣るジョンだが、ミクロサイズに縮小したアンカル宇宙船に乗った仲間が、彼の体内に入り込み指示を出すことで補うことになった。一行はベルグ銀河系の惑星 Ourgar-Gan(ウルガル‐ガン)に向かう。大会当日。巨大な闘技場の中央に聳えるピラミッドの頂上にある女帝の寝室めがけて競い合う参加者たち。最初にそこに辿りついたものが、女帝の婿となる権利を持つのだ。争いは苛烈を極めたが、アンカルの力であっさり劣勢をはねのけるジョン(ずるい…)。ポルトレーヌと褥をともにする権利を得たジョンであるが、その不気味な姿にたじろぐ。そこで、彼女はジョンが愛するアニマの姿を取り、ようやく二人は結ばれる。本来、ポルトレーヌの婿となった者は、その名誉と引き換えに分解され命を失ってしまうのだが、そこでジョンは取引を申し出る。元々ベルグ帝国に属し、予言によればベルグ帝国に黄金時代をもたらすというアンカルを譲ろうというのだ。アンカルに手を伸ばすポルトレーヌ。が、彼女は近づくことすらできない。ジョンはもう一つの条件を加える。ベルグの艦隊を率いてテクノの本拠地を一網打尽にするというものだった。かくして、一行はテクノの本拠地へと向かった…

 ということで、第4巻、紹介してみました。海底都市H2Oヴィタ・ヴィルが素晴らしい! 巨大クラゲの森(?)、回遊する鯨のような生きものなど奇妙な風景が魅力です。ジョン一行がライモたちにアンカルの奇跡を示すシーンが素敵で、デーポが彼の手のひらに(何千年も前に絶滅した!)薔薇の花を出現させてみせたりします。ベルグの巨大なスタジアムのシーンも魅力的で、スタジアムを埋める満員のベルグ星人が気持ち悪い! 巨大な宇宙船から手のひらサイズに縮小するアンカルもいい! 極大から極小への動きってのはやっぱり惹かれちゃいます。ベルグの大繁殖祭に向かうに当たって、ジョンがロボット相手に剣術の特訓をする場面があったりするんですが、これなんてちょっと笑っちゃいます。

* 画像はオリジナル版です。
 そして、第5巻「La ciquème essence 1/ Galaxie qui songe(第5の本質 第1部:夢見る銀河)」(Les Humanoïdes Associées, 1988年刊)です。例によって椿屋コレクションの『L'Incal Édition Intégrale(アンカル完全版)』(Les Humanoïdes Associées, 1995年刊)を利用させていただきました。椿屋さん、ありがとうございます! ベルグの女帝プロトレーヌの力を借りたジョン・ディフール一行は、テクノの人工惑星を攻撃します。壊滅的な打撃を与えることには成功しますが、テクノの首脳陣、オルログ導師など主要な人物を逃してしまいました。かくして一行はひとまず勝利を収めます。戦闘後、プロトレーヌよりアニマを選んだジョンは、プロトレーヌによって殺されてしまいますが、アンカルのおかげで復活します。一旦、アクア・エンドに戻った彼らを待っていたのは、闇の力に冒された皇帝でした… ということで、ここから第5巻です。

 闇の力に支配されて一同を襲う皇帝。実は、テクノやオルログ導師の元からやってきたシャングリが人質に取られた愛娘を救うために、皇帝を闇の力へと売り渡してしまったのだ。その場はなんとか巨大クラゲの中和力によって闇の力を抑え込むことができたが、今後の対策を考えねばならなかった。捕えたシャングリによると、テクノの新しい基地は Étoile de Guerre(戦星)にあるらしい。テクノを率いているのは Techno-Centeur(テクノ・サントゥール)という人物で、彼の息の根を止めなければ、何も解決しないのだ。ライモが黄金惑星に戻り援軍を募る一方で、ジョン・ディフールの一行はシャングリを引っ立てて戦星に向かう。ジョンとシャングリが寝返った振りをしてテクノ・サントゥールに近づき、残りの面々はアンカルに乗って縮小化し、ジョンの体内に隠れている作戦だったが、娘のことしか頭にないシャングリが一行を裏切ってしまう。テクノ・サントゥールに捕えられ拷問にかけられるジョン。ライモの到着を待つメタ・バロンやアニマらは、作戦の失敗を恐れてジョンを救い出すことができない。彼の命もこれまでかと思われたその瞬間にライモが援軍と共に到着、ようやくテクノの掃討が始まる。オルログ導師とその妻 Stirlog(スティルログ、あるいはスターログ?)戦闘の合間を縫ってこっそり逃げ出そうとするが、彼らの前にシャングリが立ち塞がる。が、諍いのさなかに、シャングリは水晶に変えられてしまった愛娘を、誤って自らの手で粉々にして殺してしまう。狂乱に捉われたシャングリはオルログとスティルログを殺し、自らも戦いの間に傷を受け命を落としてしまった。メタ・バロンやキル、デーポらの活躍もあって、勝敗が決しかけていたその頃、アンカルと結びついたソリューンがテクノ・サントゥールと一騎討ちを演じていた。非常に厳しい戦いのあと、ソリューンが勝利を手にする。かくして闇の力を担う中心人物との激闘を終え、皇帝を伴って黄金惑星に向かう一行。が、そこで再び皇帝が闇の力に冒される。もはや巨大クラゲの中和力だけでは皇帝の力を抑えきれない。その時、ソリューンが立ち上がり、悪魔的な姿になってしまった皇帝を見事に退治してみせる。折りしも議会では、新たな君主を誰にするかが論じられていて、この事件を機に、ソリューンを新皇帝として戴くことで意見の一致を見た。皇位についたソリューンは、新皇帝として自ら Patmah(パトマ)と名のる。新皇帝の即位に沸きかえる人々。が、パトマは皆に注意を喚起する。まだ闇との戦いは終わったわけではない。これから22日後に、闇の力は最高潮を迎えることになるだろう。人間はその日までに睡眠状態に入り、闇の影響力を逃れなければならない…

 ということで、第5巻紹介してみました。副題の訳し方はちょっと自信がありません… 「第5の本質」って何だ? って感じですよね。第1巻から「黒い(闇の)アンカル」、「光のアンカル」、「下にあるもの」、「上にあるもの」と来ているので、アンカルの5番目の姿というほどの意味なんでしょうか? そうすると「下にあるもの」、「上にあるもの」ってのもいまいちよくわからん…ということになってしまうんですが… 普通に考えれば、「下にあるもの」って地下の王国のことで、「上にあるもの」は宇宙空間のことでしょうし… 「夢見る銀河」というのはそれほど難しいことじゃなくて、最後の章に同じタイトルが与えられていることから、闇の力の前に銀河系の全ての人間が夢を見る状態に入ることを指しているようです。今回の見どころはなんと言っても、戦星での光(ジョン・ディフールら)と闇(テクノ・サントゥール)らの戦いです。ジョンの体内から外部世界へと飛び出すアンカル宇宙船が快感です。メタ・バロンらは透明な球体に入って敵と戦うんですが、これがなんだかかっこいい! Champ de forces(そのまま「力場」と訳せばいいんでしょうか?)とか名づけられています。第3巻辺りから出ていたんですが、オルログの妻スティルログ(スターログ)も魅力的です。無邪気な悪女という感じですね。シャングリの娘と同じく、結晶化して粉々になって死んでしまうんですが、なかなか美しい死に方です。あとはあれですね、ジョンのダメっぷりがいい! ほとんどヒーローらしいことができていません。危機に臨んですることと言えば駄々をこねるぐらいなもんです。結果的にジョンのすることはうまくいっちゃうんですけどね。残るは、あと1巻!

* 画像は表紙のみ新版かもしれません。
 ついに、第6巻「La cinquième essence 2/ La plaète Difool(第5の本質 第2部:惑星ディフール)」(Les Humanoïdes Associées, 1988年刊)です! 例によって椿屋コレクションの『L'Incal Édition Intégrale(アンカル完全版)』(Les Humanoïdes Associées, 1995年刊)を利用させていただきました。椿屋さん、ありがとうございます! 第5巻で、ようやく表向きは闇の力との戦いを終えたジョン・ディフール一行ですが、新たに皇帝の地位についたソリューン=パトマが、22日後に起きる闇の力の増大について警告を発します。銀河系に属する人々はパトマの言葉を容れて sommeil téta(テータ波睡眠)に入ることを容認します。が、ベルグ銀河系に闇の増大のことを知らない78兆人にものぼる人類がいることが、アンカルによって告げられます。ベルグへの使者として選ばれた人間は再びジョン・ディフールでした。最初は渋るジョンですが、アニマの懇願に押される形で、デーポと共にベルグへ旅立ちます。ということで、ここから第6巻です。

 デーポと共に再び惑星ウルガル=ガンに向かうジョン。身分照会を求めるベルグの飛行艇に導かれて彼が着陸したのは、まるで地球の大都市を思わせる巨大な建築が林立する地域だった。気乗りしない仕事の前にまずはいい女を引っかけて…と考え、バーに入り込んだジョンは、奇妙な事態に直面する。男も女も、そこにいる人間が全てジョンと同じ顔をしているのだ。わけがわからず、外へ飛び出すジョン。公園に行くと黒山の人だかりが。近くに行ってのぞいてみると、ジョン・ディフールの顔の巨大なハリボテが燃やされている。錯乱状態に陥るジョン。しばらくして意識を取り戻すと、1匹(?)のベルグ星人が公園に現われ、ジョンと同じ顔をした人間たちに追われ始める。人間たちに暴行され、瀕死の体で立ち去るベルグ星人。ジョンとデーポが密かに跡を追うと、膨大な数のベルグ星人が死んでいる広場のようなところに着く。そこで、ベルグ星人に事情を尋ねるジョン。ベルグ星人によると、かつてジョンがベルグの女帝プロトレーヌの間に設けた子どもたちが成長し、それまでのベルグ星人に取って代わろうとしているのだと言う。その数なんと78兆! その姿が裏切り者ジョン・ディフールを想起させるので、母親であるプロトレーヌに憎まれ、そのため粗暴な人間になり、ベルグ星人たちを苦しめているのだ。ここまで説明すると、ベルグ星人は事切れてしまった。ベルグ星人の死に思うところあったのか、ようやくジョンは自分の仕事に取りかかる。街頭で闇の増大、テータ睡眠の必要を説くジョン。だが、民衆からは理解されず、警察に取り押さえられてしまう。あまつさえ、彼が人々の憎しみの元、オリジナルのジョン・ディフールだということが露見してしまう。裁判を経て、彼の睾丸が切り落とされることが決まった(笑)。刑場へと引き立てられるジョン。ジョンの窮地にデーポはプロトレーヌの元へ向かう。未だに怒り収まらぬプロトレーヌであったが、デーポの説得によって、彼女が愛していたのはジョンではなく、ジョンの中にあったアンカルの神性であったことに気づく。ジョンの睾丸危うし!というところにプロトレーヌが現われ、人々に許しを請う。もとよりプロトレーヌの愛を必要としていた人々は彼女の謝罪を受け入れ、ジョンが説くテータ睡眠の勧めに素直に従うことになった。かくして一仕事終えたジョンは皆のもとに戻り、アンカルが闇の力と向き合うのを手助けすることになる。闇の力が増大するその日、一同はソリューン=パトマを中心に円陣を組む。そこで彼らを待っていたのは、最後にして最大の試練だった。自らの中の闇と向かい合わされる一同。果たして彼らはそれに打ち克つことができるのか…?

 ということで、ようやく終了です! 最終巻、素晴らしいですね。どうしても闇とか光とか抽象的な話になっちゃう傾向はあるんですが、ヴィジュアル的にもユーモア的にもほんと素晴らしいです。ベルグの星で、自分と同じ顔をした人間たちに不遇な扱いを受けるシーンが抜群で、刑場に向かうジョンの姿はイエスを想起させます。それで切られるのが睾丸という…(笑) この辺はホドロフスキーの趣味なんでしょうか? 深刻さと馬鹿ばかしさがないまぜになっていて、大変魅力的です。主人公のダメっぷりなんかもそうなんですが、こういう登場人物であるとか物語の作り方であるとかは日本人的にはすごく共感できると思うんですが、いかがでしょう? 最終章「Les cercles du cauchemar(循環する悪夢)」が圧倒的で、登場人物それぞれが自らの中の闇の部分と向き合うシーンがたまりません。物語の終わり方自体は、あれ、『2001年宇宙の旅』? とか思わせ、ちょっと腑に落ちない感があるかもしれません。一番最後はちょっと不思議な終わり方をするんですよね… かっこいいことはかっこいいんですけど… これ、どういうことなのか知ってる方はぜひ教えてください。こうして『アンカル』を丸々読んでみると、『Avant L’Incal(何て訳すんだろう「アンカル以前」?)』とか『Après L’Incal(アンカル以後)』も気になる…

* 画像はオリジナル版です。
 Jean Annestay(ジャン・アネステ)編著『Les Mystères de l'Incal(アンカルの謎)』(Les Humanoïdes Associés, 1989年刊)読みましたー。例によって椿屋コレクション(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=8088379&comm_id=424387)のお世話になっております。椿屋さん、ありがとうございます! 章構成は以下のとおり。

?.Le Rêve de l’Incal(アンカルの夢)
?.Le Monde de l’Incal(アンカルの世界)
?.Le Roman de l’Incal(アンカルの物語)
?.Les Messages de l’Incal(アンカルのメッセージ)
?.Un Chapitre Inédit de l’Incal(『アンカル』未発表エピソード)

 各章について簡単に触れておくと、第1章「Le Rêve de l’Incal(アンカルの夢)」では、『アンカル』誕生のきっかけが述べられます。脚本のホドロフスキーと作画のメビウスそれぞれの伝記。ホドロフスキーが見た夢と『アンカル』創作に多大な影響を与えることになる映画『デューン』を巡る騒動。ホドロフスキーとメビウスは1975年にこの実現されなかった映画の制作のために初めて直接的に会ったそうなんですが、実はそれ以前に2人とも南米で過ごしていた時代があり、その時、メビウスがホドロフスキーの詩に基づいて修作を物したこともあるとか。うーん、なんかできすぎですな… ちなみに僕は『デューン』の原作を読んだこともなければ、映画版を見たこともないんですが、ホドロフスキー版『デューン』の本人による説明が載っていたりして、好奇心をかきたてられます。なんでも狂人の皇帝役でダリも出演する予定だったとか… 
 第2章「Le Monde de l’Incal(アンカルの世界)」は文字どおり『アンカル』の世界の解説で、各巻各章の詳細な要約や登場人物の説明が行なわれます。物語が始まる都市の名が「Ter 21(テル21)」と言うのだと初めて知りました… 
 第3章「Le Roman de l’Incal(アンカルの物語)」は、「polar(探偵小説)」、「SF」、「roman mystique(神秘小説)」、「BD」といった『アンカル』が自らをその系譜として名を連ねているジャンルとの関わりで、『アンカル』を読み解く試みです。この本の著者は『アンカル』とは自己変容の物語だと言ってるんですが、それを反映するかのように、作品のスタイルが探偵ものからSFへ、SFから神秘主義へと変わっていくというような主張は面白いですね。『アンカル』の霊感源となった作品などについても簡単に触れられています。ホドロフスキーが『アンカル』は80年代でもっともスピード感のあるBDみたいなことを言っていて、他の作品と比較してみるとこの作品が同時代に占めていた位置がよくわかるんじゃないかと思ったりしました。
 第4章「Les Messages de l’Incal(アンカルのメッセージ)」、ここがある意味メインなのかもしれませんが、いわゆる『アンカル』の謎が語られます。『アンカル』に込められたタロット・カードの象徴論―太陽と月だとか愚者だとか―が述べられています。僕にとって一番謎だったのは『アンカル』の終わり方で、主人公ジョン・ディフールがループするかのように物語の冒頭に戻ってしまうこと、その際に「思い出さなければならない」というセリフが出てくることなんですが、このことについても簡単に触れられています。なんか釈然としないところはありますが…(笑)
 最後に第5章「Un Chapitre Inédit de l’Incal(『アンカル』未発表エピソード)」。『アンカル』本編には採用されなかったメタ・バロンの幼少時代とアニマ/ソリューン/メタ・バロンとの関係が描かれた1章が紹介されています。メタ・バロンの一族は、代々父親から身体の一部を傷つけられメカ化されるんですが、それがかっこいい! ちなみにメタ・バロンは耳をメカ化されます。メタ・バロンの親父は左腕がメカ…
ということで、簡単に紹介してみました。『アンカル』の作品世界もそうですが、この作品の周辺情報についてもいろいろと得るものがあります。ホドロフスキーはやはり非常に興味深い作家ですね。伝記部分は訳してしまってもいいかなと思ったり…

* 真ん中の画像はメタ・バロン父子。右側はホドロフスキーです。

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