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BDについてもっと知りたい!コミュの『Peter Pan(ピーター・パン)』

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原作・作画:Régis Loisel (Vents d'Ouest刊)

ディズニーアニメの傑作として、そして舞台化などでも有名な、ジェームズ・M・バリによる童話「ピーターパン」ですが、その前日談、ネバーランドに暮らす永遠の少年、ピーターパンの誕生を描いた、レギ・ロワゼルによるBDをご紹介します。
全6巻からなるシリーズですが、ロンドンの貧民街で育った少年ピーターが、ネバーランドで生きることになるまでを描いた前半(1,2巻)、ネバーランドでの親友パンの死とピーターがピーター・パンとして再生するさまを描いた中盤(3,4巻)、そして登場人物達の過去の想いと共にピーターパンの現実世界からの決別を描いた後半(5,6巻)に分けられます。

大まかなあらすじは、近年、人々が妖精などの住む空想世界を信じないようになって、急激に住人が減り続けていたネバーランドを救うために、人並外れた空想力を持つ少年ピーターが現実世界から呼ばれて来る。そしてピーターが友の死を乗り越え、海賊達と戦い、妖精達空想世界の住人やロンドンの孤児院から呼んだ仲間達と共に、ネバーランドのリーダーとなっていくというもの。
あらすじだけ書くといかにも子供向け童話のような話ですが、主人公のピーターからしてロンドンの貧民街でアル中の母親に虐待されて育った少年であり、ネバーランドも決して夢の国ではなく、踏み込んだ者の恐怖心が実体化し、当人をむさぼり食ってしまうというオピカノバと呼ばれる闇を抱えた、人間の深層心理の象徴のような場所として描かれています。そしてそこの住人達は人間同様に傷つき、苦痛に満ちたリアルな死も訪れます。
そういった空想世界ネバーランドと悲惨なロンドンの貧民街とを舞台に、シリアスなストーリー(途中からはロンドンの切り裂きジャック事件もからんできます)が展開されていくわけです。

ところで、この物語中に繰り返し登場するキーワードに「想像力」があります。
作中、ある登場人物が「宝物の箱は開けずにおきなさい。君がその中身を想像できるかぎり、宝物はいつまでも素晴らしいものでありつづけることができる」とピーターに語って聞かせますが、空想世界ネバーランドもまた、その存在の中心となる宝物が、誰も覗くことのできない箱の中に隠されている(それを覗いてしまった登場人物は世界から排除されてしまいます)というアナロジーとして、ストーリー全体に「現実」対「想像力」という図式をもたらしています。

もう一つのキーワードは「母親」です。ここでのピーターの母親はバリの原作に登場する優しい永遠の母親像とはほど遠いアル中の娼婦で、いくらピーターがけなげに彼女のことを想っても、決してそれに答えることの無い存在として描かれています。そして彼女による否定が決定的なものとなったとき、反転したピーターの母親に対する憎悪が、恐ろしい現実の力としてロンドンを襲うことになるのです。
このあたりは、近年注目を集めるようになってきた、親に虐待・ネグレクトされて育った子供の問題も作者の頭にあったのかもしれません。

そしてまた「忘却」も物語の後半では重要なキーワードとなってきます。
ネバーランドの魔力は、住人達の時間の感覚を曖昧にして、どんな楽しいこと、辛い事実もほどなく彼らの記憶からは消え去ってしまいます。バリの原作でも過去のことは忘れて常に「今」を生きられることは子供の特権であるように書かれていますが、実の母親の辛い記憶は心から消し去って、想像力が生み出す「優しい母親」と共に「今」だけを生きていくことのできるピーターのような子供達は永遠のネバーランドで暮らし、死んだ姉を忘れることのできない子供は、精神に異常をきたしロンドンのアサイラムで生きることになるという残酷な結末には、何か割り切れない切なさのようなものも感じます。

後半で明らかになるフック船長とピーターパンの関係もなかなか面白いのですが、それにも増して、ピーターが持つ大人、とりわけ実の母親への憎悪という側面を介しての、童話「ピーターパン」と切り裂きジャック事件というユニークな組み合わせ、そしてネグレクトされてきた子供による母親への復讐と、彼が現実を否定して空想の世界で永遠の少年、ピーターパンになるという展開が印象に残った物語でした。一世紀近く前に書かれた童話をベースにしながら、非常に現代的な物語に生まれ変わらせたものといえるでしょう。

コメント(3)

ふくひまさん、素晴らしい紹介ありがとうございました! 『La Quête de l’Oiseau du Temps(時の鳥の探索)』の読者として『Peter Pan』は気になっていたんですが、相当面白そうですね。日仏のメディアテークで見たような気がするので、あれば読んでみます。キーワードの一つに挙げておられる「想像力」の話はミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を想起させますね。ネバーランドという一種のユートピアの裏面を描いているところが素晴らしい! ちなみに作者名はフランス語読みだとたぶんレジス・ロワゼルです。
>ショードヴァルさん
Régisは普通に「レジス」と読んでよかったんですね。ありがとうございます。
Peter Pan、日仏のメディアテークにありました。
6巻全部あるかは不明ですが、昨日見た時点で確実に3冊(どれかはわからない)ありました。

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