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BDについてもっと知りたい!コミュの『Les Cités Obscures(闇の都市)』

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 Benoît Peeters(ブノワ・ペータース)原作、François Schuiten(フランソワ・シュイテン)作画 『Les Cités Obscures(闇の都市)』第1巻「Les Murailles de Samaris(サマリの城壁)」( 1988年、casterman 社刊 )読了しました。以下に梗概を掲げます。

 人々が平穏に暮らす都市 Xhystos(クシストス)にある噂が広がる。ここ2年間で近隣の都市サマリを訪れた旅人がことごとく姿を消してしまっているらしい。主人公フランツは現状の報告という任務を帯び、単身サマリへと乗り込むことになる。故郷を離れ、数週間にも及ぶ旅の果てにフランツを迎えたのは、閑散としてどこかよそよそしい雰囲気を持った巨大な都市であった。
 ホテルを拠点に都市サマリについて調査を始めるフランツ。どれもこれも似た形をした迷宮じみた建築物たち、壁で塞がれた扉や窓、常に止むことのない微音、年若い住人の不在…… サマリはフランツにその奇妙な相貌を示し始める。フランツはカフェでカルラという女と知り合うが、彼女の態度もフランツを不安にさせるものだった。同じ挨拶、同じ会話の内容、居心地の悪さ、そして突然の別れ… 長期にわたる滞在の末、フランツは調査を打ち切り、クシストスへの帰還を決断する。出発にあたって、彼はカルラに同行を求めるが、にべもなく断られてしまう。
 その夜、フランツは、隣の部屋からサマリ来訪以来彼を悩ませている微音が音高く漏れてくるのを耳にする。扉をノックしても返事は返ってこない。無理やり扉をこじ開けたフランツはサマリの秘密を目の当たりにする。扉の向こうは空洞で、そこからは書割りのように正面だけが存在しているサマリの建築物が俯瞰できた。住まいの用をなしているのは、唯一彼の部屋だけだったのだ。巨大な機械仕掛けがこのサマリという劇場を統御しているようだった。
 劇場の言わば舞台裏へと潜り込むフランツ。機械仕掛けの中心らしき部分に一冊の本が、まるで聖遺物か何かのように安置されている。本はサマリの来歴を語っていた。それによると、サマリは訪れた旅行者を取り込み、一種の植物のように成長している。そして取り込んだ人々のイメージを再生し、新たな犠牲者を待ち伏せるのである。
 サマリの謎を知ったフランツは辛うじてサマリを脱出し、クシストスへと帰還する。しかし、彼を待ち受けていたのは……

 『フランスコミック・アート展 2003』の訳にならって、タイトルを『闇の都市』としてみましたが、もうちょっとうまい訳がありそうな気がします。「Samaris」、「Xhystos」ってちょっと発音に自信がありません… 

コメント(25)

 『闇の都市』シリーズの第1作です。このシリーズについては季刊誌『error』(美術出版社)に「La frontière invisible(見えない国境)」(2004年刊)が訳載されていますが、絵の質が全然レベルアップしているような気がします。これから先、読んでいくのが楽しみだ。
 ただ第1作からして僕的にはツボで、アール・ヌーボー風の巨大な建築、迷路じみた都市、幻影としての人間といった幻想文学好きにはたまらないテーマ、モチーフが頻出です。絵自体もマニエリスティックでいいんですが、コマ構成はそんなに過激じゃありません。上の画像なんかは断片的なコマを集積することで、機械仕掛けの迷路って感じを出すことに成功しているような気はしますが… 
 でも、45ページそこそこのページ数でストーリー的にも面白いものを描くのは限界があるんじゃないかと思いました。物語的にはビオイ=カサレスの『モレルの発明』って小説にちょっと近いところもあるんですが、正直、物語としては『モレル』の方が上です。もっとページ数を増やせば、全然面白くなるんじゃないのとか思っちゃいました。
「Les Murailles de Samaris(サマリの城壁)」の刊行年、間違ってたみたいですね。どうも1983年らしいです。
 Benoît Peeters(ブノワ・ペータース)原作、François Schuiten(フランソワ・シュイテン)作画 『Les Cités Obscures(闇の都市)』第2巻「La Fièvre d’Urbicande(ユルビカンドの熱病)」(1985年、casterman 社刊)読了しました。僕が読んだのはソフトカバー版ですが、ハードカバー版もあるようですね。中身が白黒で、あれ、廉価版だから?と思ったんですが、椿屋さんによると、ハードカバーも白黒との由。描かれた世界によって白黒とカラーを使い分けるということです。うーん、この後の巻がどうなっているのか楽しみだ。梗概は以下のとおり。

 物語の舞台は都市ユルビカンド。政府公認の都市設計家 Eugen Robick(ユーゲン・ロービック)は理性が支配する都市の完成を目指すべく、都市の暗部、貧民街を浄化するための都市計画を議会に建白しているところである。ある日ユーゲンは、工事を進めていた部下が発掘した奇妙な物体を譲り受ける。それは12の辺が組み合わさってできた正六面体の骨組みで、掘削機の刃が欠けてしまうほどに堅固な代物だった。ただ、その用途については知る者が誰もいず、ユーゲンはその物体を持て余すばかりだった。あくる日、彼は奇妙な現象を目の当たりにする。机の上に置いてあった物体の各辺がまるで植物の蔓のように伸長しており、下部は根を生やしたように机に密着しているのだ。ユービックはなんとか机から離そうとするが、引き離すことができるどころか、かえって怪我を負ってしまう。刻々と成長を続ける正六面体。最初は1つだった正六面体が、時とともに2つ、3つと数を増していき、まるで城砦のような様相を呈する。事態を重く見る友人に対して、ユービックは徐々にその物体に魅せられていく。正六面体の成長は留まるところを知らず、日が経つにつれ、物体は部屋いっぱいに広がり、部屋を突き抜け、ついには外部世界へと侵行していく。市民の間に蔓延する不安。事ここに到って政府が介入し、ユービックを拘束するが、そんなことをしたところでなんら事態の解決に資するところはなかった。しかし、その後、なんら解決案を提示する事ができず、それどころかおのれの無力さを露呈するばかりの政府に対して、市民の間にはユービックを英雄視する見方が広がり、ついには政府も彼の拘束を解いてしまう。こうしたやりとりの中で政府は影響力を失い、正六面体と共存していこうという勢力に取って代わられる。やがて、都市を覆い尽くすまでに巨大化した正六面体群は、ユルビカンドの生活そのものを変えていく…

 ということで「ユルビカンドの熱病」、紹介してみました。タイトルは、徐々にユルビカンドに蔓延していく正六面体と、それに感染したかのように奇妙な生活へと向かう人間たちというところを加味して、とりあえず「ユルビカンドの熱病」としましたが、「熱狂」でもいいのかなという気はします。無機的な物体が、まるで植物のように成長していくというイメージが素晴らしい! 第1巻「サマリの城壁」も植物のイメージが根幹にあって(もっとも食虫植物ですが…)、都市が増殖していくという話だったので、その点は似てるかもしれません。シュイテン&ペータースの「不気味な建築」に対するこだわりには素晴らしいものがあります。冒頭にユーゲンが政府に宛てた建白書が載せられているんですが、そこでさりげなくヒュー・フェリスやルイ・ブーレの幻想建築に触れていたりするし。意識的に自分の作品をこういう幻想建築の系譜に連ねてしまうなんて心憎いですね。ちなみにこの建白書の中で、ユーゲンが批判するグロテスクな都市建築として第1巻に出てきたクシシトスとまだ見ぬ Tharo(ターロ)が言及されていて、読者の興味をくすぐります。ユルビカンドについては、手の平サイズだった物体が巨大化し、最後には都市全体を覆ってしまい、人々がその各辺を通行の用に充てたりするのが楽しいですね。一面に布かなんかを敷いて耕作をはじめる奴も出てきたりして… マニエリスム芸術や幻想文学好きにはたまらない作品です。白黒の画面は最初もの足りなく感じるんですが、次第に気にならなくなります。考えてみれば、これに色をつけてしまうと、ピラネージの牢獄然とした巨大建築の味わいが半減してしまうかもしれませんね。それにしても素晴らしい作品です。登場人物がややぎこちなく見えるような気もしますが、そういう欠点(?)を補って余りあるものがあります。このシリーズは全部読まねば!

* うまくスキャンできてませんが、ご勘弁を…
Benoît Peeters(ブノワ・ペータース)& François Schuiten(フランソワ・シュイテン)の『Les Cités Obscures(闇の都市)』第1作「Les Murailles de Samaris(サマリの城壁)」を翻訳してみました。Yahoo! グループのBD研究会用ページ内にあるブリーフケースに冒頭の10ページをアップしてあります(容量が足りずに全部アップすることができませんでした…)。興味があるという方はご覧になってください。Yahoo! グループってなんだ?という方、こちらの10番目の書き込みをご参照ください。
http://mixi.jp/view_event.pl?page=1&comm_id=424387&id=6977518
10ページ以降が気になるという方、ショードヴァルまでご連絡ください。
「Les Murailles de Samaris(サマリの城壁)」読ませていただきました。
絵の感じがアール・ヌーヴォっぽくていいですね。このシリーズってぜんぶなんらかの繋がりのあるストーリーなんでしょうか?
最後の1ページですべてが分かって唖然とするっていうのは「猿の惑星」っぽくて意外でもあり、でもまだ続きがありそうな感じでした。
abeille さん、感想ありがとうございます。僕はまだ2冊しか読んでいませんが、2冊目で第1巻の都市サマリとまだ登場していない都市ターロに対する言及がありました。ただ、ホームページ(http://www.urbicande.be/)の下の方に「Les Cités Obscures」というリンクがあって、ここをクリックすると地図が出てくるんですが、その地図を見てもターロという都市名は見つからないんですよね・・・ 同じ登場人物が再登場したりするのかどうかもわかりません。正編は現在10巻まで出ているんですかね。「闇の都市」関連の出版物は以下のとおり。ひょっとしたら漏れがあるかもしれません。

Les Cités Obscures(闇の都市)正編
1.Les Murailles de Samaris(サマリの城壁)、1983年
2.La Fièvre d’Urbicande(ユルビカンドの熱病)、1985年
3.Archiviste(古文書管理官)、1987年
4.La Tour(塔)、1987年
5.La Route d’Armilia(アルミリアへの道)、1988年
6.Brüsel(ブリュゼル)、1992年
7.L’Enfant Penchée(傾いた少女)、1996年
8.L’Ombre d’Un Homme(ある男の影)、1999年
9.La Frontière Invisible, t.1(見えない国境 第1巻)、2002年
10.La Frontière Invisible, t.2(見えない国境 第2巻)、2004年

シリーズ外典
L’Écho des Cités(町々のこだま)、1993年
Guide des Cités Obscures(「闇の都市」案内)、1996年
Voyages en Utopie(ユートピアへの旅)、2000年
L’Affaire Desombres(デゾンブル事件)、2002年
 Peeters(ペータース)原作、Schuiten(シュイテン/スクイテン)作画『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ第4巻(おそらく…)「La Tour(塔)」読了しました。『Les Cités Obscures(闇の都市)』は先日のBD研究会で話題に挙がったわけですが、その際に椿屋さんからお借りしたものです。椿屋さん、ありがとうございます! 第2作目の「La Fièvre d’Urbicande(ユルビカンドの熱病)」は白黒だけで構成された作品ですが、今作は白黒とカラーが混じった面白い作りになっています。さて、梗概は以下のとおり。

 主人公の Giovanni Battista(ジョヴァンニ・バティスタ)は塔の修復家。巨大な塔の一画に住み込み、老朽化し崩れ落ちる壁があれば走っていって修繕する毎日を送っている。楽しみと言えば、卵料理を作り、自家製のブランデーに舌鼓をうつことくらいである。かつては定期的に様子を伺いに来た査察官も彼を訪れなくなって久しい。卵を提供してくれる鶏たちがどうにか彼の孤独を慰めてくれている。そんなある日、とうとう世間から隔絶した生活に嫌気がさしたジョヴァンニは、塔を降りる決心をする。
 旅は何日も何日も続いた。だが、いくら歩いても地上に辿りつく気配はない。塔はまるで石でできた巨大な山でもあるかのように、所々に樹木が生い茂り、たまった雨水が沼をなし、時には道半ばにして息絶えた旅人がその屍をさらしていた。先行きの見えない旅に焦燥を感じるジョヴァンニ。彼はあり合わせの材料を用いて手製のグライダーを作り、降下を始める。が、皮肉にも風が彼を元いた場所よりさらに上へと運び去ってしまった。昇っても昇っても、塔はその頂上を見せることがない。そして、もうそろそろ頂上かというところで、グライダーは塔の一画に墜落してしまう… 
 目を覚ますとジョヴァンニはベッドに横たわっていた。見知らぬ老人と娘が彼の命を救ってくれたらしい。老人は Elias Auréolus Palingénius(エリアス・オレオリュス・パランジェニユス)と名乗り、娘は Milena(ミルナ)と言った。特に父娘というわけではないらしい。ジョヴァンニはそのままエリアスの元に寄宿することになり、徐々に新しい環境に馴染んでいった。怪我もすっかり回復したある日、ミルナがジョヴァンニを町へと連れだす。そこは、今までの彼の生活からは思いも及ばぬほど活気に溢れた町だった。塔はその一画にこのような町を隠し持つほどに巨大なものだったのだ。帰途、エリアスの仕事場を訪れると、彼は客を相手に塔について講釈しているところだった。自称、魂と身体の医者であり、夢と知識の商人、天文学と鉱物学の専門家にして塔の秘密の番人であるエリアスは、塔の秘密―その誕生から未来にいたるまで―を語ることを生業にしているのだと言う。彼の仕事場には一面に塔の来歴を語る絵画が飾られていた。エリアスはジョヴァンニに塔の秘密を語って聞かせる。しかし、そんな彼でも塔の全てを知っているわけではない。現に塔のあちこちで原因不明の異変が起こり始めていた… エリアスとの対話を通じて興味をかきたてられたジョヴァンニは、ミルナを連れて塔の秘密を探る旅へと出かける…

 ということで、「塔」を紹介してみました。僕個人の趣味からいくと、物語的には「ユルビカンドの熱病」の方がいいかなという気がしますが、それでも非常に素晴らしい作品であることには違いありません。まず第一に塔の描写が素晴らしい! だいたい主人公の名前からして明白ですが、主人公が寝起きする塔はピラネージの描く牢獄そのものという感じで、ピクチャレスクな雰囲気がたまりません。牢獄然とした塔の中で1人悶々として働き続けるジョヴァンニ… 独白がやたら多いところに何か意図を読みとりたくなります。各章の扉がまた雰囲気で、崩れた柱や石碑に章題が刻まれている形になっているんですが、書物が建築の、ひいては記憶の比喩であるという紙上建築論(高山宏)を思い浮かべてしまいます。その副題が格言めいていて、でもなんだかかわいらしくていいんですよー。例えば「?.あるいは修復家ジョヴァンニ・バティスタが卵を食べ過ぎたことを悟ること」とか、「?.あるいは降りんと欲する者は往々にして登ることになること」とか。さて、白黒とカラーの同居についてですが、カラーはまず第一に、エリアスが所有している絵画に当てられています。そして、もうひとつBD研究会の時に椿屋さんがおっしゃっていたように、世界の層の違いを示すという機能を担っています。ジョヴァンニが生きている世界とそれとは別の世界ということですね。ネタばれになってしまいますが、ジョヴァンニとミルナは塔の秘密の探求の末に、突然、見知らぬ世界に飛び出してしまいます。どうやらそこでは戦争が行なわれているところらしい。そして、彼らは兵士たちの群れの中に紛れ込んでしまいます。どういう終わり方なんだ…という感じなんですが、実は、エリアスが所有している絵の中に一枚戦争を描いているものがあります。エリアス曰く、それはかつて大陸を二分することになった戦争を描いたもので、塔の建造はその諍いに終止符を打つことを願ってのことだったらしい。つまりここでは、塔がバベルの塔とは反対の意味合いを持った、いわば調停の場として描かれているわけですね。そうすると、ジョヴァンニとミルナがその戦争の場に行ったってことは… 結構いい話なんじゃん!って感じになるんですが、話はそんなに単純ではなく、エリアスとの対話の中で、ジョヴァンニが理想的な塔の在り方として、どっからどう考えてもブリューゲル描くところの「バベルの塔」を引用したとしか思えない絵画に言及していること、最後の最後で、ジョヴァンニ自身が、かつてエリアスのところで見た絵と同じく額縁に入れられた肖像になっていることを考えると、ひねった作りになってるんだなあと気づかされます。塔が建てられた一方で、地上はどうなってしまっているんでしょうか? うーん、気になる… そして、戦闘の中に紛れていった2人の運命は… ひょっとしたらシリーズの外典がこの辺りをフォローしているのかもしれませんね。いやあ、それにしてもこのシリーズ、素晴らしいです。
 Peeters(ペータース)原作、Schuiten(シュイテン/スクイテン)作画『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ第8巻(おそらく…)「L’Ombre d’Un Homme(ある男の影)」(1999年)読了しました。例のごとく椿屋コレクションのお世話になっています。椿屋さん、ありがとうございました! 順番に読みたいなどと思いつつ、もはや順番も何もあったものではないんですが、案外問題ありません。これから読む方、どこからでも始められますよー。梗概は以下のとおり。

 保険会社に勤める Albert Chamisso(アルベール・シャミッソー[!])は将来を嘱望された有能な営業マン。3週間前に結婚し美しい妻を手に入れたばかりで、公私共に順風満帆の生活を送っているかに見えた。しかし、そんな彼にも悩みがないわけではない。夜毎、悪夢にうなされているのだ。眠っているとどこからともなく巨大な手が現われ、彼に襲いかかり、きまって汗びっしょりになって目覚めることになる。最初は同情的だった妻も次第にうんざりし始め、2人の仲は険悪なものになってしまう。何とかして悪夢から逃れようと、高名な医師の元へ通うアルベール。薬が効を奏したのかその日から悪夢はぴたりと止んだが、代わりに奇妙な現象が彼の身に降りかかる。なんと彼の影に色がついてしまったのだ! まるで彼自身が光源にでもなったかのように、その後、常に彼そっくりの映像がついて回ることになる。そしてその日を境に、彼のそれまでの幸福な生活は失われてしまう。「影をなくした男」ペーター・シュレミール氏もかくやとばかりに、色つきの影のせいで行く先々で騒動をひきおこすアルベール。挙句には会社から一方的に解雇され、妻からも見放されてしまう… 傷心のアルベールは人目を避けるように住まいを変え、1人ひっそりと暮らし始める。昔日の面影はなく、今では近所の子どもたちの笑いものになっている。なるべく人との接触を避けて生活していたアルベールだが、ひょんなことから向かいのアパートに住む女優の卵 Minna (ミンナ)と親しくなり、それがきっかけで彼の生活は少しずつ変わっていく…

 今まで読んできた『闇の都市』シリーズとは明らかにトーンが異なる作品です。タイトルと表紙の絵から破滅していく男を描いているものとばかり思いきや、意外にもハッピー・エンディングでちょっとびっくり。これは悪い意味では全然なく、むしろ僕はこの作品、大好きです。冴えない30男としては、中年男性が救われる話に憧憬を抱いてしまったり…(笑) そういえば、この本のプレテクストであるシャミッソーの『影をなくした男』も、主人公の境遇は異なるものの決して悲観的な話ではなかったなあ… 例によってですが、描かれている都市が素晴らしい! 夜の描写も魅力ですが、光溢れる昼間の都市がたまりません。今は Blossfeldstad(ブロッスフェルトシュタッド?)と呼ばれるこの町はかつて Brentano(ブレンターノ)と呼ばれていたとか… ドイツ・ロマン派の作家名から来てるんでしょうが、都市の名前として美しすぎ… さて、その都市のアール・デコ風(?)の高層建築の間を縫って、蝙蝠のような、燕のような瀟洒なフォルムの飛行タクシーが行き来します。明け方、まだ人もまばらな時間に飛行タクシーが駐車(?)しているコマが1つあるんですが、鳥が木に止まっているという感じで、これがまた素敵です。あと、この巻の特徴として、今まで読んできたもの以上に他の巻への言及が多いということが挙げられます。この前読んだ「塔」のジョヴァンニとミルナが演劇作品の登場人物になるほどの有名人として触れられていますし(そしてそのミルナの役をミンナが演じ、アルベールがリハーサルにつきあったりします)、「ユルビカンドの熱病」のロービックの名前も出てきます。さらに l’enfant penchée(傾いた少女)の話が出てきて、その登場人物と思しい Wappendorf(ワッペンドルフ?)教授に主人公が影のことでアドヴァイスを求めたりします。うーん、「傾いた少女」も気になる… ということで、次は「傾いた少女」です。
 Peteers(ペータース原作)、Schuiten(シュイテン/スクイテン)作画『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ第7巻(たぶん…)「L’Enfant Penchée(傾いた少女)」(1996年)読了しました。例によって椿屋コレクションのお世話になりました。椿屋さん、ありがとうございます! おそらく『闇の都市』シリーズの中でも最も有名な作品ですね。BDについて情報を集め始めた時に『フランスコミック・アート展 2003』のカタログでこの作品を目にして、de Crécy(ド・クレシー)と共に最も惹きつけられたことを思い出します。展覧会でご覧になったという方もいらっしゃるのではないでしょうか? 実際手に取ってみると、BDにしては、あ、厚い… 150ページほどもあります。さて、梗概は以下のとおり。

 Mylos(ミロス)出身の実業家 Von Rathen(フォン・ラッテン)一家は休暇を利用して Alaxis(アラクシス)を訪れている。両親と息子の Kurt(クルト)は上流階級に属するものにふさわしい落ち着いた物腰だが、娘の Mary(マリー)は見るもの全てが珍しく、はしゃぎ回っては両親を困らせている。マリーは目ざとく「スター・エクスプレス」というジェット・コースターを見つける。うんざりしつつも彼女につき従う一同。案の定、楽しんだのはマリー1人で、降りた時には両親と兄はクタクタになっていた。アトラクションを満喫して上機嫌のマリーだが、何やら調子がおかしい。まともに立つことができないのだ。体を45度くらい斜めに傾けるとようやく安定して立つ(?)ことができる。父親はアトラクションの責任者に苦情を申し立てるが、何の役にも立たない… 帰宅してもこの奇妙な病は癒えず、医者も原因を特定することができなかった。マリーは正常な平衡感覚を失ったまま日常生活を送る。学校が始まると彼女は寄宿舎に入るが、同級生や教師からいじめられ、挙句、素行の悪さを難じられて追い出されてしまう。1人さまよい、Sodrovni(ソドゥロヴニ)という町へ行き着くマリー。居場所を見つけようとするが、誰からも相手にされない。食べるものも見つけられず、1人雪が降りしきる町に座りこんでいたところを、巡回サーカスのロベルトソン一座に拾われる。ロベルトソン一座に加わったマリーは、その特異な平衡感覚を利用して花形となる。Porrentruy(ポレントゥリュイ)という町での公演の際に、マリーは Stanislas Sainclair(スタニスラス・サンクレール)という男の訪問を受ける。『L’Echo des Cités(町々のこだま)』という新聞の編集長を務めるというその男は、彼女と同じような人間を他にも知っているという。そして、Axel Wappendorf(アクセル・ワッペンドルフ)という男なら彼女を治すことができるかもしれないと告げる。ロベルトソン座の一行に別れを告げ、ワッペンドルフがいる Mont Michelson(モン・ミシェルソン)の天文学研究所に向かうマリー。ワッペンドルフはそこで、仲間と共にここしばらくの間に突然現われた惑星について研究し、そこへ至るための装置を開発していた。マリーの話を聞き、いくつかの実験をしたワッペンドルフは、マリーの傾斜がその惑星の出現と関係があることを確信する。数ヶ月の研究の後、ついにロケットを完成させたワッペンドルフはマリーを連れて惑星へと出発する。そこで彼らを待っていたのは… マリーの傾斜の意外な秘密が明らかになる…!

 マリーの物語を中心に紹介してみましたが、実はこの作品はマリーの物語とワッペンドルフの物語、それから上では言及しませんでしたが、Augustin Desombres(オーギュスタン・デゾンブル)という画家の物語、この3つが収斂する形で作られています。デゾンブルの物語は写真で構成されていて、これにはかなり違和感を覚えました。なんか写真を漫画のコマのように並べると安っぽく見えてしまうんですよね… ただ、これには書き手側の狙いがあって、最後まで読むと、あー、こういうことなのかーと納得します。絵で描かれた部分と写真が干渉する場面があるんですが、それなんて感動的ですらある。映画『ラ・ジュテ』でスチール写真が一瞬だけ動くのにも似た感動ですね(違うか…?)。マリーが斜めになっていることそれ自体にそれほど焦点が当てられていないのがちょっと残念かなという気がしました。サーカスで高い平均台をマリーが歩いて見せるシーンがあるんですが、それは非常に魅力的なので、そういうシーンがもっとあるとよかったかなと… 
 第8巻の「ある男の影」と同じく、この巻でも他の作品に出てくる登場人物が再登場しています。スタニスラス・サンクレールはおそらく『闇の都市』外典の「L’Echo des Cités(町々のこだま)」に出てくる人物でしょうし、あと「ある男の影」に端役で登場した Michel Ardan(ミッシェル・アルダン)への言及もほんのちょっとですが、ありました。この人物は第6巻の「Brüsel(ブリュゼル)」に出てくるみたいですね(ちなみにブリュゼルという都市はこの作品の中に少し登場していたりします。奇妙な廃墟という感じで、この都市に何が起こったのか非常に気になる…)。それからこの作品で重要な役割をしているワッペンドルフも「ある男の影」にチョイ役で出ています。こういうバルザックの「人間喜劇」のような試みは面白いですね。スタニスラス・サンクレールとミッシェル・アルダンは共にジャーナリストで、どんな活躍をしてるのか非常に気になります。それから、このシリーズは最初から好んで先行する文学や絵画を引用しているんですが、今回はなんと作品の中にフランスSF文学の父が登場しますよ! ちょっと笑っちゃいますが、ロケットが出てくるんだから当然と言えば当然かな… 
 あと、奥付にある作品紹介によると、この作品に関連するものとして、「La Musée A. Desombres(A・デゾンブル美術館)」というアルバムがあるみたいですね。品切か絶版になっちゃってるみたいですが、気になるところです。それから、これはこの前、椿屋さんに見せてもらいましたが、「L’Affaire Desombres(デゾンブル事件)」というDVDと本がセットになったものも出版されています。フナックに紹介文がちょっと載ってますが、「オーギュスタン・デゾンブルとは誰か? 19世紀末のへぼ絵描きか、それとも知られざる天才か…」みたいな感じで、大いに興味をそそられます。
遅ればせながら紹介ありがとうございます!!
出来ればシュイテンコミュでもネタにして頂ければ…不甲斐ない管理人で申し訳ございませんです…m(_ _)m


因みに邦訳も出ているフランスSF文学の父ジュール・ヴェルヌの「20世紀のパリ」の表紙&挿絵もシュイテン氏が担当しております…(日本語版では集英社版の方で確認できます^^
サマリの城壁、読ませていただきましたッ!
すごくよかったです。

まず背景などに描かれてる建築物の絵にグッときました。
こういう緻密に書き込みがなされている絵、大好きなんです。

あと人物の表情。基本的に無表情に近いのですが、それでも人物の感情がちゃんと読み取れる。不思議ですねー。

あと絵に動きが感じられる点もすばらしいと思いました。カメラワーク的な角度とか、ポーズとか、かなり工夫されてるんじゃないかな。

翻訳してくださったショートヴァルさん、ありがとうございましたッ!
もう、ショーさん、街の「ガイドブック」を読まれているかも知れませんが…。
SFの父とともにシュイッテンがオマージュ的に登場させている歴史上の人物がもう一人います(少なくとも私がわかるのが…)。
アルダンというキーパーソンはモデルがあきらかに“近代写真の父”ナダールですね。19世紀の後半に有名人のポートレイトを撮った人気肖像写真家でもあり、また気球による空中写真を試みたり、新聞における効果的な写真利用を唱えたりするなど、まあ近代ジャーナリズム上非常に重要な人物であり、一方で山っ気のある怪人物でもあり…(彼は最初カリカチュアも描いている漫画家でした)。
シュイッテンがオマジュる二大人物がヴェルヌと彼だというのは非常に興味深いですね…。
>今寛さん
ヴェルヌ情報ありがとうございます! 未読なので、ぜひ読んでおきたいですね。「シュイテン」コミュへの書き込みは追々していきますねー。

>のりおさん
読んでいただいてありがとうございます! やっぱりシュイテン(スクイテン)の魅力は建築ですよね。感情表現は実際控えめだと思います。ただ、それが意外に魅力にもなっているのかなと考えたりもします。特にカルラの表情のなさとか。あとは、既存の文学や絵画、建築作品に対する言及があって、どれだけの意図を持っているのかまだわかりませんが、これも魅力的。

>椿屋さん
『ガイド』、まだ読んでません。なるほどー、ミッシェル・アルダンはナダールなんですね。たしかにそんな感じがする。常にカメラを持って各地を走り回り、そういえば有名人の肖像を撮っているという記述もあったような… そうすると、もう1人のジャーナリスト、スタニスラス・サンクレールのモデルは誰なんだろう? エミール・ド・ジラルダンとか? うーん、でも、なんで小人として描かれているんだろう? 「傾いた少女」にロベルトソンというサーカスの座長が出てくるんですが、これもひょっとしたらファンタスマゴリアの発案者ロベールソン(エティエンヌ・ガスパール・ロベール)への言及だったりして… 

> シュイッテンがオマジュる二大人物がヴェルヌと彼だというのは非常に興味深いですね…。
ですよねー。ここまで読んできて、『闇の都市』は確実に19世紀後半から20世紀初頭を意識していると思います。ナダールもヴェルヌも光学的装置に夢中になった人たちのようですが(マックス・ミルネール『ファンタスマゴリア』)、光学的な幻想と閉塞した迷宮世界という近代文化の裏街道をきちんと押さえているところが、幻想文学好きにはたまりません。「闇の都市」というパラレル・ワールドで、この時代の意味をもう一度捉えなおそうという壮大な試みだったりするんでしょうか? 
 Peteers(ペータース原作)、Schuiten(シュイテン/スクイテン)作画『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ第7巻「Brüsel(ブリュゼル)」(1992年)読了しました。例のごとく椿屋コレクションにお世話になりました。椿屋さん、ありがとうございます! いやあ、てこずりました… これ、今まで読んだ『闇の都市』シリーズの中で一番読みにくかったですね。「Brüsel(ブリュゼル)」という名が示すとおり、この都市はベルギーの首都「Bruxelles(ブリュッセル)」をモデルにしています。冒頭にペータースによる「De Bruxelles à Brüsel(ブリュッセルからブリュゼルへ)」という写真付きの文章があって、ブリュッセルとブリュゼルの関連を説いているんですが、めんどくさいんですっ飛ばしていきなり本編から読んだらいまいちわからん… 別に難解というわけじゃないんだけど、物語の背景がわかりにくい。結局、その文章に戻った上で、もう一度読み直すはめになりました… まあ、一読で理解するだけのフランス語力がないってのも原因の一つなのかもしれませんが… さて、梗概は以下のとおり。

 物語の舞台は都市ブリュゼル。まだまだ大都市への発展途上にあるこの町の中心部にはSenne(センヌ)と呼ばれる排水溝が流れ、そこから流れ出る瘴気が貧しい人々の健康を害している。主人公の Constant Abeels(コンスタン・アベール)は、そのセンヌ界隈で花屋を営む中年の男である。花屋と言っても、彼が扱っているのは生花ではない。彼が売るのはプラスチックでできた装飾用植物で、花を落としたり、枯葉を撒き散らしたりすることのない進歩の時代に相応しいこの植物を、彼は誇りに思っている。ある日、彼が店の改装準備をしているところへ、1人の老人が訪ねてくる。老人は、店先の看板を見て、どうしても話をしたくなったのだと言う。その名を聞いてコンスタンは驚く。その老人は電気物理学の権威 Ernest Dersenval(エルネスト・デルザンヴァル?)だったのだ。Dersenvalisation(デルザンヴァリザシオン)という治療法の発明者でもある彼を、コンスタンは愛読する科学雑誌を通じて知っていた。聞けば、デルザンヴァルは、De Vroum(ドゥ・ヴルーム?)という人物を補佐して、ブリュゼルの近代化を推し進める運動に関わっているという。コンスタンも元々アマチュアの科学者であり、2人は意気投合、デルザンヴァルはコンスタンに近代化事業への参加を要請しさえする。2人の話は尽きなかったが、折りしも予期せぬ断水が起こり、アパートの大家を勤めるコンスタンは役所に赴かねばならなくなる。デルザンヴァルは再会を約して帰っていった。居住地域の影響からか、コンスタンの健康状態は元々あまりよくなかったのだが、役所へと向かうさなかに突然降り出した雨のせいで、さらに悪化させてしまう。追い討ちをかけるように、彼は役所でひどい対応を受け、結局、事態の解決を得ることができない。が、コンスタンはそこで後々重要な役割を果たすことになる Tina(ティナ)という娘の知己を得る。ティナの提言もあって、翌日、病院を訪れるコンスタン。軽い気持ちで病院に入った彼だが、思いもよらぬことに重病人扱いされてしまう。病棟で彼が目にしたのは、医学と呼ぶもおこがましい前近代的な治療法の数々だった。危うく彼もその犠牲になるところだったが、偶然医療現場の視察をしていたデルザンヴァルが彼を救い出す。体調はすぐれなかったものの、デルザンヴァルの熱意に圧され、コンスタンは彼に従い、近代化事業の拠点である議会について行くことになる。そこでは、ドゥ・ブルームを中心に、近代化への施策をめぐって熱い議論が展開されていた。それによれば、ブリュゼルは不衛生極まるセンヌを埋めたて、古い街並みを破壊した上に、他の都市を圧する高層建築都市として甦るはずであった。その中心には最新の設備を備えた巨大な病院が鎮座することだろう。早速、翌日から町のいたるところで工事が始められた。が、皮肉なことにコンスタンの家も、新都市建設のために区画整理の対象となってしまう。抗議をしてみたところでどうなるものでもない。進歩への期待と懐古の情の間で揺れるコンスタンだが、工事は着々と進行していく。そんな折、コンスタンはティナに再会する。彼女は職を転々としつつ、近代化政策に反対する地下工作を行なっていた。知らず知らずの内にその活動にも巻き込まれていくコンスタン。ブリュゼルの近代化政策はどこに行きつくのか? そしてティナとコンスタンの運命は? 物語は意外な結末を迎える…

 とかなんとか思わせぶりな感じで紹介してみましたが、実はこの作品、あまり劇的な事件が起きている感じがしません(笑)。描き方のせいもあるんでしょうが、大災害とか異常な事態が起こりつつあるというハラハラドキドキ感があまりない。事件は起きているのにそんな感じがしないというか… 事件の過程を描かず、もっぱら結果を描いているためかもしれませんが、描き方によってはもっとスリリングなものができたはずなのに…という点でちょっと不思議な作品です。どういう狙いがあるのか気になるところですね。基本的な話は進歩への妄信とそれがひきおこす不幸という感じでしょうか。時代設定は19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパという感じで、20世紀の進歩的世界を予感させながらも、19世紀末にはまだかなり怪しげな部分も併せ持っていた電気と医学が、この作品の中でも、進歩の具でありながら、人間に破滅をもたらすアンビヴァレントな価値を持ったものとして登場します。とは言え、単純に近代化批判をしているわけではなく、主人公コンスタンが扱うプラスチックの植物は災厄を生き延び未来への希望を感じさせるものとして描かれていたりもします。実在した19世紀と架空の19世紀的世界を作者がどのように関連づけ、どのように評価しているのか興味がつきません。物語としては割と地味な印象を抱いてしまうわけですが、架空の都市ブリュゼルと現実の都市ブリュッセルの2重写しを考えても、書き手としては相当に思い入れがあるのではないかと思います。そうそう、描かれている建築も今までと比べるとやや地味めです。ブリュゼルの大改築計画は、完成まであと一歩というところで頓挫してしまうので、それも仕方ないのかもしれません。あるべきブリュゼルの姿がミニチュア化されたジオラマ(?)として登場するのですが、これがちょっと壮観かも。実際に完成することのない、いわゆる紙上建築というのはやはり魅力的です。ただ、今、シリーズ第5巻の『La Route d’Armilia(アルミリアへの道)』(1988年)を読んでいるんですが、ここにはブリュゼルの高層建築群が描かれています。『アルミリア』の主人公たちは大災害が起きる前にブリュゼルを訪れたのでしょうか? それもと、この破壊の後に再びブリュゼルが再建されるんでしょうか? 興味深いところですね。
 Peteers(ペータース原作)、Schuiten(シュイテン/スクイテン)作画『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ第5巻「La Route d’Armilia(アルミリアへの道)」(1988年)読了しました。例によって椿屋コレクションからお借りしました。椿屋さん、ありがとうございます! 梗概は以下のとおり。

 X年5月25日、飛行船ツェッペリン号が極地の都市 Armilia(アルミリア)に向けて Mylos(ミロス)を出発する。艦長の Moltchanov(モルチャノフ?)をはじめとする乗組員たちの中に1人の少年が混じっている。彼の名は Ferdinand(フェルディナン)、かの Zacharius(ザカリウス)親方の甥っ子で、危殆に瀕している都市アルミリアを救うという密命を帯びていた。アルミリアの異変は世界全体に影響を及ぼしかねない。現に世界のあちこちで不可解な出来事が起きはじめている。フェルディナンはザカリウスから委ねられた秘密の文書を手にアルミリアへ向かう。船はまず Porrentruy(ポレントゥリュイ)を越え、次いで Muhka(ミューカ)、Brüsel(ブリュゼル)、Bayreuth(バイルート)、Calvani(カルヴァーニ)、Genova(ジュノヴァ)の上空を順次通過、さらにKφbenhavn(クーベンアヴン?)を経て、最後にアルミリアに辿り着くことになっていた。出発してまもなく、フェルディナンは船内にいる侵入者に気づく。捕えてみるとそれは彼よりもさらに幼い少女だった。聞けば、Hella(エラ)と名乗るその少女はミロスの皮革工場から脱走してきたのだという。そこではまだ年端もいかぬ子どもたちが強制労働を強いられているのだ。エラを憐れに思ったフェルディナンは、艦長にかけあって彼女の乗船を許可する。新たな仲間を加えた一行の旅は順調そのものだった。ポレントゥリュイの峡谷では、道に迷った陸上客船を導いてやり(この客船でまたまたWappendorf[ワッペンドルフ]教授が登場)、ブリュゼルでは超高層建築群の絶景を満喫し、バイルートでは住人たちの奇妙な生活習慣を目の当たりに、クーベンアヴンでは巨大な遊園地 Tivoli(ティヴォリ)でつかの間の休息を楽しむ… が、ティヴォリを出港すると、今までの順調な旅が一転、嵐が船を襲い、一行はなかなか前に進むことができない。折も折、フェルディナンは叔父から預かった文書を失くしてしまう。はたして一行は無事アルミリアに辿り着けるのか? そしてフェルディナンは文書を見つけ、アルミリアを救うことができるのか…?

 という感じで「アルミリアへの道」、紹介してみました。今まで読んできた『闇の都市』シリーズはコマ割を施した漫画だったわけですが、この「アルミリアへの道」はやや異なっています。大部分が主人公 Ferdinand(フェルディナン)の手記という形になっていて、最初と最後、および中ほどの1、2ページを除くと、基本的にはフェルディナンの見聞を伝える文章とその一場面を描いた1枚絵という構成です。漫画というよりは絵本のような感じですが、シュイテン(スクイテン)の絵の魅力は大きな画面の方が引き立つような気がするので、まあ、これはこれでありでしょう。そして、「傾いた少女」の時もそうだったのですが、描法の使い分け(今回はコマ割を施した部分と文章+絵の部分)はきちんとした意味を持っています。フェルディナンの手記というのは、実は……! これは読んでのお楽しみということで…(笑) ザカリウス親方の名前が出ているところからも明らかなように、ジュール・ヴェルヌへのオマージュと言っていい作品です。当然ながら主人公一行はアルミリアへ辿り着くわけですが、そこにはなんと Pym(ピム)なる人物もいたりします(ポー『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』‐ヴェルヌ『氷のスフィンクス』)! 作品の作り自体典型的な幻想旅行記(voyage extraordinaire[ヴォワヤージ・エクストラオルディネール])で、幻想文学好きにはたまりません。飛行船による旅行というのも「闇の都市」各地の奇観を見せたいがための言い訳に過ぎないんじゃないかと思ってしまうくらい… フェルディナンのアルミリアへの冒険、エラの脱走といった出来事は単純な物語のレベルを超えて別の意味を持っているはずですが、ネタばれになってしまうので触れずにおきます。全体としてはやや切ない読後感。悪くないです。
 Peeters(ペータース)原作、Schuiten(シュイテン/スクイテン)作画『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ第3巻(おそらく…)「L’Archiviste(古文書管理官)」(1987年)読了しました。例のごとく椿屋コレクションのお世話になりました。椿屋さん、ありがとうございます! この前読んだ「La Route d’Armilia(アルミリアへの道)」と同じく、絵と文章が分離した作品で、『闇の都市』正編に入れるべきかどうか微妙なところです。「アルミリア」はところどころコマ割がほどこされた部分があるんですが、「古文書管理官」は全くコマ割なし、もはや漫画ではありません… 書店のマンガ・コーナーに置くよりは文学コーナー(特に幻想文学とか博物学を扱った棚)にでも置いた方が反応がいいのではないかという感じの作品です。おそらく作者の側が、『闇の都市』というシリーズを漫画作品としてだけ考えているわけではないということでしょうね。

 ストーリーものではないので要約紹介が難しいんですが、基本的な筋は、「闇の都市」ではなく我々の世界に属するL’Institut Central des Archives(中央古文書学院?)の古文書管理官 Isidore Louis(イジドール・ルイ)が、様々な文書に残された「闇の都市」の痕跡をかき集め、その全体像を類推するといったものです。見開きの左ページにテクスト、右ページに1枚絵という構成で、テクストはイジドールによる報告という形を取っています。左ページのテクストの上に必ず資料を検討中のイジドールの肖像が置かれていて、ページが進むにつれて、本が増えていったり、コーヒー・カップが重なっていったりする様子がなかなか楽しい(笑)。当初、中央古文書学院の任務として研究を行なっていたイジドールですが、いろいろな事実が明るみになるにつれて、彼の報告を危険視した学院当局から逆に妨害を受けて… という感じで話が進みます。

 古文書管理官が資料を通じて知ることができる情報や彼の類推という形で、様々な都市、この作品が発表される前に既に出版されていた作品に出てくる都市―サマリとユルビカンド―はもちろんのこと、その後出版される作品の中に出てくる都市―ブリュゼル、ミロス、アラクシス、都市ではないが「塔」―が語られていくのが楽しいですね。「Uqbar(ウクバール)」という言葉が章題の1つにさりげなく使われていたりするんですが、きっとボルヘスの「Tlön, Uqbar, Orbis Tertius(トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス)」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%80%81%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%80%81%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%83%93%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A6%E3%82%B9)にインスパイヤされた作品なのでしょう。本と現実というか表象と現実というか、その2つの間の境界が曖昧になっていくという点では、「古文書管理官」だけでなく『闇の都市』シリーズ全体が「トレーン…」の正嫡であるような気がします。ちなみに僕がお借りした版は版型的にも魅力的で、通常はたて31cm×横23cmなんですが、40cm×30cmもあります。本の本はやはり巨大でなければということでしょうか(笑)。このまま日本で売ってもまず売れない気がします… ただ、Fnac(フナック)を見ると、現在は通常の版型のものも売ってるみたいですね。
 Peeters(ペータース)原作、Schuiten(シュイテン/スクイテン)作画『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ外典「Guide des Cités Obscures(『闇の都市』案内)」(1996年)読了しました。例によって椿屋コレクションのお世話になっています。椿屋さん、ありがとうございます! シリーズ外典を読むのはこれが初めてです。176ページで、たて31cm×横16cmというちょっと変わった版型をしていますが、これはきっと旅行ガイドの形を模したものなんでしょうね。棚に入れるのに困るような気がしますが、本としては瀟洒な雰囲気を持っています。

 ガイドブックなので、要約も何もないんですが、構成は以下のとおり。

Introduction(はしがき)
?.Présentation général(概論)
□Les données géographiques(地理的データ)
□La nature et les hommes(自然と人間)
□L’histoire(歴史)
□La civilisation obscure(文明)
?.Renseignements pratiques(お役立ち情報)
□Les moyens d’accès(アクセス)
□Le séjour(滞在)
?.Les grandes cités(都市案内)
?.Les personnages illustres(人物事典)
?.Les autres mondes(その他の世界)
Bibliographie(書誌)
Sommaire(目次)

 ざっと通読した程度なので、細部まで読みこめていませんが、よくもまあこれだけの世界観を作り上げたなあという感じです。写真やら絵やらがふんだんに盛り込まれているんですが(相変わらず素晴らしいです!)、それも必ずしも既存の作品からの使い回しということではないようですし、なかなか大変な作業だったんじゃないでしょうか。「?.Les grandes cités(都市案内)」と「?.Les personnages illustres(人物事典)」に『闇の都市』本編に出てくる都市や人物の背景を含めた詳細なデータが載っていて、非常に面白いです。あとは「L’histoire(歴史)」の部分にある年譜が面白かった。本編を読んでいると、あー、そういうことだったのか…などと感慨に耽ることもあるんですが、意外とこの本だけでも楽しめたりするのかなという気がしなくもありません。この前紹介したシリーズ第3巻の「L’Archiviste(古文書管理官)」もそうなんですが、架空の世界の記述を楽しむユートピア物語、あるいは偽書ということで受けるかも… ちょっとジャンルは違いますが、ジョアン・フォンクベルタ/ペレ・フォルミゲーラの『秘密の動物誌』(筑摩書房)に近いものがあります。と言っても、ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類』(思索社他)ほどの徹底性はありません。まあ、気楽に楽しむにはある程度のゆるさが必要な気もしますし… 個人的に興味をそそられたのは、作者が序文で言及している『闇の都市』を描いた先駆者たちの存在で、ノヴァーリス、メーテルランク、ジュリアン・グラック、ルネ・ドーマル、フランツ・カフカ、ヴァルター・ベンヤミン(意外…)、イタロ・カルヴィーノ、イスマイル・カダレ(知らん… 原綴は Ismaïl Kadaré。有名な作家?)、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、アドルフォ・ビオイ・カサレス、スウェーデンボルグ、ジョン・デュン(知らん… 哲学者だそうです。John Dunne)、エヴァリスト・ガロワ(数学者)、ピラネージ、ギュスターヴ・ドレ、オーギュスト・デゾンブル(「傾いた少女」の登場人物。画家。実在したの…?)、ヨゼフ・ポエラート(ベルギーの建築家。正確な発音がわかりません。Joseph Poelaert)の名前が挙がっています。さらに「人物事典」ではジュール・ヴェルヌ、ナダール、アントワーヌ・ウィールツなんかも項目が立てられてたりして… 本当はもっといっぱいいるんでしょうけど、とりあえず納得。
 Peeters(ペータース)原作、Schuiten(シュイテン/スクイテン)作画『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ、おそらくは第9、10巻にあたる「La Frontière Invisible(見えない国境)」1、2巻(2002年、2004年)読了しました。例によって椿屋コレクションのお世話になりました。椿屋さん、ありがとうございます! この作品は美術出版社から出ている『コミッカーズマンガコレクション error(エラー)』という雑誌(ムック?)に翻訳が載っているので、お読みになった方がいらっしゃるかもしれませんね。僕はこの本を持っていないので(もうちょっと安ければ…)、詳しいことはわかりませんが、これって「見えない国境」の完訳なのでしょうか? たしか『error vol.1』と『error vol.2』の両方に翻訳が載ってたはず… 絵的に非常に素晴らしいので、せっかく翻訳があることだし、シュイテン(スクイテン)を読んでいない方にはおすすめです! ただ、この作品は前半部分にあたる1巻だけ読んでもストーリー的にはあんまり面白くないかもしれません… タイトルの意味がよくわからんし… 全2巻なんであたり前ですが、2巻まで読むと、おー… という感じになります。ということで梗概は以下のとおり。

第1巻
 Sodrovno-Voldachie(ソドゥロヴノ=ヴォルダシ?)の名家 de Cremer(ド・クレメール)家出身の Roland(ロラン)は、地図に熱烈な情熱を抱いている。修学期間を終えた彼は、地図製作の中心地、国立地理院で働くことが決まる。胸を躍らせて憧れの学府へと向かうロラン。しかし、地図製作に対する関心の低さからか、地理院の偉容とは裏腹にその周囲はあれ放題で、彼は失望の念を隠せない。内側もどこか閑散としていて、いくつもある空いた部屋から好きな場所を選んでいいと言われる。ロランは、死んだ主人を待ち続ける Kalin(カラン)という犬を自分の部屋に引き取ることにした。到着の翌日、直属の上司 Paul Ciceri(ポール・シセリ)の面識を得、早速仕事が始まる。元々地図に多大な関心を示してきたロランだが、このポール氏と呼ばれる人物との出会いが、彼に地図製作の新たな魅力を開示することになる。それまで彼は地図そのものにしか関心を持っていなかったのだが、それ以後、地図と現実の世界との関係に興味を抱くことになる。彼の仕事とは、ポール氏の元で、立体的で現実の世界を正確に反映した地図(ジオラマ?)の製作に従事することだった。一方で、地理院での生活は、ロランに新たな出会いを提供した。なかんずく、若い才能ある技師 Ismail Djunov(イズマイル・ジュノフ?)は地図製作の新たな技術を実践していて、彼の良い議論の相手になった。また、ジュノフに連れられていったバーで出会った娼婦 Shkodrâ(シュコドラ?)と彼は恋に落ちることになる。彼女の背中には臀部にかけて大きな痣があり、彼女はそれを恥じていたのだが、ロランはそれを気にするどころか、その痣に祖国ソドゥロヴノ=ヴォルダシの形を認めて、愛しむのだった。そんなある日、ソドゥロヴノ=ヴォルダシの最高権力者 Radisic(ラディジック?)元帥が地理院を表敬訪問することになる。近隣諸国を侵略し、自国の地位を確固たるものにせんとする彼は、国威の高揚のためにも地理院の再興を目論んでいた…

第2巻
 ラディジック元帥の訪問も終え、ロランは休暇をもらい実家に帰省する。3週間後に彼が戻ってくると、元帥の肝煎りで再興が推し進められ、全てが様変わりしていた。領土の拡大を即座に地図に反映すべく効率的な機械が導入され、多くの人員が派遣された。かつての娼婦たちも地理院の仕事に駆り出されている。その中にはロランの恋人シュコドラの姿もあった。今までの実力者、Nicolas(ニコラ)氏やポール氏は第一線からの引退を余儀なくされ、ロランとイズマイルが実質的な責任者となる。新方式の導入と共に、ポール氏の緻密な方式は省みられなくなり、イズマイルの効率至上主義が跋扈する。仕事のあまりのずさんさにイズマイルに反感を覚えるロラン。苦情を申し立てるロランにイズマイルはシュコドラの痣を皮肉って応戦する。この何気ない一言が、ロランが密かに抱いていた不安を煽ることになる。―シュコドラの痣は祖国ソドゥロヴノ=ヴォルダシの原形をとどめている。スコドラと祖国の間には密接な関係があるに違いない。ラディジック元帥の領土拡大政策はこの美しい原ソドゥロヴノ=ヴォルダシの有り様を汚す誤った行為なのだ。シュコドラの存在が元帥に知られたらただではすむまい… ロランはシュコドラを隔離することに決める。彼女はロランの妄想に呆れつつも、しぶしぶ彼の提案を受けいれる。そうこうしている内に、イズマイルの効率至上主義が深刻な結果をもたらすことになる。そのずさんな情報管理が非難され、地理院が軍部の管理化に置かれることになってしまったのだ。イズマイルは信用を落とし、形だけの長官であったニコラ氏は拘束されてしまう。そしてロランもラディジック元帥から直々に召集されることになった。軍人に護送され、元帥の元へ向かうロラン。シュコドラの痣が原因だと思い込んだ彼は、シュコドラと愛犬のカランを連れて車外から脱出し、逃亡を試みる… 逃亡の過程で祖国の美しさと元帥の領土拡大政策が引き起こした惨状を目の当たりにするロラン。やがて、彼らの逃避行は意外な結末を迎えることになる…

 やっぱ2巻分だと長いですね…(笑) 第1巻が基本的に地理院の中のことに終始していたのに対して、第2巻は物語が急展開し、外の風景へと開かれていきます。2巻の後半に出てくる風景が美しい! 物語的には不思議な終わり方をして、ちょっとあっけにとられます。見方によっては皮肉が効いたいい終わりかたなのかもしれません。地図と現実の世界の混同、地図と人間の身体の関係という表象論的に面白いテーマが盛り込まれていて、いかにもシュイテン(スクイテン)&ペータースっぽい作品だと思います。各章の扉絵もなかなか面白く、凝った作りになっています。一番最後に第12章の扉絵が置かれているんですが、その先には第12章の本文がありません(笑)。そこには、峡谷の中を歩いていくロランの姿が描かれていて、その峡谷がまるで横たわった女性の裸身に見えるというような構図です。まるで、アルチンボルド派の風景画かマルセル・デュシャンの「1.落ちる水、2.照明用ガス、が与えられたとせよ」かという感じで、気が効いています。そうそう、1巻、2巻それぞれの始まり方も面白く、全く同じコマ割、全く同じ構図で、しかも年月と環境の違いをうまく表現しています。ついでに述べておくと、シュイテン作品にはよくあることですが、登場人物名の発音が難しくて正確にはわかりません。悪しからず…

* 画像はいずれも第2巻のものです
遂に『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズの本編読了です! そのほとんどを貸してくださった椿屋さんに大感謝です。どの作品も面白かったですが、個人的には第8巻の「L’Ombre d’Un Homme(ある男の影)」が一番好きですかね。
読破、
おめでとうございます

いやいや、すごいパワーですね

わたしも負けずに頑張んないと

少し暇になったら、またデカローグ、レポート書きます
ビラルも書かなくちゃ、ですね
L'Affaire Desombres デゾンブル事件
スキュイテン・ペーテルス作
DVD+本
Casterman社刊

観ました。読みました。わたしも「椿屋コレクション」からお借りしています。いつもありがとうございます。

ショードヴァルさんが 9 で紹介された「傾いた少女」の登場人物、オーギュスタン・デゾンブルに焦点を当てたDVDです。
DVDの内容は、50分の本編とおまけです。

本編はカトゥリーヌ・エムリーという女性が「オーギュスト・デゾンブル」についてもおこなった講演の形をとっています。
1980年代までは、デゾンブル美術館というのがオーブラック地方にありました。そこはデゾンブルが生前すんでいたところです。しかしその家は1989年に壊されました。多くの作品がその家の壁に描かれたため、今では彼の作品を見ることはできません。数少ない絵画は遺品と共にあちこちに散らばってしまい、デゾンブルを知る手がかりは限られています。
しかし、エムリーはこの謎の多い画家に興味を持ち彼について調べてみようと思います。調べていくうちにさまざまな驚くべきことを発見し……

この講演のなかには様々なビデオ映像や「闇の都市」の画像が出てきます。
面白いのは、壊される前のデゾンブル美術館を訪ねたことがある数少ない人物としてBD作家のスキュイテンとペーテルスが紹介されます。彼らは偶然にこの美術館を訪れ、そこに描かれた壁画に衝撃を受け、自宅に戻ってから、これらの絵をもとに作品を作ろうとします。そして更なる取材をしようと再びオーブラックを訪れると、美術館はすでに壊されていた。そしてもはや記憶だけに頼って描かざるをえなかった。それが「闇の都市」というシリーズだということになっていて、講演の中ではエムリー女史のインタビューを受ける二人の映像が流されます。またこのインタビューがおこなわれていたのが、パリのメトロのアール・ゼ・メティエ駅で、実はこの駅の内装はスキュイテンが担当しています。しかし、この映画では、このアール・ゼ・メティエ駅がデゾンブルゆかりの地と言うことになっているのです。

もともとスキュイテン・ペーテルスの創作人物のデゾンブルの家にスキュイテンとペーテルスが訪ねていって「闇の都市」ができたというからくり。スパイラルみたいな効果があって、とても面白いです。またややネタバレになりますが、デゾンブルは闇の都市の世界とこちらの世界を行ったりきたりしているひとですが、スキュイテンとペーテルスもこのような設定をすることで自分の作品のなかと外を行ったりきたりする。同じような効果が出て、「闇の都市」ファンならもうわくわくしてしまうのではないでしょうか。
わたしはまだ「傾いた少女」しか読んでいないのですが、ほかの作品も続けて読んでみたくなりました。

また、グルノーブル美術館に所蔵取れているというデゾンブルの絵の紹介もあるのですが、そこに描かれているのが傾いた姿勢のの女性。明らかに「傾いた少女」マリーの姿だと思われます。また、もっと幼い姿の傾いた少女像もあり、この映像が「傾いた少女」の世界を別の視点から見た作品だということがわかります。

この短編映画のいくつかの場面が、「BDの集い」で流されることになるDVDのなかの一編「映像の境界」で紹介されています。

遺品の中には楽譜もあり、その楽譜を研究してみると、時代をはるかに先取りした音楽技術や、楽典的なことから観て違う時代のものと思われる音楽要素が含まれていることに気づきます。音楽家ブリュノ・ルトールが楽譜から再現してみた曲も初回されていますが、それぞれ「闇の都市」でおなじみの都市名がタイトルとしてつけられています。


本編以外にはおまけの映像として、この音楽のひとつひとつが独自で観られるようになっていいる「闇の都市のなかを」。
2003年アングレーム・フェスティヴァルでも流された「原画ができるまで」
そしてブリュノ・ルトール作曲の「石の夢」があります。


本の方はDVDの講演で資料として使われた「デゾンブルの日記」、デゾンブル略歴、そしてデゾンブルのものとされる絵画、デッサン、写真などが載っています。


とにかくスキュイテンの世界の面白さ満載の作品です。
先日これもまた椿屋さんにお借りしたスキュイテンとペーテルス共著のL'Aventure des images に書いてあったのですが、「闇の都市」の世界はあらゆる手法でのアプローチをしたいようです。単にアルバムだけでなく。だからこそアルバムも白黒あり、カラーあり。ガイドブックやインターネットでの発展ありで、面白いのでしょうね

ところで自分で自分の首を絞めるようなことを言うようなのですが、この作品、本当にいいんですよ
で、またまたテープおこしをしたくなっています。先日したDVDのテープおこしよりは簡単にできるのではないかと思うんですよね。先日のは生のインタビューなどだったので完全に話し言葉。文章にしてみると、文法的に破綻していたり、途中でとまっていたり、かんだり。で思ったよりもずっと難しかったんですけど、今回はちゃんとしたシナリオがあっての台詞なので、とても聞き取りやすいんです。ただ、なにぶんにも50分と言う時間なので、かなり出来上がるまでに時間かかりそうです。それまで椿屋さん、お借りしててもいいですか?
w出来上がった原稿を元に字幕つけることができないまでも、BD研究会で使ってもいいかなとは思うんですが
Kigalisoupe さん、『デゾンブル事件』のご紹介ありがとうございます! DVD作品がメインということで、おそらくこれは僕の力量にはあまる作品なので(笑)、非常に助かります。「闇の都市」シリーズの他の作品についても言えることですが、メタ的なというか、遊び心に溢れた作りが素晴らしいですね。闇の都市とこちら側の世界の通り道というのは、他にもガイドの中でいくつか紹介されていたような気がします。ブリュノ・ルトールって実在の音楽家なんですか? 「石の夢」って曲名が素敵ですね。澁澤龍彦にも同名のエッセイがあったりしますが、典拠はなんだろう? テープおこし楽しみにしてますよー(笑)。なんなら冊子の方は僕がお手伝いしますし、いつかBD研究会の中で放映しちゃいます? 「闇の都市」特集とか銘打っちゃったりして… なかなか手がつけられませんが、僕は僕で『ある男の影』とかめちゃくちゃ訳してみたいし。『ユルビカンド』もいいなあ。『L'Aventure des images(イメージの冒険)』、未読ですが、これもぜひ読んでみたい! 椿屋さん、いずれお借りします(笑)。これでシリーズも残るところ『L’Écho des Cités(町々のこだま)』と『Voyages en Utopie(ユートピアへの旅)』だけですね。『町々のこだま』は一度読もうとして挫折したので、どなたかの紹介をお待ちしています(笑)。
ショードヴァルさん、
ブリュノ・ルトールってれっきとした音楽家ですよこんなページ、みつけました。スキュイテンは愛知万博のベルギー・パビリオンを担当していますが、彼も愛知万博関係で来日しているようですね。知りませんでした。↓
http://www.expo2005.be/index.php?id=43&L=1

で、「デゾンブル事件」の中ではスキュイテンやペーテルスと同じように、音楽研究家として出てきます。

テープおこしはわたしもやりたんです(笑)
要するに、エムリー女史の講演と言う形を取っているので、いくら映像から理解しようと思っても、あまりにも言葉での説明が多いので、なかなかみなさんには理解できないのではないか(失礼!)と。
特に椿屋さんにはぜひともこの素晴らしい作品を味わっていただきたい。
いろいろお借りしている身として、せめての恩返しができるかな、と
でも時間はかかりそうですよね
わたしも上映会は考えたんですよ
いずれ企画しましょうね
で、椿屋さん、まだまだお借りしていていいですか?
『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズ最新刊が出版されました! Casterman(カステルマン)社のメールマガジンで今日知ったところです。タイトルは「La Théorie du grain de sable(「砂粒の理論」とでも訳しておきます)」。Fnac(フナック)のホームページを見てみると、8月23日に出たばかりのようですね。カステルマンのホームページ上で紹介文が読めます↓
http://bd.casterman.com/isbn/978-2-203-34323-8
さらに同ホームページ上には作者のFrançois Schuiten(フランソワ・スキュイテン)とBenoît Peeters(ブノワ・ペータース)の短いインタビューも↓
http://bd.casterman.com/zine/articles/5/31/?id=2037
ホームページの記述に基づいて内容を簡単に紹介すると、こんな感じです。

物語の舞台は「闇の都市」の年代で784年7月21日の Brüsel(ブリュゼル)。Constant Abeels(コンスタン・アベール)という男の家に全く同じ重さ(6,793グラム)の石が突然次々と現われる。奇妙な現象はこれだけに留まらない。隣家では、砂粒が一定の割合で堆積していくという現象が起こり、とあるブラッスリーのコックMaurice(モーリス)は見た目は少しも痩せていないのに体重だけ減っていくという経験をする。日が経つにつれ、これらの奇怪な現象はその数を増やしていく。事態の調査のためにPâhry(パーリ)という都市から1人の女性がやって来る。Mary Von Rathen(マリー・フォン・ラッテン)というその女性は、かつて「l’enfant penchée(傾いた少女)」とあだ名された人物であった。調査を始めたマリーは、まもなくこれらの現象が最近亡くなったGholam Mortiza Khan(ゴーラム・モルティザ・カーン)という男となんらかの関係を持っていることを発見する。彼が命を落とす直前に訪れていたのがla maison Autrique(オートリック邸)という建物だった。一連の奇怪な現象とゴーラム・モルティザ・カーンの関係とは…?

という感じです。「Brüsel(ブリュゼル)」と同じ舞台、「L’Enfant Penchée(傾いた少女)」と同じ登場人物ということで、旧作とかなり強い関係を持った作品のようです。紹介文を読む限りでは「La Fièvre d’Urbicande(ユルビカンドの熱病)」に設定が似てる気もしますね。フナックで公表されてる画像を貼り付けときます。どうやら白黒作品みたいですね。早速注文せねば!
「BD図書館」で『Les Cités Obscures(闇の都市)』シリーズのレビューをアップしました:
http://www.landrygros.com/toshokan/index.php

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