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BDについてもっと知りたい!コミュの 『Fun Home – a family tragicomic(ファン・ホーム―ある家族の悲喜劇)』

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 以前自分の日記に書いたものですが、基本的にアメコミだからコミュで紹介しなくてもいいかと思っていたものを、やはりアングレームにノミネートされた作品だからということで考えを改め、紹介することにしました(笑)。4月頃読んだもので、そのまま載せるとおかしなことになりそうなので、若干手を加えてあります。
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Alison Bechdel(アリソン・ベックデル? 読みがわからん…)『Fun Home – a family tragicomic(ファン・ホーム―ある家族の悲喜劇)』(Houghton Mifflin Compay, 2006年刊)読了しましたー。アメコミ通の Mr. T さんにお借りしました。Mr. T さん、ありがとうございます! Charles Burns(チャールズ・バーンズ)の『Black Hole(ブラック・ホール)』同様、アングレームの受賞対象作品にノミネートされたオルタナ系アメコミです。薦められるままにお借りしたんですが、ちょろっとめくると、わ、字が多い… フランスの漫画もそうですが、どうも欧米の漫画は日本のマンガと比べると字が多く、時としてコマの半分、さらにはページの半分あるんじゃないのかというようなこともあり、げんなりすること甚だしい。英語はボキャブラリーに全然自信がないので(フランス語もですが…)、字数が増えると辞書を引く回数も増えるわけで、読みのスピードが落ち、途中で嫌になったりするわけです。ということで、ちょっと気が重かったんですが、お借りした手前(笑)とりあえず読んでみることに。

 で、予想通り、ある程度時間をかけて読み終えたんですが、いや、これね、めちゃくちゃ素晴らしいですよ! エピグラフからして、僕には感動的で「For Mom, Christian, and John. We did have a lot of fun, in spite of everything.(ママ、クリスチャン、そしてジョンに。いろいろあったけど楽しかったね)」ってんですけど、ノスタルジーに弱い僕としてはこれだけでうっすら涙が…(いわゆる泣ける話ではないんですが…笑 でも、感動的だ…) 
 そもそも「Fun Home」って言うのは、主人公Alison(アリソン)の家族が営んでいる葬儀屋のことで、本来は「Bechdel Funeral Home(ベックデル葬儀社みたいな感じ…?)」という名前がついているんですが、彼女やその兄弟たちが子ども時代から戯れにそう呼んでるんですね。「Funeral」の冒頭を取って「Fun」であると同時に、おそらくは子どもたちにとっては楽しい遊び場でもあるということでこう呼ばれていたのでしょう。だけど、その実は、常に死と接している場所なわけで、主人公というか著者の死にまつわるアンビヴァレントな感覚がうかがわれて面白いですよね。主人公は父の死をきっかけとして、死の問題に関心を抱くことになります。
 物語はどんなかと言うと、著者自身と思しい語り手のアリソンが、自らの半生(と言っても、この時点で彼女はまだ大学生そこそこなんだけど…)の省察を交えつつ、高校の国語教師でありながら家業の葬儀屋をも営んでいた父を、彼の死後、回想するというもので、父というのが軍務経験を持ち、ヨーロッパ帰りの文学、建築好き、おまけに結婚をして3人の子どもの父親でありながら、男色家、そして交通事故で死んだということになってるけど、娘のアリソンは彼の死を自殺とにらんでいるという設定(笑)。男色家って言うとなんか妙にいやらしく聞こえますが、いわゆるゲイですな(変わらないか…)。娘も負けておらず、少女時代から筋肉フェチで(笑)、長じて文学好きのフェミニスト、立派なレズビアンになります。
 このように設定だけでも十分好感を抱いてしまうわけですが(笑)、素晴らしいのはその文学性で、扱ってるテーマのセンスの良さ、構成の妙を感じます。物語は語り手のアリソンが父に飛行機遊び(って言うの? 寝っころがって両足で子ども持ち上げるアレね)をしてもらってるところから始まるんですが、このシーンに語り手のナレーションがかぶってきて、ダイダロスとイカロス親子の神話が喚起されます。幽閉されていた牢獄から逃げるために父ダイダロスの創意で翼を作り、大空へ飛び立つ2人。だが、父のいましめに耳を貸さず、太陽に近づき過ぎるという驕慢を犯したために神の怒りを買い、翼を固定していた蝋が溶けて海へ墜落してしまうイカロス。親子の関係を示した神話というのはいろいろありそうですが、語り手の父親が建築好き、玄人はだしのリフォーム好きということからダイダロス‐イカロスに連想が働くのはある意味当然かも。面白いのはこのオリジナルの神話と異なり、語り手の父娘関係にあっては墜落するのは父の方だと、語り手が言ってることで、ダイダロスでありながらイカロスでもある父親像が提示されます。実際、家族に厳しく、幾分身勝手な、そしてゲイという自分の嗜好に引け目を感じていた彼は、イカロスが墜落するかのように、妻から離婚を迫られ、家族の崩壊を目前にして、突然事故死してしまうわけです。この父娘関係を示すダイダロス/イカロスと父親自身の在りようを示すダイダロス=イカロスは、物語の通奏低音としてずっと響いていき、父親が敬愛していた作家ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』(主人公はスティーヴン・ディーダラス[=ダイダロス]。もう1人の主人公レオポルド・ブルームとの擬親子関係を始め、『オデュッセイア』のパロディになってるとのこと。ま、読んでないんですけど…笑。参考→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%BA)が取り込まれ、さらにそこから『オデュッセイア』におけるオデュッセウスとテレマコスの親子関係を喚起し、父親探しがそのまま自分探しなるという『オデュッセイア』そのものの構成を、失われた父の実像を探る娘のアリソンがそっくりなぞることになるわけで、そのインターテクスチュアルな在りようから文学的としか言いようのない作品になってます。そして、冒頭に呼応するかのように、物語の終わりでも再びダイダロスとイカロスのイメージ。このシーン、ナレーションと言い、コマ割と言い、感動的です…
 おそらくアイデンティティの問題も非常に重要で、アリソンはことあるごとに自分が覚えた言葉、あるいはふと思いついたはいいけど、どこかに違和感を感じる言葉の定義を辞書で確認していきます。「queer」とか「lesbian」とか… あるいは自分の同性愛を意識すると、同性愛関係の本をやたら読み始めてみたり… 現実とそれを指し示す言葉の間の齟齬に常に悩まされているって感じ… そんなことをしたところで、結局、答えが出るわけではないですが、そういう気持ちはわからなくないかも(笑)。
 文学作品、あるいはそれに類するものに対する言及はそれ以外にも方々に散りばめられていて、プルースト、カミュ、フィッツジェラルドへの言及に始まって、父親がさりげなく『ブリキの太鼓』やラスキンの『ヴェニスの石』、ケネス・クラークの『ザ・ヌード』を読んでいたりして、文学好きの心をくすぐります。文体というか使われているボキャブラリーもかなりスノッブな感じかも。フランス語とかそのまま使ってます。こういう気取りは嫌いじゃありません(笑)。
 日本のマンガでこの作品と比較できるくらい文学度の高いものって何かありますかね? 特定の文学作品をモチーフにしてるってことで言えば、高野文子の『黄色い本』(これはこれで非常に素晴らしい)とかあるし、小説が原作ってことならそりゃあもう山ほどある。文学者の伝記もあるし、ある時代の文学者たちの群像を描いたものなら関川夏央と谷口ジローの「坊ちゃんの時代」シリーズがありますが、これだけ教養が高く、感性的にも素晴らしいものはあまりないような… フランスの漫画でも今のところこういうのは知らんなあ… Fabrice Neaud(ファブリス・ノー)作『Journal(日記)』(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=20930065&comm_id=424387)が結構いい線いってるんじゃないかという予想をしていて、そしてこれは実際、非常に素晴らしい作品なんだけど、インターテクスチュアルな文学性という点ではかなり質を異にしています。同性愛というテーマは一緒なんですが… まあ、別にマンガあるいはBDがこの作品と同じように文学的である必要は全くないんですが、こういうのもあってもいいかなという気はします。文学は好きだけど、漫画はどうもなどと思っている人(昔と違ってそんな人いるのかどうかわかりませんが…)にぜひ読ませたい作品です。

* 上に掲げた画像は当コミュにもご参加いただいているシロクマさんが訳してくださったものです。僕なんかではおよそ歯が立たない英語を見事に訳してくださいました。シロクマさん、ありがとうございます! シロクマさんの訳文を読むと、所々、僕自身が誤読していたことに気づかされ、気まずい…(笑)

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