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BDについてもっと知りたい!コミュの『Incertain Silence(不確かな沈黙)』

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 François Ayroles(読みに自信がありませんが、たぶんフランソワ・エロール…)作『Incertain Silence(不確かな沈黙)』(L’Association [ラソシアシオン]、2001年刊)、読了しました。例によって日仏学院の図書館で借りたものです。ここんところ好んでオルタナ系のBDを読んでるんですが、これもいかにもラソシアシオン刊という感じの作品です。墨で描いたような太い線と味のある絵が魅力で、ちょっと前に『旅 le voyage』という作品(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=20938276&comm_id=424387)を紹介した Baudoin(ボードワン)を思わせるようなところもあります。
 これ、なかなか奇妙な作品で、主人公の 画家Joe(ジョー)は一切言葉を発しません。舞台は20世紀初頭のアメリカでしょうか。彼は荷馬車に乗って旅をしながら風景や人物を描いては、それを売って糊口を凌いでいるらしいのだけど、詳しいことはよくわかりません。旅の途上でいろいろな人物が現われては、彼ののんきな一人旅に波風を立ててゆく。ジョーが写生をしてる時にたまたま出会った自称詩人の Jim(ジム)は、自説を一方的にまくし立て、ちゃっかりジョーの馬車に便乗し、まるでエージェントか何かのようにジョーの絵を売りさばこうとするし、そのジムが安請けあいをして馬車に乗せてやった旅人は、2人に襲いかかり、馬を盗んでしまうし、町で出会った若者たちは、ジムに嘘を教えて厄介なもめごとに巻き込むし…
 おそらくタイトルの「Incertain Silence」とはジョーの「silence(沈黙)」が脅かされるさまを指してるはずで、日本語のタイトルを考えるに当たっては、もっとうまい訳があるのかもしれません。どうやら「certain silence」という表現は割と使われるようなんですが、この時の「certain」って「確かな」というような意味ではなく、「ある」とか、あるいは後ろに限定する言葉を従えて「〜という」というような意味で使われるような気がするんですが、どうなんだろう? 「certain silence」って表現を捻って言葉遊び的なことをしてるのかとも思ったりしたんですが、ちょっとよくわかりません… ま、それはともかく、ジョーは常に沈黙を保っているんですが、彼に絡んでくる他の登場人物(特に詩人のジョー)がやたらと饒舌なところが非常に面白い。絵を見ればすぐにわかるんですが、ジョーは明らかにバスター・キートンを元にして構想されています。僕がバスター・キートンの作品をほとんど見ていないために、これがパロディなのか、ただのオマージュなのかよくわかりませんが、表情にほとんど感情の現われないところとか、機械仕掛けを思わせる衝動的な行動とか、他の人物とのやりとりの中で生じる奇妙な間とか、キートンを思わせるところは多々あるし、またそれが非常に滑稽な効果を生んでいます。
 ジョーは旅をしながら、いろんな騒動に巻き込まれていくわけですが、こういう物語をなんて形容したらいいんですかね? ロードムーヴィー風でもあるし、小説だったら、規模にもよりますが、ビルドゥングス・ロマンとかピカレスク・ロマンとかって言ってもいいのかもしれないけど。なんだろな、珍道中(笑)? 物語の終わりがなかなか素敵で、ジョーは旅の過程で失くしたものを取り戻し、さらには素敵なガールフレンドを見つけるというおまけつきで、新たな旅へと出かける。ただ、砂浜を出発する彼らの馬車を見下ろす丘の上には2人の旅人の姿が見え、もしかしてまた同じような見知らぬ人々との出会いと騒動の繰り返しが…?と思わせるコマが配されていたりします。
 作者のFrançois Ayroles(フランソワ・エロール)は、1969年パリ生まれのまだまだ若い作家のようです。実験的な作品を作るBD作家集団 OuBaPo(ウバボ→ Ouvroir de Bande-dessinée Potentielle [潜在的BD工房]の略)の一員でもあるとのこと。2007年1月に出された『Le Jeu des Dames(なんて訳すんだろう…? 「ご婦人方の遊び」?)』(Caseterman[カステルマン]社)が最新作のようです。

* 画像は馬を盗まれた後の2人。絵を売りに行くジムと待ちぼうけをくらうジョー。

コメント(4)

いや、ここ10年くらいのBDの世界の広がり、進化と深化は目覚しいものがありますね。アメリカのオルタナ系コミック、オランダのマイク氏とマーク氏、そしてフランス、日本のガロ系作家たち、オルタナ系はもしかするとマンガ・BD・アメコミ・ストリップの共通トレンドなのかしら。
ショードヴァルさん、

Incertain Silence
あきらかに言葉遊び、かけことば、入ってますね

というのも普通は 「不確かな(不確実な)沈黙」と言う場合、
Un silence incertain というからです。
こちらだと絶対に意味の取り違いはないですよね。
>Father U さん
いや、僕もほんとそう思うんですよね。メジャー路線とちょっと毛色の違うBDやアメコミを目にすると、マンガの影響かなどと思ったりすることもあるんですが、実は世界のいろんなところで同時並行的にそういう表現が行なわれているんじゃないか。でも、あんまり根拠がないんで(笑)、そういうことを論じている本があったらぜひ知りたいところです。ブランシャールの『劇画の歴史』を読んでると19世紀半ばのドレのプレ漫画ですら、既にかなり現代的な表現を含んでいるような気がします。

>Kigalisoupe さん
ご指摘ありがとうございます! そっか、そうですよね。「certain」は名詞に対する位置関係で意味が変わるんだ… いやあ、フランス語を基礎から勉強し直さなくては…(笑)! 「un certain silence」と普通なら言うところを、音は近いながらも「incertain silence」と、逆のことを言ってる面白みという感じでしょうか? 日本語の慣用表現とか使ってうまく訳せそうな気もしますが、いい案が思いつかん…(笑)
ブランシャールの『劇画の歴史』ぜひ入手せねば。古いけれど基本文献ですね。

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