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BDについてもっと知りたい!コミュの『旅 le voyage』

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 Edmond Baudoin(エドモン・ボードワン)『旅 le voyage』(L’Association[ラソシアシオン]、1996年刊)、読了しました。例によって日仏学院の図書館で借りたものです。詳しいことはわからないのですが、この作品、元々日本のマンガ雑誌『モーニング』のために描き下ろされたもので、後に出版されたフランス語版がこの本に当たります。フレデリック・ボワレさんのサイト「boilet.net」に掲載されたインタビューにその辺のことが少し触れられていて(http://www.boilet.net/jp/nouvellemanga_bilan_3.html)、それによると、元来 Casterman(カステルマン)社から出版される予定だったのだけれど、諸事情から L’Association(ラソシアシオン)が出すことになったらしい。90年代半ばに講談社が中心になっていくつかのBDを雑誌で紹介し、バルの『太陽高速』(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=13346543&comm_id=424387)やマックス・カバンヌの『目かくし鬼』(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=10113271&comm_id=424387)、アレックス・バルビエの『市長への手紙』(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=10177981&comm_id=424387)が翻訳単行本として出版されたりするわけですが、これもそういった作品の1つということになります。ただ、この作品、単行本になっているのでしょうか? ググってはみたものの、全くヒットせず、さっぱりわかりません… 椿屋さんのお話を聞く限りでは、連載当時、かなりショックを与えた作品だったようなんですが… ちなみに名前は Edmond Baudoin(エドモン・ボードワン)でいいはずなんですが、Fnac(フナック)で検索すると Jean-Yves Baudoin(ジャン=イヴ・ボードワン)になってる… これ、どういうこと? まあ、それはともかく梗概は以下のとおり。

 主人公の Monsieur Simon(ムッシュー・シモン)、彼の妻 Marie-Jeanne(マリー=ジャンヌ)、息子の Pierre(ピエール)が、ある朝、朝食を囲んでヴァカンスの相談をしているところから物語は始まる。どうやら妻が主導権を握っているようで、シモンは猫を連れて行けないのと、妻の弟の家に寄らねばならないのが気に入らない。イライラのせいか、頭の形が変わってしまっているのだが、息子にはその変化がわかっても、妻は何も気づかない様子。妻になだめられて会社へ向かうシモン。が、一旦出社したものの、そのままふらりと外出すると、列車に飛び乗り、行く先の知れぬ旅に出てしまう。目的もなくとある駅に降り立ったシモンは、ヒッチハイクで旅を続けることにする。しばらくすると同年代の男が車を止めてくれ、彼と一緒に旅することに。Olivier(オリヴィエ)と名乗るその男は、マリオネット使いを生業とし、町から町へと移動しては、子どもたちに人形劇を見せて回っていた。シモンは旅の道すがら、彼の仕事を手伝うことにする。やがて、彼らはオリヴィエの友人 Marc(マルク)とその妹 Léa(レア)の兄妹を訪れる。マルクはかつて船乗りだったのだが、事故が原因で恋人を失い、自らの足も不自由になってしまっていた。今でも海に対する憧れを持ち続けている様子のマルクのために、シモンはオリヴィエと別れ、マルクを海に連れて行ってやることにする。だが、マルクはシモンが思い及ばぬ密かな決断をしていた…

 という感じ。これで全体の半分くらいでしょうか。マルクの話が作品全体の中心になっているというわけではなく、この後もシモンの旅は続きます。物語の主筋は、家庭や会社のしがらみに嫌気がさしたシモンが、ある朝、旅に出、いろいろな人々と出会い、おそらくは人間的に成長して、再び家族の元へ戻るという感じでしょうか。全体に非常に清々しい雰囲気のある作品で、読後感も爽やかなんですが、特に上で触れた物語の冒頭、シモンがマリオネット使いのオリヴィエと旅を続けるあたりはヴェンダースの『さすらい』を思わせ、個人的には大好きだったりします。
 こんな感じで紹介すると、ただのちょっといい話という印象を抱かせてしまうかもしれませんが、この作品、ヴィジュアル面が非常に独特で、上でも少し触れましたが、主人公シモンの頭の形が融通無碍に変化してしまいます。猫のことを考えていると猫の形になり、船が通り過ぎるのを目にすると船の形になり、自分の感情を押し殺したり、相手に対して距離を保とうとすると、顔の正面に檻ができたり… このメタモルフォーズは非常に魅力的で、今挙げたような即物的な変化だけでなく、言葉で表現し難い詩的な変化も含めて、まさしく千変万化の様相を呈します。アニメ的と言ってもいい感じで、クレイアニメの『タルピー』(って名前でしたよね…?)を思わせるところもあります。面白いことに作中の全ての登場人物がシモンの頭の形の変化に気づいているわけではないらしく、例えばシモンの妻が鏡越しに彼の姿を見るシーンでは、読者から見るとシモンの頭が変化していることがわかるのに、鏡を通して彼を見ている妻には、彼の顔かたちはいつも通りにしか見えません。ちなみに彼が旅先で出会うレアという女性も彼と同じような能力(?)を持っていたりします。この辺り、作者の意図がこめられていそうですね。圧巻はそのレアと別れ、山へと登って行くシーンで、山中に1人たたずむ彼の頭は、地球の誕生から現在に至るまでの歴史をなぞるかのように、順を追って様々な形に変化していきます。シモンのメタモルフォーズについては考えるところがいろいろあると思うんですが、あまり深読みはしないことにしておきます(考えるのが面倒なだけですが…笑)。不思議なことに、旅から戻ってきたあと、シモンの頭はもう変化をしなくなっています。
 オリヴィエ、マルク、レアと脇役も非常に魅力で、実にいい作品なんですが、複数回登場する名前を与えられていない浮浪者然とした老人がまた素敵です。会社を飛び出し、パリの街を徘徊するシモンに旅立ちを促すのが彼なんですが、酒瓶を指し示しながらこんなことを言ったりします。

Moi, tu vois, je voyage avec ça.
(いいかい、俺はね、こいつと一緒に旅をしてんだよ。)
Avec ça, mon prince, je vais partout en restant à Paname. C’est une fée.
(こいつと一緒ならね、大将、パリにいながらどこにでも行けんのさ。妖精だよ、こいつは。)

僕は酒もそんなに飲まないし、旅行も好きではないんですが(ついこないだもこんなこと書いたなあ…笑)、こんなこと言われると旅も酒もいいもんかなあと思ったりしますね。タイトルを裏切らない非常に素晴らしい作品です。

* ググって拾うことができた画像を掲げておきます。この画像だとシモンの頭の変化がわかりにくいかも… もっといい画像を載せられるとよかったんですが、スキャンし忘れてしまいました… 実際に手に取ってみるとわかりますが、絵はほんとに素晴らしいです!

コメント(2)

えっ
単行本持ってますよ。
邦訳されたBDトピで、まだ触れられてなかった
でしたっけ?
確か、日仏両版比べたら、けっこう書き直しが
あったことを覚えてます。
>椿屋さん
や、触れてないみたいですね… 僕もどこかで見たような気がするんですが、はっきり覚えていません。どなたかBD研究会に持ってきていただいたのか… 作者表記はボードワンかボードアンですよね? タイトルは『旅』でいいんですか? ググっても全く引っかからないってのがすごいですよね。よっぽどレア・アイテムなんでしょうか? あるいは僕の検索の仕方がまずいのか… そして仏語版は描き直されているんですね。それは興味深いなあ。

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