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BDについてもっと知りたい!コミュの『Journal (日記)』

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 Fabrice Neaud(ファブリス・ノー)『Journal [1] Fébrier 1992 – Septembre 1993(日記[1]1992年2月‐1993年9月)』(Ego comme X[エゴ・コミックス]、1996年刊)、読了しました。日仏合作漫画『JAPON』に寄せた短編を通じて既に日本に紹介されている作家、ファブリス・ノーの自伝的作品です。日仏学院の図書館で借りてきました。なんとゲイ・コミック…! と言っても、ポルノグラフィ色はそれほど強くなく(露骨な描写もあることはある…)、基本的には純愛路線です。きちんとした根拠があるわけではありませんが、ここ10年くらいの間に増えてきていると言われている自伝や日常の些事を描いたBDのはしりであり、代表作と言っていいでしょう。語り手=著者はゲイを自認しており、そもそも男女間の恋愛を描いた作品すらそれほど多いとは思えないBD界において、男性同士の恋愛とゲイの芸術家の内面を描いたこの作品はかなりの異彩を放っているような気がします。版元のエゴ・コミックスはこの作品によって世間に認められるようになったそうですが、他の作品も非常に作家性が強く、多かれ少なかれ自伝的、内省的な特徴を有しているようです。日本語の作品も多く出ているフレデリック・ボワレさんも、ここからいくつか作品を出しているみたいですね。『日記』は現在4巻まで出版されており、「les riches heures(豊かなる時)」という副題が付された最新巻は2002年に出されています。さて、梗概は以下のとおり。

 語り手のファブリスは美術学校卒のアーティストである。造形芸術を手がける一方で、SF色の強いBDを描いてもいる。美術学校を出てから1年半定職に就かない日々が続いた彼だが、今では友人の Alain(アラン)と、教会の壁に「十字架の道行き」を描く仕事に携わっており、それでなんとか日々の糧を得ている。そんなある日、ファブリスは、別の友人 Loïc(ロイック)の勧めもあり、自伝的なBDを作成することに関心を持ち始める。ロイックは、例えばファブリスの日課である夜の散歩のことを描けばいいと言う。実際、彼は夜な夜な公園を訪れては、そこで起きることを観察していた。ナンパ目的で公園を徘徊する者、逆に声をかけられるのを待つ男たち、品定めするかのようにゆっくりと走る車… 時には彼自身、公園でのハプニングに身を投ずることもあった。ある夜、彼はそこで、Stéphane(ステファン)という名の青年に出会う。その夜、彼と一夜を共にしたファブリスは彼に魅力を感じ、逢瀬を重ねる内に次第に彼を恋するようになる。始めの内は順調だった2人の仲だが、やがてファブリスはステファンに振り回されるようになり、彼への想いで心を痛めることになる…

 基本的に日記なので、こんな風に物語の核になる部分だけ抽出するのもどうかと思いますが、骨子はこんな感じです。この巻については、語り手の芸術活動の行き詰りと新たな活動(自伝的BD)への胎動、それからステファンとの恋愛に焦点が置かれています。ステファンの些細な身振りや思わせぶりな言動に一喜一憂するファブリスの姿は滑稽でありながらも愛しく、単純に気持ち悪いなどといった言葉で割り切れないものがあり(まあ、この時代に同性愛に対してそんな単純な感想を持つということもないかもしれませんが…)、恋愛に真摯に向き合い、それに破れると、放埓な生活に身を投じるファブリスの姿には感動を禁じえません。ファブリスが行きつけの同性愛者用バーでステファンの到着を待つ件とか秀逸で、彼は他に行くところもないから定期的にそこを訪れていたりするんですが、退廃的で排他的なその雰囲気が嫌いで、普段はどちらかと言うと嫌悪感を抱いています。が、そこにステファンが到着すると空気が一変する。

… mais quand il arrive, il y a comme un souffle d’air frais.
(…でも、彼が到着すると、一陣の爽やかな風が通り過ぎる。)

陳腐な表現ですが、ゲイ・コミックの文脈に置かれると、その単純な表現が非常に新鮮に感じられたりします。
 日記だからと言って、写実的な表現ばかりかというとそうでもなく、例えば今のステファンの到着の件に続く一連のコマでは、短く刈り込んだステファンの髪の毛に指を通すファブリス→青々とした草原に寝そべるファブリス→ふさふさとした胸毛の描写→毛むくじゃらの猫の腹…と、語り手の連想にしたがって、コマが奔放に展開していきます。あるいは、別のシーンでは、ステファンとの愛に苦しむファブリスの体を、時間の経過とともに巨大なクモが覆っていくページがあったり…
 テクストが多く、僕程度のフランス語力だと辞書がないとちょっと厳しい本ではありますが、非常に面白く読むことができました。BDの内面に踏み込まない客観的な描写(偏見か…)に物足りない向きにもおすすめできる本だと思います。文学好き(種類にもよりますが…)だったら、まず確実に満足できるんじゃないでしょうか。フランス文学には心理小説の伝統があり、その系譜に連なる作品と言っていいでしょう。ある意味フランスらしさを感じるBDで、こういうBDは日本マンガの傑作と並べても遜色ないと思います。エゴ・コミックスのBDを読んだのはこれが初めてですが、他の本も楽しみです。

コメント(1)

ファブリスはと〜ってもキュートな方ですウインク
いずれ出るであろう続きには、日本滞在のエピソードも含まれるはず。ずいぶん前になりますがエスキース(滞在中のスケッチ)を見た限りでは、かなり辛辣なことを描いてた気が(笑)
ちなみにロイックがエゴ・コミックスの編集責任者で、ふたりともアングレームに住んでます。事務所もそこにある。
余談ですけど、つげ義春の最初にして最後の翻訳単行本となる「無能の人/l'homm sans talent」はこの出版社から出ています。(画像参照)

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