Mark Hendriks(マーク・ヘンドリクス)作『hong kong love story(香港ラヴ・ストーリー)』(la Cafetière[ラ・カフティエール] & Vertige Graphic[ヴェルティージュ・グラフィック]、2004年刊)、読了しました。4月15日(日)のBD研究会にゲストとしてご参加いただいたマークさんの作品です。オリジナルはオランダ語、同題で1999年にOog & Blik en De Harmonie(読めません…)という出版社から上梓されている模様。「Tomoyo(トモヨ)」という主人公が登場するシリーズの第5作目に当たるようです。僕が読んだのはその仏訳で、la Cafetière[ラ・カフティエール]とVertige Graphic[ヴェルティージュ・グラフィック]の共同出版物みたいですね。ちなみにラ・カフティエールは1996年創立のオルタナ系小出版社(http://www.lacafetiere.org/)。ヴェルティージュ・グラフィックは1987年創立のやはりオルタナ系出版社で、こちらは中沢啓治の『はだしのゲン』や辰巳ヨシヒロ作品の仏訳でも知られているようです(ホームページが見つからん…)。なお、ラ・カフティエールは、同じマークさんの『fighterpilot!(ファイター・パイロット!)』も出版しています。ところで、この『hong kong love story(香港ラヴ・ストーリー)』仏訳版ですが、幸運にもマークさん、マーイケさんの他の作品と共にBD研究会に寄贈いただきました。マークさん、マーイケさん、ありがとうございます! 保管は ari さんか椿屋さんにお願いすると思いますが、読みたいという方はお声をかけてください。ただ、ほとんどがオランダ語なので、読むというよりは見る感じになってしまいそうですが… 中には英訳が少々(1冊?)とこの仏訳が1冊含まれています。さて、梗概は以下のとおり。
という感じです。女優という華やかな職業の登場人物が主役とは言え、主として日常生活を描いているせいか、これといった大事件も起こらず(監督の死はふつう大事件ですが、そういう印象は受けません…)、ゆっくりと時間が流れていきます。映画の撮影をする一方で、海を見下ろす断崖で読書をしたり、山道を散歩したり、あるいは情事にいそしんだり… ところどころ、トモヨが見る夢が挿入されていて、決して日常生活と夢の両者を混濁させるような複雑な作りはしていないんですが、どこかフワフワした非現実な空気が日常生活の方に流れ込んでいるような印象も受けます。多くの場合、海辺で物語が進行していき、そのロケーションのせいか、絵の背景を描き込まず白いまま残してあることが多いため、さらにそういった印象が助長されるのかもしれません。この時間の緩さはなかなか魅力的です。おそらくこの作品の焦点はトモヨの上辺の軽々しさや無邪気さ(彼女は最後までベルギーがドイツにあるものだと思い込んでいます…笑)と彼女が抱えている孤独の相克で、そういう寂しさを描くにあたって、緩やかな時間の流れっていうのは素敵な効果を生んでいるという気がしました。ストーリー展開にはそれほど感銘を受けなかったんですが(マークさん、ごめん…笑)、絵は非常に素晴らしいと思いました。上でも述べた背景を白いまま残してある海辺の情景、これが美しい。個人的には、線の感じがだいぶ違うとは言え、ユーゴー・プラットの『La Ballade de la Mer Salée(塩辛い海のバラード)』(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=12917408&comm_id=424387)の絵にどこか似ているという印象を受けましたが、どんなもんでしょうか? どんな描き方をしているのかわかりませんが、ところどころぼかされた墨のような効果も使われていて、それがまたいいです。ご本人に確認すればよかったんですが、何しろその時は作品を読んでいなかったので… で、今回じっくり読んで気づいたんですが、背景や衣服にトーンが使われていますね。海外の作品では非常に珍しいのではないかと思うのですが、どういう経緯で使うようになったんだろう…? 機会があれば、改めていろいろと質問してみたいもんです。また、前作との関わりが非常にユニークですよね。『fighterpilot!(ファイター・パイロット!)』という作品は元来、「トモヨ」シリーズとは別の物として作られているはずですが、その前作をフィクションとしてこの作品の中に取り込んでしまうところが面白いと思います。キアロスタミの『友だちのうちはどこ?』とその後の2つの映画(『そして人生は続く』、『オリーブの林をぬけて』)みたいな感じ? ほめすぎか(笑)? 『hong kong love story(香港ラヴ・ストーリー)』と『fighterpilot!(ファイター・パイロット!)』、どちらの作品も1999年刊ということですが、そもそも最初からこういう考えを持って作品を作っていらっしゃったんでしょうか? うーん、この辺も聞いてみたいもんだ。