Carlos Sampayo(カルロス・サンパイヨ)原作、José Muñoz(ホセ・ムニョス)作画『Alack Sinner(アラック・シナー)』。主人公の名を冠した探偵もののBD。アラック・シナーはニューヨークの貧民街に生まれ、長じて警察官として働くが、仕事に対する違和感から退職、今では探偵事務所を構えている。人生に疲れた私立探偵アラック・シナーが腐敗した産業界や法曹界を相手に戦う。
■『Souvenirs d’un Privé(ある私立探偵の思い出)』(?年)〜『Mémoires d’un Privé(ある私立探偵の回想)』の次に出た作品で、アラックがキャリアのごく初期に扱った事件が語られる。 ■『Mémoires d’un Privé(ある私立探偵の回想)』(1999年)〜1983年時点で最も新しいアラックの物語を描いたもの。 ■『La Fin d’un Voyage(旅の終わり)』(1999年)〜旅のテーマを扱った4編の作品を収める。アラックと彼の伴侶 Sofie Milaszcewicz(ソフィー・ミラセヴィッチ?)の関係を描いた話もあるとか。 ■『Viet Blues(ヴィエット・ブルース)』(2000年)〜1975年、雑誌『Charlie(シャルリー)』に掲載された記念すべき第1作。ニューヨーク育ちのニヒルな30代の探偵アラック・シナーの誕生。 ■『Nicaragua(ニカラグア)』(2000年)〜アラックとソフィーの娘 Cheryl(シェリル)の登場。訳があって別々に暮らしている2人の心のふれあい。ソフィーちゃんは事件に絡んでくるのかな…? 作者の反レーガン主義が露骨に出た作品だとか。 ■『Histoires Privées(個人的な話)』(2000年)〜アラックの実の娘ソフィーが殺人の容疑で勾留される。おまけに彼女は記憶を失ってしまっていた… 調査に乗り出したアラックが見たものは… ■『L’Affaire USA(USA事件)』(2006年)〜2001年、今や孫もいるアラックが久しぶりにニューヨークへ戻り、再び探偵事務所を開く。彼のもとに、今や政治的に重要な地位にあるかつての恋人 Jill(ジル)が姿を現わす。長い年月の後にアラックの前に現われた彼女の真意とは…
出版年度をきちんと明記した資料がなく、実際の制作順序はどのようなものだったかわかりませんが、カステルマン社のホームページの作品紹介を読んでみると、『Viet Blues(ヴィエット・ブルース)』→『Mémoires d’un Privé(ある私立探偵の回想)』→『Mémoires d’un Privé(ある私立探偵の回想)』→『La Fin d’un Voyage(旅の終わり)』→『Nicaragua(ニカラグア)』→『Histoires Privées(個人的な話)』→『L’Affaire USA(USA事件)』という順番のような気がします。
作画家José Muñoz(ホセ・ムニョス)の伝記も簡単に紹介しておきます。
1942年ブエノスアイレス生まれ。12歳の頃から彫刻や絵画、マリオネット演劇を学び始める。これらの技術を磨く一方で、彼はユーゴー・プラットの影響を強く受け、漫画制作の道へと進んだ。1959年にはユーゴー・プラットと実際に出会い、1963年にはユーゴーがプロデュースした作品集(かどうか正確にはわかりませんが…)『Mistirix(ミスティリックス)』の中の1編「Precinto 56(おそらくイタリア語。どういう意味かわかりません…)」の作画を担当する。これはニューヨークの探偵を主役にした作品で、『アラック・シナー』の原形と言っていい。1972年に彼はアルゼンチンを去り、スペインでカルロス・サンパイヨと出会い、共作を始める。『アラック・シナー』意外の主な作品は『Le Bar à Joe(ジョーのバー)』シリーズ、『Billie Holiday(ビリー・ホリデイ)』、Jérôme Charyn(ジェローム・シャラン)と組んだ『Le Croc du Serpent(蛇の牙)』など。
ついでに触れておくと、『アラック・シナー』同様、サンパイヨとの共作の『Le Bar à Joe(ジョーのバー)』は Fnac(フナック)のBDガイドに載せられていて、なんだかそれが『アラック・シナー』の紹介になっています。カステルマンのホームページの紹介を読んでみると、「ジョーのバー(Joe’s Bar って言った方がかっこいいな…)」に集まる様々な人間たちのドラマが語られる作品ということなんですが… これってガイドの勘違いなんでしょうか? ただ、『La Fin d’un Voyage(旅の終わり)』でも語られているようですが、アラックとソフィーの出会いは「ジョーのバー」でだったようなので、そこに焦点を合わせたのかも… なんにしてもこちらの作品も魅力的です。BDガイドによると、90年代の多くのBD作家に影響を与えた作品だとか。様々な人間模様が交錯するバーって、なんか他にもこういう作品ありそうですけどね… 映画で言うと『スモーク』とか? 続編(?)に『Histoires Amicales du Bar à Joe(ジョーのバーでの打ち明け話?)』というのもあります。どちらも2002年刊になっているんですけど、たぶんオリジナルの出版年度は違うはずです。BDの出版年を正確に知ることができるデータベースってないもんでしょうか…? 不便で困る…
* 画像は左が『Mémoires d’un Privé(ある私立探偵の回想)』からで、右側の2つが『Histoires Amicales du Bar à Joe(ジョーのバーでの打ち明け話?)』の表紙と中身。『ジョーのバー』、すごくいいですね! 表紙も気が利いているし、絵も素晴らしい。これはぜひ読まねば。
画像は、左)ブエノスの漫画学校の宣伝漫画(プラット画『いかにして一人の漫画家が“誕生”したか』という題名かな…)、真ん中)「BANG!」に掲載されたムニョスのエッセイ漫画の1頁め、右)BD情報誌「le Collectionneur de Bandes Dessinees」のジャズBD特集の表紙に使用されたムニョスのイラスト(『BATMAN: BLACK AND WHITE』より)