Corto Maltese: La ballade de la mer salée(仏語版、casterman社、2000年刊) Ballad of the salt sea(英語版、the harvill press社、1996年刊) (コルト・マルテーズ:塩辛い海のバラード) 作者:Hugo Pratt(ユーゴ・プラット、1927-1995) 初出:「Sgt. Kirk」No.1(1967)-No.20(1969)(イタリアの雑誌、原題:Una ballata del mare salato) (初出のデータは、こちらのページを参考にしました→http://www.lfb.it/fff/fumetto/pers/c/corto_01.htm)
『La ballade de la mer salée(塩辛い海のバラード)』(casterman[カステルマン]社刊)読了しましたー。文字とページ数の多さ(正味160ページほどあります)のためやや重い気持ちで読み始めたんですが、いやなかなかどうして、古典と称されるだけあって、読後感が爽やかな素晴らしい作品です。最初は小生意気なパンドラちゃんが徐々に素直なよいこになっていくところがいいですねー。コルトの登場シーンもある意味衝撃的で素敵です。一貫してシリアスな物語かとばかり思っていたんですが、ところどころユーモラスな表現も見うけられます(ラスプーチンに襲われたと勘違いしたコルトが、ラスプーチンのいる小屋に殴り込むんですが、その際のドタバタが小屋が左右に揺れ、最後には潰れてしまうというセリフなしのコマの連続で表現されたりとか…)。絵は背景が真っ白なことが多く、簡単に描かれているという印象がありますが、時に非常に詩的で驚かされます。うりぼうさんがアップしてくれている右側の画像、一番下のコマとかめちゃくちゃ美しいです。エスコンディーダ島の実際の風景なんですが、それがモワーヌ(修道僧)の心象風景になってるみたいな感じで… 海のシーンで、光の乱反射を表現しようとしていると思われる斬新な技法が使われていて、こういう描き方をする人が他にもいるのかどうか知りませんが、ちょっとびっくりでした。せっかくなんで画像をアップしておきます。
ユーゴ・プラットはもともと、作画はMilton Caniff(ミルトン・カニフ)を始めとする古典アメコミに、シナリオ技法はアルゼンチンにいた頃(1950年代〜1960年代の初め)に一緒に仕事をしていたHector German Oesterheld(エクトル・ヘルマン・オエステルエルド)に影響を受けているのですが、作中に時々見られるユーモア込めたサービス精神や、ミリタリー好きなんだけどいわゆる戦場のロマンに対しては一歩引いた目で見ている所なんかは、この作者独特のものだと思います。
●Vittorio Giardino(ヴットリオ・ジャルディノ、イタリア)… 日本では「Little Nemo(リトル・ニモ)」のエロパロ(?)の「Little Ego(リトル・エゴ)」の方が知名度が高いかも知れませんが、この作者はハードな歴史物も書いています。中でも工作員Max Friedman(マックス・フリードマン)のシリーズはCorot Malteseの影響を大いに受けています。画像は「No Pasaran!(奴らを通すな!)」より。
●Didier Comes(デディエ・コメ、ベルギー)…日仏学院の図書館で見かけた「Silence(スィラーンス)」というシリーズを始め、白黒のコントラストを効かせた画風に強い影響が見られます。
●Javier De Isusi(ハビエル・デ・イスシ、スペイン)… 1昨年から刊行されている「Les voyages de Jean sans terre(原題:Los viajes de Juan sin Tierra、土地無しフアンの旅)」のシリーズは、「Corto Maltese」と「星の王子様」からインスパイアされたものだそうです。Vasco(バスコ)という名の船乗りが失踪した友人を捜しに中南米諸国を巡る話で全4部作の予定。
私はこれらの作品の中では、現在の問題に取り組んでいる「Les voyages de Jean sans terre」がいちばん気に入っているのですが、スペインでは第2作が昨年暮れに出たにもかかわらず、仏語訳がなかなか出てくれないのが残念なところです。第1作は、書評サイトではそこそこ評判が良さそうだったのですが、いかんせん地味なのかな。
Father U様
では、今度のオフ会に「La Pipe de Marcos(マルコスのパイプ、Les voyages de Jean sans terreの第一話)」のアルバムを持って参りましょう。
世界各地を旅するといえば、初めてネットで「Corto Maltese」を見た時「これはアダルトなタンタンか?」と思ったものでした。「タンタン」とか「スピルー&ファンタジオ」とか、以前Father U様が紹介された「Franka(フランカ)」等々、世界を旅する冒険物というのは、ある種BDの定番の型なのかも……?