この展覧会のタイトルは、前回(2009年夏・neutron tokyo にて)個展に続いて私が作家に成り代わって勝手に付けたものであり(もちろん了承を得ているが)、元は主題画となる作品の画面に描かれている光景を、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(映画「ブレード・ランナー」の原題)よろしく、言葉遊びをしたまでのものである。だがフィリップ・K・ディックによる小説「アンドロイドは…」がその不思議なタイトルの深層に近未来のロボット化社会に潜む病理と、機械にも感情が宿ることを切なく表現したように、「ダルメシアン」も「伊勢海老と虎」も、行千草の絵画の中では現実におけるその存在よりずっとイメージの中の産物に近く、かつ本能的な意味を潜ませるアイコン(=記号)であり、人間が登場するよりも遥かに切実なメッセージを持たされていることを覚えておいて頂きたい。つまり、絵の中に遊び心があるのは間違い無いが、絵画に表されている事象は広大な想像の大地に根ざした光景の、ほんの1コマにしか過ぎないと見えるのだ。
およそ行千草を知る者にとって、彼女の作家としての作風は大きく二つに分かれるだろう。一つは京都市立芸術大学の頃からの抽象的でくぐもった色彩の、穏やかだが影のあるスタイル。そしてもう一つは2007年当時から次第に発揮されて現在に至る、動物と食べ物が共存するランドスケープの絵画。モチーフだけではなく最近になればなるほど画面の色彩は明るく大胆なものへと変化し、もはやそれ以前の抽象絵画の時と比べて同じ作家のものとは見えない程、制作が変貌を遂げている。今回の京都での個展は2009年夏にneutron tokyoで開催した個展の延長上にあるが、その間に大阪のGallery Den での小さな個展発表も挟んでおり、この短期間に現在のスタイルは急ピッチで洗練され、作家の中でも確信となりつつある。