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いつか、どこかでコミュの第2話『ハートビート』

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大学の入学式と云うものは少し不思議な雰囲気を持っている。
新入生の年齢がまばらなせいもあってか、髪を明るく染めた快活な若者や、まるで卒業生のような風貌の青年など、様々なタイプの人達がスーツに身を包み門の中へと吸い込まれていく。
ヒラヒラと落ちる桜の花は太陽の光を微かに反射し、新入生に負けじと綺麗に輝いていた。

ひとひらの花びらが、まるで真昼の螢の様に二人の間を飛んでいった。
しかし、今の和也の目にはその綺麗な花びらも映り込みこそすれど、全く留まらなかった。
まるで不眠不休で物事に没頭していたかの様な、それでいて上の空であったかの様な、どっち付かずの表情を浮かべたまま和也は、ただ立ち尽くしていた。
『す、すいません』
目の前にいるスーツ姿の女性が素早く謝る。
軽く肩がぶつかっただけなのに彼女はやたらと慌てていた。
寝ぼけながら歩いていた自分には一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
しかし、相手の顔を見た途端に眠気は吹き飛び、謝るのも忘れて言葉が口からこぼれ落ちた。

『何て言うか…可愛い、ですね』

あまりにも場違いな自分の発言に、和也は我に返った。
なぁんて、とすぐに付け加えてみたものの既に遅く、彼女は軽い猜疑心を顔にしている。
ここからの弁明が意味を成さないであろうと思った和也は『道に迷ったんですか?』と手早く話を変えた。
案の定、道に迷っていた彼女の表情はすぐに安堵に満ちた笑顔で一杯になり、その表情に和也も心底安心した。
彼女が新入生だと云うことは、その服装から容易に想像がつく。
和也は目的地が同じであるのを良いことに、道案内と称して彼女の横に並んで歩き始めた。
歩きながら、和也は自分の心拍数に驚く。
いつもは気にも留めない鼓動が、今は無視出来ないほどに恐ろしく早いのだ。
それが何を意図しているのかは直ぐに分かった。

残念な事に、心拍数に気を取られている内に二人は式場に着いてしまった。
結局、和也は彼女の名前すら聞くことなく入り口で別れることとなった。
和也にはこの入り口がまるで出口の様に感じられた。
早くも大学生活の終わりを告げるかのように始まりの鐘が鳴った。

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