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小説家版 アートマンコミュの666(ミロク)dD 8月12日(最終話)

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八月一二日(土)

 俺は未だに拘置所にいた。五月頃に一審で判決が下ったが、俺は控訴した。別に判決に不服があった訳じゃない。赤田が静香にした行為、俺が下した正義も裁判官は汲み取ってくれた。執行猶予はつかなかったが、納得のいく刑期の判決だった。しかし、俺は控訴した。弁護士は不思議がったが、彼にとっても控訴は金額的においしい話だ。棄却されたとしても弁護士費用だけは請求できる。俺には弥勒さんから貰った金がまだあった。それを話すと弁護士は納得して控訴請求をしてくれた。金の力は凄い。
 別に刑が確定するのをジタバタしている訳ではなかった。俺はできる限り社会に復帰するのを遅らせたいのだ。普通の理由とは全く逆の理由で控訴しているのだ。俺は赤田を刺殺してから別の夢を見るようになった。それは俺が殺される随分前の事だと思う。俺は人を殺していた。

 夢の全貌が明らかになった。俺の仕事は役人だった。当時の幕府からある事を調べる為にあの村に派遣されたのだ。それが死者の子供の存在だ。江戸幕府を開いた徳川家康につかえた天海という僧侶も実は死者の子供だった。家康の指南役となり、未来を見る力を手に天下統一をなしとげたのだ。薩摩、長州の力が強くなり、幕府の統治の基盤が揺るぎ出していた。そこで未来を見る力のある死者の子供を見つけだす事になったのだ。
 あの村で死者の子供が生まれたのは偶然だった。身ごもったまま死んだ妻に未練を持った男が埋葬されている妻を掘り起こし、腹を引き裂き中の子供を取り出した事から始まった。埋葬されていた妻は死後一週間程しかたっていないのにミイラ化していたらしい。養分を子供が吸収していたのだろう。腹から出した子供は村中に響くような大きな泣き声を出した。その子には噂通りに未来を見る目があった。千里眼を持つ子として三河では有名になった。
 その子は成長するとある事に興味をもった。それは自分と同じ死者の子供を作り出す事だ。妊婦の死体を金を出して買うようになった。死者の子供を養殖する研究を始めたのだ。その成果が上がるのと同時に薩摩長州の力が強くなって来た。死者の子供を売買していたのだ。
 俺の使命は死者の子供を手に入れる事以外にもう一つあった。それは死者の子供を創りだせないようにする事だ。俺はとりあえず情報を手に入れる為に村に侵入したのだ。村の者は他所者の俺を冷たく扱った。俺が居住をする場所は村境に限られた。仕方のない事だとはわかったが辛かった。唯一俺に優しく接してくれたのが、静香だった。俺達が恋に落ちるのには時間がかからなかった。しかし、公にはできない理由があった。それは静香が人妻だったのだ。相手はハジメだったという事だ。俺は若くて使命に燃えていた。愛などに使命を忘れてはいけないと信じていた。だから、静香の愛を俺は利用してしまったのだ。静香から情報を聞き出して、死者の子供を作り出している場所を突き止めた。それは村にある小高い丘に岩の上だった。それを取り仕切っていたのが、三郎という名の指導者だ。俺は嘆願して彼の弟子にしてもらった。潜入に成功した理由には静香が彼の妹だった事も大きく左右したはずだ。
 俺は彼がやる事を影から見て紙に書きとめていった。俺にも死者の子供を作り出す事ができるかもしれないと思ったからだ。数カ月助手をやっているだけで俺には不可能だという事がわかった。それは死者に与える豆のような物の存在だ。それは三郎という指導者にしか製造する事ができないのだ。静香に製造する為の成分を示した物の存在をさり気なく聞いたが、そんな物は存在しない事がわかった。その時に俺の中の悪魔が囁いた。盗みだせと。それにそろそろ潮時だった。ハジメが俺と静香の仲を勘ぐり出していた。俺は三郎という指導者の殺害と謎の豆の窃盗をする事を決断した。俺が忍び込んだのは三郎が仕事をしている昼間だ。豆の保管してある場所は確認しておいたので、先に盗み出し三郎に切り掛かった。しかし、三郎の暗殺には失敗した。彼の妻が突然飛び出して来て、彼の身替わりになった。俺は彼女を殺したのだ。俺は豆の入った袋を握りしめて逃げ出した。その後はいつも見ていた夢の通りだ。

 俺は自分の事を無実の罪で殺されたのだと思っていた。俺には殺されるだけの理由がちゃんとあったのだ。静香はハジメに不義理をしてでも俺を信じた。その不義理が再び生まれ変わった時に仕返しという形で静香の元に帰って来てしまったのだろう。静香の不幸の原因は全て俺にあったのだ。静香の為に赤田を殺した。それだけで許されるのだろうか? 俺は今許しを請う側になっていた。

 俺が逮捕されて暫くしてからだった。兄が面会に来た。兄の妻が自殺した事を聞かされた。遺書もない突然の自殺だったらしい。俺には彼女の自殺の原因が分かっていた。それが俺のなるべく社会に復帰したくない理由にもなっている。
 彼女は俺の夢にでていた。俺の助手をやっていたのだ。豆を盗み出す時に三郎に一緒に切り掛かり、俺と一緒に妻を殺してしまった。俺の夢の中で穴に埋められた女性の遺体が彼女だったのだ。彼女を殺したのが東京で自殺した五人の中学生だった。彼女も俺と同じように誰一人、許しを与える事ができなかったのだろう。
 そして、兄の嫁は出会ってしまったのだ。自分の命で償いをしなければならない相手に。俺はその人を知っている。
「おい、面会だぞ」
「誰ですか?」
 俺は面会に来る者を選んでいる。俺の命で償わなければならない人が来たら拒否する為だ。その人物が分かっている以上、社会と接しない拘置所の中は安全なのだ。
「弥勒という名のじいさんだ」
「孫みたいのは連れて来ていますか?」
「いや、一人だが、面会拒否をするのか?」
「いえ、会います」
 俺は独房から出て面会室へ向かった。途中、テレビの設置してある場所を通った。そこに写し出されていたのは俺が生まれた町のニュースだった。懐かしさが込み上げてきて暫く足を止めて見てしまった。そこには俺の知っている人物が写し出された。満面の笑みの義母だった。
 面会室で会った弥勒さんの風体は前回会った時は随分違っていた。身につけている物が随分安っぽくなっていた。俺に話をした事で666を出ていかなくてはいけなくなったからだろう。
「元気そうですね」
 自分の事よりも俺を案じてくれていた。
「俺のせいで弥勒さん、苦労してるんじゃないですか?」
「それ程でもありませんよ」
「今日はわざわざ面会に来ていただいてすいませんでした」
「いえ、白山さんから借りを返してもらいに来ただけですから」
「え? 借りですか? 俺はこんな状態です。とても弥勒さんの為に何かしてあげる事ができないんです」
 俺の言葉に弥勒さんは柔和な笑顔をみせた。
「随分前になりますが、私の母親の話をしましたよね」
「そういえば、誰かに殺されたとか」
「そうなんです。私を身ごもったまま殺されたのですよ。それでね。犯人がわかったんですよ」
 弥勒さんの言おうとしている事が既に理解できていた。俺には既に命を差し出す指令が下っていたのだ。そうだ。あの時だ。テレビで見た義母の満面の笑みを見た時だ。夢の中で俺が殺したのは義母だったのだ。子供の頃から母に懐けなかった理由は俺が彼女を恐れていたからだ。
「私は許せないんですよ。人を殺すって行為だけは」
弥勒さんは俺に手をかざした。彼の皺だらけの手の中に黒いドットで模様が記されていた。まるで携帯電話で読み取るバーコードのようだった。俺の目でスキャンされた情報は電気信号となって脳に伝わって行った。
「そうだったんですね。誰でも生まれた時から誰でも必ず経験する事なのですね」
 俺の言葉に弥勒さんは微笑んだ。そうだ。生まれて来た者は死ぬべき運命を背負っているのだ。そして、次の人生も……。

                               (完)

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