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小説家版 アートマンコミュの666(ミロク)dD 1月21日?

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 俺が外に出ると目の前にタクシーが停車していた。もしかしたら、用意してくれていたのだろう。俺は携帯をかけながらタクシーに飛び乗った。静香を呼び出すが、電話に出ない。とりあえずタクシーを大須の俺の事務所の方面に走らせてもらった。今度は兄に電話をした。こちらは直ぐに繋がった。
「何してたんだ。連絡がつかなくて困ってたんだぞ。それよりも大変だ。静香ちゃんが何処かに消えてしまったんだ」
「どう言う事なんだ?」
「目を覚ました時、お前の姿がいなくて彼女パニックになっちゃったんだ。俺は事務所で待っていれば帰って来るからって説得したんだが、直ぐに会いたいってごねるんだ。探しに行くって聞かなかったんだ」
「それで何処かへ行ってしまったという訳なんだな」
 俺は大きく溜め息をついた。
「大変な事になったんだ。静香を俺が保護しないと命が危ないんだよ」
「どう言う事なんだ?」
「全ての謎が解明したんだ。俺が救えるんだ。静香の命を救ってやれる事ができるんだよ。それにはどうしても彼女と会わなければならないんだ。時間がないんだ。気付いた事はなかったか?」
「そうだ。俺、静香ちゃんが目を覚ました時にお前が何処に行っているか聞かれたんだ。その時に病院にでも行っているんじゃないかなって答えた。あの後は赤田って男と面会する予定だっただろう」
「そこだ。俺はそこに向かう」
 直感だった。静香がそこに向かっているような気がした。そして、六三四も。俺はタクシーに目的地の変更を指示した。
「兄貴は熱田神宮へ向かってくれないか? 確立は低いが静香がそこにいる可能性がある」
「了解した。見つけたら連絡いれるよ」
 俺は電話を切ると深い溜め息をついた。二人を、いや六三四を含めて三人を命の償いの輪から解放してあげられる気がして来た。長かった。これで不可解な自殺から俺も解放される。後は六三四より先に病院につくだけで良かった。タクシーの運転手に人の命がかかっているので急いでくれと嘆願した。彼は快く承諾してくれた。
 ふと666のロゴの入った黒い封筒に目がいった。一時期、レイプ事件で自殺した少女の怨念だと考えた事があった。それで念のために龍華に調べてもらったのだった。今となっては重要ではない。しかし、俺の心にひっかかる物があった。それはハジメ達が命の償いをしなかった方が良かったのかという事だ。俺が彼等を寛大な心で許せた人物だったのかという事だ。今俺がやろうとしているのはレイプ事件を起こして、何の罪も償わずに済んでいる赤田という男を許そうとしている事だ。きっと、俺はこの封筒の中身を見ない方が赤田を許してあげられるだろう。だがレイプされた被害者の立場から考えると赤田には罰が下った方がいい。龍華が話していた事を思い出した。『正しい事って何なのですか?』今、俺はそれを試されている気がした。正しい事は責任をもって自分で判断する事なのかもしれない。今なら俺は龍華に答えられただろう。窓の外に目をやった。いつかの汚らしい坊主がたく鉢をしていた。彼の口がゆっくりと動いていた。『この真実に疑いを抱いてはいけない』と言っているように見えた。俺は迷う事無く封筒から書類を取り出した。

 俺の目の前には農具を持った男女がいる。金田紫苑、ハジメ、赤田、マスター、みどり、そして静香。俺は夢を見ているのだ。俺の背後に誰かいる。俺を無理矢理立たせた者だ。その人に引っ張られている。どこへ連れていくのだろう。その人は俺を樹に縛り付けた後、六人の男女と口論をしている。その人はそのまま俺を放って何処かにいってしまった。俺に待っているのは死だ。死を悟ってもあまり恐くはなかった。この苦しみ、傷みから早く解放してほしかったくらいだ。皆に押し出されるようにして静香が武器をもって突進してきた。彼女の行為を有り難く思って見ていた。やっと楽にしてくれると。しかし、彼女は出来なかった。俺を殺す事は出来なかったのだ。静香は俺の前に立ちはだかり他の仲間に『殺さないで』と哀願していた。俺は後悔していた。静香の気持ちをもっと大切にしてやればよかったと。今さら遅い。俺は死にたいとは思わなくなっていた。生き延びたい!と叫ぼうとした瞬間、俺の身体に五本の農機具が刺さっていた。俺の耳に聞こえたのは俺の断末魔の叫びではなく、静香の悲鳴だった。

「お客さん、病院に到着しましたよ」
 知らない間に寝てしまっていた。運転手に一万円を渡して飛び下りた。静香は俺を殺してはいなかった。もう静香に命の危険はなかったが、俺は急いでいた。病院の受付で赤田の病室を確認した。六階の個室だった。部屋が六六六号室とは皮肉な気がした。俺は廊下を走ってエレベーターへ向かった。途中、何度も看護士に注意されたが、構ってなんていられなかった。一つしかないエレベーターが閉まるのが目に入った。他のエレベーターを探している時間はない、俺は直ぐ脇にあった非常階段を選択した。一秒の遅れが命取りになるような気がしたからだ。占師としての感である。息をきらせて六階までたどり着いた。入院患者がくつろぐスペースがエレベーターの前にあった。そこには人がまばらにいるだけで赤田の姿はない。赤い服を着た女の子が俺を不思議そうな顔で見ていた。病院で汗をかいて走り回っている俺の姿は異常にきまっている。正面の壁に部屋の案内板があった。赤田の部屋は右側の通路の突き当たりにあった。まだ女の子が俺を見ていた。俺はその子に構う事無く赤田の部屋を目指した。
 俺が赤田の病室へ飛び込んだ時、彼はベッドの上で身体を包帯でぐるぐる巻きにされてた状態で寝かされていた。彼の目の前に静香がいた。手に果物ナイフを持っていた。ベッド横に誰かが手土産でもってきたのだろう、フルーツが置いてあったので、そこから奪ったのだろう。
「静香、止めるんだ。赤田を殺しても何もならない」
 俺が頭に浮かんだイメージと同じシーンを目の前で見ていた。静香が赤田を殺そうとするシーンだ。龍華が渡してくれた資料を見た時に浮かんだのだ。赤田達に犯された女の子は自殺してしまった娘と静香だったのだ。ハジメの通夜に出かけた時に起こった理由も、岡崎の図書館で気分が悪くなった理由も、大きな車が嫌だといった理由も全て理解できた。いつか静香が言っていた事を思い出した。
『私だって憎くて憎くてしかたない人がいる。先生に呪ってほしいって口にしそうになった事だってあった。でも先生の事を思うと言えなかった』
 何故あの時気付いてあげられなかったのだろう。自分がふさぎ込むだけで静香を救ってやれなかったのだろう。
「先生に会いたかったの。恐かったんだ。私もみどりみたいに死んじゃうと思うと余計に先生に会いたくなったの。でも、ここには先生はいなかった。その代わりにこいつがいた」
 静香の目から涙がこぼれ落ちた。しかし、手に持っているナイフを降ろすつもりはないようだった。
「もう分かったから」
「もしかして、先生……私の秘密を知っちゃったの」
 俺は静香の問いに何も答えられなかった。
「やっぱり、そうなんだ……。私の身体、汚れちゃってるの」
 静香は笑みを浮かべた。本当に悲しい時には涙もでないのかもしれない。それとも怒りの方が勝っているのだろうか、ナイフを持つ手が震えていた。
「もういいんだよ。静香。俺お前を受け入れるから。これから俺がお前を守るから、今までお前を苦しめてゴメンな。もう二度と『好いとったのに』なんて言わせない。俺はお前を裏切らないよ」
 誰かが部屋に近づいている。足音が聞こえて来た。きっと六三四だ。俺の心は決まっていた。
「静香の恨み、悲しみ、苦しみを俺が晴らしてやるよ」俺は静香にゆっくりと近づいて行った。「俺、ずっと弱虫だった。金田紫苑が俺の呪いで死んだかもしれないと思った時もおろおろしてた。自分の行った事に責任を感じていなかったんだ。自分が正しいと思った事に信念をもっていなかったんだ。だから、結果に責任が生じた時に逃げ出していたんだ。亡くなった母さんが教えてくれたんだ。強い人は自分が強いと信じている人なんだ。俺、静香が好きだ。世界で誰よりも静香が好きだ。俺がやる事は悪い事かもしれない。でも静香一人が喜べば、それは俺にとって正しい事になる」
 俺は静香の側に立ち、強く抱き締めた。もっと早くに抱き締めてあげれる勇気があれば静香を追い込まずにすんだのに、俺は心で彼女に謝罪した。
 足音が部屋の前で止まった。ゆくりと扉が開く、そこには六三四が立っていた。それに気がついた赤田が震え出した。六三四が近づいてくる。赤田は動かない身体をバタバタさせ逃げようとして、ベッドから転落した。俺の足下にすがりつく、俺は赤田を許す気はなかった。六三四が赤田に手をかざそうとした時、俺は静香からナイフを奪い取り、赤田の胸に突き立てた。赤田は俺を睨むと納得したかのように目を閉じ、そのまま開く事はなかった。俺の後ろで立ち尽くす静香が呆然と赤田の胸から流れ出る血を見ていた。
 これが俺が正しいと思った選択だ。
 六三四は静かに部屋を出て行った。出ていく時に「ありがとう」と口にした気がした。俺は兄として六三四に何かしてやれたのかもしれない。
 自分を責め続けて泣く静香を胸に抱いて、俺は警察が来るのをその場で待ち続けていた。

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