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小説家版 アートマンコミュの666(ミロク)dD 1月20日?

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 俺達はファミリーレストランで食事を済ませて家路についた。食事の間中、俺は努めて明るく振舞った。そうしなければ一言も静香と会話ができそうになかった。静香も俺の態度がおかしいのは薄々感じていたようだが、俺を問いつめるような質問はしてこなかった。ただ、別れ間際に『あまり追い込まないで』と口にしただけだった。
 夢に静香が登場した時には純粋に彼女の身を案じた。一時でも彼女から離れない気持ちだってあった。しかし、俺は彼女を家に送り届けた。それは静香が未成年だからという理由ではない。俺の中に嫌らしい気持ちが芽生えているからだ。俺を殺した女。心のどこかで彼女をそんな肩書きをつけて見てしまっている。まるで前の彼氏と過ごした時間を気にする嫉妬心の固まりのような男みたいで自分が嫌になった。こんな事を誰に相談すればいいのだろう。自分が生まれる前の出来事を気にして悩む男の気持ちを誰が理解してくれるのだろう。そんな事を考えて運転している間にレンタカー会社に到着した。契約時間よりも早かったが、車を必要とする事もなかったのでこのまま返還しようとした時、一台の車が横を通り過ぎていった。それは真っ黒なリムジンだった。俺が乗せられたあのリムジンだった。この後目的もなかったので暇つぶしにリムジンの後をつけて行く事にした。リムジンは不思議な走り方をしていた。曲がる時は全て左折をしていた。要するに名古屋の町をクルクル回っているのだ。気がつくと先程のレンタカー会社の前に出ていた。何の目的で車を走らせているのだろうと疑問を持ちながら尾行していくとある見覚えのある建物の前に出た。それはマスターの葬儀を行った弥勒さんの葬儀場だった。リムジンは正面の玄関には向かわず、建物の裏側へ向かって進んでいた。俺のその後に続いたが、角を曲がった所でリムジンを見失った。まるで車が突然消えてしまったかのように俺の視界から消えたのだ。俺は車を停車させて周りを見渡した。リムジンが消えるようなスペースは何処にもなかった。狐につままれたような気がしたが、どうせ暇つぶしに尾行していただけだ。レンタカー屋に戻ろうとした時に、タイヤの摩擦音が微かに聞こえている事に気がついた。それは地下の駐車場に車でおりる時に聞こえる音だ。音は葬儀場の方から聞こえている。間違いなくリムジンはこの中に入ったのだ。俺は車から降りて進入口を探した。しかし、それらしい場所はなかった。
(あの時、本社に連れていってもらった時も地下に降りていった。でも受付嬢の娘は本社は納屋橋にあるといっていたぞ)
 俺は車に乗り込むと納屋橋を目指した。堀川沿いに車を走らせたが本社ビルなど見つける事ができなかった。派出所でも聞いたが、警察官は会社の名前すら知らなかった。もちろん、調べてくれた住宅地図にも載ってはいなかった。俺に教えた本社の場所は嘘だったのだ。なぜ、嘘を言う必要があったのだろう? 666に対する謎は深まるばかりだ。そいえば、死者の子供の事を龍華は知っていた。俺の心の中で666への不信感がつのって来ていた。
 車を返すと俺は自分の事務所へ戻った。666の会社の事を調べたくなったのだ。業務をしているからには多少の情報でもインターネットを使えば手に入れる事ができると思ったからだ。しかし、全くあてが外れた。いくら調べても何も情報を得る事ができなかった。情報を手に入れる事も情報を流出を防ぐ事も一流なのかもしれない。どうしたら666の事を調べられるのだろう。俺はパソコンの電源をおとして考え込んだ。ふと疑問が涌いて来た。何故マスターの葬儀は666で行ったのだろう? こんなに調べても666の情報が手に入らないのにどうやってマスターの遺族はあの葬儀場の事を知り得たのか? それにお金だ。あんな華やかな葬儀を執り行う費用はどれくらいするのだろう? 小さな喫茶店を経営していただけのマスターの遺族に負担できる額では出来そうにない。そうだ、マスターの奥さんならば666の誰かと接している。情報を聞きだせるかもしれない。俺は直ぐに英さんに電話して、マスターの実家の電話番号と住所を教えてもらった。電話をかけてから家に行こうと思ったが、気持ちの整理がついていないと断られる可能性が高かったので直接家に行く事にした。

 マスターの奥さんの対応は俺の予想通りだった。マスターの店の常連だったと名乗ったのが行けなかったのかもしれない。「わざわざ来ていただかなくても」と語った言葉は謙遜して言っているのではない事は奥さんの顔色を見れば直ぐ分かった。葬儀の時は許した素振りだったが、そう簡単に心を切り替えられていないのだろう。やはりマスターは彼女にとって大切な娘と孫を殺した犯罪者なのだ。このまま玄関で帰されそうな雰囲気だったので、一か八かで勝負にでてみた。懐から666の名刺を取り出して奥さんに渡してみた。
「実は666の特別顧問を引き受けていまして」
 それだけで彼女の顔色が変わった。それは好意的な顔だった。
「せっかく来ていただいたのですから、お茶でも出しますわ」
 掌を返したような態度に、666にかなり優遇してもらっていたのではと疑ってしまった。リビングに通された。この部屋にはマスター達の祭壇はなかった。どこか別の部屋で祭っているのだろう。マスターの奥さんがお茶をお盆にのせて持って来ると、俺の前に差し出した。バラの華のハーブティーだった。
「あなたの会社の会長さんに頂いた物ですよ。どうぞ、召し上がって下さい」
「弥勒さんがこちらに来られたんですか?」
 ハーブティーを口に運びながらさり気なく質問した。味はしなかった。
「えぇ、二人が亡くなって直ぐに駆け付けていただきましてね。葬儀を私の会社に取り仕切らせて欲しいと申し出ていただいたんです。さらに全ての料金を負担していただけるとまで言っていただいて、本当に助かりました」
 俺を社員と間違えているのだろう、深々と頭をさげた。あんな盛大なセレモニーを無料で取り仕切ってもらえたのだから666と名のつくものに頭が上がらないのも納得できる。
「お礼なんて結構ですよ。実は特別顧問に就任してまだ日が浅いので知らなかったのです。だから、頭を下げられても困ります」
「いえいえ、白山さんのおかげです。でも本当にすばらしい会社ですね。娘の無念を浄化させたいと会長さんが熱弁いたしまして、その熱意にほだされて葬儀をお願いしたんです」
「何か見返りとかも要求されなかったんですか?」
 少し嫌らしい質問だと思ったが、奥さんは嫌な顔をしなかった。
「ええ、全くありませんでした。いえ、一つだけありました。別にたいした事ではないのですが……、火葬だけは出来ないと」
「火葬が出来ない理由って聞かされましたか?」
「何か怨念を鎮めるのに適してないとかおっしゃっていましたね」
「それで溶葬というのを執り行ったのですね」
「まあ、私に異存はなかったのですんなりと決まりました」
 何か取り調べをしているような雰囲気になってきた。しかし、マスターの奥さんと話をしたおかげで666の事が少し分かってきた。葬儀をボランティアでやれる程の財力を持っている事だ。しかし何故、ボランティアでやっているのだろう。俺には弥勒さんの考えている事が理解できなかった。怨念を鎮める事が弥勒さんにとって何よりも重要なのだろうか? 俺には分からなかった。
 奥さんが時計を何度も見ている事に気がついた。誰か来客の予定でもあるのかもしれない。俺は彼女にお礼を言って席を立つ事にした。玄関まで見送る彼女に最後に一つだけ質問を投げかけた。
「666はどうやって二人が亡くなった事の情報を得たんですか?」
 俺の質問に一瞬驚いた顔をした。
「白山さんが紹介してくださったとお聞きしましたよ。最近、顧問になった者が喫茶店の常連だったからとおっしゃっていましたから」
「すいません。そうでした。うっかりしていました」
 つい話を合わせて笑ったが、心は動揺していた。俺はマスターが死んだと知らされた時には葬儀場は決まっていた。俺が情報を流せるはずがないのだ。俺をすんなりとリビングに通したのは、その事を彼女が思い出したからだったのだ。でも、何故そんな嘘を弥勒さんはついたのだ? 666が怪しい物に思えてきた。俺は逃げ去るようにその場から立ち去った。俺は今何を信じれば良いのだろう。全く分からなくなってしまった。数日前に銀行で会った汚い格好をした坊主の言葉が頭によみがえった。『この真実に疑いを抱きなさい』でも俺には何が真実なのかすら分からなくなっていた。俺は全てを見失いかけていた。

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