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小説家版 アートマンコミュの666(ミロク)dD 1月20日?

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 俺はレンタカーを借りる事にした。車は小型の四輪駆動の物にした。別に雪を心配していた訳でもない。ただ、レンタカーの営業所にあった車で一番見栄えがよかったのがこの車だっただけだ。殆どが配達や営業の仕事で使用するような地味な物が多かった。もしくは週末に家族で出かける時に借りるようなミニバンタイプだ。静香を助手席にのせて始めてのドライブなのだから、多少、彼女の喜ぶような車にしてあげたかった。
 車を見た静香のリアクションは悪くなかった。可愛いねといいながら助手席に乗り込んできた。
「私、大きな車とかだったら嫌だった」
 助手席でシートベルトをしめながら静香が呟いた。
「何か理由でもあるの?」
 俺はそう言いながら車を発進させた。とりあえず名古屋高速へ向かうつもりだ。
「だって、乗り降りが大変じゃない。扱いにくそうだし」
 そう言いながら静香は車の装備をいじっていた。彼女は男に大きな車を運転して欲しいタイプの女性ではないようだ。要するに見栄を張らない男が好きなのだろう。男が大きな車に乗りたがるのは、大きく見せたいという虚栄なのだ。不良が車を恐い仕様に改造していくのと近い原理だ。男というのは人の目を気にしていないと生きられない悲しい生物なのだ。まあ、女がそれを求めるのも原因の一つなのだけども。兎に角、静香みたいなタイプの女性が男にはとてもありがたい。
「こんな事ならCDを家から持ってくればよかったな」
「そうだな。失敗した」
 静香がラジオのチューナーをいじっていた。FM、AMを行ったりきたりしながら、邦楽が良く流れるラジオ局にチューニングを合わせた。どことなく寂し気な音楽が流れてきた。静香が口ずさんでいた。車は名古屋高速を降りて国道一号線へ向かっていた。

 まずは図書館に向かう事にした。図書館は一号線から二四八号線を南下した所にあった。警察署と裁判所に囲まれるように存在していて、まるで図書館もその一部のように感じた。極端に少ない駐車場だったが、一つだけ駐車できるスペースが建物よりに空いていた。まるで俺達を待っていたかのようだった。そういえば、図書館の駐車場に入ろうとした時に真っ黒な車とすれ違った。その車が駐車していたスペースなのだろう。俺は久しぶりの車庫入れ運転だったが、無難に車の尻から停車させた。
「先生、私車酔いしちゃったみたい。車の中で休んでいて良い?」
 俺が車から降りようとシートベルトをはずした時に静香が蚊の鳴くような小さな声をだした。確かに顔色も悪いし、額から汗もかいていた。
「大丈夫か? 薬とか買ってこようか?」
「ううん、大丈夫。横になっていれば直ると思うから。それにここの駐車場狭いでしょ。車動かしたら次に停められないかもしれないよ。私の事は大丈夫だから、調べて来てくれればいいよ」
「それじゃあ、直ぐに戻ってくるよ」
 俺は車のエンジンをかけたまま図書館に向かった。玄関に入る前に車の方に目をやった。車の後部しか見えず静香の様子は分らなかった。警察署と裁判所がある目の前にある事も手伝ってだろう、静香は守られているような気がした。

 俺は受け付けで郷土資料の図書のある場所を聞き、そこへ向かった。二階の窓に面した場所にその一角はあった。受験生が席を陣取っていてテーブルは全て埋まっていた。時期が時期だけに仕方の無い事だろう。
 三河の風土記などが置かれてある棚の列に手作り風の冊子があった。岡崎の民話をまとめた物だった。まるで卒業文集のような作りの本は民話の内容から発祥の地まで細かくかかれていた。俺が探していた産女の墓の話も載っていた。話に出てきた祠も産女の子供が育てられたというお寺も実在していた。丁寧な事に細かい地図まであったので、俺はトレースするように地図を手帳に写した。俺の夢に関係あるような民話などを探そうとその本を読んでいると、産女の子供の話を見つけた。民話のタイトルは『弥勒様の子供』だった。
 内容はこんな感じだった。死者の身体から生まれた生者、産女の子供には不思議な力が備わっていた。千里眼だ。未来を見る力、それも人の死ぬ日を言い当てる力があった。農民達は死神だと産女の子供の事をおそれたのだが、その子を育てた寺の住職だけは違った。産女の子供の本性を見ていたのだ。それは未来に現れて人々を救う仏様、弥勒菩薩様の姿だった。産女の子供に未来が見える力を他の事に使えばどうかと提案した。住職の考えは正しかった。その子供が大地震を予知したのだ。産女の子供のおかげで村の者達は誰一人ケガをする事もなかった。それ以来、産女の子供は『弥勒様の子供』と呼ばれ村を守る神童として大切に育てられたという話だ。
 俺に仕事を依頼してきた弥勒さんを連想させるような話だ。もしかして、弥勒さんの祖先と関係あるのかもしれない。このページを受付でコピーさせてもらおうと本を持っていった。有料になったが、快くコピーをさせてくれた。使用目的など書類に書いて、暫く待っていた。丁度、車が窓から見えた。静香が車から降りて誰かと話をしていた。同じ年頃の女の子だ。ふとハジメ達にレイプされて自殺した女学生の事が頭に浮んだ。彼女の呪い。俺は受付嬢からコピーを受け取ると階段をかけ降りた。廊下を走る俺に敵意をこめた視線を投げる受験生など構ってはいられなかった。俺が車に戻ると静香は助手席を倒して寝ていた。まるでそこを動いていない事を俺にアピールしているように見えた。
「調べもの終わったの?」
 静香は助手席を起こしながら聞いてきた。
「ああ、大体ね。ところで静香、今誰かと話をしてなかった?」
 静香は首を横に振った。嘘をついているのか、それとも俺の見間違えなのかは分らないが、追求する程の話でもなかった。嘘をついているのなら何故だ?
「それよりも次は何処へ向かうの?」
 会話の鉾先を帰るような質問をしてきた。
「そうだな。民話のあった場所へ向かおうと思うんだ。地図も調べる事ができたからね」
 静香の態度に多少の疑問は持ったが、俺は民話を調べる事を優先させた。民話を調べる事で夢の解析ができると直感的に感じていたのだ。俺は車を走らせた。
 俺は車を走らせている時に気付いた事がある。この道はハジメの家へ向かう道だ。あの家の近くに民話の地があるとは随分と皮肉めいている。まずはお寺だ。俺はハジメの巨大な実家を通り抜けて山へ向かって車を走らせた。家の前を通り過ぎる時には少しドキリとしたが、静香に気付かれる事はなかった。午前中にきていれば、葬儀の参列者などで彼の家は眼を引いてしまった事だろう。運がいいことに花輪や幕は既に撤去されており、葬儀の名残りはトラックに積み込んでいる大きな木箱の山だけだった。中身は祭壇だろう。兎に角、引越作業にでも見える風景に静香が眼を向ける事もなく通り過ぎる事が出来てホッと胸をなで下ろした。道はなだらかに登りながら右に曲がっていった。すると突然目の前に山が突然現れた。元々が山に続く山道だったのだろう。勾配もカーブも急になった。山の頂上付近に巨大な樹が見えてきた。どうやらその周辺に目的の寺院があるようだった。車を巨木の元に停車した。枝振りの素晴らしい樹はきっと数百年この土地を見守ってきたのだろう。樹と会話ができればいろいろな謎が解明する事ができるはずだ。俺は樹から何かを感じ取ろうと幹に手を置いて眼を閉じた。もちろん、何も答えてはくれなかったが、心は何かを感じているのだろう、穏やかな気持ちになっていた。自分の周りでいろいろな人が死んでいる。精神的に疲れていた心を慰めてくれているようだった。眼をあけると静香も俺と同じ格好をしていた。
 住職には話を聞かせて欲しいと連絡しておいてあった。車の中で静香が携帯電話からアポイントをとっておいてくれたのだ。住職は本堂に俺達を案内した。本堂の中は冷蔵庫のように冷えていた。住職は本堂に置いてあるストーブに火をつけると俺達をその近くに座らせた。住職が本堂の真ん中に安置してある本尊に手を合わせてから俺達の元に近づいて来た。
「話は産女の事ですね」
「はい、そうです。産女の民話は本当にあった話を元に作られているのではないかと思いまして調べているのです。民話に所縁のあるこのお寺の住職さんにも話を聞かせていただけないかと思って寄せていただきました」
「そうですね。私の意見ですが、産女の話は後世になって作られたお話だと思います」
「そうですか」
 俺は元気のない声で答えた。この民話に俺の夢を解明するヒントがあると思っていたのだから、住職の答えに落胆するのも当然だ。
「しかし、産女の子供っていうのは本当にいたと思います」
「え、どう言う事ですか?」
「死者が出産した子供の事です。どうやら、その子は実在したようなのです。もちろん母親は普通の人ですが、ただ女性は出産する三ヶ月前には亡くなっていたようです。少し待っていて下さい」
 住職は一度立ち上がり本尊の裏に消えた。何かを探しているのだろう、ガサガサと物音が聞こえて来た。
「先生、気持ちの悪い話ですね。死んだ人の身体から生まれて来る子供って、ゲゲゲの鬼太郎みたいですね。鬼太郎も墓場から産まれて来た子供でしたよ」
 静香は寒そうに両手で二の腕部分を摩っていた。
「死者の出産か……。産まれて来た子は生きている死者、それとも死んでいる生者」
 俺は独り言を呟いていた。そんな俺を静香が心配そうに眺めていた。住職は経本のような作りの薄い本を手にして戻って来た。それを俺に渡した。
「この本の中にその時の様子が書かれているのです。どうやら、人為的に死者の身体から出産させられたみたいなのです」
 俺はその本を開いてみた。筆で書かれた文字の解読は出来そうにもなかったが、挿し絵を見れば大方の内容は把握できそうだった。文字が読めない人にもわかるように書かれた本なのだろう。それが幸いして俺にも内容が分かったのだ。妊婦が岩風呂のような所に入れられていた。その妊婦の表情、仕種を見ても生者の様相ではなかった。妊婦の死体に栄養を与える為にだろう、豆のような形状の物を食べさせていた。もしかしたら薬かもしれない。そして、その後に続くページには出産までの過程が書かれていた。ページが過ぎる度に妊婦の姿が変化していった。それはまるで死体の変化を記した九想図という仏画のようだった。そうだ。この本は観察記なのだ。そして最期のページは出産だった。それは腹を切り裂いて子供を取り出していた。今で言う帝王切開法なのだろう。どうやら、無事に成功したみたいだった。医師のような男が高々と赤子を掲げていた。本を覗き込んでいた静香が顔を背けていた。
「こんな事を実際に行った者がいたのですか?」
「そうでしょうね。こうやって文献として残っている以上は行った者がいたという事でしょうね」
「いったい何の為に……」
「一つは子供だけは助けたいと願ったのでしょう。この女性がどんな状況で死んでしまったかは分りませんが、子供を身ごもったまま死んでしまうなんて相当の未練が残ったに違いありません。それを不憫に思った者が行ったのかもしれません。善意の行為です。もしくは……」
 住職はもう一つの推測を話した方がいいのか推し量っているように躊躇した。
「悪意の行為があったかもしれないと言う事ですか?」
 俺の予想が当たったようだ。住職は小さく頷いていた。
「産まれて来る子供を呪術に利用しようとしたのではないかと……。その頃に人権なんて言葉もなかったと思います。死者のお腹の中にいる子供を使って何かを考える術者が登場してもおかしくはなかったと思います。現実に産女の民話の続きと思われる『弥勒様の子供』に登場する産女の子供には人の死ぬ日を言い当てる能力があったと書かれてあります。もしかしたら、死を操る能力がその子にあったのかもしれません。術者がその子の力を利用して権力を握ろうとしていた可能性があると思います」
「本当にあったとしたら恐い事ですね。人の生き死にを操れる力が……存在するとしたら」
 話ながら恐ろしい推理が沸き上がって来た。この世の中で誰かがこの術者と同じ事をしようとしているのではないか。もしくはもう行っているのではないのだろうか? 死者の子供の能力を使えば不可解な自殺に見せ掛けての殺人が可能になるのだ。そういえば、不可解な死を遂げる者には黒い服を来た子供が目撃されている。奇妙な一致ではすまされないような気がして来た。
「この話はよくされるのですか?」
「いや特によくするという事はありませんね。大体地元の者でも『産女』の話や『弥勒様の子供』の話を知っている人は少ないですからね。話をしてもバカにされてしまいますよ」
 住職は笑いながら頭をかいた。
「それでは最近話をしたのはいつ頃ですか?」
 眼を左右に動かしながらゆっくりと思い出しているようだった。
「思い出せないのなら結構です。話をして印象に残った人でも結構です」
 もしこの事を聞いて実行に移そうとする人ならば、住職の話を真剣に聞いていたはずだ。そんな人は少ないと思った。
「そういえば、この本の内容を写させてほしいと頼んできた人がいました」
「それはどんな人でしたか?」
「随分と高級そうなスーツを着た青年でしたよ。まるでモデルさんのように背が高くて愛想もよかった。情報を収集するのが仕事だと言っていました」
 俺は確信した。この話を熱心に聞いていたのは龍華だ。666ならば未来の予見を確実にする為に死者の子供を作り出そうとする事も考えられる。しかし、余りにも突飛すぎる。怨念を鎮める事を心情としている会社が死者をもてあそぶような事をするだろうか? 俺の仮説には無理があるような気がしていた。ただ分かった事は黒い服を着た子供だけは注意が必要だ。
 俺は住職にお礼を言って寺院を後にする事にした。収穫は十分にあった。不可解な自殺を人為的にひき起こせる可能性がある事がわかったのだ。依頼を受けた時にくらべればかなりの成果をあげているはずだ。しかし、今必要なのは俺の見る夢の解明だ。静香の命がかかっていると思うと焦る気持ちを抑える事が出来なかった。
「先生、もう調べる事は終わったの?」
 俺と住職の話を辛抱強く聞いていただけで限界だったのかもしれない。調べる事に飽きたような口ぶりだった。命の危険を実感できない彼女にしてみれば当然の態度なのかもしれない。
「悪いがもう一ケ所だけ寄りたいんだ。十分もあれば済むからさ」
「それじゃあ、もう一ケ所だけだよ」
 静香にはアシスタントという意味が分かっていないみたいだ。今後もきっとこんな感じなのだろう。給料を払って気を使う間柄になりそうな予感がしていきた。不安だが、悪くはない気もしていた。
 車を走らせると、来た道を戻っていった。再びハジメの家が見えて来た。きっと初七日の法要でもとり行うのだろう、今度は人が集まっている。その様子を静香も見ていた。自然とアクセルを強く踏んでいた。気がつけばハジメの家の前を猛スピードで走り去っていた。
 俺が向かったのは産女とよばれた女性が葬られている場所だ。農道のような細い道に入った所に小さな祠があった。車を田んぼのあぜ道にかけるように停車した。祠は小高い丘の上に木々に守られるようにひっそりとたたずんでいた。俺は祠の前まで階段を登っていき、目を閉じて手を合わせた。地中にいる彼女の無念が伝わって来る気がした。俺は鎮魂の念を込めて再び手を合わせ、頭をたれた。振り向くと農村の綺麗な景色が広がっていた。山に囲まれた村の夕暮れは都市部よりも早く訪れる。山の影が光を侵食していく姿を静香は眺めていた。いや、静香が眺めている視線の先には一件の巨大な家があった。ハジメの実家だ。
「静香」
 俺が呼び止め、振り向いた静香の悲し気な顔を俺は見た事があった。今朝みた夢で俺に向かって『好いとったのに』と語った時の彼女の顔だった。その時俺の頭の中で何かがスパークした。俺はこの場所を脳の中で記憶していたのだ。それを確かめる為に俺は駆出した。
「やはり……」
 俺の目の前にベッドのような巨大な岩をみつけた。それは夢ででてきた『ぐろの石な』だった。夢が現実に起こった事だと確信に変った瞬間だった。俺はこの場所で殺されたのだ。静香達に殺された場所がここなのだ。現実だと気付いた時に、今までになかった感情が心に沸き上がってきた。それはハジメ達だけではなく静香にも向けられていた。小さな憎しみだ。それは真水に一滴だけ落した墨汁のようだった。色は薄いが濁っていく。そして真水に戻る事のできない、そんな感情だった。静香が心配そうに俺の元に駆け寄って来た。俺はどんな顔をして振り返ればいいのだろう。俺を殺した相手にどんな顔で向き合えばいいのだ? 答えを出せないまま振り返った俺の顔は満面の笑顔だった。人と真剣に向き合う事の出来ない憶病者の顔だった。

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