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小説家版 アートマンコミュの666(ミロク)dD 1月20日?

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一月二〇日(金)

「好いとったのに……」ハジメの声だ。俺は誰かに足をもたれて引きずられている。俺を引っ張る男女の肩ごしに小高い丘が見えた。どうやらその場所に向かっているようだ。あの場所に『ぐろの石な』があるのだろう。俺を引っ張る男が振り向いた。予想はしていた。その男の顔は赤田だった。赤田は誰かを呼んでいた。暫くすると誰かが俺の手を掴んだ。金田とマスターの顔が視界に飛込んできた。丘の上に引き上げるのに助けを呼んだのだろう。手足の四ケ所を四人に下げられて俺は丘の上に投げ捨てられた。背中を激しく打ち付けて呼吸が満足に出来ない。苦しさが無抵抗だった俺の目を醒ませた。地を這うようにして逃げ出すと試みる。しかし、直ぐに取り押さえられて横腹を蹴り飛ばされる。今度の痛みは元の無気力な俺に引き戻した。俺は金田に胸ぐらを掴まれて何かを責められている。金田の後ろで穴を掘っている者が見えた。穴を掘っていたのは五人だった。その顔には全く見覚えが無い。きっとハジメ達の村の仲間なのだろう。俺はその穴に埋められるのか。いや違う。穴を掘っている横に誰かが寝かされている。一瞬だがちらりと見えた。女性が口から血を流している。彼らが殺したのだろう。彼女を埋める為の穴を掘っているのだ。金田は俺が話を真剣に聞いていない事に激高した。俺は頬を叩かれ再び大の字になって倒れてしまった。右手に何かが当たった。人の大きさ程ある巨大な岩だった。これが『ぐろの石な』なのだろう。岩の辺りから水でも湧き出ているのだろう、ゴボコボという音がしていた。その音を聞いて自分の喉が異常に乾いている事に気がついた。無性に水が飲みたくなったが、俺の望みを聞き入れてくれるはずがなかった。俺は再び殴り飛ばされた。再び無気力になった俺の視界に穴を掘り終わった五人組が女の死体を穴の中に運んでいる姿が飛び込んできた。ハジメが穴に投げ入れられた女の所へ行った。手に持っていた袋から何かを取り出した。緑色の豆だった。一つだけ投げ入れた。届かない事は分かっていた俺は必死に手を伸ばしていた。先程の五人組が彼女に土をかけて埋め始めていた。その間、俺に暴行する者は現れなかった。その代わりに女性が俺の顔を覗き込んだ。俺の額から汗が流れた。
 それは静香だった。そして悲し気な顔で一言だけ口にした。『好いとったのに……』

 また電話が鳴っていた。三日連続で電話の呼び出し音で目が覚める事になる。今日はもしかして電話が鳴る前に起きていたのかもしれない。俺の記憶が錯綜していた。何故、あのメンバーが出て来る夢に静香が……。それは静香に死が迫っているという事なのか? 焦りににた不安が俺の心を支配していた。とりあえず電話にでた。兄からだった。
「おい、光二郎。今朝の新聞を見たか?」
 テンションの高い声だった。
「見るわけないだろう。第一今起きた所なんだからさ」
 夢のせいだろう、つい苛ついた声を出してしまった。
「なんだよ。寝起きか。そんな事よりも例の中学生の自殺。えぇっと薬を飲んで自殺した最近のやつだよ」
「ああ、覚えてるよ。それがどうしたんだよ」
「やっぱり、あれは連続自殺事件とは関係なかったんだ。殺人未遂事件だったんだよ」
「え、どう言う事なんだよ」
「最低な男性教諭がいたんだ。自殺事件を装って女子生徒を殺そうとしたらしいんだ。その生徒はその教諭と付き合っていて、腹の中には子供までいたそうだ」
「発覚するのを恐れて殺そうとしたって事なのか? でも、何故?」
「簡単な事だ。その教諭には妻がいるんだ。それも妊娠中のな」
「信じられないな。そんな人間が教師をやっているのか」
「魔がさしたって言ってるけど、許す事はできないよな」
 兄の言うとおりだ。生徒や他の教師がどんな気持ちでこの自殺事件に取り組んでいたのかを彼が知らないはずが無い。誰もが事件を解決させようとしている時に、悪用した奴がいる。いったい何をしているんだろう。
「ところで」
 俺は夢の事を話そうか躊躇した。しかし、静香が出てきたのだ。彼女が死ぬ可能性がある。躊躇している場合でもなかった。
「質問があるんだ。心理カウンセラーとして聞いて欲しいんだ。決して俺の頭がおかしくなったとは思わずに真剣に聞いてくれよ。兄貴は前世ってあると思うか?」
 少し間があった。
「あるとは思うが、正直分らない。呼吸法セラピーや退行催眠という方法で前世までさかのぼれる方法があるが、信憑性があるかというと疑問が残る。でもまれに前世の記憶が歴史的な事実と符合する事がある。前世の記憶が立証出来る物ならばという条件付きで前世はあると思う」
「それじゃあ、前世の記憶と夢って関係している可能性はあるかな?」
「ありえるとは思うけど、お前が前世の夢を見ているのか?」
「ああ。前世で体験したとしか思えない夢を見るんだよ」
 夢の内容はあえては語らなかった。とても長くなりそうだったし、自分でも混乱していて上手に説明出来そうになかったからだった。
「俺から言えるのは何でも原因があると言う事だ。夢を見させる原因が何かを探す事をしなければいけないんじゃないかな。夢はその手がかりをくれているんだと思う。まずは調べてみたらどうなんだ? 夢の出来事が本当にあったかどうかを」
 兄は俺が不安にさいなまれてみている夢だとでも思っているのかもしれない。でも夢の分析は確かに大切だと自分でも思う。ハジメの通夜に行ったのは無駄では無かった。手がかりが三河地方にある事がわかった。それと豆だ。マスターの葬儀にも豆がでてきた。偶然とは思えなかった。
「そうしてみるよ。それから黒い服の少年の事で気になる事があるんだ。もしかしたら黒い服って学校の制服なんじゃないかなって思ったんだけど。自殺事件があった周囲の小学校の制服って調べられるかな?」
「なるほどね。学生服みたいな制服だったら黒だよな。良いアイデアだよ。早速調べてみる」
 俺は電話を切った。時計に目をやる九時を過ぎていた。十時に静香が事務所に来る事を思い出した。昨日の事があったので遅れる訳にはいかなかった。頼りにならない温風ヒーターなどつけずに急いで着替えをした。

 事務所についたのは十時ジャストだった。静香の姿はない。ホッと胸をなでおろし、事務所のドアの鍵をあけ、中に入った。厨子の前の湯呑みの中の水を新しい物と取り替えて、二体の仏像に手を合わせた。途中にあるコンビニで買った朝食を袋から取り出した。パックのコーヒーと蒸しパンだ。最近、刑事や探偵のような仕事ばかりしているので、こんな朝食を選んでしまったのかもしれない。時計に目をやると部屋に入った時よりも五分程針が進んでいた。静香が約束の時間に遅れるとは珍しい。ふと頭に今朝の夢の事がよぎった。静香に限って自殺などする訳がない。しかし、ここ数日の間に『するはずのない自殺』が実際に起きている。急に不安になり、静香の携帯に電話した。一コールも鳴らない間に電話がきられた。都合により電話に出る事ができませんと機械的なメッセージが流れてきた。さらに不安が募る。落ち着いている事ができなかった。部屋をウロウロして、頭に『自殺』がよぎる度に仏像に手を合わせた。そんな時、携帯メールの着信音が鳴った。差出人は静香だった。
『先生ごめんなさい。進路の事で教師との面談があった事を忘れていました。昼から行くね』
 何とも気楽なメールの内容だった。内容などどうでも良かった。俺は彼女が生きている事が分かっただけで良かった。静香が俺の心の中で大切なポジションをしめていた事に気付かされていた。静香を失ってしまうかもしれない思いに心を掻きむしられていたのだ。今さらながらだが、俺は静香の事が好きなのだと分かった。いやそんな気持ちを昔から分かっていた。いろいろな事を言い訳しながら認めようとしなかっただけだ。
 俺は弥勒さんからもらったノートパソコンを開いた。静香が事務所に来るまで調べなければいけない事を整理しようと思ったからだ。まずは夢の解析。キーワードは三河地方の方言と豆、そしてリンチ殺人。夢が現実にあった出来事なのかを確かめるには情報収集が必要だ。画面に打ち込んだ文字を見て俺は閃いた。666の情報網ならば調べられるのではないか。俺は財布の中から一枚の名刺を取り出した。666の本社へ行った時に受け取った龍華というDプランニング局の局長の名刺だ。そこに書かれていた番号に電話して龍華を呼び出した。
「お電話ありがとうございます。局長の龍華です」
 丁寧な口調で電話口に出た。今日も高級なスーツに身を固めているのが声を聞いているだけで分かりそうだった。
「この間はお世話になりました。白山です」
「白山さんですか。こちらこそ遅くにお呼び立てしてしまって申し訳有りませんでした」
 俺からの電話だと分かっても丁寧な口調は崩れる事はなかった。
「依頼された件の事なんですが、実は調べていただきたい事があるんです」
「情報調査ですね。それは我が社の一番の得意分野です。それでどういった事を調べればよろしいのでしょうか?」
「江戸時代以前に三河地方で起きた事件で農民が係わっている事柄なんです」
「江戸時代以前の事件で、三河、農民が関係する事柄ですね。少々お待ちください」
 龍華は必要なキーワードだけを繰り返した。パソコンで検索しているみたいだった。
「検索できましたけど、百件程あります。更に絞り込まなくてもいいですか?」
「それじゃあ、その中で『豆』を含む物を探してみて下さい」
「豆って食べる豆でよかったですか?」
「そうだ。その豆だ」
「わかりました。ありますね。一件だけですけど。それでは白山さんのパソコンに添付して送ります」
「ありがとう助かるよ」
「これくらいの事でしたら、いつでも連絡をください」
 俺は龍華にお礼を言って電話を切った。パソコンのメールボックスに龍華からのメールが届いていた。俺は添付されているファイルを開いた。それは俺の期待していた内容とは趣きが異なっていた。鬼女の話だった。

 時代は江戸の中期、現在の岡崎市の北部の農村で子供が誘拐される事件が多発した。それは産女という鬼女の仕業だった。身ごもったまま十分に弔われなかった女性が変化する妖怪だ。農民達は産女を退治して殺すのだが、不思議な能力で直ぐに生き返ってしまうのだった。捕まえてもどうする事もできなかった農民達はある霊能者に相談した。その霊能者は自分の力で産女を地中に封じ込める事にした。しかし、永久に封じ込めておく事が出来ない。それ程、子供を身ごもって亡くなった者の未練は凄まじいものなのだ。霊能者は産女とある取引をかわした。それは産女が自らの命を絶つ代わりに、産女のお腹にいる子供を産ませる事だった。その取引に産女は快諾した。霊能者は農民達に升にいっぱいの豆を用意させた。そして彼は祈祷を行い、その豆に自分の霊力を移したのだ。地中に封印されている産女の元へ豆を届ける為に、節をくり抜いた竹を用意した。その竹を使って地中深くに届けられた豆を食べた産女の身体に異変が起きた。お腹の中で死んでいた子供が動きだしたのだ。そして、それから三度目の満月の夜、村中に響き渡るような赤子の泣き声が聞こえてきた。農民達が産女の埋められていた場所を掘り返すと赤子を抱きかかえたまま動かなくなっている女を見つけた。その顔は鬼の形相ではなく仏様のようだったそうだ。霊力を失った霊能者は農村にあったお寺の住職となり、産女の子供と一緒に暮らしたそうだ。産女はその後丁重に弔われ、村の守神となったそうだ。彼女を埋葬した上には祠を作ったそうだ。

 添付されていたのは民話だった。俺の夢には直接関係ないかもしれない。しかし、興味をそそられる話だ。話の内容を読んでいるとマスターの葬儀を思い出した。そして、通夜の夜に語ってくれた弥勒さんの母の話もだ。この民話には何かが隠されているような気がした。この民話を調べてみよう、もしかしたら、俺の夢に繋がるかもしれない。民話と俺の夢、同じキーワードを持っている。必ず、繋がっているはずだ。そんな気持ちが胸に涌いてきた。静香の命がかかっているかもしれないのだ。躊躇している場合ではない。
 俺は時計に目をやった。まだ昼まで少し時間があった。静香が来る前に考えておかなければいけない事がもう一つあった。それは夢の事を伝えるべきかどうかだ。俺の夢に出て来る人間が全て自殺している。その中に静香の姿があった。ただの偶然だとはもはや俺には思えない。三人が自殺して、一人が自殺未遂をしている。それも全てがするはずのない人間の自殺だ。静香に伝え所でどうなる訳でもない。逆に不安にさせてしまうだけの可能性も高い。しかし、もしも誰かが意図的に自殺に追い込んでいるとしたら、自己防衛する事が可能かもしれない。俺は大きなため息をついた。静香を守る為に伝える事を決断した。しかし、自殺を追い込んでいる人達がいるとするのならば誰だろう。ふとハジメの通夜であった彼の友人の話を思い出した。ハジメ達が起こしたレイプ事件の事だ。ハジメ、金田紫苑、赤田の三人は事件という接点があった。そして、マスターも目撃者として係わっていた可能性がある。レイプされた少女達、いや一人は自殺をしていると言っていた、が彼等を殺したいと思うのは当然かもしれない。もちろん、彼女達の周囲の者だって同じ気持ちだろう。事件を起こしたハジメ達は有罪にはなったが刑務所に服役もしていない。これでは被害者が納得できるはずがないのは明らかだ。やはり、疑問が残る。彼等の死因が自殺という事だ。呪い。俺の心にまっ先に浮かんだ言葉だ。しかし、確実に呪い殺せる魔術でもない限り無理だ。そんな都合の良い方法があるわけがない。自殺に見せかけて誰かが殺したのか? ダメだ。ハジメは警察の目の前で銃で頭を吹き飛ばしたのだった。やはり自らの意思で死を選んでいるはずだ。やはり、ただの偶然、もしくは全員が事件の事を後悔していて、常に死のうとしていたのかもしれない。兎に角、民話と共にレイプ事件を調べなくてはならないのは間違いなかった。
 龍華に調べてもらおうとメールを送ろうとした時に、誰かが階段を駆け上がる音がした。その足音で相手が静香だとわかった。ドアを開けて満面の笑みをした静香が入って来た。
「待った?」
 当たり前の事を聞いた。約束の時間よりも二時間以上もたっているのだ。静香も分かっていて言っているから、憎めない。俺の顔が自然とほころんでくる。
どうやら、昨日の事は許してくれている様子だ。そんな事でホッとしている場合ではない。とても重要な事を告げなくてはいけないのだ。
「静香に話しがあるんだ。とても大切な話なんだ」
「え、何」
 静香は何かを誤解しているような気がしたが、俺は続けた。
「実は……」
 すぐに言葉が続かなかった。
「実は何よ」
 静香はにやにやしていた。
「実は毎日同じ夢を見るんだ」
「どんな夢なの?」
 静香の方が夢を見ているような顔をしていた。
「俺が殺される夢なんだ」
 俺の答えにあからさまにがっかりした顔をした。静香は深いため息をついただけで、話しは聞く気があるようだった。
「その夢に出て来る人物が俺以外に六人いる。顔が分かっているのが五人」
「それって、先生を夢の中で殺そうとする人?」
「ああ、そうだ」
「見た事のある人なんでしょう」
 静香の勘は鋭い。占師に向いているかもしれない。
「驚かずに聞いてくれよ。夢に出てきたのは、金田紫苑、マスター、ハジメ、赤田なんだ。全員が自殺を企てている」
「へぇ、すごい偶然ね」
「偶然じゃないかもしれないんだよ。夢に出て来るには何かの原因があるかもしれない」
「予知夢か何かって事?」
 俺は静香の問いに小さく何度も頷いた。
「今朝も夢を見たんだ。その夢に静香がでてきたんだ」静香は何も答えなかった。「俺も静香に言った方がいいか悩んだんだ。誤解しないでくれ。これは可能性だ。自殺なんだから、自分から命を絶とうと決めない限り死ぬ事はない」
 語尾に力が入らなかった。不可解な自殺があまりに多すぎるのだ。自殺は本当に自分の意志で行っている死に方なのか俺には分らなくなっていた。自殺者は全て死にたいのだろうか? はっきりと言い切れないのは、そんな疑問が心の中にあるせいだろう。
「私が自殺するとでも思っているの?」
 静香は笑いながら俺の肩をついた。俺はもちろん首を横に振ったが、笑顔になる事はなかった。
「先生はネガティブなんだから! 私には夢があるのよ。先生のアシスタントやるって夢。そして私も占師になって、机を並べて仕事をする。夢を叶えるまでどんな事があっても死なないんだからね」
 静香に打ち明けたのは失敗だった。夢の事を調べにくくしてしまった。俺が必死になって自分の見た夢を分析したりすれば、静香は不安になるだろう。せっかく夢と自殺を偶然だと思いこもうとしている。それを否定する行為を俺はとらなくてはいけないのだ。静香に内緒で夢を調べなくてはならないが、静香を一人にしておく事もできない。自殺してしまう可能性が0ではないからだ。しかし、幸いな事に夢の中のディテールの部分は語っていない。調べる内容も民話だ。夢の内容を解明する作業をするとは静香も思わないだろう。俺はある事を思い付いた。
「ごめんな。変な事を言って。静香が自殺する訳ないよな。俺の言った事は忘れてくれよ。それよりも、俺の仕事は手伝えるのか?」
 俺が思い付いた事は単純だった。静香を巻き込んでしまうのだ。俺と一緒の時を増やす事で静香を守ってあげる事ができるかもしれないと思ったのだ。
「もちろん、オフコースよ」
 同じ意味の言葉を続けて口にして笑っていた。俺はこの笑顔を心から守りたいと思った。
「これを見てくれないかな」俺はパソコンの画面を静香に向けて、龍華が送ってきた民話を見せた。「この民話が本当にあった事かどうかを調べる仕事を依頼されたんだ」
「へぇ、面白そうな仕事ね。例の666って会社からの依頼なの?」
「あぁ」
 俺は曖昧な返事で答えた。実際嘘を言っているのだから多少後ろめたさがあったのだ。静香はそんな俺の素振りに気がつく事はなく、民話に目を通していた。
「それで今から岡崎に調べに行こうと思うんだが、一緒に行けないかな」
 俺の誘いに静香は一瞬戸惑った顔をした。昨日、岡崎のハジメの実家に行く事でもめたばかりだったのだ。読みのするどい静香が岡崎と聞いてまっ先に浮かんでくるのがその事だろうと察しがついた。
「ハジメの実家があるから行くのが嫌だとは思うんだけど、とても大切な仕事なんだよ。手伝ってくれないかな」
 静香は小さく頷いた。それを見て俺はやっと笑顔を作る事ができた。
「良かったよ。昨日の事があったんで断られるかと思ったんだ」
 静香は俺の言葉の返事を微笑みで返した。いつものように飛び跳ねるような元気がなかった事は多少気掛かりだったが、行く場所がハジメの家の近くという事を差引けばそれも仕方のない事だと思った。兎に角、自殺の危険性がある今、静香を俺の近くに置いておく事は非常に重要だ。彼女にとって不本意でもしかたない事なのだ。

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