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Фaust foodコミュのФaust food 6話:絶対バランス?

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 ――喫茶店『ミルフィーユ』。

 南海市グリーンビル地上36階に設けられた飲食店。店内の食品飲料品の値段、味はさることながら、店員のウェイトレスの制服を目的に、休日平日を問わず、男性客が訪れるという。

 すでに12時を回ったこの時間も例外なく、店内には平常通りの『客』や『従業員』が往来していた。

――どういうことだこれは?――

 周囲を見渡したが、36階に存在する店は目前の『ミルフィーユ』のみ。もし、ルナがこの場所にいるとしたら、この店以外にない。

――入るしかないのか? ここに……――

 アキナの心臓の鼓動が、徐々に高ぶっていく。今から、会うというのかルナに……。50人以上も存在する巨漢たちに崇められるほどの実力者。ルナ。ハッタリでない限り、その強さは、アキナが今まで会ってきた人間以上となる。五体満足で帰ってくる可能性は、非常に低いかもしれない。そう覚悟していた。

 その覚悟を、この平穏な場所で使うとは予想にもしなかった。

――冷静になれば、オレがバカだった。作戦も何も練らずに、ラビットのとこにケンカふっかけといて、意外にもチャンスを手に入れたと思って喜んじまった……――

 アキナは自分のこの無能ぶりに、嘲笑するしかなかった。

 そもそもは、自分に知的な戦いなど不向きなのだ。一度行ったヴァルキルプスでの乱闘騒動も、作戦と呼ぶにはあまりに低レベルな内容だった。

「よく生きて帰ってこれたな」

 アキナを世話する冬先生が、傷だらけのアキナが冬先生の診療室に転がり込んできた時に、彼女に言い放った言葉だ。全くである。無謀にもほどがあった。

 だが、あの時はあれでよかった。

 もしも躊躇していたのなら、二人を倒すどころか、返り討ちに合い、今頃はこの場所に立ってはいない。勢いがあったからこそ、出来た所業でもあった。

 そして、その代償が、ミズキを巻き込んだあの事件だ。

 おそらくは、二度と学校には戻れない。必死になって演技をし、素性を隠していたのが全て水の泡と化した。

 ならば、やることは一つ。いずれ実行する計画であった。それが早まっただけのこと――。

「いらしゃいませぇ!」

 制服を着たウェイトレスが、アキナに営業スマイルで会釈をした。

 この中に、ルナが潜んでいる可能性が高い。

 ここまで手の込んだことをしたのだ。不意打ちするのが常套手段。しかし、ここにいる客の中で、どう見てもあの巨漢たちに勝る体格の持ち主は見当たらない。

 華奢な体格の女の従業員と、レジ打ちをする中年の男の主任。客も鼻の下を伸ばす10代や20代の男の若者ばかりで、まれに女性がいるが、カップルで来ているのであって一人で来ている様子のものは見当たらなかった。

――本当に……ここで正しいのか?――

「あの、お客様。お一人でしょうか?」

「え?」

 笑顔で話しかける女性店員に、ハッと我に戻り、戸惑った。

「ええっと、あの」

「お連れの方は?」

「あ、そうだ。ルナって方はいますか?」

 そこでアキナは自分の発した単語に、気付いた。ここの従業員にそんな事を聞いて、答えが返ってくるわけがない。間抜けな質問だ。急に恥ずかしくなり、アキナは口を押さえ、「ごめんなさい」と謝った。

 咄嗟ではあったが、先ほどのように乱暴な言動では、帰って目立ってしまう。目立たぬよう、いつも『女性らしい言動』を練習してきたアキナが、いつものクセのようにすんなりとやってのけた。

 まさか、これから血で血を洗うかのような戦いが始まるというのに、どうも調子が空回りしているようにアキナは感じ、歯痒く感じた。

「ルナ……ああ、あれですか」

「え?」

 店員の意外な反応に、アキナは眼を丸くした。

「ご存知なのですか?」

「わかりました。こちらどうぞ」

 そう言って、ウェイトレスは窓際のテーブルにアキナを案内した。

「こちらでお待ち下さい。時間通りには来ると連絡があったので」

「時間通り?」

「すぐ来ますよ。待っている間、何かお飲みになられますか?」

 テーブルの椅子に座るアキナは、数秒、呆気に取られていた。拍子抜けもいいところ。相手がこちらを待ち構えていると踏んでいたのが、まさか待たされるとは思いもよらなかった。

 もし、この店員がルナの弟子の一人であるなら、凄んでみせれたものの、それができない。それに対し、アキナはまたもや歯痒く感じた。

「じゃ……アイスコーヒーを」

「わかりました」

 頭を小さく下げ、手持ちのボードでさらさらと書く注文の品を書いたウィトレスが、ささっとアキナの座るテーブルから去った。

 よくよく見ると、ここの店員の制服は、アキナの制服に類似した点が多かった。いや、むしろ規格は一緒ではないかと、一度見比べてみると、ウェイトレスが着ているのが白で、アキナが黒なだけの、色違いだけであって、デザインは同一のものであった。

「ここの制服だったのか……」

 胸元のブラウスを指先でつまんで生地を確かめるアキナが、ハッと視線を感じ振り向くと、何人かの男性客がアキナに注目していた。誰もが鼻の下を伸ばし、ほぉっと小さく声を上げるものもいた。

――くそったれが、何が楽しくてこんな目に合わなくちゃならん――

 睨みを利かして相手を萎縮するのは容易なことである。が、それをやっては目立ってしまう。なるべく穏便にこの場を凌がなければ、次に待ち構える戦いに不祥事を期してしまう。

 顔の筋肉がピクピクと脈打つが、作り笑顔でアキナは返した。

「おー可愛いじゃんあの子」

「どうする誘う? 一人っぽいし」

 そんな声が聞こえてきた。まずいな。相手にしたつもりはないが、目をつけられてしまったようだ。こういう時、老若男女問わずアキナは思う。バカは何も知らずに本当に羨ましい、と。

「君、一人なの?」

 最初に声をかけてきたのは、金髪に髪を染めた20代前半の男であった。

「あ、あの。ちょっと人と待ち合わせていて」

 アキナはいつもの演技で女の子らしい声色で対応した。

「あ、そうなの? じゃーさー、その連れが来るまでここにいていい?」

 ずけずけとアキナの目の前の席に座り、向かい合わせとなった男がニッと歯を見せた。

 いかにも女をナンパするのに手馴れたイメージのこの男は、肘をテーブルに置き、アキナにズイっと接近するように顔を近づけている。

 この男の顔は、どこか見たことあるような形であるが、それは知り合いという意味ではなく、テレビや映画などで出演するイケメン系のアイドルに似ている。おそらくは、半分はフェイク。作っているモノと思われる。こういう顔をした男に、ろくな人間はいない。しかも、今は非常時でもある。

 いっそのことぶん殴って追い払おうかと考えたが、周囲を見ればそれができぬことをアキナはすでに知っていた。

「名前は?」

「えと、須藤です」

「苗字じゃなくてさー。下の名前だよ」

「えっと……アキナです」

「アキナちゃんかぁー。いいねぇー。年は?」

「16」

「16? うそ? 全然見えないなぁ? もうちょっと大人かと思った」

 この男。おそらくはアキナを口説いて、どこかしらに連れ込もうという魂胆が見え見えである。アキナが見た目どおりの少女であるなら、この男の口車に乗せられていたかもしれないが、現実は違う。顔は笑っているが、その腹の中ではこの男の顔面に素拳をぶち込みたくてウズウズしていた。

 実際に半殺しにするのなら、この場から一度離れなければならない。どこか人目のつかない場所に誘い出し、蹴るなり殴るなり、間接を極めるなり、好き放題できる。が、今はルナとの待ち合わせを優先せねばならない。とにかくこの場から動いてはならない。動けないのだ。

 どうにか、このウルサイ蝿男を追っ払わなければ、調子が狂わされてかなわない。もし今ルナからの襲撃を受ければ、一たまりもない。

 どうするべきか――。考えたアキナが取った行動は、こうだった。

「あの……ちょっと」

 手招きするアキナが、自らも前のめりになり、顔を近づけた。

「ちょっとご相談があるんですけど」

 鼻息が間近で感じるこの至近距離から、アキナはボソッと男に耳打ちした。

「え? 何々?」

 半ば興奮したかのように男が声を弾ませると、男の口元が下品な『笑み』が一瞬で崩れ、歪んだ。

「ああ! い、い!」

「このまま耳引きちぎられたくなかったら、さっさと消えな」

 男の耳たぶ親指と人差し指でつまみ、下に引っ張るアキナが、痛さに悶絶する男のに言った。

「痛い! 離して! 離して!」

「デケェ声出すな。テメェ男だろうが」

 ポイッと指を離し、椅子の背もたれにアキナは体重を預けた。

 男は慌てて立ち上がり、そそくさと店の外へと逃げた。店員が「またのお越しを」と男の背に向かって声をかけていたので、代金はすでに払ったようではあった。

「あーあ。折角のお客さんが逃げちゃったじゃない…」

 気分を害せられ、不機嫌となるアキナがふと見上げた。

「あれ?……あんた」

「二度目だったかな? 須藤明菜さん」

 そこには、アキナが知り合いとして知っている顔の人間が立っていた。

To be continued...

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