ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

私の勉強部屋コミュのPDF 日本の外国為替市場介入と外貨準備管理の問題点 熊倉正修(大阪市立大学大学院経済学研究科・教授)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連―外貨準備金とは何ですか? ODAとは?教えて! #mixi_diary http://open.mixi.jp/user/110966/diary/1958175704

これ読んでる限りだと外貨準備管理に税金使ってるってことだよなあ。



https://www.komazawa-u.ac.jp/~kumakura/papers/12nov.pdf

日本の外国為替市場介入と外貨準備管理の問題点
熊倉正修(大阪市立大学大学院経済学研究科・教授)

要約
わが国では通貨当局が円高対策として大規模な為替介入を行うことに肯定的な意見が多い。しかし現行の外国為替資金特別会計では経済原理と相容れない経理が行われ、短期債務と純負債を増加させながら他の政府会計に資金が融通されている。

また、介入による外貨準備の巨額化にも関わらず、その運用状況の情報開示が十分でなく、国民の資産が望ましくない目的に利用されるリスクが高まっている。

さらに、わが国では政府が独自に為替介入の判断を行っているにも関わらず、その費用の相当部分が日銀によってファイナンスされ、後者の財務環境の不安定化や政府との関係悪化をもたらしている。

わが国において他の先進国並みのガバナンス体制が確立された場合、現行のような円売り偏重の巨額介入は困難になる可能性が高い。

コメント(32)

.
はじめに

わが国は主要先進国の中で最も外国為替市場介入に積極的な国として知られている。

過去20年間に日本政府が行った為替介入のほとんどは円売り・外貨買いであり、近年になるにつれて一回の介入額も増加している
(図1)。

自民党政権時代の末期に一時的に為替介入が停止された時期もあるが、政権交代後に再び活発化し、
2011年10月31日には過去最大の8.1兆円のドル買い介入が実施されている

これまでの為替介入の結果、わが国の公的外貨準備は1兆ドル超に膨れ上がり、しかもそれらに巨額の為替差損が発生している。一方、他の主要先進諸は1990年代までに為替介入がほとんど行われなくなり(1)、外貨準備の残高も低位で安定している(表1)。

しかしわが国において円売り偏重の為替介入や外貨準備の累増を問題視する声は少なく、むしろ政府や日本銀行に対していっそうの円安誘導策を求める意見が多い(2)



2
これまでの為替介入の結果、わが国の公的外貨準備は1兆ドル超に膨れ上がり、しかもそれらに巨額の為替差損が発生している。一方、他の主要先進諸国では1990年代までに為替介入がほとんど行われなくなり(1)
、外貨準備の残高も低位で安定している(表1)。

しかしわが国において円売り偏重の為替介入や外貨準備の累増を問題視する声は少なく、むしろ政府や日本銀行に対していっそうの円安誘導策を求める意見が多い(2)


一見すると、わが国と欧米諸国の為替政策の違いは輸出の重要性や為替介入の効果に関する当局の見
解の違いを反映しているように思われる。

しかし次節以下で解説するように、わが国では政府の外国為替資金特別会計が円売り介入を行いやすい構造にな
っている上に、日本銀行も政府の通貨政策に協力せざるを得ない状況に置かれている。通貨当局が極端
な為替変動を抑えるために外国為替市場に介入するのはおかしなことではないが、わが国の通貨政策の
制度環境が適正なものに改められた場合、現行のような大規模介入を続けることが可能かどうかは疑問
である。

本稿ではこれらの点を解説し、今後のわが国の通貨政策のありかたを議論する。
2.外国為替資金特別会計の経理

諸外国では中央銀行が為替介入や公的外貨準備の管理を担当しているケースが多いが、わが国では政
府の一部局である財務省が為替介入の判断を行い、円売り介入によって購入した外貨も財務省が運用し
ている(3)。

わが国の中央政府には為替介入に係る資金の出入りを管理するために外国為替資金特別会計(外為特会)という
特別会計が設けられている。

特別会計とは、国が特定の事業を行う場合や特定の資金を運用する場合、その収支を明確化し、事業運営
や資金管理の透明性と効率を高めるために設置されるものである。しかし現行の外為特会には、(1)経
済原理を無視した経理が行われている、(2)外貨の運用状況が十分に開示されていないという問題があ
る。

本節と次節ではこれらの問題について解説し、それが為替政策にどのような影響を与えているかを考察する。
図2のパネル(A)は外為特会のバランスシートを模式的に描いたものである。

財務省が円売り介入を行う場合、外為特会から外国為替資金証券(為券)と呼ばれる満期3カ月前後の政府短期証券(Financing Bills、FB)を発行して売却用の円資金を調達する。

したがって負債側の大半は既発の為券によって占められている。

FBは各会計において生じる一時的な歳入と歳出のずれをブリッジするために発行される融通証券であり、本来は年度末までに償還されるべきものである。

ところが為券に関しては償還日を迎える度に新たな為券を発行してロールオーバーすることが常態化し、その残高が累増を続けている。

なお、中央政府が発行する短期債(満期1年以内の債券)には、FB以外に中長期債の償還や借り換えを円滑化するために発行される割引短期国債(Treasury Bill、TB)がある。様々な政府会計から発行されるFB
やTBは金融商品としてほぼ同一の性質を持ち、中には償還期間が同じものもある。

そこで2008年からこれらは国庫短期証券(Treasury Discount Bills、T-Bill)の名で一括して販売されている。
パネル(A)の資産側の過半は外貨資産によって占められているが、それ以外に外国為替等繰越評価
損と円貨預け金という重要な項目がある。

外為特会では為替変動等によって生じる保有資産の時価の変化を年度末の損益計算に反映させず、それらを含み損益のままバランスシート上に累積させている。したがって、パネル(A)では外貨資産がおおむね保有外貨の時価、外貨資産と評価損の和が簿価に相当する(4)。

本稿の執筆時点で最新の2010年度決算資料では、外貨の時価が79.7兆円、評価損は34.8兆円だった。

その後の円高により、2011年度末の評価損は40兆円前後に増加していると思われる。

図2のパネル(B)は各会計年度末の損益計算書の構造を表している。ここに外貨資産の評価損益は含まれないから、支出の大半は為券の借り換え費用、収入の大半は外貨資産の利息収入によって占められ
ている。

為券が短期債、外貨資産の大半が満期数年超の中長期債であることから、収入が費用を上回ることが事実上約束されている。政府会計では両者の差額が剰余金と呼ばれている。
ただしここで注意すべきなのは、上記の剰余金が確定した利益ではなく、計算上の超過収益にすぎな
いことである。財務省は外貨準備の運用収入を円に兌換して持ち帰ると円高を招くという理由から、これらをすべて外貨のまま再投資している。

したがってパネル(B)の収入はパネル(A)の外貨資産を増加させるだけで、他の目的には利用できないものである。


ところが財務省は上記の剰余金を実現益であるかのように扱い、毎年度の決算後にそれを処分してい
る。と言っても処分すべき現金は存在しないから、それをどこかから調達してくる必要がある。そこで
財務省は既発の為券のロールオーバーに必要な(B)の支出分に加え、剰余金相当額の為券を新たに販売
し、必要な現金を調達している。

したがって仮にある会計年度中にまったく為替介入が行われなかったとしても、翌年度には外為特会のバランスシートがパネル(B)の収入分だけ必ず増加する。

また、資産の大半が外貨建て中長期債、負債が円建て短期債であることから、いわゆるダブル・ミスマッチが発生し、それが時間とともに拡大する構造になっている。
それでは上記の方法で調達した剰余金は何に使われているのだろうか。パネル(A)に示されている
ように、外為特会のバランスシートには積立金が設けられており、1980年度まですべての剰余金がいったんそこに繰り入れられていた。

しかし先の説明から分かるように、これは実現益を留保して積み上げた資金ではなく、新たに負債を発行して集めた借金にすぎない。

また、この積立金はすべて他の特別会計である財政投融資特別会計(正確には財政融資資金)に預託され、しかもその過半が約定期間7年超の長期預託とされている。したがって、これらは財投機関が自ら長期債を発行して調達すべき資金を外為特会が短期負債を負うことによって肩代わりしているものだと言える。本稿の執筆時点でこれらの積立金と預け金は20兆円強に上っている。
さらに問題なことに、1981年度以降、外為特会の剰余金の一部が翌年度以降の一般会計歳入に繰り入
れられるようになった。その後、剰余金の一般会計繰入比率はしだいに高められ、2009年度には積立金
の積立が停止されている。

2010年度の場合、決算剰余金2.98兆円のうち2.70兆円が翌2011年度の一般会計歳入に繰り入れられ、残りが2012年度の歳入に算入されている。上記の2.70兆円は2011年度当初予算の歳入の6.6%を占め、酒税とたばこ税の合計額よりも多い。

図3

は過去四半世紀余りの為券の発行残高と積立金の残高、一般会計繰入額の累計値の推移を示したものである。

2011年度末時点で為券の発行残高が122.5兆円だったのに対し、積立金と繰入金の累積値の和は53.3兆円に上っていた。両者の差額の中に
は過去に剰余金処分を行うために発行した為券の借り換え費用も含まれているから、今日の為券残高の
中で為替介入のために発行されたものは半分強にすぎないことになる。
外為特会の剰余金処分は一般会計や財投特会が実質的に短期債によって経常経費や長期投融資資金を
賄う手段になっているだけでなく、経済学的にもナンセンスである。

金利裁定の原則によると、同じ満期の円とドルの金利の間にはドルの金利−円の金利=円のドルに対する予想増価率
という関係が成立する。この式の左辺は概念的に図2の剰余金に相当し、右辺は評価損の増分に相当す
る。

すなわち外為特会の剰余金と評価損益は独立に決定しているわけではなく、どちらかが増加すれば
他方も増加するという関係にある。ところが現行の会計では左辺のドルを中長期金利、円を短期金利と
することでフローの収益を嵩上げし、右辺の評価損はバランスシート上に累積させたまま放置している。

なお、上式の右辺を事後的に観察された為替レートの増価率に置き換えた場合、短期的には等号関係
が成立しない場合が多い。

これは短期的には右辺の為替レートの変動が大きいためである。しかし対象期間を長くとればとるほど一時
的な為替変動が相殺され、上式は事後的にも成立しやすくなる
3外国為替資金特別会計と通貨政策


現行の外為特会の会計規則は財政の健全性の観点から問題であるだけでなく、為替介入や外貨準備の管理
方法にも好ましくない影響を与える可能性がある。

わが国の外為特会では諸外国の同種のファンドに比べて情報開示が不足しており、そのこともこれらの問題を深刻化させる可能性を孕んでいる。

本節ではこれらの点を検討する。


外為特会の経理に問題があると言っても、今日の一般会計では税収が歳出総額の半分にも達しておら
ず、外為特会からの繰入金は不可欠の財源になってしまっている。

したがって政府(財務省)としては現行の繰入金を維持するだけでなく、できればそれを増額したいと考えているはずである。

図2(B)

において剰余金は収入と支出の差額だが、為券の落札利回りはすでに0.1%前後まで下落しており、支出削減の余地はほとんど残されていない。

一方、収入を増加させるためには、外貨資産の残高を増やすか、その収益率を高める必要がある
短期間に外為特会の保有外貨を増やすには、いっそう大胆な円売り介入を行うことが必要となる。

財務大臣が為替介入を指示する際にそのようなことを考えているわけではないだろうが、現行の制度の下では、円売りに偏った介入を行えば行うほど、そして外貨の運用収入の再投資をくり返せばくり返すほど、外貨資産の残高が増加する。

逆に長期的な為替レートの動向に中立であろうとして円売り介入と円買い介入のバランスをとったり、為券を償還するために外貨の運用益を円に兌換したりすると、外貨準備が減少し、一般会計への繰入金も減少する。

このような環境の下では、時間が経つにつれて円買い介入がやりにくくなるはずである。
一方、外貨準備の残高を増やさずに収益を増やすためには、それらをより積極的に運用する必要がある。

財務省は2005年に「外国為替資金特別会計が保有する外貨資産に関する運用について」という文
書を公表し、「安全性と流動性に最大限留意した運用を行うこととし、その範囲内で可能な限り収益性を
追求する」という方針を掲げている。

しかし安全性や流動性と収益性は本質的にトレードオフの関係にあり、前者を維持したまま後者を高めることはできない。

また、ここ数年は欧米諸国の超金融緩和策によってこれらの国々の金利が急落し、放っておくと運用収入の激減が避けられない状況になっている。

そのため、財務省は外貨準備の運用方法を再考せざるをえない状況に置かれている
が、情報開示が乏しく、どのような運用が行われているのかを把握することが難しい。
表2は外為特会と日銀の財務資料などをもとに、わが国の外貨準備の運用状況を整理したものである
(日銀保有分に関しては後述)。外為特会の保有資産の内訳を見ると、ここ数年、流動性が高く収益率の
低い預金の比率が大幅に圧縮され、証券(債券)への投資比率が高められている(5)。

また、外債の中でも相対的に利回りの低い残存期間1年未満の短期債の比率が引き下げられ、保有
債券全体の平均残存期間が引き上げられている。このような措置を行い、

しかも為替差損を無視しているにも関わらず、外貨資産全体の運用利回りは1%以上も低下している。
上記の財務省の文書によると、外為特会の外貨は「必要とされる通貨ごとに、流動性・償還確実性が
高い国債、政府機関債、国際機関債及び資産担保債券等の債券や、外国中央銀行、信用力が高く流動性
供給能力の高い内外金融機関への預金等によって運用する」ものとされている。しかし「必要とされる
通貨」とはどの通貨なのか、どの国のどのような資産に投資しているのかといった情報は開示されてい
ない。

今次の世界金融危機の直接的な引き金となったのは、アメリカの不動産バブルの崩壊と住宅ローン担保証券(Mortgage Backed Securities、MBS)市場の機能不全だった。金融危機が顕在化するまで、アメリカの政府系住宅機関が発行した債券やこれらの機関が組成したMBSは通常の政府機関債と同様の低リスク資産だと考えられていたから、財務省もそれらに投資していたと考えることが自然である。

しかし同省はその後もこの点に関して一切説明しておらず、説明する義務すら負っていない。

また、その後に欧州の債券市場が深刻な混乱に陥ったが、日本政府がどの国のどのような政府債を保有しているかも報告されていない。
ただし財務省が外貨準備を高リスク資産に投資して収益を増やそうとすることは決して不思議ではな
く、むしろそれが行われない方が不自然である。わが国のような変動為替相場制の採用国では通貨当局
が特定の為替レートを維持する義務を負わないから、もともと多額の外貨準備を保有する意義は乏しい。

そのような国が無計画な為替介入によって大量の外貨を抱え込んでしまうと、政治家や国民の注目が集
まり、その「積極的運用」や「戦略的活用」を求める声が高まりやすい。

このような傾向は最近の外為特会にも表れている。

たとえば2007年度から公表されている「特別会計の財務書類」によると、外為特会が保有する外貨
証券の1割近くが恒常的に外部に貸し出されている(表2)。

また、IMF基準様式にしたがって公表されている「外貨準備等の状況」を見ると、2005年から2008年にかけ
て「securities lent orrepoed」「securities borrowed or acquired」の残高がともに急増している(6)。

財務省はこれらの取引に関して何ら説明していないが、その大半はレポ取引(債券貸借取引ないし現先取引)だと思われる(7)。

高格付けの国債等を大量に保有する主体がレポを行う場合、債券の販売代金や担保金を信用度の劣る(又は償還期間の長い)他の資産に投資してリターンを高めることを意図している場合が多い。
諸外国の通貨当局の中にもこのような取引を行っているケースは少なくない(McCauley and Rigaudy 2011
)。

アメリカの債券レポ市場の参加者の間では債券の売却資金を元手に他の債券を購入し、それを再びレ
ポに出すことによってレバレッジを高めることが行われている。

ニューヨーク連邦銀行が報告しているレポ市場の主要参加者のリストを見ると、債券の出し手、資金の出し手とも欧米系の民間金融機関がほとんどだが、後者の中に例外的に日本の財務省が含
まれている(Copeland et al. 2010)。このことと上記の「外貨準備等の状況」から判断すると、財務省はドルのレポ市場に売り手と買い手の両側から積極的に参加していると思われる。

この種の取引においてはclearing houseと呼ばれる中継銀行に債券の販売代金や担保金の運用が任され、資金の所有者が運用状況を十分に把握していないことも少なくない(McCauley and Rigaudy 2011)。

外為特会の外貨の「戦略的活用」の他の例として、国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation
、JBIC)を通じた民間企業への貸し付けが挙げられる。

近年、わが国の政府関係者の間で政府系ファンドの設立等を通じた外貨準備の活用を求める声が強まっており、JBICへの融資はこのような要望に応えたものと言える。表2の外為特会の欄では「外貨貸付金」がJBICへの貸付を表している(8)。

わが国のような先進国が政府系ファンドを持つべきか否かに関しては論者によって意見が分かれるだ
ろうが、外為特会の外貨はもともとこの種の融資を意図して買い集めたものでない。

また、JBICは形式的には株式会社だが、全株式を政府が所有する事実上の政府機関であり、融資の大半は政府の財政投融資の一部を構成している。したがって上記の貸し付けは先に言及した外為特会の積立金と同様に、本来JBICが自ら外貨建ての長期債券を発行して調達すべき資金を、外為特会が短期の円資金をドル転し
て融通するしくみだと言える。

将来これらの融資が焦げ付いても表面に現れない形で処理が行われ、外為特会への返済が滞ることはないだろう
が、
「安全性
と流動性に最大限留意した運用を行う」はずの資金
が実質的に高リスク、低流動性の投資に向けられつ
つあることに注意が必要である

9

4
.
日本銀行への影響
次に、政府の通貨政策を日銀の立場から捉え直し
てみよう。
わが国において財務省が為替介入を担当
していることは、一見すると日銀が為替変動に気を
とられずに金融政策に専念できる点で望ましいよう
に思われる。しかし現実に行われていることを具に
観察すると、そのような理解が表面的なものにすぎ
ないことに気付く。日銀は金融政策に関して一定の
独立性を付与されているが、政府や財政当局の意向
を無視して行動できるわけではない。財務省が不適
切な通貨政策を実施し、日銀がそれに沿って行動し
た場合、後者の金融政策や財務管理にも望ましくな
い影響が及ぶ可能性がある。
上記の点に関連してまず指摘すべきこ
とは、財務省が独自に為替介入の判断を行っているにも関わら
ず、日銀がその費用の一部を負担することを余議なくされてい
ることである。

前節で財務省が為券の発行によって円売り介入の資金を賄っていると述べたが、
それは必ずしも為替介入の費用や外貨準備の維持
コストを政府がすべて負担しているという意味で
はない。
図4は政府短期債の残高の推移を保有主体別にプロットしたものである(2008年まではFBのみ、その後は
T-Bill全体の値、政府関連機関による保有分を除く)。

1998年まではFBの発行利回りが人為的に公定歩合を下回る水準に設定され、日銀がその大半を直接引き受けていた。その後、FBやTBは市中販売が原則となったが、今日でも日銀が流通市場で購入して保有するT-Billの残高は10−20兆円前
後に上っている。

本稿の執筆時点では邦銀等の日系金融機関だけでなく、在日外国銀行や海外投資家も積極的に
T
-
Bill
の入札に応じているが、今後もこの
ような状態が継続する保証はない。現時点で在日外
銀や海外投資家の間で
T
-
Bill
の人気が高いのは、欧
米金融市場の混乱に加え、日本国債の格下げが相次
ぐ中、リスクの大きい長期国債から短期債へのポー
トフォ
リオ・シフトが行われているためである。
今後、日本の財政に対する信頼が本格的に揺らい
だ場合、在日外銀や海外投資家はこれらの短期債を
売却して国外に資金を移動させることを躊躇わない

ろう。その際には一時的に円が減価する可能性が
高いため、政府が外貨準備を取り崩して円買い介入
を行い、それによって集めた資金
を用いて売却された短期債を繰り上げ償還してしまうことができるか
もしれない。しかし外銀や海外投資家が保有する政
府債は発行済み公債の一部にすぎないから、その後
に国内の金融機関がどのような行動をとるかが問題
になるだろう。
政府債券のリスクプレミアムが上昇した場合、残
存期間が長い長期債ほど市場価格が大きく下落する
はずだが、これらの長期債の中で政府が直ちに償還
する必要があるものは一部にすぎない。

また、大量の長期国債を保有する邦銀等がそれらを売却すると
莫大な損失が確定してしまうため、直ちに投げ売り
が発生する可能性は必ずしも大きくないかも知れな
い。しかし為券は一年間に何回もロールオーバーが
必要な超短期債である。

円安が続けば外貨準備を売
却して償還資金を捻出することも可能だが、金融不安が高まる局面では国内金融機関が海外から資金を
引き揚げ、逆に円高が発生する可能性も考えられる。
邦銀等が現在のような低利で為券のロールオーバー
に応じなくなった場合、それを買い入れることがで
きるのは日銀しかなく、実質的に日銀が政府の為替
政策をファイナンスする状況が再現してしまう。今
後、政府が無計画な円売り介入を繰り返し、為券の
市中残高がいっそう膨めば、このような事態が発生
する可能性は高まるだろう。
政府の通貨政策が日銀に与える他の影響として、日銀の財務
状況の不安定化とそれによる政府や国会との関係悪化も指摘できる。

表2において見たよう
に、わが国の外貨準備の大半は外為特会が管理して
いるが、日銀もその一部を保有している。為替介入
の義務を負わない日銀が外貨を所有していることに
は、過去の政府の為替介入が深く関与している。

為券には毎会計年度の予算において上限額が定められ
ているが、既発債の残高が増えるたびに発行枠を引
き上げてきているため、実質的には形骸化している。
しかし財務省(および旧大蔵省)は過去に何度かこ
の緩やかな発行枠にすら抵触する巨額の円売り介入
を行ったことがある。その際、財務省は買い戻し条
件付きで日銀に外為特会の外貨を売却し、介入用の
円資金を融通させた。

これらの外貨は後に買い戻されたが、その間に発生した利息収入が日銀のバラン
スシート上に残され、それを売却せずに再投資して
きたことにより、これだけの外貨が積み上がったの
である(Idesawa 2007)。
現時点で日銀が保有する外貨は
5兆円前後にすぎず、外為特会の保有分に比べると微々たるものだが、
これだけでも他の先進諸国の外貨準備総額に匹敵す
る(表1)。

日銀がなぜこれらの外貨を売却してしま
わなかったのかは分からないが、為替介入が政府の
専管事項とされ、財務省がいったん購入した外貨を
利息も含めて一切売却しないという方針を貫いてい
る以上、それに倣って再投資をくり返す方が無難だ
と考えたとしても不思議ではない。
ただし外為特会と異なり、日銀は時価会計の原則
にもとづいて毎期の決算を行っている。今日では世
界的に時価会計が浸透しつつあり、中央銀行が民間
金融機関に対して健全な財務管理を求める立場にあ
ることを考えると、これは当然である。しかし日銀
が相当額の外貨を保有しつつ時価ベースで損益計算
を行った場合、収益が不安定化することが避けられ
なくなる。日銀も決算剰余金の大半を国庫に納付
しており、それは翌年度の一般会計歳入の一部になる。

日銀の納付金も事前に予算に組み込まれているため、
それが予定額を大きく下回ると、一般会計の資金繰
りに無視できない影響が及ぶことになる。
表3の上段は、近年の日銀の年度末決算における
外貨資産収益と剰余金、国庫納付金の推移をまとめ
たものである。それによると、為替レートが大きく
変動する年には外貨資産の収益が数千億円も
変動し、決算剰余金と国庫納付金に相当の影響が発生してい
る。

とりわけ2010年度には欧米諸国の金融緩和に
よる金利収入の減少と円高が重なったため、決算剰
余金が対前年度比で約86%
も減少し、国庫納付金が予定額を2,400
億円余りも下回る結果となった。
上記のような事態は日銀が政府の通貨政策を尊重
しながら正常な会計を行えば必然的に生じることだが、
2010年度の決算報告が東日本大震災の復興財源
をめぐる議論が本格化する中で行われたこともあり、
政治家の批判を浴びる結果になってしまった。

たとえば、参議院財政金融委員会は
2011年7月に決議を行い、「保有外貨資産の為替差損等により平成二十
二年度の日本銀行の国庫納付金が予算額を大きく上
回ったこと等を踏まえ(...)、日本銀行も適切な資産
管理や効率的な業務運営を行いつつ、外貨資産の保
有リスク及びリスク管理の在り方について検討す
る」よう命じている(10)。
しかし表3下段に示されているように、外為特会では2008年度から2010年度にかけ
て毎年10兆円前後の為替差損が発生している。

それにも関わらず国会議員の間で外為特会の運営が問題視されていな
いのは、為替差損を実現させずに放置しているから
にすぎない。

仮に財務省が巨額の円売り介入を続け
ながら日銀同様の決算方式に移行した場合、その一
般会計への影響は日銀のそれとは比べ物にならな
ほど大きくなるはずである。

日銀が2010年度のような事態を回避するために
は、外貨を売却するか、デリバティブ等を用いて為
替リスクを厳格に管理する必要がある。

ところが日
銀は2012年5月に「保有外貨資産の管理に関する
見直しについて」という文書を発表し、「今後は、従
来以上に安全性と流動性を重視した管理を行うこと
が適当との結論に至った」と述べながら、「近年、経
済のグローバル化が進展する中にあって、わが国の
企業が拡大するグローバル需要を取り込んでいくこ
とは、わが国経済の成長基盤を強化するうえで重要
となっている」として、「成長基盤強化に資する外貨
建て投融資を対象とした米ドル資金供給の円滑な遂
行に備える」という方針を掲げている。そして翌6月には
その具体策として、既存の貸出制度の一つで
ある「成長基盤強化を支援するための資金供給」に
米ドル建て融資のスキームを追加し、10月に初回の
貸付を実施している。
上記の米ドル資金供給スキームは、借手の金融機
関を通じて民間事業会社の対外投資等をファイナン
スするという意味で、先述した外為特会の対JBIC
融資と同じ性質のものである。

前節で述べたように、通貨当局が無計画な為替介入によって必要以
上の外貨準備を抱え込んでしまうと、政治家やマスコミの
間でその「戦略的活用」を求める声が強まり、それ
にいつまでも抵抗していると自己の組織に悪影響が
及ぶ可能性がある。

日銀の場合、毎会計年度の予算や決算が財務大臣の認可事項であることから、国庫
納付金の変動は国会議員だけでなく財務省からの干渉を招く原因にもなる。

日銀が外貨を売却するどころか、逆に高リスク・低流動
性の融資の開始を決断した背景には、このような配慮も作用していたと推
察される
5 今後の通貨政策のありかた

前節までの分析にもとづき、本節ではわが国の通

政策の制度環境をどのように改革すべきかを検討
する。本節における重要なポイントは、これらの改
革はそれ自体不可欠なだけでなく、それが行われた
場合、為替介入の規模や頻度にも少なからず影響が
生じると思われることである。
第一に改革が必要なのは外為特会の会計制度であ
る。

第2節で解説したように、現行の会計制度の下
では、(1)外為特会が必然的に債務超過に陥り、時
間とともにそれが増加する、(2)為替介入の有無に
よらずバランスシートが拡大し、それに伴って資産
と負債のダブル・ミスマッチが深刻化するという問
題がある。

このような状況が長期的に維持可能でな
いことは明白である。

それでは、どのように外為特会を運営すれば上記
の問題を解消できるだろうか。一つの方法として、
毎期に完全な時価会計にもとづく決算を行い、利益
は直ちに一般会計に繰り入れ、損失は直ちに一般会
計から補填することが考えられる。しかしそれでは
事実上外為特会と一般会計を一体的に運営すること
になり、前者を特別会計化する意義が失われてしま
う。

第2節で指摘したように、適切な為替介入は正の収益
を生むはすであり、一般会計からの補填など
行わずとも、外為特会を債権超過の状態に保つこと
は可能なはずである。
為替介入に関する資金の出入りを独立のファンド
によって管理する場合、原理的には図5
のような運営方法が望ましい。

最初に為券を発行して円売り介入を実施し、
購入した外貨を何らかの資産に投資したとしよう(A)。

為替介入が適切なタイミングで行われていれば、外貨資産と為券の残存期間が同一で
あっても、早晩含み益が発生するはずである。それ
が十分に大きくなった時点で純益分の外貨を売却し、
それによって得た円を用いて為券を償還すれば、真
の準備金を持つことが可能となる(B)。

この準備金は含み益に過ぎないので、その運用方
法を考える必要はなく、他の政府会計に資金融通を行う原資にも
ならない。

上記の手続きをくり返せば、いずれは準備金の外貨準備に対する比率が十分に高まり、その
後は短期的に為替レートが変動しても外為特会が債務超過に陥る事態は発生しなくなる
(C-1およびC-2)。

なお、図5では便宜的に(B)以下でも一定
の為券発行残高を残しているが、理論的には十分な
外貨を保持しながら為券をすべて回収してしまうこ
とも可能である(11

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

私の勉強部屋 更新情報

私の勉強部屋のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング