DEATH NEETコミュのpage.4 策謀

『夜神ニート更生対策本部』

　墨痕鮮やかな表札を前にして、夜神総一郎は暫し躊躇った。

　この古ぼけた民家に、都市伝説とさえ考えられていた天才カウンセラーＬがいる。ここに入れば、もう後戻りはできないのだ。呼び鈴を押そうとする指が震えた。
　一緒に来た友人の相沢雷電が総一郎の肩にそっとヒゲを置いた。
「行こう、夜神。家族を取り戻すために」
「……そうだな。ありがとう」
　深く息を吸って、呼び鈴を鳴らした。

「はぁい」
　思いがけない幼く明るい女性の声に総一郎は一瞬うろたえた。
「あの…私はですね」
「夜神総一郎様ですね。お待ちしておりました。どうぞ奥へお進みください」

　格子戸がカラカラと横に滑って、総一郎たちをいざなう。
　掃き清められた踏み石の先に、美しい少女が佇んでいた。

「君は…？」
「麻耶と申します。Ｌの身の回りのお世話をさせていただいている者です。どうぞこちらへ」

　少女が案内にたち、夜神たちは離れの一室に導かれた。
「先生、お連れいたしました」
「うん」
　部屋の奥から頭をくしゃくしゃにした若い男が飄然と歩いてくる。
　まさかこの男が？これまで幾多の難事件を解決してきた天才カウンセラーにはとても見えないが・・・。総一郎の戸惑いをあっさり無視して、男は口を開いた。
「わたしがＬです」
「はじめまして、夜神です。・・・しかし、正直こんなに若い方だとは思っていませんでした。経歴から、もっと初老の男性を想像していたのだが」
「若すぎて不安になりましたか」
「い、いや、そういうわけではない！あなたの力を確信しているからこそ、ここまで来たのです！風の強い日にションベンしたらズボンにかかるってことと同じくらい確信しているッ！そこのところをわかっていただきたいッ！」
「・・・・ところで夜神さん。欲望と快楽の違いをご存知ですか？」
「え？いや・・・どちらも同じものではないのか？」
「欲望とは換言すれば他人の欲望の模倣です。一度充足してしまえばまた次の欲望が生まれ、結局は無限に追い続けるものです。快楽は『快楽の追求の過程』にこそ喜びがあるのですよ」
「すまない。よくわからないのだが」
「簡単に言えば『欲望』は自慰、『快楽』は恋愛であるともいえます。恋愛がニートを確実に人間的に成長させ！確実に社会復帰させるのです！そうコーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実にッ！」
「いや、しかし、こう言ってはなんだがウチの息子にはそもそも女性と出会う機会自体ないのだが・・・」
「ご心配なく。麻耶、こちらにおいで」
「はい」
「彼女は…？」
「彼女こそが我々の切り札。北斗神拳の『夢想転生』、飛天御剣流抜刀術でいう『天翔龍閃』なのです」
「この少女が…！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく