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小説系コミュの忘れ物「短編その一」

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心地よく散りばめられた白い雲は穏やかな風に吹かれてのんびり旅をしていた。
懐かしいその青空は今も変わらずそこにあり、私が生きた分だけ生きている木々も私が生きた分ではそう変わることなくその場所で佇んでいた。
この地を離れて四年になると言うのに、何故こんなにもここは変わらないのだろう。私が住んでいた場所は常に新しい変化があり、どんなに立ち止まろうとも少しも待ってくれなかった。私はそんな変化に耐えられずそこから逃げてきたのだ。弱く儚い私には自分から何かを変えていく事が辛かった。そんな私をあの場所は拒みいつも置き去りにする。ただそれだけだった。
変わらない景色を見てぼんやりとそんな事を考えていたら、バスの大きなエンジン音が遠くから聞こえた。そしてまたしてもそのバスは久しぶりに帰ってきたというのに、未だその外装を昔のままに保ち走り続けていた。そのバスに向かって小さく手を上げると、大きくタイヤを軋ませて停まった。中へ乗り込むと乗客は少なく、まばらに席は空いていた。私が良く座っていた席も。
後部座席から一列前のその席は私が学生の頃、聡とよく座っていた席だ。いつも彼は窓際に座りゆっくりと遠ざかる景色を眺めていた。私はそんな彼の横顔をじっと眺めるのが好きで、今思い出しても恋していたなと切に思う。けれど、私は彼から離れた。


いつものように二人はバスに揺られていた。
温かい春の光が降り注ぎ、木やポツンと浮かぶ雲の陰がバスの窓越しの肌に模様をつけている。でも私は聡の横顔を見ることが出来なかった。彼を見たら最後、私の決心は鈍り今から抜け出す事が出来なくなるだろう。いつもとは逆の彼の視線を避けるように空港へ走り続けるバスの前を見ていた。
「俺、待ってるから。どんなに長くてもここで待ってるから。」
 聡は突然言った。
「いつ帰ってきても俺はお前を迎えるから。安心して帰って来い。」
 泣いてはいけない、彼の優しさに甘えてはいけない。走り続けるバスの中で彼の言葉にさよならを告げるように目を閉じた。
あれから聡はどうしているのだろう。私が去って一時は着ていた手紙も帰ってこない返事と比例して届かなくなっていった。
幸せであってほしい。こんな私よりかわいい女性と結婚して、子供が居て、温かい笑顔が待つ家へ帰っていく。そんな本当にありふれた幸せの象徴のような今を生きていてほしい。そう本気で思った。
いつしか景色は遠ざかり、私の記憶の景色も遠ざかり温かい日差しの中バスの中で眠ってしまった。

「おかえり。」
懐かしい声が聞こえる。
「真紀お帰り。やっと帰ってきたね。」
 目を開けるとそこは走り続けるバスの中で、私と聡は二人でいつもの席へ座っていた。
「聡。」
「そんな顔するなよ、久しぶりに会ったんだから。」
「私、聡に会わす顔が無い。」
「大丈夫気にしてない。俺はいつでもお前を待っているとあの日言っただろう。」
「この街から逃げてあなたを捨てて、そして私はまた逃げてきた。」
「うん、辛かったね、苦しかったね。」
 聡は優しい目で私を見ている。こんなにリアルなのにこれは夢なのだろう。それは分かった。
「でも、俺もごめんな。」
聡は急に顔を伏せると、窓の方を向き言った。
「あれだけ待つと言ったのに、俺お前にこういう形でしか会うこと出来ない。」
深い沈黙が二人を襲う。聞こえるのはバスの走る音だけ。
「俺どうしてもお前に会いたくて、ただそれだけが心残りだった。」
 悲しげな目をこちらに向けて軽く笑う。
「ごめんね、早く着てあげられなくて。」
 あの日流すまいと決めた涙が溢れ出した。
「帰ってきてくれてありがとう。」
 彼は笑うと私を抱きしめて言った。夢の中の温かい体温が私を包む。
「ありがとう、さようなら。」
 涙が溢れて止まらない。
「最後にプレゼントだ。起きたら座席のシートの間を探してくれ。」
 聡は身体を離すと私の身体を掴み見つめた。
「もう、行かなくちゃ。最後に本当にありがとう、さようなら。」
 嗚咽を漏らしながらも、ちゃんと別れを告げなければいけないと思った。一つ深呼吸をするとゆっくりと微笑み言った。
「さよなら。」
 聡は満面の笑みで手を振ると、窓から差し込む光の中へ消えていった。
「お客さん、お客さん。終点ですよ。」
バスの運転手の声で起こされると、そこは私の育った街が広がっていた。聡が言った「座席のシートの間を探してくれ。」と言う言葉を思い出して、シートの間の窪みへ手を入れた。すると、冷たい感触が手に触れた。それを掴むと座席を立ちバスを降りた。
今見た夢と今持っている手の平の何かを静かに反芻する。
聡が夢に現れてくれた。聡は悲しい結末を終えてしまったのだな。冷たい手の中の感触が悲しい冷たさを伝えていた。
ゆっくりと手の平を開けると、そこにはあの日無くした聡とお揃いのリングが転がっていた。あぁ聡が持っていたんだ、私に渡すために長い間待っていてくれたんだ。そう思うと、あまりにも悲しすぎてその場へしゃがみこんでしまった。涙でぼやけた視界に銀色のリングが輝いている。
私は聡を犠牲にしすぎた。ごめんね、ありがとう。

コメント(3)

小刻みなエピソードが形にならないまま転がっている作品だから、実は未完成なのです(汗)

ユキさんのお友達に似ているんすか?それは良い意味でとっておきます(笑)

これを機にもっと投稿してくれる人や、コミュに参加してくれる人が増えれば嬉しいです☆

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