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クトゥルー神話創作小説同盟コミュの闇島奇譚?怪異の潜む島・第二十回(完結)

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 「待ってくれ!」おのれに迫る異形の人影から逃れるように三郎は後退した。
 「三郎さま、わたくしがお嫌ですか?わたくしはあなたの方が良いのですが、どうしてもわたくしがお嫌だと言われるなら、他の方を夫に選ばなければなりません」と、小夜子は少し哀しそうな顔で言う。「僕は別にあなたを嫌ってはいない。だが、こんな所で訳も判らず抱けと言われて・・・」だが、三郎は、みなまで言えなかった。不意に突き飛ばされたのだ。危うく断崖から落ちかけた三郎を支えたのは、何処からか伸ばされた二本の腕だった。
 「昼子!」想わず三郎は叫んでいた。彼を支えた腕の主は昼子だった。ショゴスと判っても、三郎にとって昼子は矢張り昼子だった。
 「小夜子、彼があんたを選ばないと言うのなら、わしを選ぶが良い」
 異形の何かに変じた小夜子の前に立ちはだかっているのは明男だった。三郎を突き飛ばしたのはこの男だったのだ。そこへ「明男、あんたにはもう資格が無いんだよ」と呆れたように薫子の声が飛んだが、「だが、彼が降りるなら他に候補はおるまい」と明男は断固とした口調で言い、天空に向かって両手を高々と差し上げるとヨグ・ソトースに向かって「ンガアー!ンガアー!イーヤーアー!ヨグ・ソトース!ブグ・ショゴグ!ヨグ・ソトース!(Ngh'aaaa! Ngh'aaaa! Eh yahaah! Yog-Sothoth! Bugg-Shoggog! Yog-Sothoth!)」と叫ぶ。すると明男に向かって「その呪文は何処で?」と呼び止めながら日向少佐が手にした紙を三郎に見せる。三郎はそれを一目見て首を傾げた。「星夫の部屋にあった呪文だよ」と薫子が言うが、「いや、これは呪文じゃありませんね」と三郎は言下に否定した。それから続けて「星夫さんは英語は話せたのですか?」と問うた。薫子は首を左右に振って「話せやせんよ」と言い切る。「でも、これは呪文ではなくて英語ですよ」三郎が見た紙には“アイル コール ヨグソトース アイル サモン ジ アウターゴッド”と書かれていた。「これは英語で、我はヨグ・ソトースを呼ぶであろう。我は外なる神を召喚するであろうと言っているのです。呪文なんかじゃありません」「呪文ではないと?」薫子は呆然とした様子だった。「誰がウェイトリー氏と話をしたのです?」と今度は少佐が尋ねる。「ここであの御仁と話が出来たのは明男と小夜子さまだけじゃよ」その明男は必死になって「ヨグ・ソトース!ブグ・ショゴグ!ヨグ・ソトース!」と叫んでいる。少佐に「ブグ・ショゴグとは何です?」と訊かれて薫子は首を左右に振って「知らんよ。初めて聞くよ」と答えた。「するとあれこそは呪文らしいな。この紙の方は、多分、ウェイトリー氏が誰かと話していたのを耳にして星夫君が呪文か何かと勘違いして書き留めたものだろう」
 悲鳴が上がった。明男だった。小夜子の長い黒髪が彼を襲っていた。いや、髪ではない。髪の中に異なるものが混じっていた。触手だった。小夜子の頭部から髪に混じって細くしなやかな鞭の如き触手が伸び、明を腕を胸を腰を頭部を文字通り鞭打っていた。小夜子の眼が少佐に向けられる。その眼は玉虫色に輝き瞳の部分は虹の光彩を放っていた。想わず三郎は美しいと想った。だが、少佐はおぞましいものでも見るように息を呑んでいる。いや、少佐の方が当たり前なのだ。脳の一部を壊され作り変えられたりしなければ、とても美しいとは感じられぬだろうと三郎は想った。
 少佐は既に人である事を辞めた小夜子に向かって、「明男氏が、今、唱えた呪文は誰が彼に教えたのです?」と問うた。「誰もそやつになど教えてなどおらぬ。わらわが教えたのは、父の使徒たらんとはるばるアメリカから来たあの男にだ。大方、あの男の部屋にでも忍び込んで調べたに違いない」「何故、彼がそんな事を?」「夜部の男たちは、みな、一度は、わらわの夫候補となる。わらわに選ばれなかった男共が諦めずに何らかの手段でわらわに自らを認めさせんとする事は、別段奇異なる事でもない。どうやら星夫はル・クトゥの三主神をこの地に降臨させようとしていたらしいし、明男に至っては父上を召喚せんとしていたようだ。それよりそなた、わらわの夫となるか?」この時の少佐の顔は見ものだった。一瞬、呆気に取られたのだ。「そこな愚か者はどうもわらわと添い遂げるのを拒む気らしい。もう一人の若い男は、どうやらクアックスズアッラの力に当てられて滅んだようだ。となると、他に候補はそなたしかおらんな」「わたしは夜部ではない」「いや、そなたは夜部だ。知らなんだか?自らの血筋を」少佐は愕然とした表情になった。「三郎の後から来た若者もそなたも、みな夜部だ」「長門中尉も?待て。わたしを拾ってくれたのは大佐だった。大和中尉も長門中尉も・・・」「成る程。全てはその大佐とやらの仕掛けか。おそらくその者も夜部だ。本土で壊滅した後、生き残った幾つかの枝葉の一つだったのであろう。ならば丁度良い。その者もわらわの下僕としよう。それで、そなたは我が夫になる意志はあるのか?無いのであれば大佐とやらにつなぎを取るが良い。他の夜部か大佐自身でも構わぬ。わらわの夫となるべき者を至急寄越させるのだ」「何故、急ぐのだ?」「わらわは暫く耐えた。わらわの中の豊饒の血が疼く度、動物などを相手として堪え、時にはこの島の者共を犯しもした。しかしもはや限界じゃ。夜部の血筋の者と交わらぬとわらわは・・・」
 不意に小夜子は苦しげに身悶えすると、尻から伸びた触手を少佐に絡みつかせおのれに引き寄せた。「わらわと早く交わるのじゃ。わらわが人に近き姿を保てるのもあと僅か。そうなれば、わらわはこの時空に真の姿を晒してしまいたちどころにエルダー・ゴッド共の知るところとなるであろう。それだけは避けねばならぬ。わらわは封印される訳には行かぬ!」だが、少佐は「断る!」と言い放った。「断る?ならば血を寄越すが良い。わらわの人としての身体を安定させるのに必要なのは、夜部の血の中身。わらわの中に精を放つと言うのであれば人の身で得られる最高の快楽を与えてくれよう。だが拒むとあらば、その身を喰い破り直(じか)に血を飲んでくれる。さあ、そなたら二人、我が夫となりて快楽を代償に精を提供するか、それともこの場で死して血を提供するか、どちらを選ぶ?何なら二人して我が夫となるも良し。さあ、選ぶが良い」「判った!」そう答えたのは少佐だった。まず自由にして貰いたい、と少佐が言った時だった。小夜子の後ろで叫び声が上がった。明男だった。明男は異形の者と化した小夜子の太股にしがみついていた。小夜子の太股は短剣を想わせる玉虫色の尖った鱗がびっしりと生え、そこにしがみ付いた両腕は血塗れになっていたが、それでも構わず明男はしがみ付いていた。そして喚いていた。「わしが夫になる。小夜子さまは、そいつ等から血を絞り取れば良いっ!わしがっ・・・」途端に明男は沈黙させられた。何か黒く大きなものが、背にのしかかって押さえ付けた為、明男は想わず小夜子の脚から手を離してしまっていた。ニリラだった。「ヨグ・ソトースを召喚しようとしたのはお前だったんだな。星夫とかじゃなくて。騙されるトコだったぜ。お蔭でティンダロスじゃ大騒ぎだ」明男は振り向いて何事か言おうとした。だが、「命令だ。元凶の魂を貰うぜ」ニリラの牙が明の腹を噛み破った。大量の血が一気に噴き出す。「さ、小夜子さま、せめて我が血を捧げ・・・」「要らぬ。そなたの血は質が悪過ぎる」明男の眼が大きく見開かれた。同時にニリラの眼が輝く。「しけた魂だが、確かに頂いたぜ。お前等、アバヨ」ティンダロスから来た大きな犬は大気に溶け込むようにして姿を消した。
 「茶番は終わった。さて、そなたらの返答は?」と小夜子は改めて三郎と少佐に選択を迫る。少佐は既に自由にされていた。「つまりお前の中に精を注ぎ込めば良いのだな?」少佐はそう言いながら小夜子に向かって歩いて行く。「言っておくが、わらわの身体には銃も炎も効かぬぞ」と小夜子が警告するように言うと少佐は笑って「では、これならどうだ?」と手に持っていた物を小夜子の顔面に突き出す。それはエルダー・サインの刻まれた石だった。小夜子の顔に触れるとエルダー・サインは強烈な光熱を放った。小夜子は苦悶の声を上げると両手で顔面を押さえて後退する。焼かれて眼が見えなくなったらしく、小夜子はふらふらと断崖の端へ向かっていたかと想うと、足を踏み外して悲鳴と共に、暗い海面へ落下して行った。
 「小夜子さま!」昼子が慌てて飛び出して来るところへ少佐は又してもエルダー・サインを翳したが、身を竦ませて動きを止めたのはごく僅かな間で、の腕が光り輝いて長いハンマーのような形状になったかと想うと、少佐目掛けて振り下ろされた。すんでのところで交わした少佐は「何故、エルダー・サインが効かぬ?」と驚きの声を上げた。
 「所詮、エルダー・サインに蓄えられた力は僅かなもの。その力を超えるだけの力を自身が蓄えてさえいれば不意を突く事は出来ても致命的な損傷を与える事は出来ぬ!」その声は天空から轟いていた。いや、まるで天からの声のようにみなには聞こえた。その声は小夜子の声だった。頭上を振り仰ぐと、巨大な物体が海から突き出しており、しかも蠢いていた。声はその物体の上の方から聞こえて来ていた。その時になって三郎はその物体が何かに似ていると想った。改めて見上げこ直し、そして気が付いた。その物体の形状が真横から見た女性の裸体を想わせる事に。まさか・・・!呆然と見上げる三郎の耳に、少佐の叫び声が飛び込んで来た。振り向くと少佐の身体に上空から伸びて来た黒く細長いものが絡み付き宙吊りにしていた。巨大な物体の上部から虹色の輝きが迸った。「小夜子さん・・・!」三郎を見下ろす巨大な顔はまぎれもなく小夜子の顔だった。少佐を捕らえているのは、長い黒髪だった。そして、頭部の黒髪に混じって七色の触手のような器官が見え、それらが光り輝いて辺りを照らしている。小夜子の腕は人の腕の形を保っているものの、左右三本ずつ計六本あり、しかも二の腕は玉虫色の鱗に覆われてそこから何本もの触腕が飛び出し宙にゆらめいている。肩と胸は七色の模様が輝きを発し、腹部から股間にかけては黒い剛毛が生え、背には猛禽類を想わせる翼が左右六枚ずつ計十二枚の翼が生えていた。尻からは太く爬虫類じみた一本の尾と、尾の付け根の上から一本の太い触手が、尾の根本の手前と向こう側にも一本ずつ同じ太さの触手が見えている。太股も玉虫色の鱗に覆われ、矢張りそこから触腕が飛び出し宙にゆらめいている。良く見れば腕から伸びる触腕の先には複眼が、太股から伸びる触腕の先には牙を生やした口が付いている。翻って六本の腕の肘から先は普通の人間の形をしていた。細くしなやかな指先には巨大な爪が見えている。脚も膝から下は普通の人間の形状らしかった。らしいと言うのふくらはぎから下が海面に没していて確認出来ないからだが、おそらく足指にも爪があるものと想われた。
 上空から絶叫が轟いた。日向少佐の声だった。その直後、何かが三郎のすぐ脇に落下した。反射的に見下ろして三郎は愕然とした。三郎の足元にあったのは、変わり果てた少佐の姿だった。確かに少佐なのだが、身体は干乾びて皺だらけだった。血を絞り取られたのだ。見上げると、小夜子の巨大な姿は何処かに消えていた。
 「それで三郎さん、あなたはどちらを選択するのです?」不意に後ろから声がし、振り向くとそこには小夜子が居た。全裸だった。「待ってくれ。そもそも僕は夫と言うのが何をすれば良いのか聞いていない」「あら?そうでしたか?それなら三つあります。一つは、このわたくしに抱かれる事。一つは、暗夜館のお館様を務める事。最後の一つは、大佐とやらにつなぎを取り続ける事」「大佐に?」「いずれわたくしもグレート・オールド・ワンとして大佐にお目にかかる積りです。その後のつなぎは、あなたにお任せします」「判った。それなら僕はあなたの夫になりましょう」「では、あなたの命は人としての寿命が尽きる時迄、あなたのものです」それだけ言って、その場を立ち去ろうとした小夜子の背中を、三郎は呼び止めた。「待って下さい。あなたの事は何と呼べば良いのですか?彼は、ミスター・ウェイトリーは、あなたをグレート・オールド・ワンと知っていたのでしょう?彼はあなたの事を何と呼んでいたのです?」すると小夜子は顔だけ振り向かせて、「この二千年間でわたくしの名を賜えたのは、先日ここを訪れたわたくしから言葉を賜りたがった父の使徒、わたくしの妹か弟の祖父になりたがっていたあの男だけ」「ミスター・ウェイトリーですね。彼に何と言ったのです?」
 小夜子はふたたび正面に向き直って歩き出した。歩き出しながら一言だけ呟いて。「You may call me Bugg-Shoggog」
                                      (完)

使用したクトゥルー神話の神々

アンビュール(ジェイムズ)の創造した神
●イスタシャ
●イラ
●ウヴァ−シュ
●ヴォルグナ・ガス
●ヴーゾムファ
●ギ・ホヴグ
●ザードネス
●ザリガー
●シュイ・ニルー
●ディグラ
●ディサラ
●ヌガールトル
●ハイオグー・ヤイ
●ブグヌ・トゥン
●ラグナラ
●リタリア
●ルートラ・ディオル

ウィルソン(コリン)?の創造した神
●スンガク

カーター(リン)の創造した神
●アフーム・ザー
●イダ・ヤアー
●イトグサ
●ゾス・オムモグ

カットナー(ヘンリー)の創造した神
●イオド
●ニョグタ
●ハイドラ

スミス(クラーク・アシュトン)の創造した神
●アブホース
●イクナグンニスススズ
●イホウンデー
●ウボ・サスラ
●ヴルトゥーム
●ギズグス
●クグサクサクルス
●シャタク
●ズイヒューム
●スファトリクルルプ
●ズスティルゼムギニー
●ツァトゥグァ
●フジウルクォイグムンズハー

ダーレス(オーガスト)の創造した神
●クトゥグァ
●ハスター

デビル(ウォルターJr・C)の創造した神
●イドラ

パルヴァー(ジョゼフ・S)の創造した神
●アウラニイス

ハワード(ロバート・アーウィン)の創造した神
●ゴルゴロス(名前はRPG製作者側による)

ブロック(ロバート)の創造した神
●バイアグーナ

ムーア(キャサリン・L)の創造した神
●ファロール

ラヴクラフト(ハワード・フィリップス)の創造した神
●アザトース
●イェブ
●クトゥルー
●シュブ・ニグラス
●トゥルスチャ(名前はRPG製作者による)
●ナイアーラトテップ
●ナグ
●無名の霧
●闇
●ヨグ・ソトース
(ゼリア・ビショップ名義)
●イグ
(ヘイゼル・ヒールド名義)
●ガタノトア
●ラーン・テゴス

ラムレイ(ブライアン)の創造した神
クティーラ


使用したクトゥルー神話のクリーチャーたち

キャンベル(トニイ)
●ニリラ

スミス(クラーク・アシュトン)
●ヴーアミ

ラヴクラフト(ハワード・フィリップス)の創造したクリーチャー
●シャンタク鳥
●ショゴス
●ミ・ゴウ

ロング(フィリップ・ベルナップ)
●ティンダロスの猟犬


使用したクトゥルー神話の魔道書

カットナー(ヘンリー)の創造した魔道書
●イオドの書

スミス(クラーク・アシュトン)
●エイボンの書

デビル(ウォルターJr・C)の創造した魔道書
●パオの暗黒のスートラ

ハワード(ロバート・アーウィン)の創造した魔道書
●無名祭祀書

ブロック(ロバート)の創造した魔道書
●妖蛆の秘密

ラヴクラフト(ハワード・フィリップス)の創造した魔道書
●ネクロノミコン


使用したその他のクトゥルー神話に関する名称または単語

ラヴクラフト(ハワード・フィリップス)の創造した名称または単語
●ブグ・ショゴグ

おそらくRPG製作者側による名称または単語
●ザスター


クトゥルー神話以外からの使用

スミス(クラーク・アシュトン)の創造した神
●アリラ

ムーア(キャサリン・L)の創造したクリーチャー

●イヴァラ
●シャール
●シャンブロウ
●ジュリ

コメント(1)

一話から読みました。
面白かったです。
途中、謎や怪現象が多すぎるんじゃないかと思ったりしましたが、
第十八回あたりからは、百鬼夜行的というか、とにかく怪異の連続を
楽しめる感じになりました。

キャラクターでは、ニリラという犬がお気に入りです。
出典のトニイ・キャンベル「THE ORB」は未訳なんですね。
英語力がないのが残念ですが、訳が出るのを待つことにします。

「闇島奇譚?」も始まりましたね。
楽しみに読みたいと思います。

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