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小説 「おろし」コミュの●鈎針婆の章 おろし!! #80 守るものは(01)

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ガラス瓶に魂を詰め込んでみても・・・この満たされない気持ちは何なんだろう・・・

人は何故 物を捨てるのだろうか・・・
何故・・・人は・・・私を捨てたのだろうか・・・

あれほどまでに 口づけをし 愛してくれたのに・・・

分からない・・・私は・・・冷たい土の中で眠っていた・・・無機質の・・・硬い・・・硝子だった・・・深い眠りから無理矢理覚醒され・・・人に触れられることで・・・心が芽生え・・・愛を覚えた・・・

私は・・・本当に・・・愛されていたのだろうか・・・

それを知りたくて・・・人と関わりを持とうとしたけれど・・・

いつしか・・・私は・・・人を殺め・・・その魂を食すようになった・・・

初めは疑問の解明・・・
それが・・・いつしか・・・罪人を咎めるために 私は汚れた魂を狩るようになった・・・

ああ・・・この満たされない気持ちは何なんだろう・・・魂を瓶に詰める度に・・・人というのが分からなくなる・・・ああ・・・分からなくなる・・・

この醜い目の前のコイツらは・・・どこか・・・私に似ている・・・ココロが・・・似ているような気がする・・・

そう・・・空缶娘は思う。
合成人間 ザ・コーンに、自分と重なる部分を感じずにはいられなかった。

それでも、空には、赤い破片が無数に舞う。
襲いかかる敵に変わりはない。
情けは無用。
錆色の大鎌が、ザ・コーンを薙ぎ倒す。

優勢?それも今だけであろう。あまりにも多勢に無勢。
時間が長引けば長引くほど、少しずつ空缶娘は包囲されていく。

ジリジリと後退していく空缶娘。
すでに、屋根の上には、ザ・コーンが気持ち悪いほど密集し、
空缶娘を取り囲んでゆく。

大鎌の必殺の間合い、360度に、ザ・コーンの赤い穂先が立ち並ぶ。

切り揃えられた黒い前髪が、風で揺れる。
相変わらず焦りを伺えない無表情なその顔に、ザ・コーンの返り血、体液が、まるでソバカスのように点々と付着している。

その点のひとつ、体液が、ツウ・・・と頬を伝い、首筋に流れた瞬間、
目前のザ・コーンが一斉に襲いかかって来る!!

『シャアアアアアアアアアアっ!!』

無表情なまま、大鎌を振る空缶娘!!

シュバババッ!!

バキ!

ドゴ!

ガギ!

ズザーーーーン!!

ガキ!

ガキ!

飛びかかったはずのザ・コーンが、後ろにはじき飛ばされ宙に舞った。

斬られてはいない。

空缶娘の大鎌が、ガチガチと金属音を立て止まっている!

そう、刃を振り切ってはいない。

何が起こったのか?

それは、一瞬の出来事。

空缶娘と、ザ・コーンの間、
そう、必殺の間合いに、上空より滑り込んだ黒い影。

その影の正体は、化け物に心を奪われた 怪僧。

今宵、空缶娘に恋いこがれた空怪である。

空怪は、空缶娘を背にし、右手で空缶娘の大鎌を鉄丈で受けながら、
左拳を前に突き立て、ザ・コーンを牽制するポーズを取っている。

「助太刀する」

その声は、低く重く響いた。

『こいつ・・・何を言っている・・・』

空缶娘は、目下のハゲ坊主をキッと睨みつけた。

森魚が、その異変に気づく。
オートモードのザ・コーンだが、"ありえない攻撃”を受けたと認知し、
脳内アラームが発動。

赤神との対決に没頭していた森魚、その予想外のアラームに驚いた。

『どういう事だっ!!』

森魚は、コントローラーのセレクトボタンを急いで押した。

すると脳内モニタが切り替わる。

『なっ!!』

コントローラーを持つ手が震える。

奇しくもモニタに映し出されたのは、愛弟子の顔だった。

『空怪っ!!キサマーッ!!裏切ったなっ!!』

ザ・コーンが再び、襲いかかる。

シュアアアアアアアアッ!!

瞬時に四方をパパパッと確認し、間合いを計る空缶娘。

その刹那、先ほど、この坊主が発した言葉が駆けめぐる。

---今殺る敵は、この坊主では無いっ!!

そう認識をしたのだろうか?
空缶娘は、踵を返し、空怪と背を合わせるようにし、飛びかかるザ・コーンを薙ぎ払った。

触れ合う背中。

ニコリと微笑む空怪。

それでも無表情な空缶娘。

この奇妙なツーペアに、怒り狂う森魚の叫びは当然届かない。

罵詈雑言が、空しくかき消されてゆく。

空怪の怒濤に繰り出される正拳と蹴り、
稲穂を刈り取るようにバッサバッサと切り捨てる空缶娘の見事な鎌さばきの前に、
オートモードのザ・コーンでは、太刀打ちできない。

森魚、コントローラーを持つ手が猛烈に震える。

『くっ!!し、仕方ない。チェ、チェンジするかっ!!』

赤神と闘っているザ・コーンをオートに切り替え、
空怪&空缶娘を、マニュアルで攻めるプランに変更。

だが、とうてい赤神を、オートのザ・コーンで倒せるはずがない。
しかし、森魚にもプライドがある。
手塩に育てた愛弟子に裏切られたこの失態、この怒りを抑えるには・・・・

『この手で殺すまでよっ!!裏切りには死よ!!キエーーッ』


赤神は、瞬時に悟った。
目の前の敵が、オートに切り替わった事を。

『上手く行っていないのだな』と、下方の戦況、空怪の参戦をチラリと見て呟いた。

目の前のザ・コーンの動きは鈍く、同じ屋根にいる者はあらかた片づいた。

余裕が出てきた葛遊は、周囲の状況を感じ取ろうとし、赤神の肩に留まる。

『ん?』

葛遊が、鼻をクンクンと鳴らしはじめた。
何かの匂いを感じたらしい。

赤神の肩からジェットコースターのレーンに飛び移る。

そして、園の外を見るように背伸びし、耳をピクピク動かした。

『ジジイが呼んでるわ・・・・小蛾葛と合流しろ・・・なんだろ・・・』

赤神、鳥居翁が、何か行動に出た事を悟った。
「葛遊、今ならひとりで此所から出られる。小蛾葛と合流しろ。」

『うん、分かった。』

葛遊は、ザ・コーンの股から股を見事に抜け走り、闇に消えた。

「いよいよ・・・だな」

空に漂う酒野肴の魂が、ようやく下降して来た。

♭の眼球で、痢煙の居場所を探す。

それと同時、雨女酸性が持つ羊皮紙にメッセージが送られた。

『そろそろです、玉水晶の準備を!!酒野肴の魂に刻まれた文字が目視出来たら、その文字を叫ぶのです!!』

羊皮紙が微振動を起こす。

『痢煙さん、指示が来ました!玉水晶の準備を!!』

痢煙に、羊皮紙を渡す。

「了解!!」

痢煙は明瞭な返事をし、ショルダーバックから、玉水晶を取り出した。

瞬時に、穏やかな光を発する玉水晶を、それをライト代わりに、酒野肴の魂の位置を確認する。

「さんちゃん!!肴ちゃんの魂は今どこ!?」

網の目を潜るかのように、化け物の中を移動する痢煙、なかなか酒野肴の位置を確認できないでいた。

『まだ、この建物より上空だわ。もっと上に行かないと・・・ダメ。』

雨女酸性は、この辺りの雲を使いきったせいで、痢煙を上空に運ぶ事が出来ない。

痢煙は、玉水晶をハンカチで包みこみ、再び鞄に入れた。
先ほどより取りやすい所にしまっておく。

そして、辺りを見回した。

「おお!さんちゃん!!アレよ、アレ!キャハ!!」

痢煙は、その場で三度ぴょんぴょん跳ねて、急に走り出した。

『痢煙さん、待って!!』

タックルを喰らわす化け物を、案の定、気づかずにかわす痢煙。

その向かった先には・・・

券売機。

ジェットコースターの券売機だ。

いや、券売機というよりも、券売鬼と言って良いだろう。

券売鬼 切霧舞 霊(キリキリマイ レイ)
あらゆるチケットを取り扱い販売している小鬼である。
この小鬼に頼めば、入手できないチケットは無いとまで言われている。
しかし、ちょこまかと動きがすばしっこく、なかなか遭遇できないとも言われている。
また、紙がまっすぐでないと非常にダメな気質で、常にアイロンでチケットのシワというシワを高温でプレスしているため、購入者は、受け取ったチケットで火傷しないように注意が必要である。

「大人二枚ね。支払いはカードで。」
痢煙は、涼しい顔で、ジェットコースター搭乗券を購入する。
運が良く、そのチケットは、高温ではなかった。

『今夜一番乗りでキリイ。楽しんでキリッとな。』

ウォーキング・ヘッドバッキングで、ジェットコースター乗り場へと誘う切霧舞 霊。
もの凄い早さなので、いつしか首がもげそうである。

雨女酸性は、痢煙に手をひかれ、初めてのジェットコースター『ファイナル・ヘッドコースター』に搭乗する。このファイナル・ヘッドコースター、巨大な頭部のみが連結した乗り物、ジェットコースターである。お互いの落ち武者ヘアーをしっかりと口でくわえ込み、数珠繋ぎになっている様は、あまりにも異様すぎる。ちなみにファイブヘッド(五頭)だ。その頭部の眉間より上は、水平に切断されており、そこに搭乗する仕組みになっているのだが、脳みその床がフワフワとしているため、地に足が着いた感じがしない。それが良いという客がほとんどであるというところが、裏返った世界の乗り物ならではである。

痢煙達は、先頭車両に駆け込んだ。一番乗りだ。
ツーシート。座席は卒塔婆で出来ている。つまり開閉された頭部、脳みそに卒塔婆が突き刺さっており、その突き刺さった部位が隆起して出来た座席に着席することになる。
卒塔婆はいわば背もたれである。
その卒塔婆シートに、痢煙と雨女酸性の名が墨字で浮かび上がる。
死への誘い。地獄の鬼も震え上がるといわれるこのアトラクション。

安全バーは、灰色髪を垂らした老婆達の両腕。
通称"安全婆"とも言われ、走行中は、彼女らにハグしてもらい転落を防止してもらうのだが、彼女たちの気分次第で、走行中、突如、手を離されるという予想もつかない恐怖に襲われることもある。そして、この安全婆の中には、性根が恐ろしいほど腐っている婆が混じっており、その婆は、ハグしながら、耳を囓ったり、首を噛んだり、ありとあらゆる手段で、乗客を落とそうともくろんでいる。運悪く、その婆に当たらない事を願うばかりだ。

痢煙は、足をばたつかせ、脳みそのクッションの感覚を楽しみながら、
卒塔婆シートにもたれた。
その様子をシートの裏で見ていたふたりの安全婆が、それぞれをハグしようとした時、
雨女酸性は、後ろを振り返り、『けっこうよ』と、強く断った。

安全婆は、『何を!!』と、キッと睨んだが、
雨女酸性の霊格の高さを感じとり、卒塔婆の影に隠れた。
生身の人間に触れさせてはいけない、とっさの判断だった。
しかし、安全バー無しで、このアトラクションに乗らなければならなくなった。
痢煙にとっては、自殺行為かもしれないが、雨女酸性は、
自分がいれば、どうにかなると楽観的だ。
辺りには雲もないというのに・・・・
メロンソーダで少し酔いが回っているのかもしれない。
いや、この痢煙なら大丈夫であろうという事からかもしれない。

さあ、あとは、発進を待つだけ。
まだ待機の意味を持つ赤い火の玉が、レーンの横で揺らめいている。
痢煙は、まだかまだかと落ち着かないでいた。


その様子を♭の眼球で確認した赤神は、『その方法でいくのか!!』と笑みをこぼしながら、酒野肴の魂と、痢煙との距離を確認した。

痢煙の発想は、やはり予想しがたいものであった。
ジェットコースターに乗って、そのレーンの最も高い場所で、
酒野肴の魂を、玉水晶で捕獲する算は、なかなか思いつかないであろう。
山場は二回ある。一度目の傾斜を登り切り、そこから次の傾斜まで、ヘッドコースターは一気に加速する。

「痢煙いっきまーす!!」

その瞬間、赤い火の玉が青色に変わった。

ものすごいGがふたりにかかった。

グアアアアアアアアアアア!!ボハッ!!

ロケットスタート。

ヘッドコースターの最後尾、五車両目の後頭部から、もの凄い炎が噴射され、
もの凄い速さで飛びだして行く。

「すごーーーーーーーいッ!!」
痢煙の長い髪が後ろへ流されていく。

グワッシャーーーーーーーーーーーーーン!!

爆煙の中、巨大なコンクリの破片が辺りに飛び散った。

ドゴン ドゴン ドゴーーーーーーン!!

ヒュルルルル・・・ドガッ バキッ グワシャッ!!

コンクリの下敷きになる、化け物達。

一瞬で、ヘッドコースター乗り場が、影も形も無くなっている。

『キイイイイイイイッおしいいいいいいいいっ!!ハング!ハング!ハング 怨っ!!』

あきらかに、狙っていた。
しかし、ほんの少しタイミングが遅かったために、空振りとなった。

鉤針婆は、巨大な建設用クレーンで、痢煙を乗せたヘッドコースターごと釣りあげようと、もくろんでいたのだ。

クレーンの巨大なフックが、いとも簡単に搭乗口とレーンを粉砕している。

そう、痢煙が、鞄から一瞬だけ取り出した、あの玉水晶の聖なる光を、今夜、一番主役に成りたがっている鉤針婆が見逃すはずはなかった。

誇示しなければならない夜の女王の力を。
妖婆の中で、己が一番であると、トップの座を守らなければならない。

『ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ』

鉤針婆の額に、これまで以上にもの凄い皺が浮かび上がる。
キラキラとスパンコールのボディコンが輝き始め、バチバチと稲妻を放出させる。

マックスパワー。

鉤針婆、もてる力全てを使うつもりだ。
黄色い歯が、ピシッと音を立て砕け散った。

遠くの方で、ギギギギと金属音が鳴り始める。

フェスティバルゲート周辺の、高層マンション、高層ビルの建設用クレーンを、
鉤針婆は、もの凄い妖力で操作しはじめた。

『フッーーーーーーーーーーーークウウッ!!』

先ほどのクレーンと合わせて、2つのクレーンのフックが、
フェスティバルゲートを襲う!!

巨大な妖力による遠隔操作。使い手に、もの凄い怨念がないと出来ない代物である。

ドゴオオオオオオオオオオオオオンン!!

ガキガキガキガキガキーーーーーーーッ!!

ヒュン ヒュン !!
 
グワシャッ!!

『ぐあはっ!!』

『うああああっ』

『うがあッ』

赤いコーンが瞬く間に薙ぎ倒されてゆく!!

ビッグ・コーンであっても、次々とフックの餌食になってゆく。

もはや、彼女のフックは止められない。

哀れなのは、この闘いとは無関係の化け物、
ゴンドラ祭の参加者、水子すくい等のゲームに夢中の、他の化け物たちですらも、
次々とコンクリの下敷きになって消滅していった。

明らかに巻き添えである。

巨大なフックは、容赦なく空怪と空缶娘が立つ屋根をも破壊してゆく。
足場が弱くなり、体勢が不安定になる。
それでも容赦なくザ・コーンは襲いかかってくる。
何体かはそのフックに薙ぎ倒され、何体かは、足場とともに地に落下するが、
そんな事はおかまいなしだ。

『娘っ!跳べ!!』空怪が叫ぶ。

無言で跳ぶ空缶娘。

続く空怪。

足場が一気に崩れてゆく。

垂直に跳んだふたり、着地する足場はもうない。

しかし、このツーペア、見事に襲いかかってくるザ・コーンらの頭、身体を利用し、
蹴りを加えた跳躍で落下を免れている。

ザ・コーンも負けてはいない。
ザ・コーン同士もお互いの身体を利用し、上、上と宙に逃れるツーペアを追った。

もの凄い爆煙とコンクリの雨、もうフェスティバルゲート敷地内は、
爆撃を受けているのと同じだ。

それでも、ヘッドコースターは、建造物を盾にし、走り続けている。
甲高い笑い声に似た悲鳴をあげる痢煙を乗せながら。

例えレーンが途中粉砕していても、脱線する事はない。
先頭車両が、走りながらも、もの凄い速さでレーンを修復してしまう。

だが、そのヘッドコースターをフックが捉えるのも時間の問題だ。
妖力で動かされたフックに、振り子の力が加わり加速しはじめている。

尋常でない速さである。

そもそも、ヘッドコースターは、走行することしか頭にインプットされていないため、
外部からの攻撃は、念頭にない。

つまり、今も攻撃を受けている事に気づいていないのだ。

「アレは邪魔だ!」

赤神は、下方で白髪を振り乱す婆を目視し、
落下するコンクリからコンクリへと跳んだ。


『ぐあはッ!!』

戦場より少し離れた廃屋の二階で、ザ・コーンをコントロールする森魚がヒザを落とした。
大量のザ・コーンが、同時攻撃を受けたため視神経回路が少しショートしたのだ。

『クソっ鉤針婆だとっ!こんな時に、ン!?あ、アレは!!』

落下するザ・コーンの目が捉えた映像が、森魚の脳内に投影される。
そのノイズ混じりの映像に、ヘッド・コースターに乗る痢煙の姿。
その痢煙の右手に、輝く光。玉水晶が映っていた。

『見つけたぞ!!』

森魚が、セレクトボタンを連打!!
ターゲットをロックオン!!

減速し一回目の山、頂点を目指すヘッドコースター。
今、痢煙の背は地面とちょうど平行になった。

「見えた!!肴ちゃんの魂!!」玉水晶を取り出す痢煙。

一回目の山場、その丁度真上に、酒野肴の魂が飛んでいる!!

『痢煙さん、彼女の文字をっ!!』雨女酸性が叫ぶと同時に、

『ハイル・ビニールッ!!』

上空を旋回していた飛行モードのハイル・ビニール1体が、
実体化し痢煙目がけて急降下する。

酒野肴の魂と重なり、文字が見えない。

「見えないよっ!!」痢煙が慌てる。

森魚にとって絶好のチャンスだ。
彼にとって、この攻撃のタイミングは、今夜一番グッドだったと言って良いだろう。
しかし、最高のチャンスを掴んだのはもうひとりいた。
鉤針婆。彼女こそ、この最高のタイミングを確実に狙っていたと言える。

空怪、空缶娘を襲ったフックが、強烈なスピードで
減速しているヘッドコースターを狙っていた!!

ハイル・ビニールの黒い影が痢煙に覆い被さる!!

両手をあげる痢煙、その手には玉水晶が!!
今更どうにもできない。

「きゃッ」

ハイル・ビニールの手が迫る!!

鉤針婆のフックが迫る!!

『鉤針婆の針ですって!?』

ハイル・ビニールとの間合い、
必殺の間合いまで踏みとどまっていた雨女酸性だが、
フックの存在に気づき、もう先に動くしかない。

すかさず、雨女酸性が卒塔婆シートに立ち、手を突き出した!

隠し雲!!手の平に小さな雲を隠し持っていた。

『できるかっ!?』

しかし、両方を回避できるほど、雨女酸性の力、雲はない。

どちらか一方しか防げない事は重々承知だ。
まだ、完全な間合いではないが、フックが迫る以上、今ここで、ハイル・ビニールをやるしかない。

『しゃあっ!!』

シュババッ!!

ごく少量の迸る雨が、ハイル・ビニールの半身にヒット。

ショットガン・レイン。

『浅いっ!!』森魚が吠える。

吹き飛ぶ半身、だが、ハイル・ビニールの落下は止められない!

雨女酸性の一瞬の迷い。その迷いが、直撃にはならなかった。

ハイル・ビニールの手が玉水晶に当たった。

『もらったああああッ!!』

「あっ!!」

痢煙の手からこぼれ落ちる玉水晶。

その玉水晶に、左方面より迫るフックが映り込んでいる。

第二発目のショットガン・レインはまだ撃てない!!

『直撃っ!?』

雨女酸性が叫ぶ。

痢煙が振り返る。

「だめーーーーーーーーーっ!!」

痢煙の脳裏に、今夜のおみくじ、“砒素砒素どぶおちろくじ”の結果『大尻』が浮かんだ。
そう、注意の項目に『破損』と書かれていたことを!!

痢煙の目には、もう、玉が砕け散る映像が見えている。
結果が分かっている。

スローモーション現象・・・

「いやっ!」

バーーーーーーーンッ!!

そして、現実に玉は砕け散った。
強烈な光を放出しながら。

目を塞ぐ痢煙。
あまりもの眩しさで“雨蛙の衣”の擬態が維持できない雨女酸性。
その聖なる光をもろに浴びたハイル・ビニールは一瞬で蒸発した。

その隙を、鉤針婆は逃さない。

『フーーーーーーーーーーーーークッ!!』

返し針ッ!!
その目もくらむ白い世界の中、
通り過ぎたはずのフックが、再びヘッドコースターを襲う!!

雨女酸性は、空を舞う少女を見た!
その返し針に、無惨に身体をまっ二つに引き裂かれる空缶娘を!!

『瑠璃っ!?』

ふたりは旧知の仲だった。
共に、人間を憎んだ存在同士。
今まで、お互いに、一度も笑顔を見せなかったふたり。

その空缶娘が、微かだが微笑んでいる。
身体が真っ二つになっているというのに。

雨女酸性に向けての笑みではない。
彼女は、悟った。

瑠璃をかばうようにして飛ぶ僧侶に向けての笑みだという事を。

『彼女なら!』

何を思ったのか、雨女酸性は、今ある最後の力、水一滴を、迫り来るフックではなく、
空缶娘に向かって放った。

その刹那、

ザン!!

鉤針婆の顔に苦痛の表情が浮かぶ。

鉤針婆の右腕、肘から下が切り落とされた。

着地と同時に、刀を振り落とした赤神。

上空でまばゆい光。

「割られただとっ!」瞬時に、玉水晶が割れた事を悟る。

その一瞬の隙に、恐るべき跳躍で、次なる攻撃を交わす鉤針婆。

ブンっ!!

二太刀目が、空を斬る。

「ちっ」

ドゴーーーーーーーーーンッ!!

しかし、一刀目、腕を斬られたショックで、フックへの念が一瞬止まった。
それにより、間一髪、ヘッドコースター、痢煙にフックが直撃する事は免れた。
それは、赤神にとって痢煙にとって救いであったが、絶望を意味していた。

もう、酒野肴の魂を確保する事は、不可能である。

無惨に崩れ落ちるレーン。
二人の心情、いや、酒野肴の魂を奪還すべくここに集まった者の心をまるで表現しているかのように、無惨に崩れ落ちていった。
この爆煙と残骸では、玉水晶の欠片すらも見つける事はできないであろう。

運良くフックの風圧のおかげで、次の山、最後のレーンの山場へと吹き飛ばされる肴の魂。
玉水晶の強烈な光は免れたようで、蒸発はしなかった。

しかし、魂の入れ物、玉水晶は痢煙の手にはない。
無情にもヘッドコースターは、一回目の山場を過ぎ、最後の山場へと一気に加速する。

・・・02へつづく

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