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2006年07月01日 20:52 更新

 梅雨が明けて、じらじらと暑い本格的な夏が来た。
 今年の梅雨は本当に梅雨らしい梅雨で、しとしとと降る雨に毎日が憂鬱な気分だった。西日本では連日土砂崩れだの、堤防の決壊だのといった暗いニュースが流れていた。
「やっと、夏になったぜ。早速、海に泳ぎに行こうぜい」
 そう言って誘ったのはT大学三年生の古山忠夫である。
「賛成。でも、どこの海に行くの? 宿は?」
 早くも幹事好きの瀬戸泰子が決めに入った。
「御宿(おんじゅく)にしようよ。山本が近くに住んでるんだよ」
 山本とは同じく三年生の山本幸広のことである。実家が御宿の海に近い○○というところにある。
「あいつ、三日前に実家に帰ってさあ、梅雨が来いって言われてたんだよ。三、四人だったら泊まれるみたいだし」
「なら、決まりじゃない」
 T大学歴史研究会のサークル室には古山、瀬戸、高城、太田、そして政夫の五人が集まっていた。
 大学はとっくに夏休みに入っている。今日はサークルの例会だったのである。いつもは十人前後が集まるのだが、さすがに今日は五人と少なかった。
「日にちは八月上旬という事で山本と相談してみるよ」
「じゃ、連絡網を使って日時と待ち合わせ場所を連絡して」
 例会が終わってからの雑談の中で御宿行きが決まった。
(どうしよう。参加しようか)
 政夫は迷っていた。
「軽く、飲んで帰りましょうよ」
 瀬戸の誘いで、駅前の居酒屋で飲もうということになってサークルの部屋を出た。
 政夫が迷うのには理由(わけ)がある。実はカナヅチなのである。全く泳げないのだ。
 信州の山奥で育った政夫は海で泳いだ記憶がない。プールで泳ぎの練習はしたのだが、息継ぎが出来なくて体育の先生からは怒られてばかりだった。
「どうしたの、今日は元気ないわね」
 迷いが行動に出ていた。心配した瀬戸が声をかけてくる。
 居酒屋の中は若いサラリーマンやOLが多かったが、それほど混んでいるわけではなかった。
「ねえねえ、御宿行くよね」
 瀬戸泰子は政夫と同級生である。
 和歌山出身の彼女は、南国育ちらしい明るく伸びやかな性格で、サークルだけでなくクラスの人気も高い。
「私ね。この前新しい水着買ったんだ。御宿でそれ着ようかなあ」
 瀬戸の言葉に、おお、とどよめきが起こった。
「ハイレグかあ!」
 太田の冗談に、「秘密よ」と瀬戸が答えている。
「俺、先に帰る」
「おい、どうしたんだよ。ちょっと待てよ」
 政夫はみんなの引き留める声を無視した。
 居酒屋を出て駅のホームに向かう。乗降口から仕事帰りのサラリーマンがどんどん吐き出されていた。
(何でカナヅチなのが嫌なんだろう)
 切符を買いながら、ふと思った。別に泳がなくても砂浜で遊んでも良いではないか。カナヅチと海に行くのとは直接の関係はないだろう。
 そのとき、政夫は思った。カナヅチであることが瀬戸泰子に知られたくないのだ。カナヅチは格好悪いのだ。
(まさか!)
 政夫の脳裏に煌めくものがあった。
 瀬戸泰子を単なる同級生、単なるサークル仲間から一人の女性として意識していた。
 改札口を通り抜けながら、いつも見慣れている風景が少し違って見えた。それが何なのか、政夫にはまだよく理解できなかった。
 だが、迷いは無くなっていた。御宿に行きたい、瀬戸泰子と一緒にいたいと思っていた。

コメント(1)

  • [1] mixiユーザー

    2006年07月18日 07:11

    「なあ、この川やけど」
     不意に話し掛けられ、僕は、隣を振り向いた。
     その僕の目前で、おととい転校して来たばかりの転校生が僕を振り返る。
    「この川も海と繋がっとる?」
    「え? ……ああ、繋がってると思うけど」
     そう答えた僕の顔に、多少の嫌気が見えたのだろうか。亮とか言う転校生は僕から視線を反らせ、橋から川を覗き込んだ。
     川は、この町を東西に縦断していて、亮の見ていたほう側はあと20キロも行くと海に繋がっている。その川の向こうに夕日が落ち、川は赤味かかったオレンジ色に輝いていた。
    「貴志やっけ? お前、俺と居るの嫌ちゃうん?」
     亮の言葉に、歩き出そうとしていた僕はとっさに彼を見た。
     “学級委員だから”“内申に有利だから”と、担当教師から内申書を餌に転校生の面倒を見るように指示されたとき、なぜ面倒を見る人間が必要なのかも知らず了解してしまった自分を馬鹿らしく思っていた時だったのだ。彼と居る時間は、正直に言って嫌だった。煙草所持と喧嘩で前の高校は退学処分、高校生なのに一人暮らし。そんな人間とは知り合いになりたくなかった自分の本音をずばり指摘され、僕は苦笑しながら亮を見た。 
    「かったるいなァ? いまどき、こんなんなんてダセえ」
     学らんのカラーを外し、ぽいと川に投げ込んだ亮は、ポケットから煙草を取り出した。
    「火い、どこやったっけな。持っとる? ……訳無いか。優等生君だもんなあ」
     聞き慣れないアクセントでそう呟いた亮は、ごそごそとポケットを探していたがやがて諦めたのだろう。煙草をポケットに戻すと、欄干から川に身を乗り出した。
     川面に反射した夕日が、川を覗き込んだ彼の顔を明るく照らしたが、亮の表情はお世辞にも明るいとは言えなかった。
     思い詰めているかのように……まるで親の敵でも見るかのように、暗く冷たい瞳が川を見据えていた。
    「おいっ」
     とっさに“このまま飛び込むかもしれない”と思ったのだろうか。僕の右手は彼の肩を掴んでいた。
    「危ないだろ。この川、思ったより深いらしいらしいぜ」
    「オレが飛び込むって?」
     大げさに笑うと、亮は欄干から手を離した。
    「そりゃ飛び込みゃ、早ええけどよ」
     何が可笑しいのかにやにや笑っていたが、やがて、亮は歩き出した。
     子分を背後に従えたボスのようにポケットに手を入れ、ゆうゆうと歩く亮は、すれ違う大人の視線をまるでくらげのように受け流していた。
     ここは、24時間営業のコンビニがつい半年前に出来たような田舎町だ。未だに中学生も高校生もセーラー服に学らん。学校帰りに寄る所といったら、駅前の小さなコンビニか売れ筋の本と週刊誌しか無い本屋くらいしかない。その田舎町に、金髪・ピアスでだぼだぼな学らん姿の亮は、黒いからすの群れの中の一羽の白からすのように目立っていた。
    転校当日からこんな格好だから、未だに誰も亮には寄り付かない。そこで、僕だけが亮に教室の変更を伝えたり、帰りに一緒に帰ったりと付き合っている始末だった。
    「なあ、貴志よ」
    「……何」
    「お前、河童見たことあるか?」
    「かっぱ?」
     いくら田舎町だからといって、河童が出るほど田舎では無い。
     僕は亮に馬鹿にされているのかと思って、ついとがった口調で答えた。
    「馬鹿にすんな、そんなの居やしないだろ」
    「俺、見たんや。そんに、ここは水が綺麗やろ? 河童くらい居るんちゃうかと思うただけや」
    「え? そんなの、ただの作り話だろ」
    「居りゃいいなとか思わん?」
    「何で」
    「いや…」
     しばらくの沈黙の後、亮は口を開いた。
    「河童なら、海にも行けるやろ」
    「海なら電車で15分で行けるよ?」
    「そな、海、ちゃうやろ。海ん中や」
     珍しく声を荒げた亮に、僕は驚いていた。
    「海ん中? 何で」
    「まあ……俺、泳げんしなあ。泳げん河童なんて、河童や無いやろか?」
    「かなずちなのか? それなら駄目だな。泳げない河童なんて居ないよ、きっと」
     笑い話だと思って笑った僕に、亮の悲痛な瞳が帰ってきた。
     僕は何故だか分からなかった。
     その時は、分からなかった。

     
     

     それから、亮は高校に来なくなった。
     町で見かけたという話をつなげ合わせてみると、どうやら昼も夜もあちこちでバイトをしているらしい。担任からは見つけて高校に来るように言ってくれ。と頼まれていたが、誰も、亮に声を掛ける人なんて居なかったらしく、橋で立ち話をした翌日から、一度も亮は学校に姿を見せなかった。
     また、それから半月ほど経ち、大学受験が近づいた頃だった。
     町に一つしかない勉強塾からの帰り道、偶然に橋を通りかかったとき、僕は橋に人だかりが出来ているのを見つけて立ち止まった。
    「どうしたんですか?」
     もう十一時近いのに、町の人口の半数はここに集まっているかの野次馬騒ぎを見かねて、僕は声を掛けた。
    「事故があったらしいのよ。無灯火バイクとダンプが正面衝突して、バイクに乗っていた人が川に投げ飛ばされたらしいの」
    「川に?」
    「いま、底をさらっているみたい。でもこう暗くちゃ駄目らしいわ、見つからないんだって」
     橋で事故。そして川に転落……亮の存在も、この橋で話した内容も忘れかけていた時に、僕は急に亮のことを思い出していた。



     翌日の朝礼時に、担任は、花瓶と花束を持って教室にやって来た。
     そして、あっけにとられている僕たちを見ず、一つだけぽつんと離れて置いてある誰も座っていない席にその花瓶を置いた。 
     三日しか座っていないが、そこは亮の席だった。
    「昨夜の事故で、惜しいことに高瀬君が亡くなった」
     誰も、何も言わなかった。
     何かを言うほど亮と知り合っていた人も居ず、旧友が泣き出すほど、このクラスに顔を出していたわけでも無かったから、僕たちは淡々とその日の授業を受けていた。

    「あの、先生」
     放課後に、僕は花瓶を片付ける担任に声を掛けた。
    「昨日の塾の帰りに、事故のあった橋を偶然に通ったんです」
    「おう、三村か。……高瀬の事、よく面倒を見てくれたな」
    「亮は? 川から亮は上がったんですか?」
    「今日の未明に上がったそうだ」
    「それで、通夜とか葬儀とかは?」
    「それが微妙でな。大阪に居る遠い親戚も引き取れないと言っているらしいから、きっと無縁仏になるんじゃないか」
    「遠い親戚? 両親とか家族は?」
     僕のその問いに、担任は驚いた顔をした。
    「三村、知らなかったのか? 話していなかったか?」
    「何をですか」
    「高瀬の家族は、昨年の夏に、ヨット転覆の事故で全員亡くなっているんだ」
    「……海で、ですか?」
    「四国付近の海らしいな」
    「だから、か……」
    「あ?」
    「河童ですよ」
    「かっぱ? 何だ突然」
     いぶかしがる担任を置いて、僕は学校を背に、橋へと向かった。
     途中の花屋で菊でも買おうかと足を止めたが、奥の八百屋で一袋三百円のキュウリを買い、自動販売機で煙草を買って橋のたもとにそっと置いた。何人家族かどうかは知らなかったけれど、四人家族だったとしても一袋もあれば足りるだろう。
     あいつはかなずちだと言ったけれど、それなのに川に飛び込むなんて大した度胸だ。と僕は思っていた。きっと、もう泳げるようになって、海にたどり着いただろう。
     四国は遠いけれど、きっとあいつならたどり着けただろう。と、何故か思った。
     川を見るたび僕もきっと、この川は海に繋がっているのだろうかと思うだろう。そして、海の底で再会した家族の事を思い出すだろう。
    友達と呼ぶには軽薄な付き合いだったかもしれないが、僕には河童の友達が居る。その友達に出来る最後の事が、橋のたもとに置いたキュウリだ。
     
     だから、もし橋のたもとにキュウリが置いてあったら、そっとしておいてくれないかな。
      
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