そして、ここ日本にはそうした流れを汲む決定的なバンドはある一組を除いて、長らく登場してこなかった。そのある一組が、ギターのオガワシンイチとヴォーカル/ベースのショウヤマチナツによって'93年に結成されたシュガープラントだ。3度のUSツアーを含む国内外のライヴで元Galaxie 500のDamon & NaomiやYo La Tengo、Low、Mojave 3、Silver Apples、Windy & Carl、Shellacといった海外アーティストとの共演を果たしてきた彼らは、'97年にはラフォーレ飯倉で行われたレイヴ・パーティのチル・アウト・スペースでライヴを行うなど、いち早くダンス・ミュージック・シーンとのクロスオーバーを実践。2000年リリースの6thアルバム『dryfruit』は、トランスやサイケデリックなディープ・ハウス、チル・アウト/ダウンテンポを内包し、ギター・バンドとしては世界に類を見ない進化を果たしてみせたが、あまりに早かった彼らの歩みは、後のアンダーグラウンド・シーンで地殻変動を起こすことになるオルタナティヴ・ハウス・シーンと合致することなく2004年に活動を休止。オガワはDJ活動に向かい、ヴォーカル/ベースのチナツはcinnabomとして、ブラジリアン・オリエンテッドなアシッド・フォーク・アルバム『in the garden』を発表。DJ NOBU aka DAZZ Y DJ NOBUのアルバム『DIARY』への参加を経て、2008年8月24日の代官山UNITにて、4年振りにシュガープラントの活動を再開させる。
共演はダンス・ミュージック・シーンと一定の距離を置き、昨年リリースの最新作『feu follet』をはじめ、20年に渡って独自の覚醒感を極めてきた孤高のギター・ロック・バンド、dip。裸のラリーズに端を発するジャパニーズ・サイケデリアの系譜を辿った暗闇に立ちのぼる蒼い炎のような彼らのギター・ロックは、静と動を行き来しながら、超高熱のクリエイティヴィティを内に秘めた冷たい音色が刹那の衝動を永遠に焼き付ける。そして、ポスト・ロック・バンドからライフフォースを経由し、3rdアルバム『9dw』ではダンス・ミュージックを通過したディープなフュージョンに辿り着いた9dw。さらにはDJとして、20年に迫るキャリアを通じて、オブスキュアーなディスコやバレアリックを極めながら、英国のベア・ファンクからリリースされた最新作「Back To The Beach EP」ほか、トラック・メイカーとしても世界的に高く評価されている英国人クリエイター、Max Essaをフィーチャー。4年のブランクを経て、劇的な変化を遂げた音楽シーン、その未開地で3バンド+1DJが吹かせる心地いい夏風と甘く危険な香り。皆さんご存じチョコレート工場の秘密はさておき、秘密の砂糖工場から届けられる極上のワン・ドロップはいかがだろうか。(小野田雄)