Jaguar. By Jean Rouch 1967 93min ルーシュは、50年代初め、まだアフリカが独立する前(ニジェールは仏国領、ゴールドコーストは英国領だった)、この労働移民の調査をし、社会学的モノグラフを残した。数千人のソンガイの男たちは、若き日に黄金海岸などに旅した話しを語る。映像では、ルーシュの3人の友人(助手)が、毎年乾季になると、短期季節労働者としてゴールドコーストに移民するアフリカの若者の役を演じる。3人の若者が、ニジェールのサバンナの村から、ゴールドコースト(後のガーナ)の港や町へ、金と冒険を求めて出発する。この映像は、旅、途上での出会い、アクラとクマシでの経験、そして3ヶ月後に、村に帰還する話である。映像は、一部はドキュメンタリーであり、一部はフィクションであり、一部は内省的なコメントである。3人の若い移民労働者役のラミ、イロおよびダモレは、即興劇を演じる。 1954−55年に撮られた映像は無声であった。当時小型の同時録音可能な撮影機は出現していなかった。撮影前に劇に即興性を計画し、俳優の対話と解説は後から録音された。数年に渡る事実収集の民族誌調査の基礎の上に成り立つ、フィクションの映像を、ルーシュはcine-fictionと呼んだ。(他の批評家はethno-fictionと呼ぶ)
「狂気の主人公」Les Maitres Fous (The Mad Master) By Jean Rouch 1954 28 min 「狂気の主人公」は、1920年代から1950年代に、西アフリカで広まったハウカ教派の憑依儀礼の映像。教派の成員は「力」、つまり植民地主義が強いる政治権力と技術の力を、崇拝する。ハウカ儀礼の参加者は、ニジェールから英国統治下にあったゴールド・コースト(1957年に独立したガーナ)の首都アクラに職を求めて移住した都市労働者たちである。 1953年ルーシュは、小さなハウカ集団の祭司に依頼され、アクラ郊外の農家で催された年一度の儀式を撮影した。その結果が、「狂気の主人公」で、ハウカたちはイヌを屠殺して料理し、食べ、荒々しくはね踊り、口に泡をふくにつれて、イギリスの支配体制側出身の将軍や医者、トラック運転手の霊にとりつかれていくさまを写している。ルーシュは、街中のハウカ構成員の日常の仕事ぶりを織りこむことによって、儀式が、植民地という状況下にある移民労働者の生活の緊張をうまく処理するのに役立っていることを、それとなく示している。