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2007年01月25日21:08

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映画【ダーウィンの悪夢】と【不都合な真実】

ここ最近の傾向として、ドキュメンタリー作品が大規模な配給
システムに載って、上映されることが多くなってきました。

数年前までは、単館上映や名画座といった、かなり通なセレク
ションでしか見かけなかったものが、最近は全国ロードショー
公開が当たり前になってきています。
今回は、最近、続けざまに観た2作品について、紹介したいと
思います。

【ダーウィンの悪夢】と【不都合な真実】は、どちらも、経済
一辺倒な先進国側のロジックにより、世界規模の弊害が起きて
いる現実について、実に判りやすく、冷徹に提示しています。


さて、作品を観て、私が感じたことを表現する上で、劇中の、
詳細な描写に触れねばなりません。
ネタバレを嫌う方は、この先を読まないで下さい。


※ この先に、映画【ダーウィンの悪夢】と【不都合な真実】
  両作品のネタバレ記事が含まれます。
  ご注意いただくと共に、ネタバレを嫌うお方は、この先を
  読み進まないよう、お願いいたします。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



1_負のグローバリゼーション

【ダーウィンの悪夢】で作品の舞台となるのは、タンザニアの
ビクトリア湖畔。
かつて、「ダーウィンの箱庭」と呼ばれ、多様な生態系の見ら
れた湖が、「ナイルパーチ」という、外来淡水魚の放流によっ
て、そのバランスを崩していき、湖の環境破壊と連動するかの
ように地域経済が崩壊していく様を克明に描き出しています。

「ナイルパーチ」は、その巨大な体躯ゆえに白身の加工魚とし
ての地位を確立しています。
湖の周辺には「ナイルパーチ」加工を中心とした一大産業が栄
えますが、それらは、主に北半球の先進国への高価な輸出食材
として加工され、現地の人々の口には入りません。

その一方、「ナイルパーチ」が、在来種のほとんどを食い尽く
してしまったために、旧来の伝統的な漁業に頼る人々の暮らし
を完全に破壊してしまいます。

街には貧困から、売春やストリートチルドレンが激増し、稼げ
る職業は、軍人くらいになってしまっています。

先進国からもたらされた一方的な経済原理が、新たな格差と貧
困のピラミッドを作り上げ、貧困ゆえに些細なことが、暴力に
直結します。
子供たちは、暴力の恐怖から逃れる為に「ナイルパーチ」の梱
包材料(発泡スチロールの一種と思われる)を火であぶって、
その煙を吸引しながら、路上で眠りにつきます。

内戦や紛争、暴力をおさえる為に武器が使われるのですが、武
器の出所は、これもまた先進国なのです。

先進国のエゴを維持する為にアフリカの底辺層がないがしろに
されていると同時に、些細な主義主張の違いから衝突を引き起
こす構造の背景は、まさに【衣食足りて礼節を知る】というコ
トバのパラドックスを感じます。



2_大統領になれなかった漢のライフワーク

【不都合な真実】では、アル・ゴア元副大統領の地球温暖化に
関する講演の様子を詳細に紹介すると共に、これまで、如何に
アメリカという国が、環境問題に対して後ろ向きであり、世界
の足並みを乱してきたかを辛らつに描いています。

この映画の縦軸は、とにかく、豊富な実証データに裏付けられ
た、地球温暖化の揺るぎない事実の提示と、将来の影響に関す
る緻密なシミュレーションです。

例えば、これまでの30年間で、世界各地の「冬の景勝地」の
ほぼ全域が、悲惨な状況にさらされています。
ずばり、雪や氷河が、ほとんどといっていいほど無くなってい
るのです。
また、近年、世界各地で夏場の暴風雨による異常気象が観測さ
れており、海岸沿いの都市部に対して、まさに壊滅的な打撃を
与え続けています。

それらは、ひとえに地球全体の温度上昇により、気流や海流の
バランスが急速に変動したためです。
その温度上昇のカーブは、地球の有史以来、ここ近年のデータ
が飛びぬけて異常であることが、彼のわかり易く的確なプレゼ
ンテーションで示されていきます。

この、講演風景を観るだけでも、かなりためになります。
冗談ぬきで、アル・ゴア氏のプレゼン手法は、経済の現場でも
十分に応用の利く内容です。

一方、横軸として、当然のように、政敵ブッシュに敗れた件や、
彼が環境担当大臣であった当時のフィルム等を通して、環境問
題に対するアメリカのアンチぶりが否応無く晒されます。

結果的に、環境をビジネスに転換する上で、いかに世界から取
り残されてしまっているかを。
世界一を自認する国家が、実は、こと環境面においては、経済
拡大発展途上の中国にも遅れをとり、先進国でダントツの最下
位である現実をつきつけ、聴衆の意識改革を促していきます。



3_続けて見比べると見えるモノ

【ダーウィンの悪夢】で描かれる貧困の原因として、もうひと
つ、大規模な干ばつによる、農業や牧畜の壊滅についても触れ
られています。
豊かな土地や家畜を失った農民は、都市を湖畔を目指します。
過剰な人口流入が、さらに都市を荒廃させ、底辺層の貧困は、
加速度的に拡大していきます。

仮に天候が安定していて、農業や牧畜の基盤がしっかりしてい
れば、ビクトリア湖の悲劇に一定の歯止めをかけることが、可
能でしょう。


そして、【不都合な真実】では、アル・ゴア氏が、温暖化の意
外な盲点をも指摘してくれています。

温暖化の議論では、海面上昇が必ず議論され、平地の水没が、
目だって強調されます。
しかし、温暖化の弊害は、それだけではありません。

温暖化は、空気中の水蒸気量の増大をも伴います。
暖かい空気は、より、沢山の水蒸気を蓄えることができます。
そこに冷たい空気が接することで、その境界線上に雨雲が発生
します。
空気中の水分が多いことが、暴力的な大雨に直結します。

水蒸気供給源は、そのほとんどが海ですが、暖かい空気は、地
面からもじわじわと水分を奪い続けます。
空気は、その温度にみあった水分を蓄えようとするのです。

大雑把にいうと、これこそが、干ばつのメカニズムなのです。


つまり、温暖化を防止すると、間接的にアフリカの飢餓と貧困
を抑止する道に繋がっていくのです。


【ダーウィンの悪夢】だけでは、その救いようの無いシーンの
連続に、おそらく自暴自棄な気分に陥ります。
【不都合な真実】は、衝撃を受けたあとに解決の糸口が提示さ
れ、前向きな気分で劇場を去ることができるでしょう。

両方をご覧になる方は、どうか、鑑賞の順番にだけはお気をつ
け下さい。


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