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2026年05月15日22:05

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古人類学『二足歩行と石器のドリル:700万年を繋ぐ道具の系譜』虫歯治療 トゥーマイ、ネアンデルタール人、ホモ・サピエンス

5月15日(金)

 『二足歩行と石器のドリル:700万年を繋ぐ道具の系譜』

我々ヒトがいかなる過程を辿って高度な知能を獲得し、現在(いま)に至ったのか。それは人類にとって究極のミステリーである。我々現生人類を差すホモ・サピエンスとチンパンジーの分岐点を探っていく。過去の発掘調査から、起源はアフリカ大陸説が有力になった。ヒトとチンパンジーの違いは、歩行の仕方と道具の使い方にある。第1章は、700万年前に生息したとされる過渡期のサヘラントロプス・チャデンシスとチンパンジーの違いについて迫る。第2章は、推定2万8000年前まで生存していたホモ・ネアンデルタールレンシスについての新発見について詳しく紹介していく。

 目次
・第1章 ヒトとチンパンジーの違い
・第2章 ヒトらしきネアンデルタール人
・豆知識 現代の虫歯治療
・あとがき


  第1章 ヒトとチンパンジーの違い

我々ヒトは、一体どのような過程を辿って、高度な知能を獲得し、現在(いま)にいたるのか、究極のミステリーである。遺伝子的にはチンパンジーの近縁種と判明している。ヒトとチンパンジーの違いは、歩き方だった。森の中に暮らすチンパンジーは、立ち上がることはあるとはいえ、両手は地についた状態で歩行する。四足歩行のチンパンジーに対して、ヒトは二足歩行である。草原に進出する過程で敵をいち早く発見するため、後ろ足で立ち上がった。草を掻き分けて前進するうちに、骨盤で体重を支えられるようになる。二足歩行した種こそが、人類である。


もう一つは道具の使用頻度だった。現生のチンパンジーは、比較的丈夫な小枝や蔓を巧みに利用する。ゴンベ(タンザニア)とベリンガ(ガボン)の森では、道具を使って効率よく採取していた。シロアリの塚の穴に、蔓やイネ科草本の茎、細かく割かれた樹皮などを差し込む。兵隊アリの防衛本能を利用した巧みな技だった。道具に咬みついた兵隊シロアリを引き抜き一網打尽にする。マハレ(タンザニア)では、同じような方法を使って、樹上性のオオアリを吊り上げていた。

 化石調査の末に、アフリカ東部地域を中心に各地域で発見された化石から、人類学者は骨盤の形などを元に、二足歩行していたか、検証する。

写真� .泪魯譴妊�オアリを釣りあげる大人のオス
フォト

 チンパンジーとヒトの過渡期は、アフリカ中央部チャド共和国で700万年前の地層から発見されたトゥーマイだといわれている。2001年にその存在が明かされた。学名はサヘラントロプス・チャデンシスという。ほぼ完全なかたちの頭蓋骨と下顎の一部、いくつかの歯の化石が後に見つかった。

化石には下記の特徴がある。

・脳の容積は約320〜380cc(チンパンジーと同程度)
・眼窩上隆起が著しい
・大後頭孔が頭蓋骨の下方を向いている
・顔の表面は平ら
・犬歯はやや小型
・歯のエナメル質が厚い
・脳の容積や眼窩上隆起は類人猿のものと似ているが、それ以外の特徴は人類らしさを示している


二足歩行か四足歩行を分ける鍵は、大後頭孔の位置にある。大後頭孔とは延髄や椎骨動脈が通る孔のことをさす。この孔が頭蓋骨の下方にあると、直立した時に顔は自然と前を向く。骨格の形からサヘラントロプス・チャデンシスは直立二足歩行をしていたと推定される。


写真�◆.肇ァ璽泪い良�元像と新たに作成された頭蓋骨のレプリカ(愛地球博2005の展示物)
フォト

2022年にネイチャー誌に掲載された論文にて新事実を明かした。二足歩行の裏づけをとれた部位は、大腿骨と尺骨である。サヘラントロプスは、地上では二足歩行していたと結論付けた。一方樹上では二足歩行と四足歩行を併用していた。つまりチンパンジーから人類の進化へいたる過渡期だったのである。ただしサヘラントロプス・チャデンシスが、どのように道具を使っていたか、明らかになっていない。今後は現生のチンパンジーの生態を徹底して研究したうえで、見つかった化石の主を考察していく。
 過去、最古の人類の常識は、アウストラロピテクス・アフリカヌスだった。南アフリカのキンバリー近郊に積み重なった280万年前の地層から化石が出土した。チンパンジーからヒトへ至る過渡期とされていたものの、石を道具に使った事実が明らかにされている。サヘラントロプス・チャデンシスが二足歩行していた可能性が高いことを踏まえると、420万年も遡ることになる。化石が発掘されるたびに、我々ヒトとチンパンジーの違いが見えてくる。ルーツを探る旅は続いていく。
 
   第2章 ヒトらしきネアンデルタール人

 我々人は、猿人から原人、旧人、新人へと進化系譜を辿り、そのたびに道具の使い方を含め進化していく過程で、言葉を獲得していった。淘汰が繰り返された結果、現存種はホモ・サピエンスのみである。700万年前のサヘラントロプス・チャデンシスは二足歩行をしていたとみられるものの、道具の使い方については分かっていない。次に登場したのは、北京原人やジャワ原人に代表されるホモ・エレクトゥス(原人)である。猿人よりも高度に進化し、火を起し、煮炊きをしていた。140万年前に絶滅し、現在のホモ・サピエンスとは直接つながっていない。

最も近い仲間は、ホモ・ネアンデルタールレンシス、つまりネアンデルタール人である。28万年前にネアンデルタール人が属する旧人と、我々ホモ・サピエンスを指す新人は、分かれた。ネアンデルタール人は、31万5000年前から80万年以上前にホモ・ハイデルベルゲンシスから分かれたとされる。ヨーロッパ大陸から西アジアを中心に暮らしていた。洞窟での地質調査から、ホモ・サピエンスのように、言葉を操り、狩りをしていた形跡が残っている。我々ホモ・サピエンスとは一部同化したものの、基本交わることはなく、2万8000年前に姿を消した。

 写真�� 人類の系統図
フォト

このたび、ネアンデルタール人が、我々現生人類に近い属性が明らかになった。舞台はロシア南部アルタイ山脈の麓にあるチャギルスカヤ洞窟遺跡である。約5万9000年前と推定される大人の大臼歯が見つかった。不自然なほど大きな穴を、尖った石器で開けた痕だった。ロシア科学アカデミー・考古学民族学研究所を中心とした団体は、一つの仮説に行き着いた。5月14日付けで米科学誌プロスワンにて、大臼歯に見つかった穴は、人類最古の虫歯治療痕だと発表した。

 写真�ぁ.優▲鵐妊襯拭璽訖佑了�の化石
フォト

 その仮説を裏付けるのはマイクロCTを使った詳細なデーターにある。下顎側の大臼歯にかみ合わせ面にできた虫歯部分にとがった石器を当てた。主にドリルのように回転させる際に生じた穴だと分かった。穴の深さから歯髄腔(しずいくう)に達していた。つまり神経が死んで一時的に痛みが消えたと断定できる。

 写真�ァ.優▲鵐妊襯拭璽訖佑了�の化石 治療痕と推定される穴
フォト

 もちろん、ただ単に虫歯説も否定できない。なぜなら虫歯菌は、酸を出して表面のエナメル質を少しずつ溶かして、穴を開けていくからである。なぜ治療との因果関係を示すことができるのか、穴を開けた後に歯がすり減っていることにある。口内の酸性環境でエナメル質からミネラルが溶け出る「脱灰」の痕が見つかった。研究チームは現生人類(ホモ・サピエンス)の歯の化石を使って、石器で穴を開ける実証実験を行った。その結果5万9000年前のチャギルスカヤ洞窟で見つかった大臼歯痕と同じ穴ができたと立証した。
これまで、人類最古の虫歯治療痕とされていたのは、イタリア北部で見つかった約1万4000年前である。現生人類の若い男性の大臼歯だった。かみ合わせ面の虫歯部分を石器でほじくり出すようにして穴を開けていた。研究チームは、4万年以上古いネアンデルタール人の治療痕の方が技術的に優れていると明かした。

 写真�Α.優▲鵐妊襯拭璽訖佑了�の化石 CTスキャン映像
フォト

 ネアンデルタール人は、我々ヒトより劣っていたとの常識を覆す発見だった。現生人類との共通点を探り出すことで、人類史の大きな謎に迫ることができる。我々現生人類がなぜこれほど繁栄して、ネアンデルタール人は滅んだのか、化石が見つかるたびに、新事実が解き明かされている。

 豆知識 現代の虫歯治療

21世紀、日本では歯に対する健康意識が高まりつつある。現在歯科医院では、患者の虫歯予防にも力を割く。強力な方法はフッ素(F)である。原子番号でいうと、8の酸素(O)に次ぐ9番。
原子番号で酸素の「下(大きい番号)」に位置するフッ素は、周期表の右端(希ガスを除く)に位置する。全元素の中で最も電子を引き寄せる力が強い(電気陰性度が最大)。酸化予防に向けた守護神として君臨する。

フッ素を歯に塗ることにより、以下のメカニズムが働く。

歯の表面のエナメル質は「ハイドロキシアパタイト」というリン酸カルシウムの結晶でできてる。歯磨きを怠り、汚れが溜まると、口内に住みついた虫歯菌(ミュータス菌)の餌になる。食べ物を分解する過程で生じる副産物の酸(乳酸)が発生する。虫歯菌が原因となる口内の酸によって、この結晶からカルシウムなどが溶け出していく(脱灰)。いわゆる酸化現象である。

フッ素の介入: フッ素がやってくると、虫歯菌による酸化が抑えられる。なぜなら歯の表面のエナメル質を形作るハイドロキシアパタイトの一部と置き換わるからである。新たに「フルオロアパタイト」というさらに強固な構造を作り上げていく。

フッ素は酸素よりも電気的引力、つまり「結びつく力」が強い。一度フルオロアパタイトになると、酸に溶けにくい「無敵の装甲」に変化するのある。

写真�А.侫蛋任瞭�きの解説図
フォト

 5万9000年前のネアンデルタール人は、石器を回転させて痛みの源を削り取った。対して現代の我々は、原子番号9番の猛者、フッ素の力を借りて、歯の表面を化学的に作り変えることで酸化を抑えた。物理的な破壊(削る)から化学的な防衛(再石灰化)へ。道具による削りとる方法は、最後の手段だった。上質な歯を保つうえでは予防意識の向上が欠かせない。原子の性質を理解した今、天然の歯を残すために大きく役立った。ただし虫歯菌は、完全に排除できない。『痛みへの抵抗』は今も続いている。

 あとがき、

700万年前の最初の一歩から、5万年前の石器のドリル、そして現代のフッ素の装甲へ。道具の形は変われど、生命を明日へと繋ごうとする切実な意志は、今も我々の指先に脈々と受け継がれている。


以下 写真出展先や参考文献


・写真� .泪魯譴妊�オアリを釣りあげる大人のオス (矢印の先にアリがかみついている)
photos by K.Hosaka 掲載元 京都大学人類進化論研究所
https://jinrui.zool.kyoto-u.ac.jp/ChimpHome/dougu.html

・人類の進化系譜について

Tplant 人類はいつ誕生したのか?ヒトとチンパンジーの進化の分岐点
https://tplant848.com/blog/divergence-humans-chimpanzees

・写真�◆.肇ァ璽泪い良�元像と新たに作成された頭蓋骨のレプリカ(愛地球博2005 グローバル・ハウス内の展示物)提供:フランスーチャド古人類調査隊(MPFT)頭蓋骨は発掘時潰れた状態から復元

・写真�� 人類の系統図 3B Scientific https://www.3bs.jp/model/skull/vp751-1.htm?srsltid=AfmBOoquFhEMdC-tN4VvHWITyTOUj-QOYUSCoMMw66y2huX3WCZF_5kJ

・写真�ぁ.優▲鵐妊襯拭璽訖佑了�の化石
・写真�ァ.優▲鵐妊襯拭璽訖佑了�の化石 治療痕と推定される穴
・写真�Α.優▲鵐妊襯拭璽訖佑了�の化石 CTスキャン映像
 (米科学誌プロスワン提供)
以上3つの写真の掲載元 Gigazine 2026年5月15日午前6時の記事
「約5万9000年前のネアンデルタール人が石器で虫歯を削って治療していた可能性」
https://gigazine.net/news/20260515-neanderthal-dental-caries-treatment/

・写真�А.侫蛋任瞭�きの解説図 掲載元 BUTEL https://www.butler.jp/protect/byfusso/


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