町工場のおっさんワヒドには、数年前に反政府主義者の疑いをかけられ、収容所で苛烈な拷問を受けた過去がある。義足の尋問官エグバルに暴行され、今も右の腎臓が痛むのだ。
ある夜ワヒドは、目の前でエンストしたクルマの運転手が義足であることに気づいた。あの悪夢のような義足の足音が脳裏に蘇る。間違いなく「エグバル」だ、と確信したワヒドは、直って走り出したクルマをバイクで尾行し、男の家を特定した。男には臨月の妻と幼い娘がいるようだ。
翌朝。工場のバンで家を張り込んでいたワヒドは、外出した男に襲いかかり拉致してしまう。復讐のため、奴を生き埋めにしてやるのだ。だが男は、「私はラシド、脚を事故で無くしたのは去年だから、人違いだ」と主張する。演技と思えなくなったワヒドは、収容所時代の友人に連絡をとり、自分と同じように拷問を受けた者たちを集めて男がエグバルかどうかを確認しようとする…
「シンプル・アクシデント/偶然」
以下、ネタバレの水差し。



ちょっとしたアクシデントとジャンプスケアを意図的に連打してエンタメ度を高める、実に皮肉なコメディ。どシリアスな話なのに、笑えるんですよこれ。男女のドライブ長回し→後部席から娘登場(ビックリ)→なんか轢いちゃう(ビックリ)→工場の電気がいきなり点く(ビックリ)ときて、ワヒドの気付きはじっくりゆっくりサスペンスフル…という具合の緩急。最高でしたね。冒頭が長回しでラストもワヒドの後ろ姿長回しという構造的面白さといい、出てくるキャラが登場順に計算されているとこといい、脚本がとにかく巧い。最大の皮肉は、殺人という悪行が何故か「救命」という善行にシフトしまい、その舞台が「エグバル病院」というところ。憎しみの愚かさとその浄化について一つの解答を提示する傑作だと思いましたね。ラスト、ワヒドの背中に近づきやがて遠ざかる「足音」に恐怖と安堵を覚えつつ、人間は捨てたもんじゃないと思った一本。これはオススメですよ^_^
にしても、あちらはワヒドにラシドにハミドと似た名前が多くて困る。女性はシヴァにゴリと覚えやすいんだけどね。ただ字幕で混乱しないよう上手く名前を捌いていた印象。ぜひぜひ。
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