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助手席の彼女の名前は清水鏡子というそうだ。
大分自動車道・萩尾パーキングから僕の車に乗って来た、初対面の女性。
自称・女子大生だという。
ヒッチハイクでここまで来て、日田インターから国道212号を下る車に乗り換えたかったのだそうだ。
確かに僕は国東半島まで行くが、どうやって、僕の車の行先を推測したのだろう。
謎を残したまま、本線に合流する。
「広瀬淡窓の詩碑を読んだ人の車に乗りたかったのです」
詩碑?
ああ、あれか。
駐車スペース脇の歩道に、確かにあった。確かに、読んだ。
鏡子さんは続けた。
「君は川流(せんりゅう)を汲め、我は薪(たきぎ)を拾わん」
ああ、結句だな。
「ここは法華経の提婆達多品(だいばだった-ほん)を下敷きにしてるわね」
すぐに日田インター出口となる。
どこかの王が、真理を求めて仙人の弟子となって修行を始める。
修行には、仙人の身の回りの世話も含まれ、食事を作る記述さえある。
「薪を拾い、食(じき)を設け」というのが原文だ。
「つまり、薪を拾うほうが弟子、つまり下の人間なのね」
そういう読み方をするものだったのか。
──鏡子さんか。
しばらく付き合ってみようか。
通い慣れた国東の道が、今回はひと味違うものになりそうだ。
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