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2024年04月05日23:35

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『オッペンハイマー』感想

～「ダークナイト」「TENET テネット」などの大作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を下敷きに、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を描く～
～第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……～＜映画.comさんより＞

3回観ました。１回目IMAX、２&3回目は通常スクリーン。
というのも、１回目で「一部の映像は確かにIMAXがいいかもしれないけど、むしろ今作は台詞劇だわ」と気づいたため。
１回目観賞後、とにかくわからないことだらけだったので、あれこれ情報収集。

一番わからなかったのが、ロバート・ダウニー・Jr.演じるストローズの公聴会。あれは何のためだったの？
３回目で、ようやく商務長官（日本で言うと経済産業大臣らしい）という字幕が見えて・・・（オイオイ）
いわゆる閣僚になるに相応しい人物かどうかを確認する場だったんですよね。

話、戻りますが、私、冒頭の雨と水溜まりの波紋の映像から、すでに引き込まれました。

オッペンハイマーは「核分裂」（原爆）
これは、彼の危うい精神状態をも意味してる？
ストローズは「核融合」（水爆）
周りの人間を陰で操り、束ね、自分の地位を確立しようとする

私、時間軸は３つと思っていたんですが、どうやら４つだったようで。
こちらを参考にさせていただきました

https://ciatr.jp/topics/319799
①1922～1945年　オッペンハイマー　大学時代→教授→マンハッタン計画→トリニティ実験→広島・長崎
②1949年　オッペンハイマーは水爆開発の推進に反対しストローズと対立。
③1954年　オッペンハイマー　ソ連のスパイ容疑で聴聞会（機密情報へのアクセス許可がどうなるか）
④1959年　ストローズ　公聴会
①と③がカラーでオッペンハイマー視点。②と④がモノクロでストローズ視点。

書きたいことは山ほどあるんですが、まず、私、町山智浩さんの解説動画を見て、ハッと気づかされたことがあって。
「オッペンハイマーは人間として、どこかおかしいところがある」

そう、そう、私もあちらこちらで、オッペンハイマーの振る舞いに疑問だったのよ。
いくつかピックアップ

・弟のフランクが婚約者のジャッキーを紹介するのに、オッペンハイマーはろくに挨拶もしない
・ジーンが「花は持ってこないで」と言ってるのに、毎回持って行く
・アイソトープについて語ったストローズに対して馬鹿にしたような発言をする
・ストローズが息子と彼の妻を紹介するがこれまた挨拶しない
・育児疲れのキティを見て、息子を連れてどこに行くのかと思いきや・・・なんと友人のシェバリエ夫妻宅に行きそのまま息子を預けた
・ロス・アラモスについた途端、キッチンが無いことがわかる
（まあ、これは、オッペンハイマーのせいじゃないかもだけど）
・ジーンへの台詞「（どんなことをやったとしても）才能が償ってくれる」

あと全編に渡って、オッペンハイマーが見る幻影＆妄想があちこちに。
まだ見ぬ恐怖。これから起きる事。起こってしまった事。
実際は見ていないのに、オッペンハイマーには手にとるように見えてしまう。
広島と長崎の映像は出てこないものの、その怖さを体感させられるのがこのシーン

・原子爆弾投下後のオッペンハイマーの勝利のスピーチ
「世界はこの日を記憶するでしょう。爆撃による結果を決定づけるのは時期尚早ですが、日本人は好まなかったことは確かだ」
その時、突然、白い閃光が走る。顔の皮膚がただれた若い女性が映り、会場には灰が降り、誰もいなくなる。

また恋人だったジーンが亡くなるシーンも怖かった。
風呂場での自殺と見せつつも、黒の手袋をはめた者が、ジーンの首を絞めているかのような動きが一瞬映る。

オッペンハイマー本人、そして、マンハッタン計画に呼ばれた科学者の多くはユダヤ人。
ナチスドイツは同胞を苦しめている。ドイツに遅れるわけにはいかない。
だが、ヒトラーが自殺する。爆弾はどうする？使わなければいいだろう。
「（いや）日本だ」
科学と政治と軍の意見が・・・一致してしまう。
日本への原爆投下に反対する署名を集めるシラード。だがオッペンハイマーは署名しない。
このあたりも、もしかして、オッペンハイマーは人間として、どこかおかしいところだったのか・・・。
人間としての道徳＜ここまで来たら止められない科学者の狂気

ラビ「300年の物理学の成果が大量破壊兵器なのか？」

印象に残ったシーン
・２つの透明な大小の容器（＝装置）にビー玉がたまっていくのが何気に怖かった。
ウラン235使用のリトル・ボーイ（広島）とプルトニウム使用のファット・マン（長崎）
・聴聞会でいきなりオッペンハイマーが全裸で座っていて、そこにこれまた全裸のジーンが絡んでくるのは、まさに「丸裸にされて辱めを受けている」っていう意味なのはわかるけど、ちょっと目が点に。

３回観てもわからなかったこと
・デヴィッド・L・ヒルが公聴会で、オッペンハイマーをリスペクトし、ストローズの嘘を暴露する証言をしたこと。
デヴィッドとオッペンハイマーが会ったのは２回。いずれもオッペンハイマーの態度は良くなかった。署名もしなかったし。
なのに、なぜ？
・ウィリアム・ボーデンについて、もう少し説明がほしかった
ストローズがボーデンにファイルを渡し、オッペンハイマーを告発するように仕向けるっていうところ
・パッシュはどういう人物？いきなり出てきて、オッペンハイマーにスパイ疑惑調査
（今作編集の方のインタビューを読んだんだけど、このシーン、最初はもっと長かったのに、かなりカットされたそうです）
・テラーとニコルスが、終盤、ストローズ側につく。テラーはわかるけど、ニコルスはどういう経過でそうなった？

しかしオッペンハイマー、よく、テラーと握手したよね。キティは拒絶＆激怒してたのに。

※予告編
https://youtu.be/Uoctuzt2IfU

キャスティングが最高！メインの人物たちは言わずもがな、その周りの人物たちも、素晴らしすぎた。
ローレンスにジョシュ・ハーネット、パッシュにケイシー・アフレック、デヴィッド・L・ヒルにラミ・マレック、ボーアにケネス・ブラナー、ニコルスのデイン・デハーン、アインシュタインにトム・コンティ、そしてトルーマン大統領にゲイリー・オールドマン。
中でも私が猛烈にスゲぇ～と思ったのが、テラー役のベニー・サフディ。
この人、監督もやるし、俳優としても、様々な役を演じてて、信じれないような才能の持ち主。
今回も難しい役だったけど、めちゃめちゃ上手かった。

３時間の大作なれど、３回目の体感は２時間15分程度。
テンポ早いし、重要な台詞が次から次へとくるし、人間関係＆構成複雑だし、常に考えてなきゃいけないし、集中してなきゃいけないし、加えて映像凄いし、音にもビビらされるし、時間があっという間。

「オッペンハイマーという人物を描きたかった」という監督の言葉に納得。
もちろん日本人としては、辛く、歯がゆく、腹立たしくなる箇所、あります。
それでも、今作は、ずっとオッペンハイマーの苦悩にフォーカスしていたと思います。
彼が抱える責任感、罪悪感、迷い、戸惑い、矛盾、葛藤に観客も巻き込まれていく。

アカデミー賞の脚色賞は逃したものの、ノーラン監督の脚本、素晴らしかった。
難しくて、わからないなりにも、ずっとずっと引き込まれていた。

今作ほど時間をかけてあれこれ調べた作品は久しぶり。
（これまで観たノーラン作品のいくつかは難しすぎて、理解しようとも思わなかった