原発雑考第４２８号の転載です。
2024・3・1
発行 田中良明
転載自由
連絡先 豊橋市富士見台二丁目12-8 E-Mail tnk24@tees.jp
逃げる規制当局
能登半島地震を踏まえて、1月31日に全国160以上の市民団体などが、地震災害などと原発事故が同時に発生する複合災害においては住民の安全避難が確保されないことが明らかになったので、国内の原発は動かすべきでないという要望書を政府に提出し、その後に原子力規制庁と意見交換をした。
意見交換のなかで規制庁の担当者は、複合災害の場合は人命救助が先で避難は後であると述べたという。人命救助が先で避難は後というのは、一般の災害には妥当するかもしれないが、避難しなければ被曝し続ける危険性が高い原発災害には当てはまらないのではないか。実際に福島原発事故の際には津波による行方不明者の捜索をやめて避難が行われている。避難が人命救助に優先されたのである。担当者の言は、人命救助が先で避難は後という根拠のない定式を掲げることで、複合災害時には避難が遅れること、避難できない状況が発生しうることを正当化しようとする詭弁である。
担当者は避難において被曝ゼロは想定しないとも述べたというが、そもそも避難が必要とされる事態において被曝ゼロはありえない。そこで求められるのは、被曝を可能なかぎり低減し、健康被害が出るような被曝は防ぐことである。担当者のこの言も、そもそもありえない被曝ゼロを否定することで要避難者に際限ない被曝を受忍させようとする詭弁である。
また、規制委員会の山中伸介委員長は、この日以前に能登地震で「木造家屋が多く、屋内退避できない状況が発生したのは事実」と述べて、原発事故発生時にはまず屋内避難するという原子力災害対策指針の前提が崩れたことは認めつつ、指針の改定には消極的な姿勢を示していたが、1月31日の記者会見では指針そのものの見直しはしないと明言した。
能登半島地震で、複合災害下での安全な住民避難の保障は不可能であることが明らかになった。そのことを認めれば、原発は稼働できなくなる。そうなることを避けるべく、規制当局はこの問題の議論から逃げているのである。
原発と減炭素・脱炭素 (１)
昨年開かれたCOP28の合意文書で原子力が温室効果ガス(GHG)排出ゼロまたは低排出の技術に位置づけられ、日本を含む23ヶ国によって2050年までに原発設備容量を3倍にするという宣言もなされた。ただし、原子力とともにGHG排出ゼロまたは低排出の技術に位置づけられ再エネについては2030年までに設備容量を3倍にすることが盛り込まれたが、原子力にはそのような数値目標はなく、軽い位置づけである。原発設備容量3倍宣言も有志国の宣言で、COPとして採択されたものではない。
とはいえCOP28で原子力が一定の存在感を示したことは事実であり、その裏に世界の原発推進勢力の画策があったことはいうまでもない。彼らは減炭素・脱炭素の流れに乗って原子力の復権を狙っているのである。しかしさまざまな理由から原発は減炭素・脱炭素に貢献しない。以下で、本誌でこれまでに種々論じてきたことをまとめるかたちでそのことを示したい。
原発の利用を主張するのであれば、まず、原発過酷事故発生の危険性をどう捉えているかが問われねばならない。この危険性は、ウクライナ戦争で原子力発電所が軍事的攻撃の対象になりうることが示されたことで従前よりも格段に増大しているし、最近の能登半島地震では原発事故と自然災害が複合発生すれば住民避難は不可能になることも明らかになっている。
ところが原発利用の主張の大半は原発過酷事故発生の危険性を端から無視している。それはまさに論外であって、論じるに値しない主張である。
原発過酷事故発生の危険性は認めるが、減炭素・脱炭素のために原発利用はやむをえないという主張もある。この主張については、極めてまれにしか起きないが起きれば途方もない被害をもたらすというデメリットとCO₂を排出しないというメリットとを比較考量することが可能なのかという原理的な問題があるし、この主張のほとんどは、原子炉内のウランとプルトニウムの核分裂過程でCO₂は発生しないという理学的事実を持ち出すだけで、電力の減炭素・脱炭素に原発利用が不可欠であることを具体的に説明してもいない。
さらに原発稼働で発生する高レベル放射性廃棄物の確実な処理法が見つかっていないという問題もある。日本では地下に処分をすることになっているが、それについては多くの批判があり、最近も日本地質学会の元会長を含む300人以上の専門家が声明を発表して、日本列島は複数のプレートが収束する地震・火山活動が活発な変動帯であって、100万年にわたって影響を受けない場所を選ぶことは現状では不可能であると訴えている。
以上の指摘だけで原発利用の主張の破綻は明らかだが、それに加えて、再エネ発電が圧倒的なシェアを占めることになる脱炭素下の電源構成のもとでの原発利用については、原発稼働に不可欠なバックアップ電源が確保できないという致命的問題が存在する。
原発は事故やトラブルで停止することが多いし、1基の発電量が大きいので停止した際に電力供給におよぼす影響が大きい。福島第一原発の事故のような大事故が発生すれば、安全上の懸念から国内の全原発が停止することもありえる（場合によっては国境を越えて停止が広がることもありえる）。したがって原発を稼働させるに際してはバックアップ電源を確保しておくが不可欠である。
これまでは火力発電が原発をバックアップする役割を担ってきた。そうなったのには以下の4つの大きな理由があった。�� 原発が出現した20世紀中頃以降は火力発電が圧倒的な主力電源であって、第一線から引退した火力発電施設で構成される予備電源がつねに豊富に存在していた。 �� 火力発電は発電コストに占める固定費の割合が小さいので、予備電源として保有しておくことの負担が小さい。 �� 火力発電はバックアップが必要になった際に比較的短時間で出力アップや起動ができる。 �� 火力発電は出力の調整が比較的容易なので、それが困難な原発を電源システムのなかに抱え込むことができる（電力需要が小さい時間帯には火力発電の出力を落とすことで、原発の出力を変動させることなく電力の供給を需要に合わせることができる）。
このように火力発電が圧倒的主力電源であるという歴史的状況があったから、原発は電源システムに入り込むことができたのである。福島第一原発事故後に国内原発が全基稼働停止に追い込まれた際も、稼働中の火力発電の稼働率を上げ、休止中の火力発電を再稼働させることによって原発全基運転停止で失われたのに相当する電力を生み出している（本誌414号参照）。
再エネ発電の主力である太陽光発電や風力発電は自然条件が許す範囲内でフル稼働しているから、他の電源で稼働停止や稼働率低下が発生した際にそれをバックアップする余力はない。原発は火力発電が圧倒的である電源構成のもとでのみ稼働することができるのである。
CO₂排出抑制の面から見れば、原発は火力発電が圧倒的なシェアを占める電源構成下でそのシェアの一部を肩代わりすることによってCO₂排出削減（減炭素）にある程度貢献する可能性はある。しかし原発の稼働がCO₂を排出する火力発電の存在を前提にしている以上、原発はCO₂排出ゼロ（脱炭素）には貢献できないのである。（続く）
雑 記 帳
相変わらずの異常気象。２月半ばは全国的に異常高温だったが、豊橋でも最高気温21.7度の日があった。それよりひどかったのが日照の少なさで、15日からの10日間の1日平均日照時間は1.9時間だった。豊橋は日照時間が多いところで、なたね梅雨はおろか、本番の梅雨でもこんなことはなかった。
そんな気象のもと庭のマンサクが1月中旬に数輪開花したが、それから1ヶ月以上たっても花の数がほとんど増えない。そこに、青森の弘前公園のマンサクが暖冬で1993年の調査開始以降もっとも早く2月20日に開花したというニュースが伝えられた。わが家のマンサクはどうなったのだろう。
ユキヤナギは順調に咲き始めた。毎年のことだが、花が咲いてからもしばらくの間は紅葉が残っている。そこがユキヤナギのユニークなところと思い込んでいたら、ネットで「ユキヤナギの紅葉は暖地では落下しやすく、観賞期間は短い」と解説されているのを目にして驚いた。
野鳥ではツグミを見かけるようになった。ツグミは冬鳥で、10月頃にシベリアから日本列島に渡って来るとされているが、私の住むあたりで見かけるようになるのは1月下旬になってからで、今年もそうだった。秋に日本海側に飛来したあと南に移動して、一番寒い頃に暖かな太平洋岸に到達するということなのだろうか。北帰行の時期も遅く、5月になってもまだ見かける。そういう生態から冬鳥というよりも春を告げる鳥と見られている。
万場緑地のネコ 第５１話 2月になって「万場緑地でタヌキを見た」という情報が複数あり、私も中旬に5日間ほど続けて見かけた。しかしその後は、雨の日が続いたこともあるが、ぱったり見かけなくなった。出没していたのは大人ダヌキ1匹と子ダヌキ2匹のようで、いつも別々に現れていた。
本来タヌキが日中に姿を見せるのは、冬に備えて餌あさりに精を出す晩秋である。ところが昨年のその時期に万場緑地ではまったく見かけず、逆にこれまでほとんど見かけることのなかった2月にさかんに見かけたのである。さらに、タヌキが来るのはネコの食べ残した餌が目当てだが、今回はドングリを食べているのを見たし、最初に目撃情報があったのはネコの餌場のない場所である。どれもかなりおかしなことである。
そこで思いついたのが、〈長年放置されて藪のようになっていた耕作放棄地（万場緑地周辺にたくさんある）をねぐらにしていたが、そこをなんらかの理由で放棄せざるをえなくなり、一家で別のねぐらを探して万場緑地に流れて来たが、居着くことは諦めて立ち去った〉というストーリーである。
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