13日、金曜日。
「除霊」は行われた。
話は遡る……のだが、どこまで遡ればよいのかわからない。
ここ最近、私の職場はなんだかどんよりとした空気に沈んでいた。
ひとつひとつ挙げていけば原因はわからないこともない。
まず所属していた税理士が「明日から来ません！」とZ世代のバイトみたいな辞め方をした。突然だったし引き継ぎ期間も申し送りも何もなかったので後を引き継いだ人間は大変に違いなかったけど、「大変」は想定外の「大変」だった。なんとこの税理士、まっっっったく税務会計の基礎がわかっておらず、彼が暇つぶしに（？）いじくりまわした帳簿データは秩序が崩壊し、でたらめな数値を示していた。つまりまずは後始末が「大変」すぎた。同僚は修復作業しながら「発狂する！」と叫んでいたし、実は私も後を引き継いだ一人だったのだけれど、早く来て遅く帰る毎日で(まだ継続中）何度も何度も何度も何度も「あの人何がしたかったんだ？馬鹿なの？これ何なの？」と同じことを愚痴った。ありていに言えば腹の底に溜めた怒りをゲロゲロ吐きまくっていた。職場の皆はさぞかし聞き苦しかったと思うが皆いつだって親身になって励まし慰めてくれた。ありがてぇ……。
件の人物は税理士という肩書きがあったばかりに多方面の大きめの仕事を担当していたため、後始末は本当に本当に大変だった。てか大変（継続中）。
まあそれでもいなくなってくれたのだからよかったのだ。
でも何かすっきりしない。
そんなこんなしているうちに、
クライアントさんが亡くなったり
クライアントさんの従業員が亡くなったり
ついには同僚のお祖父様が亡くなったり
同僚のお母様が亡くなったり
と訃報が続きに続き、
もうこれは、何か憑かれてるか祟られてるかしているに違いない、と私達は確信するに至った。というかそうとでも思わなければやりきれなくなっていたのだ。
ここでありがたくも私の職場の代表（会社じゃないので社長という肩書きではない）は「応、じゃあ除霊しよう」とノってくれた。職場の誰一人何かしらの信心が深く、まことに心霊現象だと思っていたわけではないのだけれど、代表は、みんなの気が済むならそれでいいと思ってくれたに違いなかった。
除霊しようとなったのはいいけれど、誰に頼めばいいのかわからない。皆でネット検索してみたところ何とも胡散臭いサイトしか見つからなかった。そのうちのひとつは「除霊実績70,000体！」とうたっていた。除霊の単位が体なのかという疑問もあるしそもそも70,000てどうカウントしてるのか気になる。おまけにどこも人の不安につけ込むようになかなかの高額料金設定だった。
「神社とかに頼めばいいんですかね？こう、白いの振ってなんかやるやつ…」
と若い女の子が呟いたので近在の神社を探してみたのだが、地鎮祭や七五三の御祈祷の受付はあっても項目に除霊とは載っていなかった。
あこぎとわかっていてぼったくられるのも癪だしなぁ。
これは頓挫かと皆が諦めかけたところ
「知り合いのXXXさん、除霊しに来てくれるって」
と代表がにこやかに告げた。XXXさんは代表の古い知り合いで、普段はカウンセラーのようなお仕事をされているのだけれど霊媒師？みたいなこともやっているらしい。
代表、人脈が謎すぎる。XXXさんは代表のLINEにボイスメッセージを残していた。
「霊媒師、がんばりまーす♪」
明るく軽やかな女性の声。ふと、字面だとおどろおどろしくなるから、あえてのボイスメッセージなのかもしれないと思った。
そして13日、金曜日。
「除霊」しにXXXさんはやってきた。
XXXさんは普段は九州にお住まいなのだけど、月に1度は東京に来るとかで、代表とも時間が合えば飲んだりしているらしい。
XXXさんは金ピカの冠をシャラつかせたり袖のぞろびく衣装をバッサバッサと翻したり……はせず、ごくごく普通のお洋服を着た、色の白い女性だった。目の色が薄いのか、カラコンか、ヘーゼルナッツ色の瞳に、襟足の髪にベージュから深い赤、青と段染めになったインナーカラーを入れているところがそれらしいといえばらしいのかもしれなかった。孔雀の羽のようなインナーカラーは彼女によく似合っていた。
彼女が行うのは「お清め」みたいなものらしかった。
私の職場は2フロアある。彼女は「お清め」をする間、人払いをしたため、
どんなことをしたのかはわからない。ただお清めが終わったあとの空間には彼女が手にしていたお香がふんわりと香っていた。それはとてもいい匂いだった。ちなみに沈香というお香だったらしい。
お香っていいなあ！と感激したので後日早速買ってきた。
焚きしめすぎると香害となってしまうので注意が必要だけれど今日はお風呂で短いお香を10分ほど焚いてみたらとてもリラックスできた。カビ防止にもなるらしい（実用的）。Gを寄せ付けない種類の匂いもあるらしいので試してみようと思う（さらに実用的）。
さてXXXさん曰く例の税理士の座っていた席には何やら「こびりついていた」らしい。
そこともう一箇所「ちょ、ちょっと一箇所問題がある場所があって……！」と慌ててしらせに来たので皆がすわ、自分の席かと戦慄したのだけれど、何とそこは代表の席の真後ろだった。
何がこびりついていたんだろう……。とにかく気が淀んでいるので片付けたほうがいいとXXXさんは強く勧めていた。
XXXさんはお清めをしただけでなく運気を整えるためのアドバイスもたくさんくれた。
まず、紙がたくさんあるのはよろしくないらしい。紙がよくない気を吸って溜め込むんですって。あー……職業柄、紙はたくさんあるねえ。というか何なら紙しかないわ。まぁいらないものもたくさんあるので積極的に片付けていこうと思う。昔、会計の勉強を始めたばかりの頃、とある公認会計士の先生に言われたのだけれど「この職業はとにかく紙が増えます。ほっとくとどんどん増えてすごい量になります。あなた方はそれを上手に捌いてどんどん捨てていくことが大事です」と言われたことがある。本当にヤギさんが一生食うに困らないであろう紙の山があっというまに積み上がるのだ、この仕事。
そのほかのアドバイスを思い出せるかぎり書き出すと、
トイレの蓋は悪い気が上がってくるので閉める。
毎日、換気をする。換気扇は在室中は止めない。
代表は豊川神社にお参りする。お札は買わなくていい。
お札といえば、職場には代表が毎年の恒例でいただいてきた諏訪大社と神田大明神のお札があったのだけれど、お札をそのままとか袋に入れたまま置いていたのでよろしくないらしい。言ってみれば裸で晒し者にしているのと同じで、じゃあお札はどうするべきかといいえば神棚の扉の向こうに納めておくべきものらしい。
私の職場には神棚がないし、しつらえる予定もないので
「じゃあ、とりあえずどこか近い神社にお返しして、お焚き上げしていただきましょう！」
というのがXXXさんのアドバイスだった。代表は
「え……今年もらってきたばっかりだよ？まだ今年のだよ？」
とささやかに抵抗していたけど、ちゃんとお祀りできないのならお返ししたほうがいい、というのがXXXさんの答えだったし、結局、週が明けて月曜日、代表が外出している間に職場中のお札というお札は職員の手によってさっさとお返しされてしまった。代表がちょっと渋っちゃった気持ちもわかるんだよね。多分あのお札、ひとつにつき1万から2万は納めているはずだから。1年の有効期間（？）を待たずにお返しするの、ちょっと勿体無いよね。
さて、またひとつ思い出したアドバイス。
気が淀んでいるところには観葉植物を置く。
おすすめなのは葉が尖っているもの。
サンセベリアがおすすめらしい。
なるほど、サンセベリアならNASAも認めた空気清浄機能があるから物理的にも良さそう。
それはそうと我が家にあるサンセベリア、水の加減がわからなすぎて半死半生なんだけどいい加減元気になってくれないかな（泣）
個々人のこともちょっとみてもらったので続く……
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