あの場面でキレなかった俺を褒めたい。
そして、こうやって茶化せる俺をもっと褒めたい。
何勝手に自分で自己肯定感上げてんだって?
まあ聞いてくださいよ。
なんの代わり映えもしない、
いつもの時間にいつもの電車で職場に向かってたんですよ。
いつもとちょっと違ってたのは、
いつも混んでる電車なのに、座れたって事。
ゆったりのんびり、職場向かってました。
事態が一変したのは、尼崎過ぎたあたりだったかな…
見るからに目つきの悪い、白髪のジジイが目の前に立つなり、
「おい、お前。席空いとるやろ。どけや。」
…確かに、横の人が降りたので席のスペースは空いている。
その前に一番端が空いているんだからそっちに座ればいいだろうに…
まあいい。どけというならどこう。
俺が席を移動し、広い端の方向へ移動するなり…
「おい!誰がそっちに行けと言ったんじゃ!反対にどけや!
…チッ!いちいち言わなわからんのか…ボケがッ!!」
…なんだと?
いきなりのお前呼ばわり、はいアウト。
いきなりどけと命令。はいツーアウト。
挙句の果てに、どいたら罵倒…
もう頭の中には大音響でダースベイダーのテーマが流れている。
これがスタンハンセンのテーマに変わったら、今日がジジイの命日になってるだろう。
体温も血圧も急上昇。健康診断で看護師さんに怒られるレベル。
殺意を覚えるレベルで激怒し、胸倉でもつかんでやろうとする衝動にかられたが、
周りを見ると、さっきのジジイの暴言で結構な人がこっち見てる。
中には子供までいる。
(い、いかん…ここでキレて喧嘩したら、悪いのはこっちにされてしまう!)
いくら向こう側から喧嘩を売ってきたとはいえ、手を出せば10:0で負けだ。
ここは落ち着かねば…
頭の中でこいつを血祭りにする想像を…アカン、現実化しそうや。
イヤホンで音楽でも聴いて…アカン、ガチ迷惑になる。
いっそ立ち上がって別の車両に…アカン、こんだけ混んでたら移動もできん。
とにかく落ち着け…
頭の中ででたらめな般若心経を何回も唱え、ようやく落ち着きを取り戻す。
なんとか鎮火したと思ったら、このジジイ、またもや薪をくべやがる。
「…ったく、最近の若いアホは、人の言わんとしてることすら理解できんのか。
頭悪いのぉ…親の顔が見たいわ!」
今度こそキレたかって?
キレてないっすよ。もう冷静だ。…反撃はするけどな。
「…黙って聞いてりゃグチャグチャとうるせえな。ちょっと寄ってくれんか?と
一声かけるだけで済む話やろ。その程度も理解できんのか?バカはてめえだろ。」
ド正論ぶちかます。
しかし、ジジイの言いたい放題は止まらない。
「なんやなんや、アホがなんかほざいとるわ。頭悪いアホの言葉なんか耳に入らんな。」
だったら、嫌でも耳に入らせてやる。
「いい加減黙れや。周りが見てんだろ。」
周辺のジジイを見る目が絶対零度くらい凍り付いている事にやっと気づいたのか、
ジジイは口をつぐむ。
「…人への声のかけ方も知らんのか、腐れヤクザが!」
捨て台詞を叩きつけ、スパッと終わらせた。
気分が悪いので、これ以上は口を一切きかなかった。
かろうじて大人の対応で済ませた(…のか?)
新大阪で降りて、気分転換にコーヒーを買って飲む。
どこにでもありそうな、態度の悪いジジイに因縁つけられたって話だが、
いつものようにキレちゃったオチにならずに済んだ事を、自分のわずかな進歩とでも
思っておこうか。
さて、仕事にかかろう。
「部長、今度の連休の谷間…」
「却下。頑張れ♪」
「経理課長、この分の領収書…」
「イヤです♪」
あ、ヤバい。キレそう…
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