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2023年01月18日09:10

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『宣告』は、近代文学の一大傑作です。

■加賀乙彦さん死去、93歳=作家で精神科医―ベストセラー「宣告」
(時事通信社 - 01月17日 23:30)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=7265083

夫が大学教授で妻がバイオリニストだというような設定をよく描きました。
この組み合わせはかなり特殊であり、同じ大学教授でも加賀さんのように現実に真摯に科学的に向き合う人は少ないと思います。バイオリニストは、家屋敷を売ってストラディバリウスを買うというイメージがあります。

だから、登場人物の設定はちょっとわからないのですが…

『宣告』の登場人物の設定と、内面の描写は素晴らしかった。一種のノンフィクションだからでしょう。

『宣告』は、『黙想ノート』などを記した、正田昭死刑囚を主人公としています。
年上の女性との情事
相手の女性が不確かであるという苦悩。実感が得られないという苦悩。
自分の内面を赤裸々にさらけ出す手記。発表に反対したフランス人宣教師への違和感
(モデルとなった最晩年のアヌイ神父は、ぼくが十代の少年だったころですが、日仏学院でちょっと知っています。常に精神が落ち着いている人。普通の人とは、世界が違ったふうに見えているのだと思います。アヌイさんの安心立命と同じようになれるかは、おそらく、キリスト教への信仰の問題ではありません。能力の問題です。スポーツ選手の運動プログラムを普通人ができないのと同じです。倫理道徳や宗教を考える際、能力が重大なファクターとならざるを得ません。そういうことは、たとえば、『ケーキを切れない非行少年たち』(宮口幸司)などによって近年一般化された知です。違和感を解決するのは知ですが、その知が手元にないということの苦悩をよく描いていると思います。年上の女性にしても、ある感覚が分かれば、割り切れたかもしれません。セックスは時には愛情と反するものだという。だから、関係が続くことと将来や愛情とは別です。関係が続くが結婚を考えていないからと言って相手は不思議な存在でも責められるべき存在でもありません。そういう人だということです。手記発表に答えがないように、男女関係にも答えがないと思います。だから、悪女にたぶらかされて曲がったということではなく、純粋過ぎた感覚のために、彼女がわからなかった。そして自縄自縛に陥ったということでしょう)

加賀乙彦さんが、パヴェ―ぜを評価していたのは、なるほどと思われます。

『宣告』は傑作テレビドラマがあります。
http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d0506/
主人公が萩原健一、年上の女性が金沢碧、死刑確定後文通によって親しくなる女子大生が石原真理子。三人とも、絶頂期です。
よくできた長編は、フィルムでもかなり伝わります。例 夏目漱石『それから』トルストイ『戦争と平和』

私は、たまに、一番の悩みが、住宅ローンと子どもの入試であるような日本では、文学はかなり困難ではないかと思っていました。

だが、『宣告』は違います。
内面は不確かだが、犯罪や死刑宣告といった外形的事実に押し流されて後に戻れない、
現代人の姿がよく描かれています。

ご冥福を心からお祈りします。
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