1月7日、土曜日。
『銀河英雄伝説外伝/わが征くは星の大海 4Kリマスター版』鑑賞後、30分空けてから『ファミリア』を鑑賞。『かがみの孤城』と、どちらにするか迷ったが、直感に従った。
●『ファミリア』
【陶器職人の神谷誠治(役所広司)は妻を早くに亡くし、山里で独り暮らしをしている。そんなある日、アルジェリアに赴任中の息子の学(吉沢亮)が、難民出身のナディア(アリまらい果)と結婚し、彼女を連れて一時帰国した。結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぐと宣言した学に、誠治は「焼き物では喰えない」と反対する。一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年のマルコス(サガエルカス)は、彼らを敵視する半グレ集団に追われたときに助けてくれた誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物の仕事に興味を持つ。そんなある日、アルジェリアに戻った学とナディアを悲劇が襲う…… また、半グレ集団の在日ブラジル人に対する追い込みも激しさを増していた。そんな中、誠治は思わぬ行動に出るが……】というスジ。
監督は成島出。脚本は『オリオン座からの招待状』、『ソレダケ / that's it』などのいながききよたかによるオリジナルだ。
演者は皆が揃いも揃って好演。半グレ集団のリーダーを演じるMIYAVIの他、脇を固める佐藤浩市、室井滋、中原丈雄、松重豊らが巧い上、オーディションで選ばれた在日ブラジル人の若者たちとのアンサンブルも見事だ。
これは秀作だ! 早くも本年度の私的年間ベスト・テン候補作だと思う。
『八日目の蝉』と『ソロモンの偽証』二部作を未見で、こんな事を言うのは何だけれども、成島出、復活じゃあないか?(『ふしぎな岬の物語』とかさ、『いのちの停車場』とかさ、アレだったもんねえ……)
成島出と役所広司の付き合いは長い。成島の脚本家デビュー作である『大阪極道戦争 しのいだれ』(1994)、続く『シャブ極道』(1996)の主演が役所広司だった。成島の監督デビュー作である『油断大敵』(2003)の主演も役所広司が務めた。本作は、劇場用長編映画としては『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』(2011)に続く3度目のタッグ作品となる(成島出の次回作である『銀河鉄道の父』の主演も同じくだ) 二人の絆の強さが、本作には良い形で表れている。
『キネマ旬報』の特集記事で映画評を寄せている映画評論家の田中千世子は、本作における父子像を、小津安二郎監督の『父ありき』(1942)のそれだと指摘しているが、僕も全く同じ思いだ。『父ありき』で笠智衆と佐野周二が演じた父子も離れて暮らしており、久々の再会を果たした二人は温泉旅行を共にする。その際、佐野周二は笠智衆に「僕はもう、お父さんと別れて暮らすのが堪らなくなったんです」と告げ、共に暮らしたい旨を申し出るが、「今の暮らしを捨ててはいけない」と反対される。『ファミリア』の父子像とモロにだぶるのだ。吉沢亮が漂わせる清潔感も、佐野周二に通じるものがあるし、成島出監督自身、小津安二郎の名は、これまでにも度々口にしている。また、小津が繰り返し描いたように、成島も<家族>を軸とした作品を度々世に問うている。「共感の最小の単位が家族だと思うんですよ」という成島の弁からも、彼が<家族>というものを強固に意識して映画作りをしている事は明らかだ。そして、ここに来ての本作。タイトルの『ファミリア』とは、もうそのものズバリではないか。また、本作では、成島の言う「共感の最小の単位」である<家族>が拡散的変容を見せる。それは誠治とマルコスの関係に集約して描かれる。
同時に、本作は、その<家族>の拡散的変容と現実の狭間に横たわる溝も浮き彫りにしており、見事だ。その溝とは、即ち、1980年代から続く在日ブラジル人コミュニティの変遷と、現在の半グレ集団との軋轢だ。本作の在日ブラジル人コミュニティのモデルとなったのは愛知県豊田市の保見団地である。そこに、本作は更に、2013年1月に発生したアルジェリアでの日揮技術者者人質事件をモチーフとした事件を絡めている。これを唐突と見るかどうかで些か評価は分かれようが、それは成島も承知の上の事。そして、この事件が決定的な物語のターニング・ポイントとして機能しており、誠治に重大な決断をもたらす。役所広司の名演が、ここに説得力をもたらしており舌を巻いた。名演である(←彼は大抵、名演なのだが)
フィクションとノンフィクションを交錯させて物語を紡ぎ、希望に満ち溢れた着地を見せる本作を大いに称揚したい。
興行的に苦戦しているようで、その事がとても残念だ。一人でも多くの人の目に触れて欲しいと切に願う次第である。
以上。
<添付画像使用許諾:(C)2022「ファミリア」製作委員会>
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