原発雑考第４１４号の転載です。
2023・1・5
発行 田中良明
転載自由
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電力需給逼迫をめぐって（２）
冬の電力需給逼迫にたいして政府は3月までの間の「無理のない範囲での節電」を呼びかけている。
電力需給逼迫の構造的な原因は予備電源の役割を担う火力発電の減少である。火力発電は、発電コストに占める燃料費の比率が高く、固定費の比率が低いので、運転停止したり低出力運転したりしても、コスト面であまり負担にならない。起動・停止・出力調整も簡単である。電源としてのこのような特性から火力発電は予備電源に適している。しかも日本では高度成長期から火力が主力電源になっていたので、予備電源に回される老朽機もふんだんに存在していた。ところが電力自由化によるコスト競争の激化と脱炭素の必要から、老朽機を保持し続けること、および保持していても稼働させることが難しくなったのである。
予備電源減少は原発のバックアップ電源の確保も困難にする。原発のような大出力の電源が計画外で運転停止すれば、電力供給不足になって停電になりかねない。また原発は福島原発事故の後にあったように国内の全基が運転停止することもある。この両方のケースの運転停止をバックアップできる電源が準備されていなければ原発は稼働できないのである。これまでその役割を担ってきたのが火力発電である。たとえば福島原発事故直前の電源構成は、大まかにいって火力60％、原発30％、再エネ（ほとんどが水力）10％で、火力の稼働率は50％弱だった。原発が全面停止した際には火力の稼働率を75％程度に引き上げて失われた原発のシェア分をカバーしたのである。あのとき各地の老朽火力が再稼働したことを覚えている方も多いだろう。
今後主力電源になる太陽光と風力は常時稼働なので、他の電源をバックアップする余力はない。ということは、脱炭素化で火力発電が消え去れば、原発も消え去らざるをえないのである。現在の電力需給逼迫騒動からはそういう未来の姿を窺うこともできる。
原発回帰の大号令（３）
政府の原発回帰の理由は、脱炭素およびウクライナ戦争によるエネルギー危機突破のために原発が必要だということである。本号ではこの二つの理由の妥当性を検証する。
〈脱炭素のための原発推進〉は以下の三つの理由で成り立たない。
まず実績。1990年に日本政府は「地球温暖化行動計画」を決定し、日本の脱温暖化・脱炭素化はここから始まった。温室効果ガスの最大の排出源は発電部門であるが、政府は一貫して原発を発電部門の脱炭素化の切り札として推進してきた（福島原発事故後は世論を気にして表向きはやや控えめだったが）。結果はどうであったか。1990年以降の発電部門のCO₂排出量は、1990年337、2000年381、2010年461、2019年489である（単位は百万�邸法�CO₂排出量は減るどころか、増えているのである。原発を増やせば脱炭素になるとは簡単にはいえないのである。
つぎにCCS問題。CCSとは、化石燃料の燃焼で発生するCO₂を回収して海底下の地層に貯留するシステムであり、脱炭素のもとで火力発電が存在するためにはCCSが必須となる。しかし日本においてCCSを実用化できるのか。政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」においても、CCSは2050年までに実用化されることを「前提として」とされており、確実に実用化できるとはされていない。さらに仮に実用化できても、脱炭素のためにはCCSに依存するほかない産業・民生施設が多く存在する中で、再エネという脱炭素手段がある発電部門にCCSを回す余裕はあるのか。これらの難問がクリアーされなければCCSは利用できず、火力発電は存在できなくなる。そして火力発電が存在できなければ、原発も存在できなくなる（この点については本号の別記事「電力需給逼迫をめぐって（２）」を参照されたい）。
最後に、新増設される原発の経営的合理性のなさ。仮に政府方針どおりに2050年に原発が電力供給に一定のシェアを有することになったとしても、その先も省エネと再エネ利用がさらに進展するので、このシェアはどんどん浸食されていき、いずれ原発は稼働できなくなる。いま建設が検討されるのは新型軽水炉という新しい型の原発であり、建設にはとりわけ時間を要し、稼働開始は早くとも2030年代末になる。そうなると稼働期間は20年から30年程度しか確保できないことになり、座礁資産化（投下費用を回収する以前に外部的な事由で稼働できなくなること）することは確実である。いまからの原発新増設に経営的合理性はないということである。
新型軽水炉については、発電コストが再エネよりもはるかに高いという経営上の問題もある（そのことが見えているので、新型軽水炉建設に国民負担を導入することまで画策されている）。
脱炭素のための原発推進という主張は辻褄が合わないことだらけである。
〈ウクライナ戦争によるエネルギー危機突破のための原発推進〉の主張もおよそ説得力に欠ける。
まず、ウクライナ戦争はいくら長くとも数年内にはいちおう収束し、その後の化石燃料価格はこの戦争以前よりも下落することになるだろう。ロシアが世界の化石燃料市場に復帰することによって化石燃料の供給量が回復することと、輸入化石燃料に大きく依存することの危険性を身をもって体験した諸国が省エネと再エネ増強に邁進することによって化石燃料需要が減少することが理由である。この戦争によるエネルギー危機は年単位で見れば短期間のものであり、稼働までに10年以上を要する原発新増設がそれへの対応策にならないことは明らかだ。
つぎに、原発推進策の一つとして既設原発の運転期間延長も提案されているが、運転期間延長の恩恵にあずかる原発が実際に出現するのはずっと先のことであって、ウクライナ戦争によるエネルギー危機の突破とは関係がない。
最後に、既設原発の再稼働推進は新政策ではないが、それにも触れておく。再稼働が進まないのは、住民避難計画の実効性と電力会社の原発管理能力への疑問などが解消されないからである。とりわけ住民避難計画については、日本の原発はどこも地理的条件から実効性のある住民避難計画を作ることが事実上不可能である。再稼働の条件がそもそも満たされないのである。再エネの増加や電力自由化によって電力需給構造が変化しつつあり、その過程の摩擦現象として電力需給逼迫という状況が出現しているが、ウクライナ戦争との関係では、この冬の電力需給は安定供給の目安をクリアーしており、省エネと再エネ増強に努めれば、春以降の電力需給はさらに安定する。いま上記の疑問に蓋をしたまま再稼働を強行すべき理由はない。
なおウクライナ戦争と原発という問題に関しては、エネルギー危機への対応として原発推進を考えたりする前に、この戦争によって露わになった原発の危険性（原発は自爆型原爆になる）にこそ思いを致すべきである。
ウクライナ戦争によるエネルギー危機突破のためになすべきことは、省エネと再エネ増強にいっそう努めることに尽きる。そしてそれは、当面の化石燃料調達困難への本筋の対応であるだけでなく、世界が求められている脱炭素への本筋の対応でもある。
雑 記 帳
この冬はサザンカが盛大に咲いた。夏からの天候が合っていたのだろうか。12月中旬までは寒さも風も弱い日が多かったので、多くの木に紅葉が残っていた。なかでもハゼノが目立った。下旬になって一転真冬なみの寒さになった頃、毎年紅葉のしんがりを務めるユキヤナギが色づきはじめた。落葉するのは年を越してからだ。
野鳥は例年よりもかなり少ない。なかでもメジロは年末になっても庭にも家の前の公園にも姿を見せない。ねぐらにしている藪にまだ餌になる虫や木の実が残っているのだろうか。
今冬は22日が冬至だった。寒さの本番はまだ先でも、冬至になればこれからは日足が延びると思えるので、気分が少し上向きになる。そんなことから私にとっては二十四節気のなかで一番気になる日だ。しかし最近の世間一般はそうでもないようで、冬至の日のNHKのニュースでどこかの温泉のゆず湯を報じていたが、冬の客寄せイベントという扱いで、その日が冬至であることについては一言もなかった。ところでわが家のゆず湯は、強風でゆずの実を採りに行きそびれて、冬至には間に合わなかった。
その冬至の日に寒気の吹き込みによる時雨があり、それが上がったあと、北の空に大きくて鮮やかな虹が架かっているのを、万場緑地のネコの餌やりの帰りに見た。 空気の澄む冬の季節は万場緑地から見事な夕焼けも見られるのだが、この冬はまだそういう夕焼けに出会わない。強い風があっても日が沈むあたりに雲がかかり、陽光が遮られることが多いからだ。
万場緑地のネコ 第３７話 12月10日の早朝、餌やり仲間が新入りネコのサビ子の餌場に行ったら、「奥の小屋でタヌキが死んでいます」という貼り紙があり、実際に段ボール製避難小屋の中に子ダヌキの死骸があった。その写真を見ると、小屋の出入口部分がかなり壊されていて、小屋の中にタヌキが顔を外に向けて横向きになっていた。
野生動物の子が冬を越せるのは半数以下だから、子ダヌキが死ぬことは意外ではないが、餓死するほどは痩せておらず、大きな外傷もなく、毒物に当たったようにも見えず、死因はまったく掴めなかった。サビ子はタヌキが死んでいた小屋に接して置かれた小屋を使っていたが、死骸が発見された時もその後も何事もなかったかのように振る舞っている。
この事件のあとタヌキの目撃情報はめっきり減った。寒さが厳しくなり、エサを漁るよりも動かずに体力の消耗を避ける段階に入ったようだ。
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