18980504 NO5625 露武官一行中、元山里での韓人二名暴行致死事件の報告
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013_0010_0060 駐韓日本公使館記録 13巻 一. 各領事館来信 (6) [露武官一行中元山里での韓人二名暴行致死事件の報告]
文書題目 (6) [露武官一行中元山里での韓人二名暴行致死事件の報告]
文書番号 第二三号
発信日 明治三十一年五月四日 ( 1898年 05月 04日 )
発信者 在元山 二等領事 二口美久
受信者 在京城 弁理公使 加藤増雄
(6) [露武官一行中、元山里での韓人二名暴行致死事件の報告]
第二三号
前もって申報に及んで置きました当地滞留の露国武官一行中、昨夜半元山（ウオンサン）里において暴行を働き、遂に韓人二名を殺害に及んだものがあり、今朝から武官は旅館において審廷を開き、小官にも是非立ち会ってくれとの請求があったので、小官は傍聴の意味で陪席致しました。同席者は監理及び税関長、警務官であり、このように立ち会いを求めたのは韓人たちに対し案件を慎重に対処し公平を表す趣旨に他ならないと認めました。なお昨夜来の状況は別紙「梅崎警部の報告書」について御閱悉頂きたく、この件申報に及びます。 敬具
明治三十一年五月四日
在元山 二等領事 二口美久 印
在京城 弁理公使 加藤増雄 殿
[別紙 一]
文書題目 報告書
報告書
先月中旬ごろから当地に滞在している露国士官一行のおごり高ぶった様子は、韓国人・日本人のいずれもよく熟知しているところで、とくに兵士八名、通弁の韓人四名らなどは、韓国娼楼と飲酒店などにおいて常に無銭遊興を働くだけでなく、往々にして韓人を凌辱することが少なくないため、韓人たちもこの頃は彼ら一行を見掛けるとまたほとんど蛇蝎のような感じがあったのだが、はたして本月三日午後十一時過ぎ元山（ウオンサン）里において、彼ら兵士一名・通弁二名は例によって飲酒酩酊して通行人に妨害を働いたため、巡検はこれを制止しようとしたのだが、この露兵などはかえって抵抗乱暴の度を高め、遂には巡検の帯剣を強奪し、抜刀のまま振り回したので、巡検も一時は暴威を恐れその場から逃避したので、この兵士たちは調子に乗って突然その時通行中の韓人・李大吉（四十一歳）の頭蓋部、ならびに後頭部を斬りつけて即死させただけでなく、先に逃避していた巡検を追跡し警務署に入り込んだので、本署においては警報に接して、署内の者は外へ逃げ出し一人も居合わせなかったので、同署の厨房に厨夫・石成鳳（四十九歳）が寝ていたのを発見し、これまた直ちに咽喉部を斬りつけて同じく即死させたとのことであるが、この時は既に元山里各洞の居民たちは彼ら兵士の乱暴の不法を伝え聞いて大いに怒り、凶行者を捕えようとして多数が騒いだので、通弁二人はとにかく隙をうかがって遠回りをしたため、旧海関長官宅(当時露国士官一行の旅舍)への逃げ道を失い、警務本署付近にあった仏国宣教師宅に逃げ込んで救助を求めたのだが、韓人たちが続いて宣教師宅を取り囲んだため、宣教師は一時彼ら追迫する韓人を追い払おうとして短銃六発を放って彼らの乱入を威嚇し、その間に急使を送り手紙を露国士官に通じたようで、露士官は直ちに兵士二名を急派し、翌四日午前一時頃宣教師宅で凶行した兵士を受け取り、宣教師に同行して帰宅したのだが、またこれと同時に三・四十名の韓人たちはなんとか凶行者を露国人から受け取って復讐をしようとして、露国士官旅舍前までは詰め掛けたのだが、同所において仏宣教師は何か慰諭するところがあって一旦は引き揚げたものの、同じく二時三十分頃になって警務官・金明旭（キムミョンウク）は元山里における韓人の騒擾を鎮静するため、当国の習慣によって、被害死屍二人を担架に乗せ自ら監理署に至り、この交付をした。
以上聞見の概略を報告に及びます。
明治三十一年五月四日
警部 梅崎辰太�� 印
[別紙 二]
文書題目 報告書
報告書
去る五月三日夜、露国兵士の韓人二名斬殺事件について見聞するところの概略は既に報告したのであるが、なお本日朝以来の検分の概略は次のようなものでありましたので、この件を重ねて報告に及びます。
昨夜警務官・金明旭（キムミョンウク）は被害者の二死体を監理署へ引き渡したので、本日の朝から遺族並びに関係韓人などは、監理に対しこの裁決を訴願すると同時に、加害者本人を手元に得て満足したいと強訴する者のようで、また同署の周辺は次第に被害者に同情する韓人、並びに内外の見物人によってほとんど充満されようとし、まるで内外呼応の観があり、ややもすれば暴挙に出でそうな勢いがあったので、監理は露国士官に対し一応加害者交付の請求をなしたのだが、露士官についてはまだ取調べが完了せず、従ってその加害者であるものが果して露国士官のせいなのか、また雇い通弁人のせいなのかが判然としない状況であったので容易に監理の請求を容れるはずもなく、その間数度の往復により結局午前十時頃になって米国宣教師兼医師・マラキールの立会で死体の検案を終え、そのまま十一時前後からは露国士官の旅舍においていわゆる関係人・証人・参考人などの訊問と成り、この時は監理は勿論、海関長、副長等も臨席しており、一方には監理も露士官もそれぞれ京城のその筋へ打電しており、両者共にその訓令を仰ぐと同時に、韓人などに対してはあらゆる手段を尽くして慰諭につくしていたようであったが、頑愚一徹なる韓人などは、国際上の関係はどうなのかとか、自他それぞれその国法があって随って交渉も自らその手続・順序あるのだが、これらの観念は彼らはこれまで夢にも聞知しないところであるので、ただ「人を殺す者は必ず死ぬ」という古句調を信じ、例によって内外人の区別なく、必ず加害者を得て満足しようと迫っている者のように、頑として聞き入れる様子でもなかったので、到底簡単に退去して穏便如法の裁決を待つとも見えなかった。
またこれより先、露士官は二つの死体は監理署門前の海傍に担架のまま遺棄してあるので、これを署内に移すよう監理に勧告したのだが、これは元来当国の慣例であって、通常何人であっても他人に殺害されたときはその事件が落着を告げるまでは被害遺族は何日たってもこれを埋葬せず、時にはこれを加害者の家宅に持ち込む事があった。今回もその例にならっており、これを官衙内に移し運ぶなどは最も当国の古例に背反するので、監理もそのままにしていたのだが、しかしながらその場所は官衙の前門であり、しかも昼長時間これを討ち捨てて置くようなものではないので、午後二時三十分頃になって重ねて監理は遺族などに対し懇篤に慰諭し、とにかく京城の返電を待って処決することにし、死体は監理署門前の巡検交番所内に移す事とし、なお申し立てたいことがあるならいつでも元山里警務官まで訴え出よと伝えたので、遺族など止むを得ず本日だけはその説諭に服する事となり、一旦元山に引き揚げたのがほとんど午後三時前後であった。
明治三十一年五月四日
警部 梅崎辰太�� 印
（＊元山領事館付巡査か）
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