18981108 NO5604 独立協会の大臣排斥に関する詳報の件
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012_0120_0090 駐韓日本公使館記録 12巻 一二. 本省往来信 (9) 独立協会の大臣排斥に関する詳報の件
文書題目 (9) 独立協会の大臣排斥に関する詳報の件
文書番号 発第七五号
発信日 明治三十一年十一月八日 ( 1898年 11月 08日 )
発信者 日置 臨時代理公使
受信者 外務大臣 伯爵 大隈重信
(9) 独立協会の大臣排斥に関する詳報の件
発第七五号
独立協会会員中には、国政が日に日に否運に傾き、宮廷内部ではその秩序が乱れ、外部では政府大臣などの尸位素餐（しいそさん ＊才能も人徳もないのに位についていて，むなしく俸禄を食はむものたち）が、ただ皇帝に阿諛追従するだけで、国政刷新に全く意欲のないことを憤慨するものがいる。彼らは根本的改革を企てているのだが、全会員がこれに一致し、先ずその一着手として、
「議政・沈舜沢（シムスンテク）、軍部大臣・沈相�癲淵轡爛汽鵐侫鵝法�宮内大臣・李載純（イジェスン）、度支大臣・閔泳綺（ミンヨンギ）、法部大臣・申箕善（シンギソン）、参政・尹容善（ユンヨンソン）、法部協弁・李寅祐（イインユ）等の六大臣・一協弁を排斥すべきだ。」
と唱道した。
そしてその口実とする所は、
曰く「某々大臣は曽て賄賂を取って、その部下の官吏を黜陟（ちっちょく ＊功の有無により、官位を上げ下げすること）した」、
曰く「金鴻陸進毒事件（＊「1898年9月11日、流罪中であった大韓帝国（李氏朝鮮）の元ロシア語通訳官・金鴻陸が大韓帝国の皇帝高宗を毒入りのコーヒーで暗殺しようとして発覚し、死罪に処せられた事件 。」）が起ったのは禁闕警衛の責任のある宮内大臣、軍部大臣、警務使などの職務がいい加減なためである。その責任を負って辞職するのが当然であるのにそうしないのは職務怠慢も甚だしい」
曰く「外国巡査三十人の清国への送還に当り、はじめ政府はなんら関係がないと主張していたにも拘わらず、これに旅費・俸給を支給したのは不当の措置である」
曰く「進毒事件の犯罪人に対し曽て廃止していた拷問の悪例を用いたのは法律に違反している」
曰く「中枢院の議決によって凌遅（りょうち ＊「存命中の人間の肉体を少しずつ切り落とし、長時間にわたり激しい苦痛を与えて死に至らす処刑方法」）連坐律を復活しようとの議論が政府部内に起っている、と。これは開明の治と相容れない未開のいやしい習慣である」
と声明し、また政府大臣たちの欠陥はすべて追及して来て、百方に攻撃を加え、その勢いは次第に重大事態になるに及んで、本月初旬以来数度の建白書を提出し、あるいは幾回の屋外演説を試みるなど、持てる手段を尽して非難攻撃が進められた。
その結果、沈・軍部、閔・度支が先ず辞表を呈して引退したのだが、その他の大臣がなおまだ依然として引退する様子がないのを見て、ついに再び宮闕前に集まり示威運動をすすめ、昼も夜も散会しない事既に三日、総商会員たちが集まってこれに加わり、各学校の生徒たち及び市民の一部もまた声援を与える者がいた。
状況がこのようになっているのをご覧になって、韓帝は大いにお心を悩まされ心配し苦慮された。しばしば侍従と漢城判尹（ハンソンパニュン ＊ソウルの長官）を通じて退去を命じられたのだが彼らは頑として動かず、なんとしてもその目的を貫こうとする決心を示していた。勢いやむをえず、韓帝はここに全くその請いを容れ、十月十三日、六大臣一協弁をすべて引退させられたところ、彼らはようやく解散した。
こうして新任大臣中、参政・朴定陽（パクチョンヤン）はもともとは独立派に属していたが優柔不断な人物でありそれほど重きをなさなかった。その他、趙秉稷（チョビョンジク）・趙秉鎬（チョビョンゴ）・趙秉式（チョビョンシク）などもまた老朽で用に堪えないものと思われた。ただ軍部大臣・閔泳煥（ミンヨンファン）は昨今米国より還帰し抱負ある国政改革論者であるので独立派の意志に投合し歓迎されもののようだ。
そして閔泳煥は表に立つようになってまもなく、武官学校生徒及び一般兵士に断髮を命じた。そのほか急激な宮廷改革案を提出しようとするなど、咄嗟の間に数多くの改革を決行しようとしたので、たちまち反対派が陥れる所となって韓帝の機嫌を損し、ついに辞表を呈して退引することになった。
独立派はこれを観て、こういうことでは姑息な一、二の大臣の更迭によって国政改良を望むことはできないとし、今一歩を進めて参政権を得ることに努めることになった。即ちその総代員五名は、本月十七日政府に出頭し左の事項を採用されるよう求めた。
第一 中枢院の官制を改革しこれに参政権を与える事
第二 中枢院議長・副議長以下、議官五十名を置きこれを折半して、議官半数は政府より、そのまた半数は独立協会より選出する事。但し議長は政府に譲り、副議長は独立協会が自らこれを推薦する。
第三 国内における無名の徴税を全廃する事。これは先に独立協会の大臣排斥に当り、総商会が声援を与えた報酬として付加したに過ぎない。
これに対し政府は
「一週間を期してその採否を決答しよう」
と約束した。
ところがこれより先に、韓帝は独立協会の勢力が日々強大に赴いていることを憂い、これを撲滅する策に出て、有力な団体組織の設立の必要を感じる旨を法部民事局長・李基東（イギドン）に下して皇国協会（ファングㇰヒョペ）というものが組織された。
そしてその成立からまもなく、秘かに内帑銭（＊韓帝の所持する金）を与えて褓負商を買収したので、無頼漢の中に次第にこれに参加するものが多く、そうなると現在の皇国協会の主義から
「独立派に横行濶歩させ、思うままにさせてはならない」
との議論が会員中に行われ、
「独立派が中枢院官制改革を主張したならば、皇国派は一歩を進めて民撰議院設立の議を建白すべきだ」
と揚言し(それが行われないことを知っていたが)、終に建白書を政府に呈上した。
政府はこれに向って
「一般の民度はまだなお幼稚であるので採用し難い」
との返答を与えると、かれらの団体は大いに激昂の色を起こし、十月十八日夜参政・朴定陽の私邸に押寄せ、
「政府は何故独立協会に厚くして、ただ皇国協会に薄いのか、なぜこうなのか」
と論じ、夜を徹して去らなかった。
このことは朴・参政に余儀なく辞表を呈出させるに至った。
思うにこの皇国協会の意は、政府に独立派の建議による中枢院官制改革案を拒絶させようとする牽制手段に他ならないのだが、一方ではまた、独立派運動の結果参政に任ぜられた朴定陽に向って(朴は独立協会員)反対の意志を表明したものと言わざるを得ない。そしてこの結果、朴定陽の辞表が聞き届けられると(朴はその後間もなく賛政に任じられた)、先に独立派排斥運動のため免官となっていた尹容善（ユニョンソン）が突然議政府議政に任じられることになった。
独立派はこれを見てまた大いに激昂し、尹容善に向って辞職を勧告したのだが、それはちょうど先に皇国協会が朴定陽に対してなした強迫的辞職勧告と異なる所はなかった。こうして尹もまた彼らに迫られて苦しむことになり、ついにまた
「辞表を奉呈したい」
と誓言した、と言う。
このようにして各団体の大臣排斥運動は日々その熱度を高め停止する様子がないので、政府は警務庁に命令して威力をもって圧迫し彼らの集会を解散させようとしたのだが、その時協会事務所に会合していた会員たちがこれに抵抗し皆で警務庁に押し寄せ、
「言論自由の道を閉じようとするのは不法である」
との論難を続け昼も夜も解散しなかった。
そこで韓帝は言論自由の勅詔を下しやっとこの者たちの退散を命じ、また同時に中枢院官制改革の詔勅を頒布し、独立協会会長・尹致昊（ユンチホ ＊フランスに遊学して97年帰国。独立協会に加わり，98年会長となり反露闘争，国政改革運動を指導。）を中枢院副議長に任命し、ここでほとんど独立協会請願の大半は採用せられたのだが、「議官半数を独立協会員中より推薦すべきだ」との一事に至っては、政府が同会長・尹致昊に向って交渉することになった。
曰く「もしその希望のように議官の半数を独立協会から採用するとしたならば、皇国協会もまた『必ず中枢院に議員に参加すべきだ』と要請するであろう。したがってここで折中策に出て、両協会から各十七名ずつ議官を推薦させることにするべきだ」
と。
尹致昊・会長がこの趣旨を了解し退いてこれを総会員に計ったのだが、一同は大いに不服を唱え、
「これは取りも直さず、政府が自分たちに近い者たちを多く中枢院に入れて多数を制しようと企てているのだ。もしそうなれば政府は皇国協会と提携して自分たちがなそうとすることをなすであろう。最早独立協会は政府と協同妥協の策はないと考え、ここに全く中枢院官制改革に関する交渉を放棄する」
と宣言した。
そして本月二十七日、独立派は一大連合会を鐘街に開くことを一決し、さらに
「当日は政府大臣の出席を求め官民共に国政改良を論議し、将来の方針を定めよう」
と提言し、諸大臣・諸協弁に出席を求め、さらに諸団体の会合を促すため書簡を送った。そして当日鐘街に木栅を結び、天幕を張り、国旗を掲げて来会者を迎えた。この日集まったものはおよそ三・四千人、政府大臣は異議を唱え出席を拒んだので、群聚は委員を派遣して政府・大臣に交渉することになった。そして朴定陽、李鐘建の二人の参賛が深更に及んで出頭したのだが要領を得なかった。
そこで同二十八日正午十二時を期して再び集会し、政府大臣に重ねて交渉した結果、この日二、三大臣を除きほかはすべて出席していた。そこで議事を開き討論の末、独立派の提議による国政改革に関する六条目の建議案を通過し、諸大臣の同意を経てこれに署名し上奏裁可を乞うことに一決し、その日は退散した。その六条目は次の通り。
一. 外国人に頼らず官民同心合力して皇権を強固にすること
一. 鉱山、鉄道、石炭、森林、及び借款、借兵ならびに政府と外国人と契約のことは、各部大臣、中枢院議長の署名・捺印を得たものでなければ施行できないこと
一. 全国の財政は何税かに関係なく度支部が管理し、他の府郡及私会社はこれに干渉することはできない。予算・決算を人民に公布すること
一. 今後すべての重大な犯罪は別に公弁を行ない、被告が蹙窮（しゅくきゅう ＊慎み）自服した後に施行すること
一. 勅任官は大皇帝陛下より政府に意見を求められ、その過半数の協賛を得て任命すること
一. 章程を実践すること
以上六条目の建議案はその翌二十九日に議政府を経て上奏に及んだところ、陛下は直ちにこれを裁可し、政府に実行させよとの優批を賜い、また中枢院官制の件もまた独立派の希望通りその改革に決したので、独立派は大いに満足し本月三日全くその運動を停止し、一同は鍾街（＊鍾路）を立ち退き、ゆっくり政府の措置を待とうと一決し、ここに先ず一段落を告げたのであった。
これは要するに、独立派の目的は強固な政府を形成し悪政を改革しようとするところにあるのだが、残念なことに、現在のように宮廷の秩序が紊乱し君権濫用の弊が行われるに当たっては、到底その目的を貫くことができないことを察し、先ず現任大臣を排斥し、若い有為の人材を挙げて新たに政府を組織させ、同時に中枢院官制を改革しこれに参政権を持たせて政府と相互に連合することによって政府の地位を強固にし、上は陛下に対し強硬な態度を執ってその君権を抑え、悪政の改革を励行しようとするところにあったもののようだ。
ところが、なんということだろうか、本月四日局面は忽ち一変して、かつて独立派と厳しく対立していた趙秉式、閔種黙、南廷哲、李基東などが新たに入って内閣に列すると、「勅命違反だ」との理由のもとの突然その会員の主なもの二十一名の捕縛に着手し、内十九名は同五日早暁捕らえられた。このため一時人心は騷然とし、政府の措置を非難するものが多く、また独立派は皆で警務庁に押寄せその捕縛の理由を問い、
「もし本当に独立協会員を有罪と認められる場合は全会員が尽く罪人とならなければならない。したがって皆均しく捕縛されなければならない」
と主張し喧噪は止まなかった。
市民などもまた同情を表し各戸みな店を鎖し廃業して政府の反省を促し、今日に至っても依然として継続している。
そのほか状況の一班は去る五日以来第一一九号から第一二二号までの電報のような状況です。なお今回の事件に関する詳細は逐次稟報致すつもりですが、一先ず顚末を稟申に及びます。 敬具
明治三十一年十一月八日
日置 臨時代理公使
外務大臣 伯爵 大隈重信 殿
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