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2022年07月04日23:20

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[ホワイトレター]筆ならし

 仕事に煮詰まった時の気分転換はいくつかある。

 積んである別の案件に手を付ける。
 街を散歩し、設備の新しい不具合を探す。
 過去に作成した文書を点検し、整理したり改善したりする。

 クィリンの日常はおおよそこう言ったもので、仕事と関係のないことどもには、およそ縁がないのであった。
 それは長年の仕事を辞し、国際郵便機構の一員となった今でも変わりはなかった。

  *  *  *

 この日は、数少ない「仕事と関係のない気分転換」に来ていた。

 熱い湯に身を沈め、湯気混じりの風に涼む。
 座り仕事で凝りかたまった背中や腰に、心地よく血が巡る。

 フゥー…と深く息をつく。
 眼を閉じる。
 場内に響く雑多な音が、耳を澄ますでもなく、聞こえてくる。

 幼子のはしゃぐ声。
 体を流す水のはねる音。
 高く、低く、さざめく人々の声。
 ゆったりと波打つ湯舟の水音。

 それらの更に奥から響く、熱が溜まり、膨張し、解放される音。
 クィリンの耳は、こんな時でも蒸気機関の音に注意が向いてしまう。

 順調だ――。

 《蒸気殿》のそれらが滞りなく働く音に満足し、クィリンは更に深く目を閉じた。
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