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2022年06月30日07:57
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18970828 NO5449 鏡城視察報告進達の件 ＊長文
18970828 NO5449 鏡城視察報告進達の件 ＊長文
한국사데이터베이스 (history.go.kr)
012_0070_0130 駐韓日本公使館記録 12巻 七. 各館往信 (13) 鏡城視察報告進達の件
文書題目 (13) 鏡城視察報告進達の件
文書番号 公第四二号
発信日 明治三十年八月二十八日 ( 1897年 08月 28日 )
発信者 在元山 二等領事 二口美久
受信者 弁理公使 加藤増雄
(13) 鏡城視察報告進達の件
公第四二号
北関（＊咸鏡道の別称）情況については時々に御報告致して置きましたが、この程本省よりの訓令の趣旨もあり、七月三十一日当館員を北関（＊咸鏡道）へ派遣、本月十六日元山（ウオンサン）に帰着し、別紙の通り復命致しました。しかしながらこの調査は不行き届きの点が少なくなく甚だ遺憾に存じておりますが、引き続き御報告致しておりますように、露商・セベリヨフ会社所属汽船が不開港場に回航し、商品の積み下ろししていること、しかも鏡城（キョンソン）観察使は同地に設立している天一商社に対し特に万般の便宜を与えていることは事実であり、「商会所」と称するものを別に貴地（＊京城）に設立してあって農商工部との間に立って始終この商社の経営に手出ししていることが窺い知られると認めます。ついては貴地商会所の組織、現状など御査報を煩わしたくこの件を添えて報告かたがた申進致します。 敬具
明治三十年八月二十八日
在元山 二等領事 二口美久 印
弁理公使 加藤増雄 殿
[別紙]
文書題目 [北道状況視察復命書]
[北道状況視察復命書]
今般咸鏡道（ハムギョンド）北部、即ち吉州（キルチュ）・明川（ミョンチョン）・鏡城（キョンソン）地方の状況視察の命令を受け利運社汽船「蒼龍号（チャンニョンホ）」へ便乗して去る七月三十一日出発し、咸興（ハムフン）管下の西湖（ソホ ＊咸興の東方海岸）、北青（プクチョン）の新浦（シンポ）・新昌（シンチャン）、利原（イウオン）の遮湖、端川（タンチョン）の梨津（イージン）、吉州（キルチュ）の臨湖（イムホ）、明川（ミョンチョン）の井口味（チョングミ）の各浦口を経て、八月三日鏡城管下の独津（トクチン）に到着した。即日鏡城に入り、翌四日同城を発し、陸路明川を経て、八日吉州に着し、九日臨湖に出て、十一日汽船「利栄号」に便乗し十六日元山に帰着した。
ただ今回の旅行時、ちょうど長雨に遭遇し、鏡城・吉州間の河川が出水、川止めの心配があって急行したので、各邑の滞在は極めて僅少、特に調査を必要とする事項は力の及ばなかったところがあり、粗漏が甚だ多いと思われる。別紙調査の材料は訪問先の官吏あるいは当業者について蒐集した。
明治三十年八月二十八日
領事館書記生 高雄謙三
二等領事 二口美久 殿
[別紙][付属書]
文書題目 [右件 報告書]
調査の要領
一. 鏡城より明川を経て吉州・臨湖に至る地理概況
一. 北関気候及び民情一班
一. 農業
一. 穀類陸運並びに費用の振合
一. 工業
一. 商業
一. 日本商品の販路の状況
一. 日本銀貨の流通高、ならびに信用及び交換割
一. 鏡城居留外国人の状況
一. 外国商船未開港出入の事実
一. 郵逓司の現状
一. 鏡城「天一商会」組織の性質および現時の状況
鏡城より明川を経て吉州・臨湖に至る地理概況
八月三日 鏡城（キョンソン）管下の独津（トクチン）に到着。同津は(防穀地十余戸)府城から半里、東南に面する海浜で、海底泥砂水深六七尋から十尋ばかりであるが、浦口は船舶一時の寄泊地であって到底風浪を避け得る望みはない。津民は概ね漁業に従事し、同津より府城に至る道路は平坦にして貨物の運送に甚だ便利である。
同日鏡城府に入る。府は四大門を設け城内十万坪ばかり。城内官庁・公倉が多く民家はわずかに五百余戸。城外に六百余戸あり、総じて一千余戸に過ぎない。また官庁・公倉は大半荒廃し見るに足るものはなく、府民は農商相半ばである。城の内外には共に店舖があって金巾、摺付木（マッチのこと）麻、布、雑貨の類を販売しているが北道第二の首都としては寂寥としている。
八月四日 雨の中であったが南門を出て明川に向った。行程三・四丁で河があった。南水と言う。二里で古気屋に達した。人家十余戸。一里半で朱乙場(チュウルジャン その戸数十余)を経、さらに一里半で永康（ヨンガン）村に至る。村は人家十戸ほど。朱乙場から永康の間は澗流（＊谷川）で路のようなものは全くない。中でも大きい川を露和水（ノファス）と言う。
ここから永康嶺を越えて一里余りで院洞（ウオンドン）に達する。戸数三十余。永康より院洞に至る間もまた大小何本かの川が流れていたが川名はないと言う。一里にして朱村前場(院洞)に至りここで一泊した。
八月五日 同場出発、半里で可洞（カドン ＊柯洞か）村に至る。人家十戸ばかり。朱村・可洞間は、土地は平坦であるが、地勢が低いため、北方諸山の谷川や溪水が合流して一面川と変じ通行がすこぶる困難であった。可洞嶺の頂上は広くおよそ一里四方余にも亘っているようだ。所々に凸凹起伏があるが、山上は概ね開墾して燕麦・小麦・大豆の類を植え付けている。前面の一嶺を見ると、これは北道において有名な八嶺中の一つである鬼門関（クィムングアン ＊明川の東か）嶺である。両嶺の間に一つの澗流がある。岸に沿って人家二十余戸がある。可洞嶺を下ること一里余りでここに着く。雲洞院（ウンドンウォン ＊雲為院か）と言う。川を雲院江（ウンウォンガン）と称し、両岸は岩壁で奇石・怪岩が多くその険しさは言い表しようもない。危険を冒して渉ると即ち鬼門関嶺の山すそで、巌を削るような厳しい地形を何とか人馬を通す一本の道があるばかりである。まことに一人の男が守れば万軍も過ぎることができないような天然の要害の地を利用して関所を設けたもののようである。登って嶺上に至りと民家が四十戸余り。長浦（チャンポ）村と言いまたこの嶺上を関徳嶺（クァントンニョン）と呼ぶ。ここから一里を過ぎて大河がある。上流に分れて明�旅勝淵潺腑鵐�ンガン ＊明�里箸い�集落がある）と言う。川幅は雲院江より一町余り広い。両岸に奇岩が立ち並んでいる。岸に沿って人家が四十四戸ある。村名を臥巌洞と言う。江を渡りやや歩いてまた一村ある。人家二十五で立石（イプソク）洞と言う。ここで一泊する。
八月六日 同洞出発。河を一つ渡り場嶺を越えると嶺下に人家が四十戸余ある。遥山洞（ヨサンドン）と言う。半里言ってまた河がある。地境川（チギョンチョン）と名ふ。鏡城と明川の地境である。川を渡ると河岸に民家三・四十戸がある。地境場と言い嶺があり地境嶺と言う。登ると東南に奇峰高く大山が聳え白雲を吐吞し厳しい岩山が連なっている。これが明川の周峰（＊周は「めぐる」）だと言う。
ここから二里で明川（ミョンチョン）府に達し同府に一泊した。明川府は北方に川を控へ、府城には三門がある。城内はおよそ三万坪内外であろう。民家は一軒もなく、頽破した官衙がわずかに軒を並べるだけである。地は荒蕪に任せておりところどころに燕麦と粟を作っているのを見かける。特に当時は郡守は不在で、城内は寂として人跡なく、城外には民家四百余戸がある。金巾その他内外の諸雑貨を売買している。
八月七日 明川を出発して吉州（キルチュ）に向う。
一里南下したところに川があり、雩水江（ウスガン ＊雩は雨乞い）と言う。四流に分れている河岸に民家五十戸余がある。雩水場（ウスジャン ＊下雩場、上雩場のあたりか）と言う。
同場より二里で彼自洞（ピジャドン）がある。人家三十余。嶺あり彼自嶺（ピジャリョン）と言う。
一里行けば古站店（コジョムチョム）に達す。人家三百有余。嶺があって地境嶺(チギョンリョン 古龍峴とも言う)と言う。
明川・吉州の地境より下る事半里にして湯池洞（ユジドン）に到る。人家二十戸余。温泉があって路傍に湧出している。
ここから屯地（トンジ）、柳満洞（ユマンドン）の二村を経て吉州府に至り一泊した。
吉州府は城壁が広大で、人家も稠密、繁盛ぶりはもともと鏡城・明川の比ではない。城の内外には共に店舖が軒を連ね、百貨が店頭に堆積している。これは南は北青（プクチョン）・利原（イウオン）・端川（タンチョン）より、北は明川、鏡城、富寧（プニョン）、慶興（キョンフン）などに対する内外物貨の集散地であるからである。
八月九日 府を出発し管下の臨湖（イムホ）に向う。一里余で南大川（ナムデチョン）に至る。ここから海才浦（ヘジェポ ＊海月浦か）、山城洞（サンソンドン）、才盈洞（さいえいどう）、到直洞（トジクトン）の四村を経て一嶺に達する。この山を場嶺（チャンニョン）と称する。これを下れば臨溟場（イムミョンジャン）がある所で、人家百有余戸、吉州府に次ぐ第二の市場である。
同場より一里余りで臨湖に至る。人家百十余戸。同所は元山間の定期汽船終点地であり、市井は繁盛している。浦口へ行って見ると鏡城の独津と同様で安全なる碇繫場ではない。
以上は今回私が調査した地勢の大略である。この旅行の困難はちょうど霖雨（＊長雨）に際していたので特に甚だしかった。思うに朝鮮内地旅行の困難に関しては既に幾多の記述があるのでここでは省略する。
北関の気候及び民情一班
北関の気候は元山に比べれば春・夏の二期はおよそ二週間位遅れることがあるが、秋・冬の二期になると大差はなく、降雪も早いときは十一月下旬、または十二月初旬であると言う。果してそうなのかどうか、特に旅行中は雨天が続いたので、気候の寒暄（かんけん ＊寒暖）はもともと確実な事は証明し難いものの、携帯していた寒暖計によると常に七十五度（＊二十三.九℃）を昇降し、晴天には八十度（二十六.七℃）に昇っていた。
民情・風俗も世間で評判している所よりは割合一般に柔順であり、却って南漢の咸興（ハムフン）、永興（ヨンフン ＊いずれも元山の北）付近の土民よりも親切であるように感じた。現に明川の雩水境（ウスギョン）での通行の際、村長が出て来て私の旅行の困難を慰め、焼酎を勧めてくれ、さらにこの地を去る際には、村長は数名の者と河岸まで送ってくれた。またある村人などは日本人であるか、あるいは露国人であるかも知らず、何国人なのかを問い、日本人と答えると丁寧・親切に尊敬の意を表し、全く罵声を聞かなかった。吉州は人家がやや稠密であるので、市街を巡視するに当り見物人が群集し、私の前後左右を取り巻いたのだがこれまた軽侮・嘲笑などの行為は見受けなかった。
農業
農業は朝鮮国国力の骨髓とも言うべきものであるが、地性が農業に適しないところが多く、中でも当咸鏡道北部は前述のように概して山が多く野が少ないので、作物は従来主に黍（きび）・稷（たかきび）・麦・粟・大豆類であり、米穀は北青・吉州を除くほか、甲山（カプサン）、三水（サムス ＊この二ヶ所は山間部）地方などでは絶無であるようだ。
さらに農作の方法が甚だいい加減でほとんど天然に依頼する有様であるので、北青・吉州の二邑は上作と言っても産出量は十四、五万俵に過ぎないので、なお常に他道の供給を仰いている。
このところ吉州・元山間に定期汽船の往来があって交通運輸の便を得たので、北道農家も耕作に精を出し、山頂も平野も余す所なく開墾し諸穀の増殖を図っているようである。
本年の鏡城、明川両邑における農況は、植え付けの際旱天が続いて発育を妨げ、その後雨天が続いて雨水は度々多すぎたので、平年並みを望むことはできないが、吉州・北青付近は植え付けの際の晴雨がちょうどよく、大豆などは今後非常の雨水がなければ昨年に比し一層上作になるだろうと言われている。
北関沿岸各地の諸穀の植え付け、および収穫の季節は大同小異である。稲の植え付けはは三・四月であり八・九月に収穫し、麦は植え付けが二月で六月に収穫する。粟および大小豆などは米稲とほぼ同一である。したがって農家は二三・四の三ヵ月間は田畑の鋤起こし、植え付けなどで多忙。五・六・七は閑で、七月末より八・九両月間はまた繁忙である。雑穀は土人の食用に充てる外、吉州以北においては燕麦をウラジオストックに輸出し、吉州以南においては大小豆を元山に輸出する。
北青の新浦市場（＊港口）においては、往航の節白米一桝(我の桝で五合)二百五文、大豆は六十五文、小豆は八十文であったが、帰航の節は白米二百四十文、大豆七十五文、小豆百文に騰貴していた。これは北部の降雨が非常に少なく諸穀が不作だとの報せであったことによる、と言う。
穀類陸運並に費用の振合
北関各地における大豆・雑穀類を元山に輸送しようとすると、険峻な山河が多く陸運が極めて難しいため、咸興は西湖に、北青は新浦・新昌に、利原は遮湖に、端川は梨津に、吉州は城津・双浦・臨湖、明川は井口味黄岸下古（＊七字不明）、鏡城は独津（トクチン）など各浦口によって海運の便を取るほかはない。しかしながら各浦口付近において買い集めることは出来ず、時には深く内地に入って買い取りする事があるのだが、浦口沿岸までの間は駄馬または牛車を使用せざるをえない。この辺りで使用する牛車一基の積量は三俵、即ち日本での一石八斗九舛で、一日の行程はおよそ六里なのだが、農夫が繁忙な三・四月と夏期出水のころ、即ち五・六の以上四ヶ月間において、賃雇いは一里平均百二十五文ないし百三十文位である。十月以後であれば六十五文ないし七十文で運搬するだろうと言う。
工業
北道び吉州以北においては今日工業と呼べるものはない。要するに人の力によって何かを生み出すことが少ないため工業として観るべきものはない。吉州・明川・鏡城・鐘城（チョンソン）の四府は麻布の産出地であって、わずかに製麻・養苧（ヨウチョ ＊苧はカラムシ）があるが、これも不完全なる機杼（＊てばた）を用いて織り出し、南部の米穀・木綿と交易するに過ぎず、今一疋の価を聞くと四百文から十二貫文までである。一疋は日本で言う五丈六尺で、織り上げるのに五日間の日数を要すると言う。
もしこのような仕事に一工夫すれば立派に輸出物産となるだろう。また北部は一帯に河川が多いので土民は間々水を引き、不完全なる碓（うす）一個を設け、雑穀を挽いているのを見掛けた。これらを一ヶ所に数個を利用するなら大いに便利を得られるだろう。
商業
北道における重要輸出物産は、咸興以北鏡城間にあっては、北魚（プゴ ＊スケトウダラ）、昆布、若芽、梨子、麻布、砂金などである。
北魚は咸興以北、鏡城に至る沿海の至る所で漁獲しているが、新浦（＊北青の海岸部）、遮湖（＊利原の海岸部）を第一とし、西湖、新昌（＊新浦の東隣り）、梨津、独津（＊鏡城の港）などはその次である。昨年冬期より本月春期に至る漁獲高は近年稀な大漁であって、実に五万駄（＊駄は馬一頭分の荷か）以上に達し、その内四万余駄を海路で元山を経て各道に分輸し、五千余駄を陸路で平安道に、その余りは当咸鏡道一般の需用に充て、今はわずかに西湖に百六十駄、新浦に二百五十駄、新昌に二百駄を余していたのだが、新昌の二百駄も今回は「蒼龍号」帰航の節に積み取り釜山に向けたと言う。一駄の市価は六貫四百文であった。
昆布、若芽は明川、鏡城沿海に最も多く、これまた各道一般の需用品であって分輸したものがすこぶる大量であったが、毎年の採取額を知る事が出来なかった。市価は一駄三百文から一貫文まであると言う。
麻布は明川を第一とし、鐘城、鏡城、吉州がこれに次いでいる。即ち明川産を造布、鐘城産を換布、鏡城産を広布、吉州産を吉布と言う。また細布というものがあり、普通の麻より経緯ともに緻密で高価である。上流社会の需用に供するのみ。各種市価は造布一疋三丈三尺(日本の五丈六尺で、明川尺は日本の一尺六寸三分九厘に当る)が五百文ないし四貫文、細布は一貫文ないし十二貫文、換布、広布、吉布は四百文ないし二貫文である。
麻布の荷作りは五十疋を一個とし、粗製の麻で包んで縄を懸けただけで包装が完全でないため、陸送には雨湿、海運は潮浸の損害を被ることが往々にあると言う毎年の織出し高はおよそ三千個、即ち一万五千疋位だと言う。
吉州府は明川・鏡城に比べ繁盛の地であり、店舖が軒を連ね、内国産には木綿、麻布、紙、煙草、北魚、毛皮その他の諸雑貨、外国品としては金巾、緋金巾、日本木綿、打綿、寒冷紗、綛糸（かすりいと）、梅形鍋（大阪製にして韓人と猿を画いたもの）、危険摺付木（すりつけぎはマッチのこと）、染粉、石油、紙巻、茛（たばこ）、金盥（かなだらい）、金米糖（こんぺいとう）類を出品し、中には膳・碗・皿などの陶器も多少見受けた。
ウラジオストックよりの輸入品は「求之図」と印を押した金巾（かなきん ＊薄手の綿織物）と綾木綿、危険マッチ、支那絹反物、洋蝋（ようろう ＊石油から取れるパラフィンが原料）、小刀、その他諸雑貨の類が多い。
そもそも本道（＊咸鏡道）は地勢が狭長で、唯一条の大路が城より艮（うしとら ＊北東）に通じ、その間府県の路線に当るもの二十余邑、ちょうど一糸で数線（＊線は谷から続く土地の意か）を貫いているかのようで、各邑は浦口（ポグ ＊入江）を有し、水運はすこぶる便利である。今や吉州−元山間も汽船が定期航通している。商業の一大媒介物が備わっているので商路は次第に増進して来ているのだが、吾が元山居留商人の北道に対する経営は甚だ稀であり、ことに明川（＊吉州の北隣）以北に至るとまだ航通の便が充分でないが、吉州以北はほとんど対岸火視（＊無関係視）している。これは実に遺憾と言わざると得ない。
この度鏡城の天一商会社長・李某および密貿易貨物に対する収税監吏・鄭某の説に拠れば、現今ウラジオストック行の韓船は六百隻以上だと言う。
そして密貿易をする船隻に二種あって、一つは漁船で毎春三・四月の解氷の時期を待ち、大豆・燕麦・牛皮・鶏卵の類を携えて行き、夏期中は（＊ウラジオストックで）漁業に従事し(漁業税は十貫文を納めると言う)、漁獲の魚類を販売してこれを資金とし、金巾類その他雑貨を買い入れ、結氷前九・十月内に帰航する。
また一つは交易専業の商船で前者に比べて一層大なる貿易をすると言う。 現に今回吉州・臨湖（＊城津あたりか）において、大豆若干と燕麦三百五十俵ずつを搭載した韓船二隻が風待ちのため碇泊しているのを見たのだが、その行先を尋ねるとウラジオストックだという。
またこれら船隻が満載している輸出入貨物に対する税金は、貨物の種類を問わず総て従価五分の税金であり、吉州の臨湖、明川の広岸、鏡城の陽化（ヤンファ）、富寧（プニョン ＊富寧は鏡城とその北の会寧の中間）の青津（＊清津か）、会寧（フェニョン）の�翊邸�慶興（キョンフン ＊羅津の北）の西水羅、以上六ヶ所に慶興府から官吏を派出して置き徴収すると言う。
外国商品相場
吉州府
金巾 慶源 二貫百五十文 綾木綿 二貫五十文 二貫四百五十文
一疋
石油 一函 一貫六百五十文 木綿 一個上 五十五貫文
中 五十貫文
綿 一個 一貫六百文 寒冷紗 一疋 五百五十文
二合糸 一個 二貫文 三合糸 一個 一貫六百文
綿 一個 六百文 摺付木（マッチのこと） 一函 小 一貫八百文
吉州・臨溟場
金巾 一疋 二貫四百五十文 石油 一函 一貫六百文
綾木綿 一疋 二貫六百文 日本木綿 一疋 五貫八十文
綿 一個 十貫文 寒冷紗 一疋 五百文
二合糸 一個 一貫八百文 三合糸 一個 一貫九百文
日本食塩 一俵 四百七十文 摺付木（マッチのこと） 一個大 十貫文
明川府
金巾 一疋 二貫二百五十文 染粉 一瓶 一貫七百文
武力盥 一個 五十文 二合糸 一個 二貫二百文
三合糸 一個 二貫文 細三合糸 一個 二貫 百文
緋金巾 一疋 一貫七百文 寒冷紗 一疋 五百五十文
朝鮮木綿 一疋 自五百文至五貫二百文 日本木綿 一疋 自四百八十文至六百六十文
至 五貫 二百文 至 六百六十文
金米糖
（こんぺいとう） 一合 九十文
鏡城府
金巾 一疋 二貫二百五十文 綾木綿 一疋 二貫四百文
綿 一個 十貫八百文 木綿 一疋 八百文
摺付木（マッチのこと） 一個 二貫文 梅形鍋 一組 三百五十文
諸雑穀の相場は産出地の遠近により運搬費に多少があって、市価は一定しない。今北関中の市場である吉州府における雑貨・牛皮の相場は次の通り。
吉州府穀類
白米 中一俵 三貫七百文 大豆 (自六斗二口至〃俵) 一貫三百文
(自六斗二口至〃俵)
小豆 一俵 一貫三百文 粟 一俵 二百二十五文
麦 一俵 三百文 燕麦 一俵 七百五十文
牛皮 大一枚 自一貫二百文至一貫四百文 牛皮 小一枚 一貫文
自一貫二百文至一貫四百文
売買口銭
鏡城・明川にはまだ行商者はおらず、口銭の振合せは調査できていない。吉州・臨溟場において委托販売の口銭は次の通り。
金巾 一疋 六十文 石油 一函 五十文
綾木綿 一疋 六十文 木綿 一疋 十文
綿 一個 百五十文 寒冷紗 一疋 二十文
支那絹反物 一疋 六十文 糸 一個 六十文
食塩 一俵 二十文
臨湖（＊吉州）の問屋では委托販売の口銭は何品を問わず総て一個四文を取り、大豆等の買入口銭（＊口銭は手数料）は一俵三十文を取ると言う。
한국사데이터베이스 (history.go.kr)
012_0070_0130 駐韓日本公使館記録 12巻 七. 各館往信 (13) 鏡城視察報告進達の件
文書題目 (13) 鏡城視察報告進達の件
文書番号 公第四二号
発信日 明治三十年八月二十八日 ( 1897年 08月 28日 )
発信者 在元山 二等領事 二口美久
受信者 弁理公使 加藤増雄
(13) 鏡城視察報告進達の件
公第四二号
北関（＊咸鏡道の別称）情況については時々に御報告致して置きましたが、この程本省よりの訓令の趣旨もあり、七月三十一日当館員を北関（＊咸鏡道）へ派遣、本月十六日元山（ウオンサン）に帰着し、別紙の通り復命致しました。しかしながらこの調査は不行き届きの点が少なくなく甚だ遺憾に存じておりますが、引き続き御報告致しておりますように、露商・セベリヨフ会社所属汽船が不開港場に回航し、商品の積み下ろししていること、しかも鏡城（キョンソン）観察使は同地に設立している天一商社に対し特に万般の便宜を与えていることは事実であり、「商会所」と称するものを別に貴地（＊京城）に設立してあって農商工部との間に立って始終この商社の経営に手出ししていることが窺い知られると認めます。ついては貴地商会所の組織、現状など御査報を煩わしたくこの件を添えて報告かたがた申進致します。 敬具
明治三十年八月二十八日
在元山 二等領事 二口美久 印
弁理公使 加藤増雄 殿
[別紙]
文書題目 [北道状況視察復命書]
[北道状況視察復命書]
今般咸鏡道（ハムギョンド）北部、即ち吉州（キルチュ）・明川（ミョンチョン）・鏡城（キョンソン）地方の状況視察の命令を受け利運社汽船「蒼龍号（チャンニョンホ）」へ便乗して去る七月三十一日出発し、咸興（ハムフン）管下の西湖（ソホ ＊咸興の東方海岸）、北青（プクチョン）の新浦（シンポ）・新昌（シンチャン）、利原（イウオン）の遮湖、端川（タンチョン）の梨津（イージン）、吉州（キルチュ）の臨湖（イムホ）、明川（ミョンチョン）の井口味（チョングミ）の各浦口を経て、八月三日鏡城管下の独津（トクチン）に到着した。即日鏡城に入り、翌四日同城を発し、陸路明川を経て、八日吉州に着し、九日臨湖に出て、十一日汽船「利栄号」に便乗し十六日元山に帰着した。
ただ今回の旅行時、ちょうど長雨に遭遇し、鏡城・吉州間の河川が出水、川止めの心配があって急行したので、各邑の滞在は極めて僅少、特に調査を必要とする事項は力の及ばなかったところがあり、粗漏が甚だ多いと思われる。別紙調査の材料は訪問先の官吏あるいは当業者について蒐集した。
明治三十年八月二十八日
領事館書記生 高雄謙三
二等領事 二口美久 殿
[別紙][付属書]
文書題目 [右件 報告書]
調査の要領
一. 鏡城より明川を経て吉州・臨湖に至る地理概況
一. 北関気候及び民情一班
一. 農業
一. 穀類陸運並びに費用の振合
一. 工業
一. 商業
一. 日本商品の販路の状況
一. 日本銀貨の流通高、ならびに信用及び交換割
一. 鏡城居留外国人の状況
一. 外国商船未開港出入の事実
一. 郵逓司の現状
一. 鏡城「天一商会」組織の性質および現時の状況
鏡城より明川を経て吉州・臨湖に至る地理概況
八月三日 鏡城（キョンソン）管下の独津（トクチン）に到着。同津は(防穀地十余戸)府城から半里、東南に面する海浜で、海底泥砂水深六七尋から十尋ばかりであるが、浦口は船舶一時の寄泊地であって到底風浪を避け得る望みはない。津民は概ね漁業に従事し、同津より府城に至る道路は平坦にして貨物の運送に甚だ便利である。
同日鏡城府に入る。府は四大門を設け城内十万坪ばかり。城内官庁・公倉が多く民家はわずかに五百余戸。城外に六百余戸あり、総じて一千余戸に過ぎない。また官庁・公倉は大半荒廃し見るに足るものはなく、府民は農商相半ばである。城の内外には共に店舖があって金巾、摺付木（マッチのこと）麻、布、雑貨の類を販売しているが北道第二の首都としては寂寥としている。
八月四日 雨の中であったが南門を出て明川に向った。行程三・四丁で河があった。南水と言う。二里で古気屋に達した。人家十余戸。一里半で朱乙場(チュウルジャン その戸数十余)を経、さらに一里半で永康（ヨンガン）村に至る。村は人家十戸ほど。朱乙場から永康の間は澗流（＊谷川）で路のようなものは全くない。中でも大きい川を露和水（ノファス）と言う。
ここから永康嶺を越えて一里余りで院洞（ウオンドン）に達する。戸数三十余。永康より院洞に至る間もまた大小何本かの川が流れていたが川名はないと言う。一里にして朱村前場(院洞)に至りここで一泊した。
八月五日 同場出発、半里で可洞（カドン ＊柯洞か）村に至る。人家十戸ばかり。朱村・可洞間は、土地は平坦であるが、地勢が低いため、北方諸山の谷川や溪水が合流して一面川と変じ通行がすこぶる困難であった。可洞嶺の頂上は広くおよそ一里四方余にも亘っているようだ。所々に凸凹起伏があるが、山上は概ね開墾して燕麦・小麦・大豆の類を植え付けている。前面の一嶺を見ると、これは北道において有名な八嶺中の一つである鬼門関（クィムングアン ＊明川の東か）嶺である。両嶺の間に一つの澗流がある。岸に沿って人家二十余戸がある。可洞嶺を下ること一里余りでここに着く。雲洞院（ウンドンウォン ＊雲為院か）と言う。川を雲院江（ウンウォンガン）と称し、両岸は岩壁で奇石・怪岩が多くその険しさは言い表しようもない。危険を冒して渉ると即ち鬼門関嶺の山すそで、巌を削るような厳しい地形を何とか人馬を通す一本の道があるばかりである。まことに一人の男が守れば万軍も過ぎることができないような天然の要害の地を利用して関所を設けたもののようである。登って嶺上に至りと民家が四十戸余り。長浦（チャンポ）村と言いまたこの嶺上を関徳嶺（クァントンニョン）と呼ぶ。ここから一里を過ぎて大河がある。上流に分れて明�旅勝淵潺腑鵐�ンガン ＊明�里箸い�集落がある）と言う。川幅は雲院江より一町余り広い。両岸に奇岩が立ち並んでいる。岸に沿って人家が四十四戸ある。村名を臥巌洞と言う。江を渡りやや歩いてまた一村ある。人家二十五で立石（イプソク）洞と言う。ここで一泊する。
八月六日 同洞出発。河を一つ渡り場嶺を越えると嶺下に人家が四十戸余ある。遥山洞（ヨサンドン）と言う。半里言ってまた河がある。地境川（チギョンチョン）と名ふ。鏡城と明川の地境である。川を渡ると河岸に民家三・四十戸がある。地境場と言い嶺があり地境嶺と言う。登ると東南に奇峰高く大山が聳え白雲を吐吞し厳しい岩山が連なっている。これが明川の周峰（＊周は「めぐる」）だと言う。
ここから二里で明川（ミョンチョン）府に達し同府に一泊した。明川府は北方に川を控へ、府城には三門がある。城内はおよそ三万坪内外であろう。民家は一軒もなく、頽破した官衙がわずかに軒を並べるだけである。地は荒蕪に任せておりところどころに燕麦と粟を作っているのを見かける。特に当時は郡守は不在で、城内は寂として人跡なく、城外には民家四百余戸がある。金巾その他内外の諸雑貨を売買している。
八月七日 明川を出発して吉州（キルチュ）に向う。
一里南下したところに川があり、雩水江（ウスガン ＊雩は雨乞い）と言う。四流に分れている河岸に民家五十戸余がある。雩水場（ウスジャン ＊下雩場、上雩場のあたりか）と言う。
同場より二里で彼自洞（ピジャドン）がある。人家三十余。嶺あり彼自嶺（ピジャリョン）と言う。
一里行けば古站店（コジョムチョム）に達す。人家三百有余。嶺があって地境嶺(チギョンリョン 古龍峴とも言う)と言う。
明川・吉州の地境より下る事半里にして湯池洞（ユジドン）に到る。人家二十戸余。温泉があって路傍に湧出している。
ここから屯地（トンジ）、柳満洞（ユマンドン）の二村を経て吉州府に至り一泊した。
吉州府は城壁が広大で、人家も稠密、繁盛ぶりはもともと鏡城・明川の比ではない。城の内外には共に店舖が軒を連ね、百貨が店頭に堆積している。これは南は北青（プクチョン）・利原（イウオン）・端川（タンチョン）より、北は明川、鏡城、富寧（プニョン）、慶興（キョンフン）などに対する内外物貨の集散地であるからである。
八月九日 府を出発し管下の臨湖（イムホ）に向う。一里余で南大川（ナムデチョン）に至る。ここから海才浦（ヘジェポ ＊海月浦か）、山城洞（サンソンドン）、才盈洞（さいえいどう）、到直洞（トジクトン）の四村を経て一嶺に達する。この山を場嶺（チャンニョン）と称する。これを下れば臨溟場（イムミョンジャン）がある所で、人家百有余戸、吉州府に次ぐ第二の市場である。
同場より一里余りで臨湖に至る。人家百十余戸。同所は元山間の定期汽船終点地であり、市井は繁盛している。浦口へ行って見ると鏡城の独津と同様で安全なる碇繫場ではない。
以上は今回私が調査した地勢の大略である。この旅行の困難はちょうど霖雨（＊長雨）に際していたので特に甚だしかった。思うに朝鮮内地旅行の困難に関しては既に幾多の記述があるのでここでは省略する。
北関の気候及び民情一班
北関の気候は元山に比べれば春・夏の二期はおよそ二週間位遅れることがあるが、秋・冬の二期になると大差はなく、降雪も早いときは十一月下旬、または十二月初旬であると言う。果してそうなのかどうか、特に旅行中は雨天が続いたので、気候の寒暄（かんけん ＊寒暖）はもともと確実な事は証明し難いものの、携帯していた寒暖計によると常に七十五度（＊二十三.九℃）を昇降し、晴天には八十度（二十六.七℃）に昇っていた。
民情・風俗も世間で評判している所よりは割合一般に柔順であり、却って南漢の咸興（ハムフン）、永興（ヨンフン ＊いずれも元山の北）付近の土民よりも親切であるように感じた。現に明川の雩水境（ウスギョン）での通行の際、村長が出て来て私の旅行の困難を慰め、焼酎を勧めてくれ、さらにこの地を去る際には、村長は数名の者と河岸まで送ってくれた。またある村人などは日本人であるか、あるいは露国人であるかも知らず、何国人なのかを問い、日本人と答えると丁寧・親切に尊敬の意を表し、全く罵声を聞かなかった。吉州は人家がやや稠密であるので、市街を巡視するに当り見物人が群集し、私の前後左右を取り巻いたのだがこれまた軽侮・嘲笑などの行為は見受けなかった。
農業
農業は朝鮮国国力の骨髓とも言うべきものであるが、地性が農業に適しないところが多く、中でも当咸鏡道北部は前述のように概して山が多く野が少ないので、作物は従来主に黍（きび）・稷（たかきび）・麦・粟・大豆類であり、米穀は北青・吉州を除くほか、甲山（カプサン）、三水（サムス ＊この二ヶ所は山間部）地方などでは絶無であるようだ。
さらに農作の方法が甚だいい加減でほとんど天然に依頼する有様であるので、北青・吉州の二邑は上作と言っても産出量は十四、五万俵に過ぎないので、なお常に他道の供給を仰いている。
このところ吉州・元山間に定期汽船の往来があって交通運輸の便を得たので、北道農家も耕作に精を出し、山頂も平野も余す所なく開墾し諸穀の増殖を図っているようである。
本年の鏡城、明川両邑における農況は、植え付けの際旱天が続いて発育を妨げ、その後雨天が続いて雨水は度々多すぎたので、平年並みを望むことはできないが、吉州・北青付近は植え付けの際の晴雨がちょうどよく、大豆などは今後非常の雨水がなければ昨年に比し一層上作になるだろうと言われている。
北関沿岸各地の諸穀の植え付け、および収穫の季節は大同小異である。稲の植え付けはは三・四月であり八・九月に収穫し、麦は植え付けが二月で六月に収穫する。粟および大小豆などは米稲とほぼ同一である。したがって農家は二三・四の三ヵ月間は田畑の鋤起こし、植え付けなどで多忙。五・六・七は閑で、七月末より八・九両月間はまた繁忙である。雑穀は土人の食用に充てる外、吉州以北においては燕麦をウラジオストックに輸出し、吉州以南においては大小豆を元山に輸出する。
北青の新浦市場（＊港口）においては、往航の節白米一桝(我の桝で五合)二百五文、大豆は六十五文、小豆は八十文であったが、帰航の節は白米二百四十文、大豆七十五文、小豆百文に騰貴していた。これは北部の降雨が非常に少なく諸穀が不作だとの報せであったことによる、と言う。
穀類陸運並に費用の振合
北関各地における大豆・雑穀類を元山に輸送しようとすると、険峻な山河が多く陸運が極めて難しいため、咸興は西湖に、北青は新浦・新昌に、利原は遮湖に、端川は梨津に、吉州は城津・双浦・臨湖、明川は井口味黄岸下古（＊七字不明）、鏡城は独津（トクチン）など各浦口によって海運の便を取るほかはない。しかしながら各浦口付近において買い集めることは出来ず、時には深く内地に入って買い取りする事があるのだが、浦口沿岸までの間は駄馬または牛車を使用せざるをえない。この辺りで使用する牛車一基の積量は三俵、即ち日本での一石八斗九舛で、一日の行程はおよそ六里なのだが、農夫が繁忙な三・四月と夏期出水のころ、即ち五・六の以上四ヶ月間において、賃雇いは一里平均百二十五文ないし百三十文位である。十月以後であれば六十五文ないし七十文で運搬するだろうと言う。
工業
北道び吉州以北においては今日工業と呼べるものはない。要するに人の力によって何かを生み出すことが少ないため工業として観るべきものはない。吉州・明川・鏡城・鐘城（チョンソン）の四府は麻布の産出地であって、わずかに製麻・養苧（ヨウチョ ＊苧はカラムシ）があるが、これも不完全なる機杼（＊てばた）を用いて織り出し、南部の米穀・木綿と交易するに過ぎず、今一疋の価を聞くと四百文から十二貫文までである。一疋は日本で言う五丈六尺で、織り上げるのに五日間の日数を要すると言う。
もしこのような仕事に一工夫すれば立派に輸出物産となるだろう。また北部は一帯に河川が多いので土民は間々水を引き、不完全なる碓（うす）一個を設け、雑穀を挽いているのを見掛けた。これらを一ヶ所に数個を利用するなら大いに便利を得られるだろう。
商業
北道における重要輸出物産は、咸興以北鏡城間にあっては、北魚（プゴ ＊スケトウダラ）、昆布、若芽、梨子、麻布、砂金などである。
北魚は咸興以北、鏡城に至る沿海の至る所で漁獲しているが、新浦（＊北青の海岸部）、遮湖（＊利原の海岸部）を第一とし、西湖、新昌（＊新浦の東隣り）、梨津、独津（＊鏡城の港）などはその次である。昨年冬期より本月春期に至る漁獲高は近年稀な大漁であって、実に五万駄（＊駄は馬一頭分の荷か）以上に達し、その内四万余駄を海路で元山を経て各道に分輸し、五千余駄を陸路で平安道に、その余りは当咸鏡道一般の需用に充て、今はわずかに西湖に百六十駄、新浦に二百五十駄、新昌に二百駄を余していたのだが、新昌の二百駄も今回は「蒼龍号」帰航の節に積み取り釜山に向けたと言う。一駄の市価は六貫四百文であった。
昆布、若芽は明川、鏡城沿海に最も多く、これまた各道一般の需用品であって分輸したものがすこぶる大量であったが、毎年の採取額を知る事が出来なかった。市価は一駄三百文から一貫文まであると言う。
麻布は明川を第一とし、鐘城、鏡城、吉州がこれに次いでいる。即ち明川産を造布、鐘城産を換布、鏡城産を広布、吉州産を吉布と言う。また細布というものがあり、普通の麻より経緯ともに緻密で高価である。上流社会の需用に供するのみ。各種市価は造布一疋三丈三尺(日本の五丈六尺で、明川尺は日本の一尺六寸三分九厘に当る)が五百文ないし四貫文、細布は一貫文ないし十二貫文、換布、広布、吉布は四百文ないし二貫文である。
麻布の荷作りは五十疋を一個とし、粗製の麻で包んで縄を懸けただけで包装が完全でないため、陸送には雨湿、海運は潮浸の損害を被ることが往々にあると言う毎年の織出し高はおよそ三千個、即ち一万五千疋位だと言う。
吉州府は明川・鏡城に比べ繁盛の地であり、店舖が軒を連ね、内国産には木綿、麻布、紙、煙草、北魚、毛皮その他の諸雑貨、外国品としては金巾、緋金巾、日本木綿、打綿、寒冷紗、綛糸（かすりいと）、梅形鍋（大阪製にして韓人と猿を画いたもの）、危険摺付木（すりつけぎはマッチのこと）、染粉、石油、紙巻、茛（たばこ）、金盥（かなだらい）、金米糖（こんぺいとう）類を出品し、中には膳・碗・皿などの陶器も多少見受けた。
ウラジオストックよりの輸入品は「求之図」と印を押した金巾（かなきん ＊薄手の綿織物）と綾木綿、危険マッチ、支那絹反物、洋蝋（ようろう ＊石油から取れるパラフィンが原料）、小刀、その他諸雑貨の類が多い。
そもそも本道（＊咸鏡道）は地勢が狭長で、唯一条の大路が城より艮（うしとら ＊北東）に通じ、その間府県の路線に当るもの二十余邑、ちょうど一糸で数線（＊線は谷から続く土地の意か）を貫いているかのようで、各邑は浦口（ポグ ＊入江）を有し、水運はすこぶる便利である。今や吉州−元山間も汽船が定期航通している。商業の一大媒介物が備わっているので商路は次第に増進して来ているのだが、吾が元山居留商人の北道に対する経営は甚だ稀であり、ことに明川（＊吉州の北隣）以北に至るとまだ航通の便が充分でないが、吉州以北はほとんど対岸火視（＊無関係視）している。これは実に遺憾と言わざると得ない。
この度鏡城の天一商会社長・李某および密貿易貨物に対する収税監吏・鄭某の説に拠れば、現今ウラジオストック行の韓船は六百隻以上だと言う。
そして密貿易をする船隻に二種あって、一つは漁船で毎春三・四月の解氷の時期を待ち、大豆・燕麦・牛皮・鶏卵の類を携えて行き、夏期中は（＊ウラジオストックで）漁業に従事し(漁業税は十貫文を納めると言う)、漁獲の魚類を販売してこれを資金とし、金巾類その他雑貨を買い入れ、結氷前九・十月内に帰航する。
また一つは交易専業の商船で前者に比べて一層大なる貿易をすると言う。 現に今回吉州・臨湖（＊城津あたりか）において、大豆若干と燕麦三百五十俵ずつを搭載した韓船二隻が風待ちのため碇泊しているのを見たのだが、その行先を尋ねるとウラジオストックだという。
またこれら船隻が満載している輸出入貨物に対する税金は、貨物の種類を問わず総て従価五分の税金であり、吉州の臨湖、明川の広岸、鏡城の陽化（ヤンファ）、富寧（プニョン ＊富寧は鏡城とその北の会寧の中間）の青津（＊清津か）、会寧（フェニョン）の�翊邸�慶興（キョンフン ＊羅津の北）の西水羅、以上六ヶ所に慶興府から官吏を派出して置き徴収すると言う。
外国商品相場
吉州府
金巾 慶源 二貫百五十文 綾木綿 二貫五十文 二貫四百五十文
一疋
石油 一函 一貫六百五十文 木綿 一個上 五十五貫文
中 五十貫文
綿 一個 一貫六百文 寒冷紗 一疋 五百五十文
二合糸 一個 二貫文 三合糸 一個 一貫六百文
綿 一個 六百文 摺付木（マッチのこと） 一函 小 一貫八百文
吉州・臨溟場
金巾 一疋 二貫四百五十文 石油 一函 一貫六百文
綾木綿 一疋 二貫六百文 日本木綿 一疋 五貫八十文
綿 一個 十貫文 寒冷紗 一疋 五百文
二合糸 一個 一貫八百文 三合糸 一個 一貫九百文
日本食塩 一俵 四百七十文 摺付木（マッチのこと） 一個大 十貫文
明川府
金巾 一疋 二貫二百五十文 染粉 一瓶 一貫七百文
武力盥 一個 五十文 二合糸 一個 二貫二百文
三合糸 一個 二貫文 細三合糸 一個 二貫 百文
緋金巾 一疋 一貫七百文 寒冷紗 一疋 五百五十文
朝鮮木綿 一疋 自五百文至五貫二百文 日本木綿 一疋 自四百八十文至六百六十文
至 五貫 二百文 至 六百六十文
金米糖
（こんぺいとう） 一合 九十文
鏡城府
金巾 一疋 二貫二百五十文 綾木綿 一疋 二貫四百文
綿 一個 十貫八百文 木綿 一疋 八百文
摺付木（マッチのこと） 一個 二貫文 梅形鍋 一組 三百五十文
諸雑穀の相場は産出地の遠近により運搬費に多少があって、市価は一定しない。今北関中の市場である吉州府における雑貨・牛皮の相場は次の通り。
吉州府穀類
白米 中一俵 三貫七百文 大豆 (自六斗二口至〃俵) 一貫三百文
(自六斗二口至〃俵)
小豆 一俵 一貫三百文 粟 一俵 二百二十五文
麦 一俵 三百文 燕麦 一俵 七百五十文
牛皮 大一枚 自一貫二百文至一貫四百文 牛皮 小一枚 一貫文
自一貫二百文至一貫四百文
売買口銭
鏡城・明川にはまだ行商者はおらず、口銭の振合せは調査できていない。吉州・臨溟場において委托販売の口銭は次の通り。
金巾 一疋 六十文 石油 一函 五十文
綾木綿 一疋 六十文 木綿 一疋 十文
綿 一個 百五十文 寒冷紗 一疋 二十文
支那絹反物 一疋 六十文 糸 一個 六十文
食塩 一俵 二十文
臨湖（＊吉州）の問屋では委托販売の口銭は何品を問わず総て一個四文を取り、大豆等の買入口銭（＊口銭は手数料）は一俵三十文を取ると言う。
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