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2022年05月06日09:14

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楽曲・風の谷のナウシカ

原作は自分にとって「教典」でありまして語り始めたら一晩でも足りないのでそこは割愛。

アニメの主題歌の話。

「黒歴史」と言う言葉がネットミームとしてくっついてしまう状況になっていまして嘲笑の対象となっているのが非常に悲しいのですが、私にとってこの曲はコード理論を勉強する入り口になった曲でして、その後のバンドマン人生を左右した名曲なのです。

作詞:松本隆、作曲:細野晴臣、歌:安田成美。

作詞の松本隆さんは昭和の歌謡・アイドル界の作詞の大家。
作曲の細野晴臣さんは伝説のテクノバンドYMOのメンバー。
歌の安田成美さんは当作品のイメージガールコンテストの優勝者。

ここで、ん?となると思うのですが、安田成美さん、歌手じゃないんですね。イメージガールコンテストと言うふわっとしたオーディションで選ばれたふわっとした立場のいわゆるモデルさん。今となっては女優と言う肩書きがしっかりついて然るべき方ですが、この時点では「イメージガール」と言うあまりにもふわっとしすぎの立場でありました。

そこで主題歌を歌う、正確には歌わされるという事になったのだと思いますが、これが彼女にとってあまりにも不幸な流れでありました。

まず松本隆+細野晴臣と言うコンビ、これ当時アイドル歌謡の頂点にいた松田聖子さんの作詞作曲コンビなんですね。代表的なヒット曲は天国のキッス、ガラスの林檎、ピンクのモーツァルト、と、ほとんどの50代オッサンおばちゃんの思春期の心に刻まれている曲たち。そんな最高峰の作詞作曲を用意したほどなのでかなりの力が入っていたことはわかります。

そこで安田成美さん。上述のとおりただのモデルさんであります。歌には縁がない。そんな方が細野晴臣さんの曲を歌わされる。これは例えるなら、何の勉強もしていない普通の小学生に東大受験をしなさいと言うような物。というのも細野晴臣さんの曲がやたらと難しい。

専門的なお話をすると「転調」と言う物が使われています。マイナーコードからメジャーコードへ、キーが変わる、等の転調自体はそこそこ一般的で、特に昭和アニソンでは多くて代表的な物はバビルII世や花の子ルンルンなんかでも使われているんですが、細野晴臣さんの転調はちょっと変わっている、というか普通じゃない。

楽曲には大抵「Aメロ」「Bメロ」「サビ」という構成があって、転調が入る場合はそのパートへ移るときにパートごとにガラッと変わります。これが普通の転調。ところが細野晴臣さんの曲の場合、小節ごとに変わる。

例えばこのナウシカAメロの場合、
♪きんいろの(マイナー
♪はなーびらー(どっちつかず
♪ちーらしてー(メジャー
とこれ一小節ごとに調が変わっている。

大げさだろって話ではあるのですが、歌メロだけではなくて伴奏の方で鳴らしているコードを詳しく分析すると「本来なら歌いだしのコードでは有り得ない音」と言うのが使われている。その結果、このAメロってマイナーなの?メジャーなの?と言う判断がつかなくなる。日本のアニソン史上でもここまでの難しい転調を採用するのは、他に菅野よう子さんぐらい。

これマイナーとメジャーつまり短調と長調ってのは歌を歌う際の感覚ではとても大事かつ普遍のものなんですが、ナウシカの曲の場合この普遍をぶち壊しているんですね。その結果どうなる?歌い手さんの能力が問われる。

そこで安田成美さん。何度も言いますが、当時は女優経験すらないモデルさん。そこへ来てろくなボイトレも無く、おそらくソルフェージュの経験も無いでしょう、そんなド素人の状態でアニソンだけではなく日本の歌謡界でも最難度と言える細野晴臣さんの転調曲を歌わされる。それも大ヒットしてしまったから当時は生放送だったベストテンなどの歌番組で生歌唱をさせられる。口パクなんて文化は存在し無い昭和50年代。

これは不幸としか言いようがない。
この背景を語られずに黒歴史扱い。
かわいそうでかわいそうで。

この事情を知っていると、単純に「黒歴史」と言ってしまうのも気の毒かなと。

むしろ黒歴史は安田成美さん以外のところにあって詳しいことは割愛しますが、日本の偏屈オタクのステレオタイプそのままとも言える宮崎駿氏がこの主題歌回りの一連のいわゆる「芸能界的なプロデュース」に嫌気がさしてこの曲の採用に反発したというこっち。

お蔵入りレベルだったらしいのですが、あれだけのプロモーションで動いていた物を途中で引っ込める訳にもいかず「主題歌」ではなく「シンボル・テーマソング」と言うこれまたふわっとした立場で今の今まで残っているという。

ちなみに当初は映画音楽の担当も細野晴臣さんである予定だったらしいのですが、このドタバタで細野氏の劇伴担当の話はなくなり、当時はまだ無名、と言うかさすがの猿飛の劇伴がアニメファンの間で酷評されていた久石譲氏が急遽採用されブーイングを浴びていたという事も当時を知る者として付け加えておきます。

楽曲・風の谷のナウシカの「黒歴史」が無ければ久石譲と言うメガコンテンツも今は存在していなかったのかもしれない。そういう意味でもいろいろな転換点になった曲かと思います。
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