原発雑考第４０６号の転載です。
2022・5・5
発行 田中良明
転載自由
連絡先 豊橋市富士見台二丁目12-8 E-Mail tnk24@tees.jp
ウクライナ戦争と温室効果ガス排出削減
国連気候変動に関する政府間パネル（IPCC）の最新の報告書が公表された。そこでは、温暖化の影響を受忍限度内に抑えるために産業革命以前からの気温上昇を1.5度以下に抑えるという世界的に共有されている目標を達成するには、2025年までに世界全体の温室効果ガス（GHG）排出量を減少に転じさせる必要があるとされている。
2025年といえばわずか3年後である。掛け声だけで実質が伴っていない感の強いGHG排出削減が早くも待ったなしの段階に入ったのである。そこにウクライナ戦争が起きた。この戦争がGHG排出削減にたいして及ぼす影響としてつぎのようなことが考えられよう。
� ＼鐺�（準備と後始末を含む）はGHG排出を増大させる。
�◆．蹈轡∋魂柔佛確舛�ボイコットされることで世界的に化石燃料が品薄になるので、調達が困難になり、価格が高騰する。これらは化石燃料の使用を減少させ、GHGの排出を抑制する方向に作用する。
�� 各国の政府や企業がこの戦争への対応を口実にして、それでなくとも不十分なGHG排出削減の取り組みをさらに手抜きすることになる。
�ぁ｜罅�長期的には、化石燃料を他国に依存することの危険性を認識した国ぐにがエネルギー自立化をめざして脱化石燃料、省エネと再エネ利用の拡大にいっそう注力することになる。これらはGHG排出削減につながる。
このようにこの戦争がGHG排出削減におよぼす影響は両義的であり、GHG排出削減にマイナスにだけ作用するということではない。
日本政府は、エネルギー安定供給の名のもとにロシア産天然ガスの輸入を継続しているが、禁輸をバネに省エネと再エネ利用を加速することこそ、エネルギー安定供給に資することになる。ロシアのウクライナ侵略を資金面から制約する天然ガス禁輸がGHG排出削減にも繋がるのである。それをしない日本政府はロシア制裁にもGHG排出削減にも消極的だといわざるをえない。
ウクライナ戦争をどう捉えるか
２月24日のロシアの軍事行動開始から２ヶ月あまりが経過した。私にとってウクライナはチェルノブイリ原発事故被災者救援活動で縁があったし、ウクライナ戦争では核、原発、地球温暖化という私が関心を寄せている問題に係わることがクローズアップされた。それらのことについては本誌の前々号と前号で簡単ではあるが論じた。本号ではこの戦争をどう捉えるべきかを考えてみたい。
この戦争の捉え方についてロシア史家の塩川伸明氏は、「先ずもって最も重要な点として確認しておかなくてはならないのは、……ロシア軍によるウクライナへの攻撃は正当化する余地のない蛮行であり、これが（ロシア国内を含む）世界の多くの人たちの強い批判を浴びているのは当然だということである。これ以外にも考えるべき点が多々あるとはいえ、それらはすべてこの最重要の点を確認した上で，その後に考えるべきことだという前後関係は明確にしておかなければならない」と述べている（出所は末尾の注に示す）。
この指摘に私もまったく同感である。この当たり前のことをあえて強調するのは、そのことをわきまえない意見が少なからず存在するからである。
ロシアの侵攻手法にも問題が多い。核兵器使用の威嚇、都市無差別砲爆撃、原発の攻撃・占拠などが行われ、ロシア兵による市民の大量殺害、性暴力、略奪なども伝えられている。対人地雷やクラスター爆弾の使用の情報もある。戦争犯罪に該当する行為が無数に行われているようだ。
戦争目的もひどい。当初はウクライナの中立化、非武装化、非ナチ化が戦争目的として強調され、一般にはそれがウクライナのNATO加入阻止という意味で理解された。しかしそうであるなら、なぜNATO加入阻止そのものを戦争目的に掲げなかったのか。この点を考えて行くと、別のことが見えてくる。
そもそもウクライナがNATO加入に傾いたのは2014年のロシアによるクリミア併合以降であって、それまではNATO加入論はそれほど強くはなかった。クリミアを併合すればウクライナがNATO加入に傾くことは容易に想像できたはずである。ロシアがクリミアを併合することでウクライナをNATO加入指向に追いやったのであり、そうしておいて、NATO加入阻止を掲げて戦争に訴えるというのはまったく筋が通らない。
さらに、4月の停戦交渉においてウクライナ側が自国の安全が別のかたちで保障されればNATO加入にはこだわらないという姿勢を示したが、ロシア側は目立った反応をしなかった。また、ロシアのウクライナ侵略を受けて、長年にわたって軍事的中立政策を採ってNATOには加入していなかったスウェーデンとフィンランドがNATO加入を検討し始めた。ウクライナを侵略すればこうなることはロシアにも分かっていたはずだ。それでもウクライナを侵略したのだから、NATO拡大をじつはあまり気にしていないということになる。
NATO加入阻止・NATO拡大阻止は自国の安全保障に過敏なロシア国民には受けがよいし、国際関係を大国間の軍事的勢力圏争いとして理解する向きにもある程度アピールするから、宣伝材料としては強力である。それに乗せられた人は日本にもたくさんいるようだ。しかしこの戦争の目的はそこにはない。
戦争の目的はウクライナの属国化である。それは昨年7月のプーチン論文の主張と整合しているし、ロシアのいう意味での中立化、非武装化、非ナチ化が実質的にウクライナの属国化を意味していることからも明らかである。
4月初めに戦争目的がウクライナ東部と南部の占領に変更された。ウクライナの属国化に不可欠のキーウ占領・傀儡政権樹立がウクライナ側の頑強な抵抗で困難になったので、戦争目的の切り下げを余儀なくされたのである。
20世紀前半の2つの世界戦争を教訓にして、国家間対立の戦争による解決の禁止を柱とする平和主義が国家間関係の基本ルールとして確立されたが、現実には戦争が絶えなかった。平和主義のルールの尊重を唱えつつ、実際には戦争が絶えない現実に対応しきれなかったのが国連である。その国連の安全保障理事会常任理事国が、あろうことか核兵器使用の威嚇のもと属国化を目的として隣国を公然と侵略したのが、ウクライナ戦争である。それは平和主義のルールの全面否定を意味し、アメリカのイラク戦争などよりもワンランク上の暴挙である。もしこの戦争でロシアが「勝利」すれば、世界は弱肉強食のジャングルの掟が支配する状態に逆戻りしてしまう。
以上の考察から、いま求められているのは、ウクライナにたいする支援は当然のこととして、そのほかに以下の３点であることに異論はないだろう。
1戦争を速やかに終わらせる
2ロシアの勝利を阻止し、戦争犯罪を追及する
3核戦争を回避する
問題は、この３点を同時に達成するのは難しいことである。1と2を達成しようとすれば、3の達成が危うくなるし、2と3を達成するには、1の達成は放棄せざるをえない。この戦争は出口が塞がれているのである。こういう残酷な戦争を仕組んだプーチンにたいして、「侵略戦争を止めよ」と迫り続けることが、迂遠に見えても私たちがやれること／やるべきことだろう。
注
http://www7b.biglobe.ne.jp/~shiokawa/notes2013-/Ukraina2022.pdf
雑 記 帳
わが家の前の公園では一年じゅう夕方に小学生が遊んでいる。とりわけこの2年ほどは面倒見のよい女の子がいて、その子を中心に小さな子もいっしょに10人ほどで遊んでいた。その子が中学生になって公園に来なくなり、どうなるかと観察していたら、月末になって新しい女の子がリーダーになって以前と同じように遊ぶようになった。男の子は以前もいまも影が薄い。
その公園とわが家のあいだの道路でこの3年間学校がある日はほぼ毎日、下校途中の女子中学生3人組が自転車を停めて長いおしゃべりをしていた。彼女たちは卒業して姿を見せなくなったが、代わりに新3人組が現れた。
下旬のある朝、家庭菜園から帰ってきた連れ合いが道路でネコが死んでいたという。いっしょに回収に行ったら、ネコではなくてハクビシンだった。横たわっている後ろ姿はネコそっくりで、私も近づいて顔を見るまではネコと思っていた。大きな外傷はなかったが、たぶん車にはねられたのだろう。アライグマと同じく、ハクビシンは農作物を食い荒らすだけでなく、在来の小動物を襲って生態系を侵害する害獣とされているが、死んでいるのを見るとかわいそうになる。家庭菜園の隅に葬った。
万場緑地のネコ 第２９話 週に1回餌やりをしている仲間が2週間連続で公園に接した農業用ハウスにお腹の大きいネコがいるのを見かけた。他の仲間よりも遅めの時間帯に回っているので、出会ったのだろう。連絡を受けて保護のための捕獲の態勢に入ったが、それ以降は姿を見せない。ネコの素性も、そのネコとお腹の子どもがどうなったのかも分からない。
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