mixiユーザー(id:26363018)

2022年04月02日16:38

223 view

Beethoven Trio 28CM-567 レビュー

以下は「Beethoven Trio 28CM-567」についてのCDレビューである。
このレビューはHMVサイトへの掲載を拒否されたため、勿体ないのでここに載せるものである。

.:♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#:・'゚.:*♪:・'.:♪*:・'゚♭.:*・♪.:♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#:・'゚.:*

フォト
ウィーンゆかりの3人の作曲家の若き日の作品を、技術的な洗練度の極めて高いピアノ・トリオの演奏で楽しめるCDだ。
コルンゴルトのピアノ三重奏曲ニ長調op.1、シェーンベルクの浄められた夜op.4のストイアーマン編曲(CDの表記ママ)によるピアノ・トリオ版、マーラーのピアノ四重奏曲イ短調(1976)の3曲が収録されている。
演奏しているのはウィーン・ベートーヴェン・トリオだ。マルクス・ヴォルフ(ヴァイオリン)、イヴ・サヴァリ(チェロ)、クリスティアーネ・カライェーヴァ(ピアノ)の3人で、マーラーではディートリヒ・クラマー(ヴィオラ)も加わっている。

CDを一聴して、技術的な精度、洗練度が極めて高いトリオであることが分かった。しかし、スッキリと理解できないモヤモヤがあって、レビューを書くのに苦労した。

まず、コルンゴルトのピアノ三重奏曲ニ長調op.1だが、作曲者12歳の出世作であり、R.シュトラウス的な和声を駆使した恐ろしく早熟な作品である。問題は演奏の方で、大変上手いということはすぐに分かったが、第一楽章はどういう音楽なのか、何度聴いてもよく分からない。少年なりに主題労作して、ソナタ形式らしき構成を作り上げているようだが、おそらく演奏が良くないせいで、R.シュトラウスの猿真似で支離滅裂な曲を書いたように聞こえる。第二、第三楽章も、演奏の細部は上手いのに、音楽そのものが有機的に繋がっていく感興に乏しいという印象を受ける。第四楽章は他の楽章より楽しめたが、それでも(そこはもっとユーモラスに弾くべき部分では?)と思う箇所がある。

次に、シェーンベルクの浄められた夜op.4だ。これも一聴して、稀に見る技術的に洗練された演奏であることが分かる。しかし、やはりモヤモヤしたので、他の演奏との聴き比べを余儀なくされた。ストイアーマン編曲による「浄められた夜」は、16種類近く録音されているが、私はそのうち4種を持っていたので聴いてみた。

最初はRavinia Trio盤(CDX29107)(1992)で、以前にCDレビューも書いたことがある。次がTrio Con Brio盤(220518-205)(1996)。3つ目がRissin,Ostertag,Speidel盤(BM-CD 31.9127)(1999)。4つ目がBeethoven Trio盤(28CM-567)(1999)つまり当盤である。
フォト
Ravinia Trio盤は、隅々までファンタジーがあり、心地よく作品世界に浸らせてくれる演奏だ。ロマンティックだが、こってりし過ぎず、瑞々しく若々しい情感がある。
フォト
Trio Con Brio盤は、若さの勢いを感じる演奏で、Ravinia Trioのような優しさやニュアンスには乏しい面もあるが、奏者たちが自信たっぷりに弾いている感じが魅力なのかもしれない。
フォト
Rissin,Ostertag,Speidel盤は、CDのデザインは購買意欲をそそらないものだが、表現力豊かでロマンティックの王道を行く演奏だ。もっとも「浄められた夜」らしい演奏かもしれないが、伝統に惰性で寄りかかっているわけではなく、想像力豊かに練り上げられた見事な演奏だ。同曲の、全ての版を含む多くの演奏の中でも特に優れたものだろう。トリオ版の中ではRavinia Trioの瑞々しさと、Rissin,Ostertag,Speidelの成熟した大人の表現と、甲乙つけ難い。

そこで改めてBeethoven Trio盤を聴くと、技術の高さはTrio Con Brioの自信たっぷりな3人組より余程上と思うが、Ravinia TrioやRissin,Ostertag,Speidelのように多くを与えてくれず、こちらから求めていっても技術的な上手さ以外に感じられるものがない演奏だと言わざるを得ない。それがモヤモヤの原因であった。
類は友を呼ぶで、Beethoven Trioは3人とも技術は高いが感情には乏しいようだ。中でも、腕の立つピアニスト、カライェーヴァの想像力の貧しさはSpeidelの想像力の豊かさと好対照だ。

さて、3曲目はマーラーのピアノ四重奏曲イ短調だが、このCDの中では一番優れた演奏と思う。綿々と繋がる豊かな表情、構成感にも優れ、曲の魅力をよく伝えてくれるいい演奏だ。前の2曲よりずっと感情豊かな演奏となっている。
ところで、マルクス・ヴォルフは長年、草津国際音楽アカデミーの講師を務めている。草津繋がりで、ブルーノ・カニーノとサシコ・ガブリロフとセルジュ・コローとワルター・ノータスが同曲を弾いた、第14回草津国際音楽アカデミー&フェスティヴァルの1993年のライブ録音CD(CDT-1021)を持っていたので聞き比べてみた。
フォト
アンサンブルの精度は流石にBeethoven Trioが上と感じたが、溢れ出る感情の豊かさや音楽のスケールの大きさではカニーノやガブリロフの方が上だったようだ。

評価は☆3つとしたが、こんなに上手い演奏が☆3つとは、お叱りを受けるかもしれないが、あくまで主観的なものなのでご勘弁願いたい。
5 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年04月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930