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2022年03月07日23:37

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誰にも読まれなくなっても/追悼・西村京太郎さん

■西村京太郎さん死去=91歳、トラベルミステリー作家
(時事通信社 - 03月06日 13:31)
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■高橋英樹「十津川警部は分身のような存在」西村京太郎さん悼む
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■十津川警部演じた船越英一郎「私の糧であり宝物」西村京太郎さんにかけられた言葉思い出し追悼
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■山村紅葉「サスペンスの裏女王 先生のおかげ」西村京太郎さん追悼 母で作家山村美紗さんと親交
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 あるミステリ作家さんが、Twitterで、西村京太郎の初期作品が好きだった旨を呟いていた。近年は全く読まなくなってしまったことも。
 おそらく、ミステリファン、ミステリオタクの大半がそうだろう。初期作品は熱心に追いかけて読んでいたが、ある時期から読むのをピタッと止めてしまう。私も同様で、デビュー作の『天使の傷跡』から『D機関情報』、『消えたタンカー』『消えた巨人軍』、『名探偵』シリーズあたりを読んでいた頃は、大ファンだったと言ってもいいくらい、そのトリッキーな作風にハマっていたのだ。
 なのに、西村氏が十津川警部シリーズしか書かなくなってからはは、関心が一気に失せていった。理由は簡単である。内容が全くと言っていいほど、つまらなくなってしまったからだ。

 西村氏の作品群を紹介するのに、よく「トラベルミステリーの開拓者」という表現がなされる。生粋のミステリファンにはこの「評価」がまず許せない。元々、そんなジャンルのミステリーは存在していないからだ。あったのは「鉄道ミステリ」。松本清張『点と線』や、鮎川哲也『ペトロフ事件』『黒いトランク』他の諸作、要するに時刻表を利用したアリバイトリックを駆使した本格ミステリである。
 西村氏の鉄道ミステリも、初期は先達に倣った本格的なものだった。それが濫作に次ぐ濫作で、段々とトリックがいい加減なものになっていった。最終的には、単に刑事が列車に乗って遠征するだけの話になっていく。これではただの観光小説である。ミステリファンが離れていくのも当たり前だろう。
 だから今でも西村京太郎の本を読んでいるという人は、西村京太郎の本しか読んだことがないような固定ファンであって、ミステリファンとの間には超えることを許されないジェリコの壁が立ち塞がっているのである。

 まあ、トリックがいい加減ってのは、西村氏の初期作品から結構目立っていて批判されていたことで、同じく推理作家の佐野洋は西村京太郎批判の急先鋒だった。西村氏が同業作家からも嫌われていたのは、山村美紗との不倫という倫理的な嫌悪もあったとは思う。しかし、いくらトリックの穴を指摘しても、何の反応もせずに似たような愚作を連発する西村氏に、佐野氏は相当いらだっていたようだ。
 佐野氏が日本推理作家協会理事長を務めていた間、西村氏の作品が何度協会賞候補になっても、全て受賞を逃している。「俺の目の黒いうちは西村に協会賞はやらん」と嘯いていたと言うから、憤りは相当なものだ。西村氏が『終着駅殺人事件』で念願の推理作家協会賞を受賞したのは、佐野氏が理事長を辞した後だった。
 受賞こそしたものの、『終着駅殺人事件』は、西村氏の作品群の中では決してベストとは言い難い出来映えの平凡な作品である。当時、ミステリファンはみんな、これは功労賞だよな、と言っていた。実際、このあたりで西村氏の小説を読まなくなったという人は少なくないと思う。

 都筑道夫は『黄色い部屋はいかに改装されたか』の中で、西村氏の『名探偵』シリーズの「ありよう」について、痛烈に批判している。名探偵明智小五郎、エラリー・クイーン、エルキュール・ポアロ、ジュール・メグレ警視の4人が協力して事件解決に当たるパロディシリーズだ。都筑道夫は、パロディなのに既成キャラクターをそのままの名前で登場させることに疑義を呈した。こういう場合には名前を「もじる」のが礼儀ではないのかと。
 一読者としては、西村氏が、どうも各名探偵の過去作をろくに読んでいないらしいのが気になった。江戸川乱歩は比較的読んでいるようで、明智は折に触れて過去の事件をあれこれと回想するのだが、他の探偵たちは数作しか事件のことを思い出さないのである。メグレ警部などは『男の首』事件のことしか語らないので、西村氏、シムノンはこの一作しか読んでないってことがバレてしまうのである。
 特にファンでもない作家の作品をパクるなよ、結局、執筆動機は「売らんかな」だなということがミエミエで、これではとてもファンを続けられるものではないだろう。シリーズ最終作『名探偵に乾杯』などは、クリスティーファンには噴飯ものの大駄作。作家として見限られても当然だと思う。

 亡くなられたばかりの方をこんなふうにディスるのはそっちの方が非礼、と思われる方もあると思う。でもね、他の追悼してるコメントを見てもね、西村氏の小説をある程度読んでるって感じがしないものばかりなんだよね。作品のタイトルが全然出てこないし、正直にテレビでしか見たことないって呟いてる人もいる。
 いつも思うことだけれど、「よく知らないくせに何か呟かなきゃ気が済まない病」の人たちって何なんだろうね? 思い入れとか全然ないわけじゃん? だから西村氏がどういう立ち位置の人だったかってことも全く分かっていないんだよね。知ったかぶりをしたいだけなら黙ってろと言いたい。
 西村氏はずっと孤独だったと思う。普通に追悼コメントを出しているのがドラマ出演者ばかりで、同業者は(みんな後輩になってしまっているとは言え)遠慮がちに「昔は好きだった」としか呟いていない。本当に身近にいたのは山村美紗だけで、他の作家からは遠巻きにされていたのだろう。
 日本推理作家協会創立50周年記念で平成九年に催された推理作家総出演の文士劇『ぼくらの愛した二十面相』に、なぜか西村氏だけが出演していない。単にスケジュールの都合だっただけかもしれないが、西村氏の不在は何か微妙な空気を舞台にもたらしていたように思う。脚本を書いた辻真先は、先日88歳で新作を上梓して希代の記録とニュースになったが、西村氏も毎年新作を執筆していて、今年も91歳になって新作を発表したばかりだったのである。なのにニュースで取り上げられることもなかった。
 自身の作品を本当に喜んでくれる人は、もう20年以上前に天に召されていた。でもこれからはその人と再び一緒になれる。西村氏の幸せはこれから来るのかもしれない。

 合掌。
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