私の名前は川口民雄。子どものころから、周囲から浮いていた。学校の成績は低空飛行で、お情けで卒業させてもらった。小学校低学年のころからごく普通に生きられないと堪忍した。なんでみんなと同じことができないのだろうか。学校時代の運動会、学芸会、展示会、修学旅行で、周囲のクラスメートと同じ行動をとるのに、非常に神経を使った。仕事をいくつか渡り歩き、発達障害を支援するNPOで働いている。大人になって、検査を受け、検査の結果で、読み書きはかなり厳しいことがわかった。発達障害当事者は別に努力して、普通に見せようとしても、無理である。例え給与は低くとも、暮らしていければ、文句はない。この仕事は自分に向いているようだ。発達障害トラブルシューティングが仕事になった。
川口が町を歩いている。そろそろ町は秋になり、道行く人々は厚手のコートを着ている。
冷たい風が吹く。
川口
「おお、寒い。今年も暮れになるのかな。仕事はあるけど、生活に余裕がないな。老後のことなんか、考えている余裕もないか」
ラーメン屋の前を通ると、人々が並んでいる。みんなマスクをしているので、話しにくい。
男1(サラリーマン風)
「ああ、緊急事態宣言が終わっても、前に戻るまで、しばらくかかるかもね。テレワークが進んで、会社に来るの久しぶりなんだ」
男2(サラリーマン風)
「あんたと会うのは一カ月ぶりだよな。初めは通勤しなくても、いいから、テレワークは賛成したんだけど。続くと、私生活と会社がゴッチャになって、疲れてきちゃった。こうやって、毎日、会社へ来ていたんで、生活にメルハリがあったんだ」
男1(サラリーマン風)
「それは言えるな。転職するのは履歴書を書くのが面倒だから、やりたくないし。しばらく、この会社にぶら下がって居ようかな」
男2(サラリーマン風)
「なめていると、バッサリ、解雇になるかもしれないよ。油断せずにちゃんと働けよ」
男1(サラリーマン風)
「そうだね」
列が進み、二人の順番が回りそうである。
川口
「ああ、サラリーマンもたいへんだな。発達障害がなくても、苦労しているもの」
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