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2021年08月27日17:49

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石川幹人が「進化心理学の第一人者」になってる件 前編



さてさて今回取り上げるのはコレ。

『生物学的に、しょうがない!』という本。
…うわぁ、タイトルからしてやらかしてるぅ!

「どうである」から「どうであるべき」を導出しちゃうのは『ヒュームの法則』に抵触する、所謂『自然主義的誤謬』です。

「生物学的に◯◯であるから〇〇をしても許される」と言うのであれば、例えば「レイプは繁殖戦略の1つであり、男性にはそうするような生物学的傾向がある」のならば、レイプしても許されることになっちゃうよ?


著者は石川幹人で、表紙に刷り込まれた肩書は『進化心理学者 明治大学情報コミュニケーション学部教授』。

…え?

石川幹人が進化心理学者…?
この人、超心理学という、超能力研究とかする分野の人でしょ…?


NEWSCAST
『生物学的に、しょうがない!』著者の石川幹人先生「チコちゃんに叱られる!」出演
https://newscast.jp/news/5974741


↑このサイトによれば、

―――――――――――――――――
明治大学教授で、進化心理学の第一人者である石川幹人氏は『生物学的に、しょうがない!』(サンマーク出版)を上梓したばかり。
―――――――――――――――――

…ええっ…?

石川幹人が進化心理学の第一人者?

…いつから?

発行は船井総研などのトンデモ本でおなじみ、僕らのサンマーク出版です。
表紙には「無罪」と書かれた紙を掲げた人物が描かれています。

フォト


目次を見てみると…
例えば、

・人前で話すの苦手なの、しょうがない!
・不安になっちゃうの、しょうがない
・イライラしちゃうの、しょうがない!
・片付けられない、捨てられないの、しょうがない1
・雨の日に出かけたくないの、しょうがない!
・SNSで疲れてしまうの、しょうがない!
・占いに頼ってしまうの、しょうがない!
・ブランド品が好きなの、しょうがない!

…こんな感じの「しょうがない!」が51項目にわたり並んでいます。


まず「はじめに」の部分を要約してみます。

まぁ前書きの類は、例えばただの海外ジョーク集やヘイト本であっても「相互理解のために」とか書いてあったりするので鵜呑みにできないこともあるのですが…

『』に入った部分は原文ママです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はじめに

『「生物学的にしょうがない」「人間だって動物なんだから」

こんな言い方は嫌われてきました。でも私は、「見直すべき時が来た」と考えています。なぜなら、こう考えることで多くの悩みが解消できるからです。』

人生には「頑張ればなんとかなること」と「がんばってもしょうがないこと」があります。
「それをやるくらいなら死んだほうがマシ!」と思うのはしょうがないのです!

『「それは嫌だ!」と思うことが生物として遺伝子に組み込まれてしまっているからです。』

それは右肘を右手で書こうとしてイライラしているのと一緒です。

『あなたが不恰好でも、性格が悪くても、欲求に歯止めがかからなくても、そして空を自由に飛べなくとも、あなたのせいではありません。なぜなら、遺伝子の指令が強力だからです!』

『あなたには「あなたの遺伝子」が、他の人には「その人の遺伝子」があります。

だから、他人にできることであなたにできないことがあるのは、当然です。同様に、あなたにはできるけど他人にはできないことも、必ずあるはずです。

『(ちなみに右肘を右足でかけるのは私の自慢です。飼い猫の真似をしながら練習しました)』


『確かに「努力を重ねなさい」というのは、有効な助言です。
ただ、多くのみなさんがうすうす気づいているように、人間の努力の総量の方にも生物学的な限界があります。努力を続けている人は、その才能や個性が興味ある対象とぴったり合致したので、限られた努力をそれに向け続けているのです。』


『幸福な人生を送るために、まずやるべきこと。

それは、ひとりの人間として、どれをがんばるべきで、どれを諦めるべきかを見極めることだと、私は考えます。』

『そこで本書では、生物学的にがんばってもしょうがない、代表的な51項目をご紹介していきます。

諦めるために使ってもよし! 逆に、あなたにとってその項目が難なくできることなら、それは間違いなくあなたの武器であり、個性になりえます。

「がんばってもしょうがないこと」と「がんばればどうにかなること」の分岐点で迷わないよう、本書はあなたの人生の地図となるはずです!』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『ちなみに右肘を右足でかけるのは私の自慢です。飼い猫の真似をしながら練習しました』

って…「しょうがない!」と諦めずに練習してんじゃねーか!
しかも遺伝子が全く異なる猫の真似してんじゃねーか!

そして全体的には要するに「苦手なことを無理矢理するよりも、得意なことを伸ばしましょう」という、比較的 当たり前なことを言っているだけでは…
まぁ「生きづらい世の中を生きるための、心を楽にするメソッド」としてはわからなくもないですが。

各項目は読んでみると面白いし、勉強になることも多いです。
私は問題が解決しなくても理由が分かれば意外に納得できるタイプですしね…。
でも最後は大抵「しょうがない!」という、諦め&現状肯定…
それならいっそのこと、「全て決定論により他に選択肢がないのだから仕方がない、とあきらめなさい」でも同じでは…?
あとその割に「もう少し○○してみては」的な、ちっともしょうがなくないアドバイスがしばしば入るのも謎。


では具体的に問題点を指摘していきましょう。

【反復説】
P.49
―――――――――――――――
胎児の初期に魚のような体形のときがあると聞いたことがある方もいるでしょう。胎児は、生物進化の過程をたどって成長します。だから、新しい脳はもっとも後になって発達するのです。
―――――――――――――――

P.242
―――――――――――――――
前述したように、胎児の時期には進化の歴史に従って身体が形成されます。脳でいえば、古い脳から始まってだんだんと新しい脳が作られるのです。
―――――――――――――――

…それ、「個体発生は系統発生を繰り返す」という反復説やん!
そんなん今ドキ信じてる奴なかなかおらんわ…

反復説の説明と問題点については下記を参照。


2021年2月17日の日記
【『ヒューマニエンス』がいろいろやらかしてる件】
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1978440578&owner_id=2473503


【群選択】

P.95
―――――――――――――――
そうした環境では、天気に左右されないで元気よく仕事に出かける人々の集団と、雨の日は静かにしている人々の集団で、どちらが生き残りやすいでしょうか。
当然、後者ですよね。生き残った私たちは、「雨降りでふさぎ込む心理」を獲得した人々の末裔なのです。
―――――――――――――――

石川幹人はこれと似た説明で『チコちゃんに叱られる』にも出演してましたな。
曇りの日に憂鬱になる理由について解説してたのですが、その時は「雨の日は休息モードの人」「天気に関係なく活発な人」「晴れの日に休息モードの人」の生存率の差から、曇りだと優津になる形質が進化した、と説明していました。

しかし本書では…「○○な個体と△△な個体の生存率の差」ではなく、「○○な集団と△△な集団の生存率の差」について語っとる〜!?
ソレ「群選択」や…

しかも普通、群選択は利他行動について語るものでしょ…。
「命がけで集団の利益のために尽くす個体」の群は、「自分ファーストな個体の群」より結束力がある分、強いですよね。
したがって、「利他主義者の群」は「利己主義者の群」を打ち破り、生き残る筈です。
これが集団間で選択が起きるという「群選択」です。
ところが、「利他主義者の群」に利己主義者が(移入や突然変異によって)入り込むと、自分は犠牲を払わずに強い群の利益だけ享受する利己主義者の方が有利なため、「利他主義者の群」は遠からず利己主義者に置き換わり、「利己主義者の群」に変質してしまいます。
集団間では利他主義が強いのですが、個体間では利己主義が強いのです。
そのため、実際には群選択は殆ど成立し得ません。

近年、この素朴な群選択とは別口で、「マルチレベル選択」という新たな形の群選択も提唱されてはいます。
が、このへんは主に科学哲学の領域で、生物学者はあまり興味を持っていない様です。
そもそもマルチレベル選択は典型的には「血縁選択を別の表現で記述したもの」なので、掘っても何も出てこないし。
しかもコレを急に持ち出す学者が結局この理論をちゃんと理解してなくて、結局は素朴な群選択を復活させたいだけっぽかったりしがち…。

ヒトの進化にはこのマルチレベル選択が当て嵌まるのでは、という話もありますが、そういうことをきちんと理解してる人はただでさえややこしいこの分野で、「素朴な群選択の話をしている」という誤解を招く表現はしないものです。
結局、特に説明もなく群選択っぽい話をしちゃう人というのは大抵の場合、何も考えずに素朴な群選択に陥ってるだけ…
指摘されて後から「アレは実はマルチレベル選択の話で…」などと事後的に救出するのはかなり無理筋なので念のため。

それでも利他行動の文脈で集団レベルの選択について語るのならまだ理解できますが…
「雨降りでふさぎ込む」とかにわざわざ集団を持ち出す意味、あります…?

この間違いは単なるうっかりミスではなく、あちこちで何度もくりかえされます。

P.108
―――――――――――――――
しかし、そういった社会制度が整っていない頃の集団では、仲間による相互監視が違反の大きな抑止力になっていました。仲間の目を気にする人が多い集団の方が、行動の統制が取れて強い集団となり、生き残りやすかったのです。
―――――――――――――――

はい、コレも同じ。

P.155
―――――――――――――――
人間が生殖年齢を過ぎても長生きできるようになったのは、狩猟採集時代に次の世代を保護し学習させる役割が生じたため。長生き遺伝子が(特に母親に)ある集団の方が選択的に生き延びた結果である(だから女性の方が長生き)とされています(第6章)。
―――――――――――――――

コレも。

P.239
―――――――――――――――
狩猟採集時代の協力集団では、子供をもうけられない高齢者の貴重な役割が生まれたのです。狩猟採集に使う道具を作成するノウハウや、協力集団をよりよく運営できる知恵を年長者が提供するようになりました。これにより、生殖年齢を過ぎた高齢者が生き残る「集団としての意義」が出てきたのです。
―――――――――――――――

コレも。

P.240
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こうして人類は、子孫を残すのに加えて、知識や文化を集団として継承していくことにも意義を見出したのです。しかし、考えてみるとそれももとをただすと、集団として子孫をよりよく残していく手段であったわけです。
―――――――――――――――

コレも。

P.146
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バラマキ戦略のオスは、多少死んでしまっても次の世代の種づけに問題がないので、オス同士が戦って「強いものが生き残る」のが哺乳類に広く見られる傾向です。
―――――――――――――――

これは集団から見た利益について語っちゃう「種の利益」論ですね。
やはり「個体の利益」よりも「種(集団)の利益」を重視する点で、群選択と同じです。こんなん、竹内久美子ですら明快に否定してますけど?

P.161
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向こう見ずな人も男性に多いですよね。冒険して、多少死んでしまっても、精子の数は十分にあるので成功率の低いことにイチかバチかで挑戦するように男性は進化しています。
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これは一見すると「精子の数」という、オスの個体から見た話をしている様に見えますが、文脈から言えば「種(集団)にとっての精子の数」について論じている様に思えます。
やはり「種の利益」では?

「反復説」「群選択」「種の利益」…「進化論よくある誤解」的トラップに全部引っかかってはりますけど?
これが『進化心理学の第一人者』が書いた本なの?


P.181
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メスのシカから見ても、オスのディスプレー行動には大きな利点があります。重く大きな角は維持するのが大変なので、(※1)無理をしてそれを実現できるオスは強く健康であることを示しています。結果的に、(※2)立派な角を作る遺伝子が生き残っていくのです。

※1 生存に直接必要と思えない装飾が進化する原理で「ハンディキャップ理論」と呼ばれます

※2 諸事情の限界までとめどもなく立派に進化することが知られ「ランナウェイ現象」と呼ばれます
―――――――――――――――

…ハンディキャップ理論とランナウェイ説を同時に適用するのはアカンやろ…


Wikipedea:『ハンディキャップ理論』の項より

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この説は本来性選択説のランナウェイ説に対する批判から生まれた。
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Wikipedea:『性淘汰』の項より

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配偶者選択にどのようなメカニズムが働いているかを示す理論モデルは大きく二種類に分けられる。一つはランナウェイ説のように、メスの選好の基準が生存上の有利さとは無関係な場合、そしてもう一つはハンディキャップ説や指標説のように生存上の有利さに繋がる形質を選好の基準にしている場合である。後者のような生存上の有利さに繋がる選好をしている場合を総称して優良遺伝子説と呼ぶこともある。
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※字数制限により2分割。後編へ続く。


2021年8月27日の日記
【石川幹人が「進化心理学の第一人者」になってる件 後編】
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