こんな素晴らしい本を手に入れました。
『日本の幻獣図譜 大江戸不思議生物出現録』(湯本豪一 東京美術 2016年)
幻獣の図やみんな大好きミイラ画像などが満載です。
解説も面白く、特に私の大好きな予言獣が異常に充実。
空前のアマビエブーム到来前に出た本なのに、その辺りの話もバッチリ。
著者の湯本豪一は妖怪研究家。
Wikipediaによれば、
『川崎市市民ミュージアム学芸員、学芸室長を経て、妖怪研究、収集を行うかたわら、大学で妖怪などについて教える。2019年4月、広島県三次市に「湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)」がオープンした』
だそうです。『湯本豪一記念日本妖怪博物館』は愛称が『三次もののけミュージアム』で、湯本豪一のコレクションを管理している模様。
最近 放送されたNHK『ダークサイドミステリー』「超常実録!本当にあった!?日本史怪事件ファイル」の回では出ずっぱりで語ってました。
本書の中に非常に可愛いものがありました。
P.14〜17に『鶏鬼の頭のミイラ』『狐鬼の頭骸骨』『熊鬼の頭骸骨』『猫鬼の頭蓋骨』なるものが載っているのですが…
P.14にはこうあります。
――――――――――――――――
福島県いわき市好間町の一部地域には、古くから鶏鬼、猫鬼(16から17頁)、狐鬼、熊鬼の4種の角を持つ幻獣の言い伝えがあり、その頭蓋骨やミイラなども残されている。
数十年前には猫鬼伝説などを調べる猫鬼研究会というグループも地元にあったが(90頁参照)、現在ではこうした“ 鬼„伝説はほとんど忘れ去られている。
――――――――――――――――
さらにP.16『猫鬼の頭蓋骨』の解説はこう。
――――――――――――――――
同じくいわき市好間町の一部に伝わる幻獣で、言い伝えによると、猫鬼界にはヒエラルキーがあり、上から天鬼、空鬼、幽鬼、野鬼の4階層に分類できる。野鬼には角が1本あるほかは他の猫と変わらず、特別な能力は持っていない。その頭領は「アメノカツブシノミコト」を代々襲名する。幽鬼は2本の角を有し、人語を解して化けることができ、頭領は「アメノマタタビノミコト」を代々襲名する。空鬼は3本の角を持ち、人語を含めたあらゆる動植物語を解し、化けるに加えて地水火風を自由に操ることができる。頭領は「アメノシャミセンノミコト」を代々世襲する。天鬼は神のような存在で、通常は姿を現すことなく、人に害を加えず、角がないので普通の猫と区別ができない。頭領は「ネコテラスオオミカミ」を代々襲名する。野鬼、幽鬼、空鬼の身分は死ぬまで変わらないが、修行を積むとどの階層からも天鬼になることが可能で、天鬼に変ずると自然に角が落ちる。猫鬼たちは、天鬼になるために日夜修行に励んでいる。
――――――――――――――――
…名前カワ(・∀・)イイ!!
猫鬼の最高位『天鬼』は神の如き存在でありながら見た目は完全に普通のネコ!
(η* '∀')ηカワイイ!!
さらにP.14〜19には『猫鬼の詫び証文』なるものが。
幻獣さんからの「さっせんした〜、もう悪いことはしません」的な書状は『河童の詫び証文』とか『天狗の詫び証文』等いろいろあり、中には人間の文字とは異なる謎の文字(調べると外国の文字だったり)で書かれたものとかあるのですが、この『猫鬼の詫び証文』はどんなものかというと…
Σ(○´д`○)メチャカワァー
…ただ、ちょっといろいろ気になるのですよね…
この頭蓋骨、やけに綺麗。そこに上手に細工された角が唐突に生えてます。
22体と大量にあるのも珍しいですよね。
詫び証文も発色が良すぎるし、汚れや経年劣化が殆ど見られません。
『鶏鬼の頭のミイラ』
こちらも14体と大量。
やはり唐突な角が。
『狐鬼の頭骸骨』
3体。
こちらもやけに綺麗な頭骨に唐突な角。
イヌ科の頭骨はお互いによく似ているので、コレがキツネのものかどうかは私には判りませんが…。
『熊鬼の頭骸骨』
4体、やはり綺麗な頭骨に唐突な角。
クマの頭骨ではない様に思えますが…。
これらは猫鬼との力関係について言及されているので、猫鬼研究会ゆかりのものでしょう。
P.90には『大河童博ポスター』なるものが載っており、主催に『猫鬼研究会』の名が…
後援は平市教育委員会ですが、平市は昭和44年に合併によりいわき市になったため、それ以前のものであろう、とのこと。
うん、話がリアルですね。
ですがこのポスター、またしても妙に綺麗…印刷もシャープでフォントの滲みひとつありません。
そして開催期間も場所も空欄になっています…が、その割に場所は何故か公民館であることだけは決まっていた様子。
P.91にはその大河童博に出品された『河童の腕』が。
…やけに綺麗ですね。
大河童博開催にあたって見やすいように付けられた、という台はデコパージュ用のものに見えます。
今なら東急ハンズや手芸店で簡単に入手できますが、昭和44年以前にはどうですかね…?
猫鬼研究会の名があるのはこれだけです。
しかし、P.87には『大妖怪展チラシ』なるものが載っており、そこに『猫人魚』が出品されていることになっています。
猫系の幻獣、そしてやはりこのチラシも印刷がシャープで開催年は不明…。
やけに「猫鬼研究会」系資料と似てますね。
その『大妖怪展』に出品されていたという幻獣標本も3点、掲載されています。
P.65
『人魚の骸骨』
サルの骨に唐突に小さすぎる張りぼての胴体をつないだ一品。
やはり綺麗です。
頭に「鬼と魚を組み合わせた漢字が書かれた紙が貼られてますが…
なんかオカルト板とかで流通する都市伝説っぽいというか、中二病的な噓松感がすごいですね…
P.86
『三頭竜のミイラ』
・・・やはり標本としてはやけに綺麗。
ミイラっていうか剥製ですね。
あと、つなぎが乱暴〜!
P.115
『雷獣頭部のミイラ』
普通にイヌやん…
こちらも綺麗。
そしてこれらの資料の年代表記は…
●『鶏鬼の頭のミイラ』『狐鬼の頭骸骨』『熊鬼の頭骸骨』『猫鬼の頭蓋骨』 江戸時代以降
●『猫鬼の詫び証文』 昭和時代(『伝説をもとに昭和時代に製作したと思われる』とのこと)
●『大妖怪展チラシ』 昭和時代
●『人魚の骸骨』 江戸時代以降
●『三頭竜のミイラ』 昭和時代
●『雷獣頭部のミイラ』 江戸時代以降
いずれも時代の表記があまり古くなく、かつ曖昧です。
さらに本書には、これらとテイストの似た資料が数多く掲載されています。
それらの特徴や傾向をまとめると…
【全般的な傾向】
●やけに綺麗で古びていない
●時代の表記は昭和か江戸であまり古くなく、かつ「江戸時代以降」などと曖昧
●由来が不明か、あってもぼんやりしていて確認が取りにくい
●神道っぽい名前が多く見られる
●資料を所蔵しているのは本書の著者・湯本豪一のコレクションを管理する『湯本豪一記念日本妖怪博物館』(愛称『三次もののけミュージアム』)で、他の研究者の資料には殆ど登場しない(今回ご紹介するのは全てここのコレクション)
【標本系】
●動物、それも外産の珍獣の遺骸を利用したものが多い
●似たものが何点もまとまっていて、角の形やポーズ等でバリエーションが付けてある
●加工が少ない(制作に手間のかかる全身のミイラ等ではなく、「唐突に角が生えただけの頭蓋骨」や「剥製の一部」など、贋造が容易)
【書類系】
●印刷がシャープで滲みが見られない
●イベントの開催年が不明で確認が取りにくい
…といったところでしょうか。
やけに都合が良いですね…。
具体的にはどんなものがあるかというと…
P.20〜21
『五大魔王尊』 江戸時代以降
5体の綺麗め頭蓋骨(造形品)に唐突な角が生えており、角の形でバリエーションが付けられてます。
廃寺で祀られてた、というふわっとめのエピソードつき。
頭蓋骨の造形がリアルすぎて、近代のものにしか見えません。
一緒にあった狐の頭蓋骨製の燭台も載ってますが、骨も使いさしの蝋燭もやけに白くて、溢れる作りたて感…。
P.54〜55
『水虎のミイラ』 昭和時代
綺麗で4体のバリエーション付き。
『赤水虎』『青水虎』『白水虎』『黒水虎』(早口言葉か?)がありますが…言うほど色に違いありますかね…?
ていうか普通にスローロリスだろコレ。
由来も「見世物小屋興行師の家にあった」という、確認の取りようのないもの。
P.85
『海馬の頭蓋骨』 江戸時代以降
『フランス人船員から好事家が入手し代々伝えたもの。入手を喜び宴を催したとのエピソードも残っている』だそうです。
「海馬」という名ですが、馬の額に一本角…普通、ユニコーン扱いするよね?
角だけでも薬として高値で売れたユニコーンの頭蓋骨なんていくらになるのやら。
それをわざわざ船に丸ごと積んでた船員も凄いですね。
やはり綺麗な頭骨に唐突な角。
P.93
『富山湾の海主大怪物展チラシ』 明治時代以降
やはり開催年は不明でシャープな印刷。
P.98〜99
『烏天狗ミイラ』 江戸時代以降
3ポーズ6体のバリエーションあり。
『痛むたびに漆喰で補修が繰り返されて現状の姿となっている』とのことですが、何故か手足だけ綺麗。
「修験道行者の家に伝えられ、敷地内の祈祷所に祀られてた」というゆるふわエピソード付き。
P.101
『アマツオオキミキツネ』 江戸時代以降
ヒヒか何かの頭蓋骨やろコレ。
ロリスの毛皮といい、何故か外産の珍獣が簡単に紛れ込みますね。
いつも通り綺麗で、唐突な角付き…というか、角が無ければただのヒヒ。
そして神道っぽい名前…という三次らしい物件。
P.110〜111
『龍の頭蓋骨と尾』 江戸時代以降
シカか何かの頭骨ですよね…?
牙は細工でしょうが、シカにはちょいちょい長い牙の生えた種がいます。
この頭骨もよく見ると先端近くに牙の抜けた跡が見えますね。
キョンあたりかな。
尾はエイのもの。
ノコギリ状になった尾棘が付いています。
『鬼はフジツボが固着している』とありますが、コレはエイの鱗でしょ…
P.112
『雷龍のミイラと古文書』 江戸時代
やけに綺麗な21体ものミイラそれぞれに神道っぽい名前…
古文書が字も絵もヘタクソでなごみます。
…コレ、トッケイヤモリの干物でしょ。
よく見ると特徴的な色と模様が残ってます。
蛤蚧(ゴウカイ)という漢方薬ですね。
ぐぐるとほぼ同じ状態の画像がいくつも出てきます。
(この画像2点は拾い物)
…キリがないのでこれくらいにとどめますが、怪しい物件はまだまだあったり。
前回取り上げたアマビエのミイラは「ネタ」っぽいのですが、今回のはどうなんでしょうか。
オカルト関係の人にはありがちなことですが、どうも湯本豪一は人が好いというか、騙されやすいトコがある気がします。
本書のP.95では、「鬼のミイラの鑑定を帝国大学に依頼したが、作りものにしては精巧すぎて鑑定不能とされた」という明治44年の新聞記事を鵜呑みにし、『それほどに高度な技術で幻獣ミイラは作られていたのだ』としています。
所蔵者は神田の質屋なので、帝国大学というのは東京帝大としても、どこの研究室の誰に依頼したのか全くの不明…
ヨタ記事(当時は普通にありました)や所蔵者の駄法螺という可能性は考えないんですかね…?
さらにP.94〜96には『人の体を使ったおぞましい改造事件』なる小見出しの下、こうあります。
――――――――――――
しかしこうしたミイラだけでは飽きたらず人を人魚にしたり、半獣にしたりという聞くもおぞましい出来事も報じられている。昭和8年8月11日の「東奥日報」(10日夕刊)には、上海の秘密の人形製造所で泣きわめく女性の両脚を貼り付ける施術を行って人魚に変身させて売り払うという、人権など微塵もない悪行を目の当たりにした帰国者からの目撃談を掲載している。こんな信じられない実態もあったのだ。
――――――――――――
…いや、そんな実態は信じられないんで。
あとこの話、「アジアのどこかで女性が肉体を改造されて見世物に」という点で、有名な都市伝説「だるま女」の系譜に連なるのでは…?
本当にこういった怪奇に取り組み研究するなら、こんな与太話を鵜呑みにするのではなく、そういった視点が大事なのでは…。
湯本豪一はここで指摘した数々の問題点に、知ってか知らずか、言及しません。
見抜いてないのか…?
知らずにやってるなら研究者としての適性が疑われますし、知っててやってるなら大問題です。
ましてや、これらを所蔵する『三次もののけミュージアム』は三次市によって設置・管理・運営されている、公立の博物館ですよ?
誰がこれらの「疑惑の物件」を作り、持ち込んだのか調べる必要があるでしょう。
ちなみにネットではどんな扱いなのか、調べてみました。
本書の発行当時、一部では話題になった様です。
例えばこんなんとか。
【Togetter】
『猫鬼研究会』
突如、21世紀に再発見された
謎の組織 猫鬼研究会とは。
その真相に迫る人々のまとめ
https://togetter.com/li/1073398
【Twitter】
チラシ裏の三月(いずい)@sanga2paperさんのツイート
https://twitter.com/sanga2paper/status/823125091193999360
…ネタ扱いですね。
前回の日記でも触れましたが、妖怪・幻獣クラスタはよく訓練されてるので、虚偽を暴こうとするデバンキング系懐疑主義者の様には騒ぎ立てません。
まぁこういうのは…プロレスは「ガチか八百長かを超えたところ」に楽しみがある、みたいなものなのでしょう。
でも権威ある学問の場に「こーゆーの」が紛れ込むのはマズいでしょ…
これらのコレクションのうち、『猫鬼の頭蓋骨』と『人魚の骸骨』は、
●国立民族学博物館 特別展『驚異と怪異―想像界の生きものたち』(2019年)
●兵庫県立歴史博物館 特別展『驚異と怪異―モンスターたちは告げる』(2020年)
…で展示されています。
まぁ他の展示物もフェイクではある訳ですが、少なくとも由来や年代についてはちゃんとしてますよね?
…という訳で、湯本豪一はちょっとヤベー気がするのですが…
ガチ科学やデバンキング系懐疑主義ではなく、妖怪や幻獣に興味を持つ人というのは、どこか知性や判断基準がゆるめというか、スポイルされがちなのかもしれません。
まぁ私もついついUMA系にはロマンを感じて、他ジャンルのオカルトに比べるとちょっと批判よりラブが勝りがち…
スクリュー尾のガ―助とかロマンしかありません。
有名なアマビエの図と「件」(くだん)の剥製が姫路の特別展に来た時は、コロナ禍なのに駆けつけたしね!
生アマビエ図(本物)を直接目にした時は、無神論者の私が思わず手を合わせて拝んでしまいました。
なんという神々しいラブリーさ…ありがたやありがたや。
幻獣パワー、おそるべし!
(※画像は特記していない限り、本書の該当ページより引用)
ログインしてコメントを確認・投稿する