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2021年07月25日19:32

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124 詩・短編を書いてみた(第1964回)

「いつものカフェとショートケーキと…」
〔あらすじ〕☆
土曜日の昼過ぎ。
少し傾いた陽射しが
お洒落なカフェの窓から店内を照らしている。

私はここの常連で。
いつもコーヒーと
ショートケーキをセットで食べながら
顔見知りのマスターと話をして時間を潰す。
これが私のいつもの日常。

―――――――

私はいつもの時間に
カフェへやってきた。

マスターは『いつものね』と言って
マスターがコーヒーセットを持ってきた。

私は『ありがとうございます』とお礼を伝え
カメラの手入れを始めようと
視線を自分の鞄に移す。

その時
若い男性の声が聞こえてきた。

その方向を見ると
そこには見知らぬ顔が。

イケメンとは言えないけど
ある程度に整った容姿。
多分
人受けは良いと思う。

私は近くに来たマスターに
彼のことを尋ねた。
どうやら新しいアルバイトらしい。

名前は「サトウ」君。
近くの美術大学に通っていて
学費のために
アルバイトをしているのだとか。

(良い子なのね…)


自然と好感を持ってしまう私
すると
マスターが言う

『そういえば、彼。彼女はいないらしいですよ。アピールしてみては?』
『もう…。からかわないでよ。マスター。私もう30代なのよ?。若い子は若い子と付き合った方が良いの』
『そうですか…。恋愛に年齢なんて関係ないと思いますがね…』

マスターはカウンターに戻っていった。

(恋愛ね…。久しくしてないな…)

そういえば
最後に異性と付き合ったのは…。
確か…。
20代前半の頃に
マッチングアプリで適当に選んだ男だったけ…。
ただ
ソイツがいかにも
チャラ男という感じで。
すぐに身体を求めてきたから
テキトウな理由を言って別れた。

それから私は
『男なんて懲り懲り』と思って
仕事一筋に生きてきた。

(きっとこれからもそうなのだろう…)

しかし
私は彼を目で追っていた。

(いけない、いけない…)

私は意識を彼からはずす為に
ショートケーキにフォークを入れて
それを口に運ぶ。

適度な甘味とスポンジの柔らかさに
頬が落ちそうになる。

(やっぱり、ここのケーキは最高ね!)

私はケーキに舌鼓を打ちつつ
鞄からカメラを取り出し
手入れを始めた。

最近新しく買ったばかりだから
まだ手入れは必要ないと思うけど
買ったばかりだからこそ
愛でたくなってしまうのよね。

誰にも聞こえないくらい小さな鼻唄を唄いながら
手入れをしていると…。

『素敵なカメラですね』

その声に顔を上げる。
そこに居たのはサトウ君だった。

『カメラ、お好きなんですか?』
『あ、はい…』
『僕も好きなんですよ。最近、大学の授業で撮るようになって。でも、なかなか上手く撮れないのが悩みなんです』
『そうなんだ。一眼レフカメラとかで撮ってるの?』
『はい』
『へぇ〜。どんな写真を撮っているか見せてよ』
『あ、ちょっと待ってください。今、スマホに移したデータをお見せしますので』

彼はポケットからスマホを取り出し
写真を見せてくれた。

その写真はとても綺麗な風景写真で
さすが美大生という感じがする。
しかし
基本ばかりを押さえているだけのように感じて
これと言った特徴がない。

多分だけど…。

『いかがですか…?』
『綺麗には撮れていると思うよ』
『綺麗には、ですか…』

寂しそうに視線を下げるサトウ君。

『あ、ゴメン。傷つくようなこと言っちゃった?』
『あ…。いえ、皆さん、綺麗だと仰って頂けるんです。でも、それだけじゃダメな気がして…。どこがダメか教えてくれませんか?』

(そうか…。この子は真剣なんだ…)

私は素直に伝える事にした。

『私なんかの意見で良いなら…』
『是非、聞かせてください!』
『えっと…。じゃあ――』
『サトウ君。注文の品を運んでもらえるかな?』

サトウ君がマスターに呼ばれた。
彼は
私に頭を下げて仕事に戻っていった。

(一生懸命なんだろうな…)

その彼の姿を見て
つい昔の自分を思い出した。

止まりそうで止まらない独楽のように。
目標もなく生きていたあの頃の自分。

もしその自分が
もっと早く彼のような人と出会っていたら
何か変わっていたのかな?と。

私はその答えに気づかないように
自分のカメラに視線を移し
そして
そのカメラで彼の働く姿を一枚だけ写真に撮った。

その後は
残っていたケーキを食べて
時間を過ごし
頃合いを見て店を出たのだった。

それから私はお店に来ては
彼と何度もお話をして
親交を深めていき

そしてある日
私はいつものように席に座り
注文を取りに来た彼に
『いつものお願いします』と言い
彼は『ケーキセットですよね?』と言って
注文をマスターに伝えた時

ただの接客だとは分かっている。
でも
彼が「自分のことを覚えてくれていた」と思うと
心が少し弾んだ。

その時に気づいた。
「やっぱり私、彼のことが気になっているんだ」と…。
でも
それと同時に
彼との距離は嫌と言うほど感じている。
だから
この時間が朧気だとしても楽しんでいよう。

そう思うようにした。

それから彼とは
彼のシフトが合う時に
写真の話をしたり
日常の話をしたりして
私はつかの間の夢を楽しんでいった…。

そんなある日。
サトウ君が休みの日に。
彼が写真コンテストに応募したいという話を
マスターから聞かせてもらった。
しかも
ラベンダー畑を背景にして
私を被写体で撮りたいという。

私は恥ずかしさから
そのお願いを1度断った。
だけど
マスターに何度もお願いされ
私は仕方なくそのお願いを受け入れた。

後日
私はサトウ君が指定した
ラベンダー畑が咲く綺麗な公園に向かった。
公園の入り口には
先に到着していたサトウ君がいて
私は彼に挨拶をした。

『おはよう。待たせてゴメンね、サトウ君』
『いえ、僕も来た所なので。それと、今日は僕のワガママに付き合って頂きありがとうございます』

サトウ君は頭を下げる

『気にしないで。私も暇だったし。でも、私で良かったの?。他に似合う人いるんじゃないかな…』

そう言うと彼は強く否定し
『優しいアナタが写る風景だから意味がある』と言う。
私は照れながら『ありがとう』と返した。

そこからの時間は
とても楽しい時間だった。
まるで恋人同士のようで
もう一歩だけ彼に近づけられたら
きっと何もかも変わる気がしたから…。
だけど
所詮は「恋人ごっこ」。
彼は「ごっこ」すらも思ってはいないだろう。
でも
もし「ごっこ」でなくなる方法があるとしたら
私はその方法を試すのだろうか…。


楽しい時間が終わり
別れ際に私は彼を呼び止めた。

聞きたかったんだ。
私を選んだ理由の中に彼に近づける言葉はないのかと…。

でも
やっぱり口が動かなくて…。
聞けなくて…。

私は『写真、頑張ってね』としか言えなかった。


それから私は
仕事の都合でカフェに行けず
再び訪れる事が出来たのは
数ヵ月後のことだった……。

久々にカフェへ訪れると
店にいたのはマスターだけだった。

(あれ…。シフトが違ったのかな?)

私はマスターに彼のことを尋ねた。

マスターは残念そうな顔をして――

『サトウ君は…。1ヶ月前に止めてしまってね…』
『え…』
『なんでも、家庭の事情だとかで…』

『そう、ですか…』

私はいつもの席に座る。
でも
心が落ち着かなかった。

付き合えるとは思ってはいない。
それは今も思っている。
だから
これは彼のいない日常に戻っただけ…。
そう…。
戻っただけ…。

それなのに
あの日の自分を後悔してしまうのは何故なんだろう。

マスターが何も言わずに
いつものケーキセットを運んできてくれた。

私はそのケーキを1口食べる。

マスターの作ったケーキは
今日も
いつもと同じように美味しかった……。

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119「入浴剤の香り」
【あらすじ】
今日は給料日。
1ヶ月で一番贅沢が許される日。
だから今日は
浴室の窓から射し込む
月明かりが綺麗なお風呂に入浴剤を入れて
湯船を泡で満たしてみました。

――――――

『さて、お風呂はどうなっているかなぁ〜?』

私は明かりを点け
ドアを開けて
お風呂場を覗く。

お風呂は白い泡が湯船を覆っていて
その隙間からは入浴剤で色付く
綺麗なエメラルドグリーンのお湯で満たされていた。

日々に疲れた身体を癒すには
最高の状態である。

私は子供のように興奮する気持ちを抑えつつ
服を脱いで浴室へ入り
掛け湯をした後
冷えきった足先からゆっくりと
お湯にその足を浸けた。

まるで
氷を溶けていくように
疲れが消えていく温かなお湯が
皮膚から深部までゆっくりと伝わっていき
私は深く吸い込んだ息を吐き出した。

それと同時に
全身の強ばった力が抜け
私の気持ちは極楽へと昇華されていった……。

心に乗っていた重しが取れた頃。

『あ、そうだ!』

私は過去に友達から
お風呂で使えるというプレゼントを貰ったことを思い出した。

『どこにしまったっけ?』

私は一人暮らしなのに
何故か周辺に誰もいないかの確認をしてから裸のまま脱衣所へ

その時
鏡に写った自分の身体を見てしまった。

若いときに存在していた
引き締まったウエストは
どうやら私の人生という列車から途中下車したらしい。

(今度、ジムにでも通おうかしら…)

私は身体を軽く拭いたあとに脱衣所を出て
私が贈り物を入れてそうな場所を探したすると
押し入れの奥で
そのプレゼントを見つけた。

封も開けていないプレゼント。

私は友達に申し訳なかったなと思いつつ
プレゼントを開けて中身を出した。

それはお風呂で使える小型の「プラネタリュウムの機械」だった。

『こんながあるんだ…』

私は説明書を読んだあと
お風呂場に戻り
明かりを消して
窓から柔らかな月明かりが射し込む中で
水で濡らさないように気を付けながら
電源を入れた。

すると
浴室の天井や壁に
星やイルカなどの絵が映し出され
それが静かに回り始める。

『綺麗…』

私はしばらくその光景を楽しんだ…。

それから時間が経ち
お湯が冷め始めた頃。
私はプラネタリュウムの電源を切った。

真っ暗な浴室に
淡い月明かりが照らして湯船に映る
それを私は掬おうとして
両手で器を作り水面へ上げた。
しかし
月の光は掬うことが出来ず
水の優しく跳ねる音だけが聞こえた。

その静けさの中
ふと
また昔の自分を思い出す。

親と喧嘩して絶縁を覚悟で家出した。
あの日から十数年…。
私はアルバイトをしながら生活して
この間
仕事ぶりが認められて正社員になった。

周りの人たちも素敵な方々ばかりで
何にも不満はない。

こんな自分には勿体ない環境だ。

でも…。
でも…。
やっぱり…
1人は寂しいものだ…。

『……。さて明日も頑張りますか!』

私はねちっこく心に貼り付く
寂しさを振り払うように
勢いよく湯船から出た。
そして
身体についた水を拭き取り
寝間着を着て
脱衣所を出る。
その後は
キッチンで簡単なおつまみを作り
普段よりも少し高めのビールを冷蔵庫から取り出し
いつもの晩酌を始めるのだ。

明日もアタシとして生きるために………。

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