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2021年06月08日16:52

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「マスクをするサル」(正高信男著、新潮新書刊)

本書は、霊長類学の権威、元京都大学霊長類研究所教授、正高信男氏が、マスク着用が常態化した今、人間のコミュニケーション、更には、性にどの様な変容がもたらされるのかを考察した物です。

チンパンジーやニホンザル等は、相手の口と所の周辺、即ち、口唇部をチラ見する事で互いの状態を推察します。つまり、口唇部さえ注意ていれば、相手の感情を見誤る事は無いのだそうです。

霊長類は、怒りが高じると口唇部は、すぼんで前方に突出し、恐怖を感じれば、口唇部が水平方向かつ、後方へ収縮する等の変化が現れるそうです。そこから相手の感情を忖度(そんたく)するのが霊長類の処世術の基本だそうです。そして、この様な行動傾向は、人間に於いても継承されているそうです。

人間には、怒りや恐怖以外にも、笑う、泣く等多彩な感情表現が有り、その主要な役割を演じているのが、口唇部な訳です。

つまり、マスクが常態化されて眉と目しか露出されていない今、相手の気持ちを推察する事が非常に難しく成っている訳です。

マスクが常態化した今、マスクを必要悪としてネガティブに捉えるのでは無く、自己表現の道具として取り込むのも一考と著者は述べています。

人間は、他の動物と違い、“自分”と“外界”の区別を発達に従って、流動的に変化させる事が出来、道具使用の習熟によって、その道具を身体の延長部位の様に感じる事が出来る
様に成る訳です。

仕事中にネクタイをしてい無いと落ち着か無いと言うビジネスマンも多いと思いますが、これは、ネクタイが身体の延長物として取り込んでいる表れだそうです。ならば、マスクも嫌々着けるのでは無く、身体に取り込み、自己表現の道具にしてしまえば良いと著者は言います。

勝負ネクタイの様にマスクも色やデザインに拘(こだわ)れば、表情、表情が隠されると言うデメリットを補うどころか、感情をアピールする道具にも出来ます。

更に、本書では、マスクが人間の性意識を変える可能性にも言及しています。人間が陰部を隠す様に成った下着の起源に付いても解説しながら、今迄、露出していた口唇部をマスクで隠すのがマナーで有ると言う風に激変した今後、どの様な変化が起こるのでしょうか?

学術的には、「主観的輪郭」と呼ばれる心理現象が起こるそうで、人間は、遮蔽(しゃへい)された対象を自動的にイメージする能力が有り、隠された部分への興味や想像力が興奮に繋がり、性的な意識も変化して行く可能性が考えられるそうです。

“素顔”よりも“マスク美人(イケメン)”を好んだり、何かの拍子にチラリと見える女性(男性)の口唇部に興奮する男性(女性)が増えるかも知れないと著者は述べています。

「人間は、道具を身体の延長物としたり、隠れた部分を想像する等、ユニークな能力を備えているので、だからこそ、マスクが常態化した今をもっと楽しんではどうでしょうか?マスク警察の出現等、コロナ禍では、人と人がギスギスした話題が多過ぎます。私達の能力を生かして、もっとマスク生活をエンジョイしてはいかがでしょうか?」

と著者は語っています。

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